魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
捕らえられた魔術師は多くのことを語らない。
副団長さまが死なない程度の攻撃魔術を掛け、治癒を施せる魔術師に何度か施術して貰いながら尋問していたそうだが、引き出せる言葉は同じ。死者蘇生の魔術式は手に入れていたので、魔術師として未知の領域に踏み込んでみたかった、と。大量の魔力が必要となるから黒髪の聖女とどうにかして、接触したかったそうだ。
まあ貧民街の子供を使ったあげくに、魔石を仕込んで何かやらかそうとしていたらしいから、あっさりと捕まってしまったけれど。
魔石にどんな術を仕込んだのかはこれから副団長さまを筆頭に魔術師団の皆さまで解明していくそうだ。禁術であれば封印処置を施して、厳重管理すると聞いた。
魔術師は私に会いたいと懇願しているそうだが、ガン無視されている。お前みたいなのがアルバトロスの聖女と接触出来るわけないだろうバーカ――意訳――ということらしい。
残念ながらこれ以上調べても意味がないし、ヴァンディリア王国へ引き渡そうと議会決定がそろそろされるとか。副団長さまが小物と言い切っていたし、興味もなさそうなので価値のない魔術師ということだ。これで価値があるというなら副団長さまと魔術師は昼夜問わず魔術談義となっている筈である。魔術師には変態が多いという言葉は、副団長さまを見ている限りは真実だ。
「なんでこうなるのかな……」
独り言が零れ落ちる。以前にリーム王国で竜の意識を魔石から魔石へ移す時に、丁度良い魔石を所持しておらず副団長さまが持っている魔石を代表さまが譲り受けた。
その際に報酬として竜の血を欲しがっており、最近契約が成された。副団長さまが近況報告と子爵邸内の摩訶不思議を確認する為に訪れた際、事のついでと代表さまの血液採取を行った。
シリンジの容量が大きくないかなあと目を細めて見ていると、どんどんシリンジの中へ代表さまの血が貯まっていく。恍惚の表情で血を眺めている副団長さまと何も感じていない代表さまとの差が酷い事になっていた。
あとアクロアイトさまが脱皮? 脱鱗? したものが気になるようで、お金は支払うので譲って頂いても構わないかと相談を受けている。おそらく代表さまが居る場で相談したのは副団長さまなりの気遣いだったのだろう。私が問題なければ好きにして良いそうだ。
アクロアイトさまが脱鱗したものは全て取ってある。魔力の塊みたいなもので、しょぼい魔石よりも魔力が備わっているそうで。
それを教えてくれたのは屋敷に滞在していたシスター・リズだ。目の見えない彼女は私の部屋の中にこんもりと積まれている正体不明の魔力の塊が不思議だったらしい。アクロアイトさまの脱鱗ですよと伝えると納得していた。見えないのに。
「そろそろ喋ってくれても良いんじゃないかなあと思うのですよ……」
ねえアクロアイトさまと声を掛け、私の膝上で大人しくしているアクロアイトさまの顔を撫でる。意味が分からなかったのか、私の目をじっと見て首を傾げた。
言葉を理解しようとしている犬みたいで可愛いけれど、一方的に喋りかけるのは寂しいので答えて欲しい所である。学院に赴く際の馬車は私一人が基本であり、ソフィーアさまとセレスティアさまとは校門前で合流することになっているから、話し相手が欲しい。
「無理か」
苦笑してまたアクロアイトさまの頭を撫でると、今度は一鳴きする。喋ったら喋ったで楽しいだろうけれど、言葉は通じないけれどアクロアイトさまの行動で何となく察するのも楽しい。
今日の授業では副団長さまによる特別講義が開催されるとのことで、数日前から特進科内は少々ざわついている。有名な魔術師である副団長さまの人気が高い所為なのか、講義や師事を受けることは滅多にないそうで、魔術を使う者ならば一度は教わってみたいらしい。
陛下命令で副団長さまから魔術について教わっている私はかなりの贅沢者らしい。ソフィーアさまとセレスティアさまが幼い頃に、副団長さまの教えを受けられたのは単純に副団長さまの貧乏時代だったからだそうで。家の名声もあるが、運が良かったとお二人は零していた。
で、いつものように合流して教室に赴き、副団長さまの特別授業の時間となる。
取り調べや魔術師団の魔術師の方たちへの教育も担っているというのに、副団長さまはバイタリティーに溢れている。疲れた所をみた記憶がないし、いつも笑みを浮かべて『魔術! 不思議! サイコー!』みたいなテンションだ。
もしかすればショートスリーパーなのかもしれないし、魔術でなにかしらの肉体強化を施しているのかもしれないが、副団長さまは以前攻撃一辺倒だと聞いている。だったら誰に強化魔術を施して頂いているのだろうか。まあ魔術師団の副団長さまなのだから、同僚や部下にお願いしているのだろう。深く考えない方が良さそうだった。
「皆さん、本日の魔術の時間は僕が担当することになりました。特別講師のハインツ・ヴァレンシュタインと申します」
学院の授業となるので身分や立場は気にせず生徒と先生の関係だと嬉しいですと、やんわりとした口調で告げた副団長さま。
じゃあ副団長さまとは呼ばずに、先生と呼んだ方が良さそうだ。今日の副団長さまの雰囲気はいつもの副団長さまではなく、先生としての至極真面目なオーラ。副団長さまが子爵邸へ訪れた時に現れるハイなオーラは伺えないのだから。
「ではこれを順番に回しつつ、興味の惹かれる物をひとつ選んで取って下さい」
箱の中に入った何かを順繰りに回し始めた。最初に回った人が手にしたものは、小さな魔石。下級の魔物から落ちる程度、ようするに価値の低い魔石だ。お貴族さまには珍しいのか、手に取った方たちは光に透かして眺めていた。
宝石のように綺麗にカットされている訳ではないが、魔石は綺麗に整った形で落ちることが多い。魔力を込められる量で価値が決まったり、落とした魔物が何になるかで価値が決まることもある。宝石として利用される魔石は大きさや色合いで値段が決まるのだとか。魔術師の方は指輪として加工し、身に着けていることもある。魔力が切れた際の予備タンクなのだそうだ。
生憎と魔力切れを経験したことがなく、魔力を使い切る前に身体の方が音を上げる。良いのか悪いのかよく分からないが、アクロアイトさまやお婆さまに魔力が吸い取られている所為で総量が多くなった気がする。
ただ多くなった代わりに、魔力制御が甘い故に駄々洩れしているそうな。シスター・リズに教えを乞うて少しずつは改善しているけれど、漏れ出る魔力が多いとか。
自分じゃ分からないし、周りの人も感じていない。魔力に対して敏感な人が気付いている様で、そんな人たちは苦笑いを浮かべてる。お婆さまや天馬さまのエルやジョセ、そして子爵邸の畑の妖精さんたちには喜ばしいことなのだそうで。
「ナイ、ほら」
私の席の前になるソフィーアさまが箱を回してくれた。
「ありがとうございます」
受け取ってお礼を述べた後、箱の中へと視線を向ける。沢山魔石があって目移りするが迷っていても仕方ないと、真ん中に転がっていた魔石の内の一個を手に取り、後ろの席のセレスティアさまへと回す。順番に箱が回って行き最後の人にまで行き渡った。箱が副団長さまへと戻され、彼が口を開いた。
「スライムを創造してみましょう」
副団長さまの声が教室内に響くと、女子生徒の一部が『スライムなんて……』と拒否反応を示し、男子の皆さまは『スライムなんてなあ……』と微妙な雰囲気を浮かべ。
女子はスライム特有のあの粘着質な表面の特性が嫌で、男子はスライムという下級の魔物より更に下の扱いを受けているスライムに残念がっている。
ギド殿下は楽しそうに笑いつつ、魔石を不思議そうに見ていたし、ソフィーアさまとセレスティアさまは副団長さまに慣れているのか、落ち着いたまま。私はスライムって創造できるんだ……とあっけに取られるのだった。
◇
――スライムを創造してみましょう。
副団長さまの言葉に――今日は先生と呼ぶ方が正しいか――スライムって創造できるものなんだとあっけに取られていた。討伐遠征に出ると必ず遭遇する魔物であり、魔物の中でも下級の更に下に位置する扱い。
襲ってくることはないし、子供でも退治することが出来る為に脅威と捉われていない。梅雨時期に湧くナメクジのような扱いだった。塩で溶けることはないが。
スライムは街中に出現する場合もあるし、村や町にも湧くことがある。個体ごとに特性が違い床掃除を得意とするスライムが居たり、ゴミを食べるスライムが居たり。何もしないままその場に存在するだけのスライムも居る。掃除やゴミを片付けるスライムは重宝され、何もしない役立たずのスライムは子供の玩具である。
棒切れを持ち出されて、スイカ割りのように上段に構えて振り下ろされる。
スライムの核といわれている部分に当たれば、スライムは消滅する。もちろん死という意味合いで。そして核に当たらなければ、スライムが息絶えることはなく、ばらばらに散った肉体が意思のある生物のように集まって元の姿へと戻る。
子供にとって遊び道具に適している。襲われたスライムは核に当たらない限りは死なないのだから、ある意味最強だ。災難だとは思うけど。生き物としてならば、種の存続が至上命題。スライムがどう繁殖しているのかわからないが、生きていれば個体数は増えるだろうし。
「…………」
手に取った魔石を顔の前に持ってきて観察する。うん、上質な魔石でも普通の魔石でもない、低質な魔石だった。おそらくゴブリン辺りから落ちる魔石だろう。討伐遠征でも高確率で遭遇する魔物で、討伐を終え魔石が落ちていると騎士団や軍の方は拾って同行している魔術師に渡す。
自然に出来上がっていたルールらしく、質の悪い魔石でも数を集めれば価値が出る。魔術師の人は遠征でも重宝される。強い魔物が出てくれば高威力の魔術を発動させて、一瞬で倒したり致命傷を与えることが出来るし、治癒を施せる人も居るから。軍や騎士団の人たちにとって魔術師の方は、作戦の要になることが多い為、仲が良い方が都合が良い訳である。
みんなその道のプロであり、命のやり取りの現場で、好き嫌いという個人的な感情は隠し通すけど、一瞬の判断で運命が決まることもある。下心と言えばそれまでだけれど、軍や騎士団の方たちには大事な行為なのである。
「皆さんに行きわたりましたね」
先生の声でハッとする。思考が逸れていたようだ。怒られなくて良かったと安堵しつつ、手の中にある魔石がキラリと光る。
隣の席で眠っていたアクロアイトさまが起きて、私の肩の上に飛び乗った。興味があるのか魔石に顔を近づけて覗いている。魔石もアクロアイトさまのご飯となるので、食べちゃ駄目だよーと頭を撫でると小さく一鳴きした。授業中と理解しているのか、私語を飛ばしている生徒より認識力が高いというか、なんというか。
「スライム創造の術式が書かれた紙を渡しますので、それに従って魔石に魔力を込めて下さいね」
創造されたスライムは早くて数十分、長くて一週間の命と先生は仰ったが、嫌な予感しかしないのだけれど……。
私が何かに魔力を込めると碌なことが……辺境伯領の巨木は無意識で注いでいただけだし、私たちが食べた最初のトウモロコシさんも不可抗力だ。リーム王国の聖樹は王さまに願われたことなのでノーカウント。
後で精霊化していたことはリーム王国の極一部の方しか知らないし、黙っていれば私は聖樹を枯らしたアルバトロスの黒髪の聖女で済まされる。子爵邸の家庭菜園には魔力を込めていないけれど、私から漏れ出ている魔力で畑の妖精さんが産まれてしまったし……。
魔力に関する不思議案件はもう勘弁してほしいなあと先生を見れば『なにを仕出かすか、楽しみにしています』と言わんばかりの顔で。
にっこにこの先生に物申すことが出来ないし、配られた紙に書いてある術式を発動させ、仕出かした時は腹を括るしかないのではなかろうか。
むうと考え込んでいるとアクロアイトさまが顔を擦り付けてきた後、私の頬を鼻先であむあむしている。
牙が当たらないように口先を上手く使っているので痛くはない。器用だなあと、もういいよと言う思いを込めてアクロアイトさまの身体を何度か軽く叩く。意思が通じたのか、ゆっくりと鼻先を離して肩の上で大人しくなった。
「魔力を込めつつ術式を発動させると、術者の性格や性質などが反映されたスライムが創造されます」
注いだ魔力量に比例して強くなり、特徴も分かり易いものになるのだそうだ。魔力を外へ放出できないタイプの人は、副団長さまが補助をして魔術を発動させるらしい。
そんな器用なことも出来るのかと感心しつつ、諦めて魔力を込めてみようかと魔石を配られた紙の上に置いた。何か起きれば責任は先生にいくだろうし。
「ナイ、待て」
「少々お待ち下さいませ、ナイ」
ソフィーアさまは前の席から、セレスティアさまは後ろの席から私に小さく声を掛けた。お二人もこれから起こるであろうことを危惧している。やっぱり止めますよねえと、魔力を練るのを止める。
「先生」
「お師匠さま」
今度は普通の音量の声で先生へと声を掛けるお二人。
「どうしました、お二人共?」
魔術が苦手な生徒の補助を行おうとしていた先生が、ソフィーアさまとセレスティアさまへと向き直る。
「ミナーヴァ子爵の魔力は特殊で、何が起こるか分かりません」
「ええ。魔術師団の皆さまが居る王城であれば緊急時でも対処出来ましょうがここは学院です」
危なくないかと二人は言いたいのだろう。セレスティアさまは場所が場所ならば、スライム創造は構わないと言いたそうだけれど。ミナーヴァ子爵と呼ばれたことに違和感を覚えつつ、先生の顔を見る。先程までの先生としての顔ではなく、いつもの副団長さまのものへと変わっていた。
「おや。高々スライムですし、仮に何か起こったとしても大丈夫……やはり、ミナーヴァ子爵さまは外に赴いて術式を発動させましょうか」
何かあった場合は先生が全て責任を取るので皆さん構いませんねと問うと、クラスの殆どの方が大きく一つ頷いた。え、このクラスの中では私は危険人物扱いなのか。腑に落ちないと不満を抱えるけれど、これまでやっていることがアレだった。うん、王都を壊滅させるぞと竜の方々がお怒りになっていたんだ。
丁度その日は雨で凄く良い演出効果だったしなあ。私、怖くないんだけれど。友達が出来ない原因はコレかと頭を抱えて、周りの人たちが術式を発動させるのを待っている。
同じ魔術式だというのに発動させる人が違うと、机の上に浮かんでいる魔術陣の色が違うのは面白い。魔力の注ぎ込みが足りない人は、創造されたスライムが直ぐに消失しているし、ちゃんと出来た人は机の上にスライムが鎮座している。『うお』とか『きゃ』という声が教室中に溢れており、お貴族さまのお坊ちゃんお嬢さまが殆どの教室内はかなり騒がしい。スライムと不満を零しつつ、やはり不思議なことは面白いのか。楽しそうな顔をしている人も居れば、驚いている人も居る。
楽しそうだなあとみんなの様子を見ていると、私の番となるのだった。