魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.07.19投稿 2/2回目


0162:深夜。

 ジークとリンが孤児院を伺っているので、私は子爵邸の家庭菜園と天馬さまであるエルとジョセの下へ足を向けた。畑では妖精さんたちがせっせと種を育てて発芽させ、日々成長していくお野菜の面倒をみている。

 以前、アクロアイトさまと戦っていた尺取虫は、妖精さん達の手によって直ぐに排除されていた。何故か庭師の小父さまに預けて、小父さまは足で踏みつけて処分しようとしていた為、私が預かり部屋のベランダに設置して鳥さんたちの餌となった。

 

 収穫ペースが早いものは、凄いサイクルで植えて、育てて、収穫してが繰り返されていた。料理長さんを始めとした調理場担当の方々は嬉しいらしい。豊作な上に味が良いし、子爵邸で採れたものだから新鮮。欲しいお野菜があれば種や苗を渡せば、妖精さんが育ててくれる。畑のなかでちょこまかと動いて、間引きや草引きをし、肥料が必要となれば私たちに要求する。随分と働き者であった。

 

 トウモロコシさんを妖精さんに育てて貰えば甘くなるかなと考えて、実を渡すと『カンソウ、サセロ』と突き返された。なのでただいま乾燥中。あと欲が凄く出て、甘いトウモロコシが食べたいと何度か妖精さんの隣で呟やくと、みんなが呆れていた。バターコーン食べたいし、ポップコーンも食べたいのだから仕方ない。

 

 食用の品種を見つけられると良いのだけれど、探すとなれば大変だ。……こういうのって冒険者ギルドに依頼しちゃ駄目なのかな。人間が食べられる甘い品種を知っていれば、紹介してくださいって。アリかもしれないから、冒険者ギルドに立ち寄る機会を設けよう。

 

 以前に収穫したお芋さんをいくらか種芋に残してあるので、また植えてみようと画策中である。蒸かしてバターを垂らして食べたけれど、ホクホクで程よい甘さ。味変で塩を少しかけてみたり、楽しみ方はいろいろ。

 

 余ったり、消費しきれないと子爵邸で働く方々に、持って帰って頂いている。好評らしく野菜が余れば調理場横に設置される箱に、女性陣が群がっているそうだ。就業時間外に選んで持って帰ることや、必要分だけを持って帰ることを徹底して貰っている。

 

 「おはよう、エル」

 

 畑の様子を見ているとエルが私の下へやって来て横に並ぶ。挨拶をすると顔を近づけてくるので、手で撫でる。

 

 『聖女さま、おはようございます』

 

 撫でられながら言葉を発するエルは、目を細めて気持ちよさそう。私の肩に乗っているアクロアイトさまも私の顔に顔を擦り付けてきた。スライムのロゼさんを創造してから、アクロアイトさまのアピールが凄い。

 エルから手を放してアクロアイトさまの頭を撫でると甘え鳴きをして、何故かエルの頭の上に移動して一鳴きする。

 

 「どうしたんだろう…………」

 

 今までこんなことは一度もなかったのだけれど。スライムのロゼさんと初対面の時にかなり煽られていたから、悔しかったのだろう。喋れなくとも意思はなんとなく分かる。そりゃ会話を交わせるなら楽しいけれど、今でも十分楽しいのだから。

 

 『珍しいですね、可愛らしいですが。――ところで聖女さま、そちらの方は?』

 

 エルの頭の上で鳴いて満足したのか、私の肩へと戻ってきたアクロアイトさまを撫でる。もっと撫でろと言わんばかりに頭を斜めに傾げたので、ぐりぐりと強めに撫でた。

 

 「スライムのロゼさんです。学院の授業で副団長さまが……」

 

 私の後ろに控えていたロゼさんにエルが顔を近づけた。

 

 『あの方も愉快なことをされますね。しかし通常のスライムとは全く違う気がします』

 

 副団長さまのことをエルは知っている。会話を交わすことが出来るので副団長さまが質問攻めして、エルとジョセが困っていることがあった。

 副団長さまは単純に天馬さまたちの分布域や生息数を分析し、保護が出来るようなら大陸各国に通達するつもりだったらしい。魔術以外で、自然保護活動のようなこともやっているみたいで、本当に忙しい人である。

 

 『おまえ、なんだ?』

 

 何故か上から目線のロゼさんである。

 

 『天馬のギャブリエルと申します。皆さんは私のことをエルと呼んで下さります』

 

 ぎゃぶりえる、と呼んでいる人はついにセレスティアさまのみとなってしまった。他の人はみんな『エル』である。彼女には申し訳ない事をしたなあと思いつつ、舌が回らないので仕方ない。

 

 『てんま? ろぜ、よろしく』

 

 数日間一緒に過ごしているけれど、成長が早いなと実感している。見た目は変わっていないけれど、本を読んでいる所為か言葉の発達が早い。まだ語彙は少ないけれど、その内達者に言葉を使いこなしそう。ロゼさんの様子を見ているアクロアイトさまは、よく鳴くようになった。

 

 『ますたー、てんまってなに?』

 

 「説明は難しいね。後で専門書を取り寄せようか」

 

 ロゼさんに苦笑いを浮かべて答えると、何だか残念そうな雰囲気を感じた。馬に翼が生えた馬、という説明では味気ないというか、きちんと説明が出来ていない。

 こういう時は副団長さまを頼って文献や専門書を教えて貰う。ロゼさんは知らないことがあると、こうして質問攻めを行うが、分からない物は分からないと伝えると直ぐに引き下がる。

 

 『ありがと』

 

 「説明できなくてごめんね」

 

 自分の無知を恥じなければならないが、知らないことを知った風に教えるのも駄目だしなあ。

 

 『ますたー、わるくない。ほん、よういしてくれるから』

 

 本があれば良いらしい。ロゼさんはどこまで知識を吸収するつもりなのだろう。

 

 『知的好奇心が凄い子です。生まれてくる私たちの子供もロゼさんの様であれば良いのですが……』

 

 エルとジョセの子供はもうすぐ生まれる。ジョセは小屋から出歩くことが少なくなってきており、見立てだとあと数日だとのこと。ちゃんと生まれてくるのか心配になるが、自然の野生生物である。死産の時もあれば、産まれて間もなく死ぬこともあるそうだ。

 

 「ジョセの様子は?」

 

 やっぱり心配だよなあと、エルの方を向く。

 

 『小屋の中で大人しくしています。ジョセももう直ぐだと言っておりましたから』

 

 「そっか。あまり邪魔してもいけないし……エルもジョセの側に居てあげてね」

 

 『はい』

 

 医療が発展していないこの世界。お産は命を懸けて挑まないといけない。新生児の生存率もよろしくないし、どうにかならないかと考えるが一人で悩んでも良いアイディアなんて浮かぶはずもなく。

 どうか無事でと祈るしかないしジョセとお腹の中の子供の生命力に賭けるしかないと、空を見上げるのだった。

 

 ◇

 

 ジークとリンが孤児院へ向かい、保護した兄妹の様子を伺って戻ってきた。私も気になることなので、二人に声を掛けて私の部屋へ来てもらったのだ。

 

 「元気そうだった?」

 

 「ああ。妹の方はまだ少し時間が掛かるだろうが、兄の方……テオは元気そのものだ」

 

 とは言え貧民街暮らしで栄養不足は否めない。孤児院でちゃんと栄養のあるものを食べて、身体を作るのが先だろう。

 

 「そっか」

 

 二人の話を聞くと妹さんは順調に回復しているそうだ。まだベッドの上で生活しなければならないが、少しづつ身体を動かして筋肉を付けていく。それと共に食事量の調整、世間のお勉強に始まって文字の書き取りや簡単な計算の勉強。

 孤児院には同じような境遇の子が居るし、上の子が下の子の面倒をみるシステムが出来上がっている。そこで社交性を身に着け、社会へ出る準備をする。妹さんの治癒の対価として少年の未来を差し出して貰ったが、自分が進みたい道を選べば良い。治療費は少しづつ返して貰えば良いだけなのだから。

 

 ――夜。

 

 暗闇に星々といくつかの衛星が浮かんでいる。地球の月でいう所の満月だった。何故か寝付けなくてベッドの上で何度も寝返りを打っていた。お布団の中に潜れば割と直ぐ寝られる口なのだけれど。

 

 「起こして、ごめんね。眠れなくて」

 

 いつも一緒に寝ているアクロアイトさまが、私の様子が気になったのか起き上がって鼻先を顔に擦り付けた。お返しに、アクロアイトさまの頭や背中を撫でると、小さく鳴いた。

 

 ロゼさんはベッドの下で本を読んでいる。明るくても暗くても関係ないらしい。スタンドタイプの灯りをロゼさんの近くに置いて、私たちは寝たけれどいつの間にかロゼさんは灯りを消していた。

 本人曰く暗くても読めるそうだ。ちょっと羨ましいなと、ロゼさんの丸い身体を撫でていたのだけれど、それをやるとアクロアイトさまが怒る。どうしたものかと考えるけれど、どうにもならない。悩ましいけれど、なるようにしかならない訳で。

 

 ――嗚呼ああああああああああああああ!

 

 発情期を迎えた猫が喧嘩している時のような、赤ちゃんの泣き声のようなものが子爵邸内に響いた。一体何がと飛び起きて、灯りを付ける。アクロアイトさまもベッドの上で、首をキョロキョロと動かして部屋を見渡している。

 驚いて高鳴っていた心臓がフラットなものに戻る。寝巻では肌寒いのでベッドの側に置いていたストールを雑に羽織った。暫くまっていると、ドアから二度ノックの音が聞こえた。訪ねて来たのはジークだなと確信して、どうぞと声を掛けた。

 

 「寝ている時に済まない。――何もないか?」

 

 ジークとリンが同時に顔を出した。リンが慌てた様子でこちらへ駆け寄って、キョロキョロと部屋を見渡す。アクロアイトさまと同じだなとリンの腕を掴むと、風邪を引かないようにと羽織ったストールを直してくれた。

 

 「うん。私は大丈夫。外というよりもジョセの声かな……」

 

 産気づいたのだろう。痛みで物凄い声を上げたのだろう。念の為に様子を見に行きたい。

 

 「どうする?」

 

 「様子見に行くよ。ジークとリンは寝てて良いよ。お屋敷の中だし、私だけで大丈夫だから」

 

 天馬さまの生息数は減っているので、副団長さまも亜人連合国の皆さんも期待している。産まれたらおめでたいので、お祝いをしなければとエルやジョセよりも外野である私たちの方が盛り上がっていた。

 ジョセが産気づいたら時間を問わず連絡を頂戴とエルフのお姉さんズからお願いされているので、通信用の魔法具で呼び出すと直ぐに行くと伝えられ。

 

 「流石に一人で行かせる訳にはいかん」

 

 「うん。それに私たちも心配だから」

 

 「じゃあ、一緒に行こうか」

 

 私の言葉に同時にジークとリンが頷き、アクロアイトさまも私の肩に乗って一鳴き。ロゼさんも気になるのか、ぷるんと揺れた。どうやら一緒に来るらしい。

 

 部屋を出て一階に降りると、夜番の人たちが部屋から出てきており、何事だろうかと騒いでいた。エルが産気づいたようだと知らせると、何故かタオルやお湯を用意しておきますと伝えられ、危ないからと灯りを持たされた。

 余り沢山の人が見守ると邪魔にしかならないので、部屋でお祈りをしているからと言われた。子爵邸の人たちにこうして慕われているのはエルとジョセの人柄……馬柄故にだろう。誰とでも喋るし社交的。荷物を持っている人のお手伝いを申し出たり、馴染む努力をしていたから。有難うございますと伝えて彼ら彼女らの下から去る。

 

 「ナイ、この騒ぎは?」

 

 「一体どうしたんだ?」

 

 サフィールとクレイグも自室から顔をだし、こちらを伺う。ジョセが産気づいたみたいと伝えると納得してくれたようだ。

 様子を伺いたい所だけれど、亜人連合国の方々も居るだろうから任せると言って、部屋に戻って行く二人。クレイグとサフィールが居ても、向こうのみなさんは気にしないのに。まあ、向こうは気にしなくとも、二人が気になるというなら仕方ない。

 

 「…………」

 

 緊張が走る。無事に生まれてくるのか。障害を抱えていないのか。何か問題が起こらないか。考え始めるとキリがない。裏手から屋敷を出て厩の横を目指す。妖精さんが心配しているのか、所々で闇夜の中を照らしていた。

 

 『もう直ぐみたいね』

 

 「お婆さま」

 

 ぱっと姿を現したお婆さま。それと同時にまたジョセの声が屋敷の中に響く。

 

 『おめでたいことだもの、みんなでお祝いしなきゃ!』

 

 お姉さんズや代表さまたちもこちらへやって来るみたい。子爵邸へ来ることは私が許可をしたので問題はない。先程、夜番の方たちに亜人連合国の方も来るけれど、気にしないでと伝えておいた。

 お婆さまと一緒に歩きながら、厩の横へと辿り着いた。何故かエルが小屋の外でウロウロと落ち着きのない様子で、立ち止まり船ゆすりをしたりと忙しい。

 

 「エル」

 

 声を掛けると、こちらに顔を向けて何とも言えない顔をしている。

 

 『聖女さま……』

 

 「傍に居なくて良いの?」

 

 旦那さんは出産に立ち会うものじゃないのだろうか。まあ前世の日本の常識のようなものだから、適応されないかもしれないが。

 

 『出産のときはいつも追い出されておりまして……』

 

 落ち着きなさそうにぶるると鼻を鳴らし、私の下へとやってきたエル。

 

 「じゃあ私たちも行かない方が良いね」

 

 『どうでしょうか……聖女さまならジョセは許可をしそうですが』

 

 「エルも許されていないのに、私が行くわけにはいかないよ」

 

 行かない方が良いだろう。何かあるならこの辺りをフラフラ飛んでいる妖精さんたちが知らせてくれるはずだから。夜番の人たちがお湯やタオルに寒さ対策で毛布を用意してくれた後、私がお礼を伝えると屋敷へ戻って行った。

 「夜更けに済まないな」

 

 「ごめんなさいね」

 

 「ごめんね~」

 

 裏手から子爵邸の敷地内へ入ってきた、代表さまとエルフのお姉さんズも姿を見せた。大丈夫と首を左右にふる。

 

 「スライム?」

 

 私の足元でじっとしていたロゼさんに気が付いて、代表さまが不思議そうな顔を浮かべる。

 

 「学院の授業で……副団長さまが」

 

 そう言えば伝えていなかったなあと、亜人連合国のみなさまに説明にならない説明をすると、副団長さまと知り納得していた。

 ついでに魔石に代表さまの血を垂らして強化させてたようだと伝えると、何をやっているのだかみたいな顔を浮かべ。ロゼさん自身に問題はないようなので、良いんじゃないかという結論に至っていた。適当だなあと思うけれど、ロゼさんが危険だから殺せと今更言われなくて良かったと安堵する。

 

 「あの人ね」

 

 「あの人か~」

 

 お姉さんズも珍しいようで、屈んでロゼさんをつんつんしてた。

 

 『やめろ』

 

 「喋ったぁ~!」

 

 「吃驚したわ、喋るだなんて」

 

 本当に貴女は規格外ねえと言われるけれど、代表さまの血も関係しているのではと伝えると魔石を強化しただけで、創造の魔術に干渉は出来ないとかなんとか。

 代表さまの血があったから、ロゼさんが産まれたと心の平穏を保っていたのに否定されてしまった。私の魔力量の多さが特殊なスライムさんを創り出したみたい。可愛いから良いかと思ってしまうのは、親馬鹿なのだろうかと苦笑する。

 

 またジョセの叫び声が聞こえたけれど、大丈夫なのだろうか。待つこと数時間、空が白み始めた頃。漂っていた妖精さんたちが、私たちの周りにやって来る。

 

 『生まれたみたいね』

 

 お婆さまが妖精さん達を代表して、そう告げたのだった。

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