魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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163:産まれた。

 ――生まれた。

 

 エルとジョセの仔馬が生まれたみたい。ジョセはまだ小屋の中に居るので、ちゃんと目で確かめた訳じゃないけれど。お婆さま曰くジョセも生まれてきた仔天馬さまも元気だそうだ。その言葉に一同安堵しつつ、エルの方へと顔を向ける。

 

 「様子を見に行かなくて良いの?」

 

 前足で地面を掻きながら首を左右に揺らしているエルは、ジョセの下へ行こうとしない。産まれた仔天馬さまが気にならないのかと、エルを急かしてみるけれどあまり気乗りしない様子で。

 

 『元気であれば、そろそろ小屋から出て来る頃かと』

 

 ジョセの番であるエルがそう言うのならば良いかと納得する。お産している所を見られたくないとか、産まれたての仔天馬さまを誰にも見せたくないとか、複雑な母親心を抱えているのかもしれないし。

 冷めないようにと状態維持の魔術を掛けておいたお湯にタオルを浸けて軽く絞る。みんな心配しつつも、生息数が少なくなった天馬さまの仔天馬が産まれたことを喜んでいる。

 

 フライハイト男爵領でも、他の天馬さまが番で様子を見に行っているようだし気に入れば男爵領でも新たな命が誕生するに違いない。めでたいなあと目を細めながら小屋の入り口を見ると、ジョセが産まれたばかりの仔天馬さまと一緒に姿を現した。

 

 ――あれ?

 

 ん、なにあれ。天馬ってペガサスだよね。普通、ペガサスの馬体って白いよね。というか白しか知らない。

 毛色は白、それが通常であり常識であり当たり前である。けれどジョセと一緒によたよたと歩いている仔馬は黒だった。凄く黒光りしている黒と言えば良いか。馬で表現するなら青鹿毛である。黒化個体……なのだろうか。

 

 私以外の方たちも驚いている。そして何故か私に視線を向けている。まって、私はなにもしていない。無事に生まれてくることを祈っていただけだ。――無罪である。

 

 「え?」

 

 生まれたばかりとはいえ天馬は天馬。翼が生えていた。まだ小さいその翼は一対のように見えた。計二枚に……見えた。目を凝らして確りと仔馬を見た。まだ翼は小さく分かり辛いが、主翼付け根の後ろに小さな翼が生えている。二対……要するに翼が四枚。黒化して翼が四枚。

 

 『素晴らしい! 素晴らしいです! ジョセ、よく頑張りました。このような強い仔を産んで下さりありがとうございます』

 

 まだ足が震えている仔天馬さまにエルが近づいて、口先を上手く使ってあむあむしてる。

 

 『エル。いいえ、大地がこの仔を強くしたのです。流石、魔素濃度が高い場所ですね』

 

 夫婦の会話を邪魔してはいけないと思いつつも、確認したいことがいくつかある。仔馬はよたよたと歩いているから取りあえずは問題なさそうだけれど、初乳とか済ませたのだろうか。ジョセは初産ではなく、何度か出産を経験しているそうなので大丈夫な筈だけれど。

 

 「ジョセ、お疲れさま。おめでとう」

 

 私の肩に乗っているアクロアイトさまが、言葉を言い終わると同時に一鳴きした。

 

 『聖女さま。――出産に適した場所を私たちにお与えくださり、ありがとうございます。幼竜さまもありがとうございます』

 

 お礼を言われる程のことをしたつもりはない。

 

 「エルとジョセの頑張りだよ。強い仔を望んでこの場所を見つけたんでしょう」

 

 偶然に男爵領で知り合って、偶然に子爵邸の魔素量が高かっただけ――私の所為だけれど――である。人の多い王都まで足を運び子爵邸を見つけ降り立ったエルとジョセが、私たちと交渉したことがここで産む決め手となった。王国上層部は竜の次は天馬かと、てんやわんやしていたようだけれど。

 

 『聖女さまが許可して下さらなければ、ここでの出産は叶いませんでした』

 

 『ええ。私たちを受け入れてくださり、本当にありがとうございます』

 

 ジョセとエルが揃って頭を下げる。本当に気配りばかりして。そんなエルとジョセだから、子爵邸を繁殖場所に選ぶことが出来たのだろう。勝手に居付いたとかなら、追い出す確率の方が高い。

 

 「お礼はいいよ。この仔が無事に大きく育ってくれれば」

 

 仔天馬さまの側にしゃがみ込む。まだ震えている脚に、生まれたばかりで羊水で濡れている。ジョセが殆ど舐め取っただろうけれど、血が付いている所もあった。流石に生まれたばかりの仔天馬さまに水をぶっかける訳にはいかない。ジョセはあと少し時間が経ったら、馬体のお手入れをしないと。お尻の辺りに血が付いたままなので、気になるだろう。

 

 仔天馬さまは顔は小さいし、目はくりくりだ。脚の長さと胴体のバランスがちょっと歪だけれど、大きくなれば解消されるだろう。

 

 「可愛いなあ。――これから暫くの間、よろしくね」

 

 言葉はまだ分からないだろうけれど、挨拶をしておく。分からないようだけれど、私の顔をちゃんと見てくれた。濡れタオルを持っていたので、まだ汚れの酷い部分を軽くふき取る。

 力加減が良く分からなくて恐る恐るやっていると、エルがもう少し強くても大丈夫と教えてくれた。仔天馬さまが大きくなるまでは子爵邸で暮らす手筈となっている。空を飛ぶ訓練も行うそうで、飛行訓練は雄親の役目なのだそう。出産しても約半年くらいはここでお世話になりますと前々から告げられていた。

 

 「可愛いね~」

 

 「可愛いわねえ」

 

 「無事に生まれて良かった」

 

 エルとジョセと私の会話が一通り終わるのを待っていてくれたのか、エルフのお姉さんズと代表さまがやってきた。お婆さまの姿が見えないので、飽きてどこかに行ってしまったのかも。本当に神出鬼没だし気紛れな気分屋さんというか。

 

 『聖女さま、この仔の名前を決めて頂きませんか?』

 

 「私が?」

 

 『はい。私たちの名も頂きましたし、お願いできませんか?』

 

 エルが私にお願いし、ジョセが念押ししてきた。何だか名前を付ける機会が多くなってきたなあ。ネーミングセンスがないから、結構大変なんだけれど。

 

 ポチ、タマレベルで良いなら付けられるけれど、犬猫ではなく天馬さまだし。しかも黒毛の四枚翼である。特殊個体といっても良いくらいだ。エルフのお姉さんズや代表さまは、しげしげと仔天馬さまを観察しているし。日が昇れば副団長さまもスキップしながらやって来そうなんだよね。

 

 出産間近というのは分かっていたから、副団長さまが子爵邸で寝泊まりすることを望んだけれど、陛下や国の上層部に止められていた。これ以上、子爵邸に迷惑を掛けるなと。

 無慈悲に下された国からの命令に、副団長さまは凄くしょぼくれてエルとジョセに愚痴っていたのを聞いたのだ。本当にブレないなあと感心しつつ、副団長さまが非合法の魔術師のようにならなくて良かった。頭が切れる人だし、少し前に捕まった魔術師のようにはいかない気がする。

 

 「ちゃんと考えたいから時間を貰っても良いかな?」

 

 学院の図書棟に寄って調べてみよう。名前図鑑とか見つけられるかもしれないし。

 

 『それは勿論です』

 

 『この仔も喜びます』

 

 エルとジョセが私の顔に顔を寄せてくる。そんな彼らに私は手で顔を撫でて。仔天馬さまの名付け親を任されたけれど、ちゃんとした名前を付けることが出来るだろうか。

 

 ◇

 

 ――ふあ……。

 

 勝手に欠伸が出る。寝付けないまま、夜更けに産気づいたジョセの声に飛び起きて、そのまま寝ていないので眠い。

 ただジークとリンも私と同じ状況だったので、みっともない所は見せられないと、目を力いっぱい見開く。馬車の中で良かったと安堵しつつ、膝上にアクロアイトさま、足元にはロゼさんが居るので、誰にも見られていないというのは間違いかもしれないが。

 

 「ふあ。――失礼しました」

 

 誰かから声が返る訳もないのだけれど、また欠伸が出てしまったので謝っておく。私がいつもより眠たいことがおかしいのか、分かっていないのか、アクロアイトさまがこちらを見て首を大きく傾げる。

 大丈夫という意味を込めて、アクロアイトさまの頭をナデナデ。目を細めて私の手を受け入れてくれるので、ついでに身体もナデナデしておく。長くか細い甘え鳴きをして、膝上で足踏みしている。どうやら気持ち良いようだ。

 

 『ますたーねむい?』

 

 足元で大人しくしていたロゼさんが丸いからだを少し伸ばして、声を掛けてくれた。

 

 「少しね。徹夜はちょっとキツイね」

 

 若いから、まだ大丈夫だけれど。

 

 ロゼさんは少しずつ状況を把握しているようで、数時間前のエルとジョセと私のやり取りも興味があるのかじっと見ていたロゼさん。本当にどんどん賢くなっているなあと、感慨深い。

 

 名前を付けたのでロゼさんは私の使い魔とか従魔という扱いになるそうだし、私が死ぬまでロゼさんも死んだり居なくなったりしないそうで。使い魔とか従魔とか聞きなれない単語が出て来たので、今度副団長さまが教えてくれるそうな。私の魔力量が多いから熟知しておいた方が良いんだとか。

 

 『にんげんはたいへん。すらいむ、ほとんどねない』

 

 「スライムさんたちって、殆ど寝ないんだ」

 

 ロゼさん曰く、殆ど動かないけれどちゃんと起きているそうで。動かないイコール燃費が良いということで、睡眠は一日に三十分か一時間も寝れば良い方。

 そういえばロゼさんは夜中、本を読んでいるし昼日中も本を読んでいる。ロゼさんがいろいろなことが出来るのは、創造の際に私が結構な量の魔力を注いだから。いや、副団長さまに教えられた通りに規定量を注いだはず。詠唱を終えてからごっそり奪われたという方が正しい気がする。

 

 ロゼさんと話をしているのが気に入らなかったのか、膝上でアクロアイトさまが鳴き始めた。この数か月間、一緒に暮らしたけれど無駄鳴きとか一切なかったというのに、どうしたことだろう。一度、代表さまに相談した方が良いだろうか。何度も鳴いて、ロゼさんの頭の上に飛び降りて、また一鳴き。

 

 『おまえ、うるさい』

 

 ロゼさん、アクロアイトさまへの当たりが強いような気がする。いや他の方にも変わらないけれど、特に強いような。

 ぴしゃりと放たれた一言は、アクロアイトさまの胸にずさりと刺さったようだ。ロゼさんの頭の上から私の膝の上に飛び乗って、私の腕と胴体の間に顔を挟み込んで『フスー』と大きく息を吐く。

 

 『おこるなら、ことば、おぼえろ』

 

 もしかしてアクロアイトさまの言葉をロゼさんは理解しているのだろうか。アクロアイトさまが今以上に不貞腐れる可能性もあるけれど、興味があるので聞いてみよう。

 

 「ロゼさんは、言っていることが分かるの?」

 

 『こいつのまりょくのながれで、なんとなくわかる』

 

 そうなのか。ロゼさんは魔力感知能力も高いようでなにより。アクロアイトさまは拗ねて、私の腕と胴体の間に顔を突っ込んだまま。この状態で学院へ着きそうだなあと窓の外を見ると、そろそろ学院へ到着しそうだった。

 

 「ナイ、着いたぞ。降りよう」

 

 ジークが馬車の扉を開いて顔を覗かせた。膝上に居るアクロアイトさまを抱え直して椅子から立ち上がると、ロゼさんがひゅばっと私の影の中に入った。

 じろじろ見られるのは嫌だから影の中に入ると、ロゼさんが事前に伝えてくれているので問題はない。

 

 「うん。――ありがとう、ジーク」

 

 ジークのエスコートを受けて馬車からおりて校門を目指そうと歩き始める。暫くすると、ソフィーアさまとセレスティアさまが現れて挨拶を交わすと同時、私の腕の中からアクロアイトさまがセレスティアさまへ飛んで行った。

 

 「!???」

 

 登校中は私の肩の上がデフォルトなアクロアイトさまが、突然セレスティアさまへと飛んで行ったので彼女は目を丸くして驚いている。

 

 「ナ、ナイっ!」

 

 「あー……拗ねてるみたいで。そのまま抱えて頂いても構いませんか?」

 

 「それはもちろんですが……」

 

 戸惑いつつも、セレスティアさまの顔がどんどん締まりのないものに変化している。これ以上は彼女の名誉に関わるので見ないでおこうと、視線を前へ向けた。

 

 「一体なにがあったんだ?」

 

 ソフィーアさまの言葉に馬車の中での出来事を伝えると、苦笑を浮かべる二人。セレスティアさまが鞄を抱えなおして、アクロアイトさまを抱き直す。

 

 「貴方さまには貴方さまの魅力がございます」

 

 セレスティアさまならこのままでも良いと言い出しそうだよなあ。私もアクロアイトさまがこのままでも問題ないけれど、ちゃんとした竜生を送って欲しいから、小さいままはというのは不味い気もする。

 

 「なんとなくだけれど、気持ちは伝わっていますしね」

 

 本当に。何かあれば口で服を引っ張ったりして、アクロアイトさまが行きたい所に導いたり、鳴き方も違うから分かるのに。ロゼさんに影響されて無理に喋らなくとも良いし、アクロアイトさまが喋れるようになったら、その時にお喋りすれば良いだけ。

 

 「ええ。ゆっくりでいいのですよ」

 

 私たちはその時を楽しみに待っているんだ。いつになるか分からないけれど、知性が高いからその内に楽しく会話を楽しんでいることだろう。喋ることは出来ないけれど、こちらの言葉は理解しているようだから、それで十分。

 アクロアイトさまがセレスティアさまの腕の中から、こちらへと飛んできた。定位置になっている私の肩の上に乗って、何かを考えている様子。歩きながら様子を伺っていると、小さく甘い声を出して顔を擦り付けてきた。

 

 「やはりナイが一番ですのね」

 

 「それはそうだろう」

 

 お二人がアクロアイトさまと私を見ながら、笑みを浮かべる。あ、伝えなきゃいけないことがあった。

 

 「朝早くに、エルとジョセの仔馬が産まれました」

 

 「そうか。そろそろと聞いて心配していたが、無事に産まれたならなによりだ」

 

 「本当に。後で見に行っても宜しいかしら?」

 

 話ながら校門を抜けて、仔天馬さまの名前を決めなければならないので、昼休みに図書棟へ寄る約束を交わして、騎士科のジークとリンと別れる。特進科の教室へ辿り着くとギド殿下が元気に挨拶をくれた。眠気が酷くて、まともに挨拶を交わせたか覚えていない。

 

 ――昼休み。

 

 ご飯を済ませて、図書棟に寄る。ソフィーアさまとセレスティアさまにも話すと、協力すると申し出てくれた。

 名前図鑑を見つけたり、鉱石や宝石の図鑑を選んでみたり。肩に乗っているアクロアイトさまが、机に広げた本を興味深げに覗いてる。集まったみんなも、それぞれが考える仔天馬さまに似合う名前をチョイスして頂いている。既に書き出している人もいて、お名前捜索は順調。

 

 「あ」

 

 人名図鑑をぺらぺらと捲っていると、とある名前に目が留まった。私の声にこの場に集まっていた全員の視線が集まり、次に本へと移された。

 

 「良いのがあったのか?」

 

 「どれでしょう?」

 

 気になった名前を指さしすると、みんながそこの部分へと目を向けて文字を追う。

 

 「良いんじゃないか?」

 

 「ええ、とても」

 

 気に入ってくれたようで、異論はなさそう。ジークとリンにも問いかけると、問題はないみたい。じゃあこの名前に決定だと、名前と名前に込められている意味を覚える。短いし覚えやすい名前を選んだけれど、エルとジョセそして産まれた仔天馬さまが気に入ってくれると良いけれど。

 

 昼休みももう終わるからと、それぞれの教室へと戻った。

 

 子爵邸に戻った後、仔天馬さまに会ったソフィーアさまとセレスティアさまは『黒いだなんて聞いていないぞ!』『翼が二対あるだなんて聞いていませんわ!』と突っ込みを入れられ。そう言えば仔天馬さまが無事に産まれたとしか伝えてなかったなと、平謝りする私だった。

 

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