魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0164:お名前決定。亜人連合国領事館にて。

 ――仔天馬さまが産まれた。

 

 エルとジョセに名前を付けてとお願いされたが、私の乏しい知識では良い名前が付けてあげられないので、学院の図書棟で良い本がないかなと探しつつ名前も探す。運良く人名図鑑を見つけることが出来たのでそこから名前を探しあてた。

 

 放課後、みんなで子爵邸に戻り玄関先で戻った報告を終えると、そのままいつものメンバーで厩の方へと足を向ける。

 

 「ああ、聖女さま。皆さん。お帰りなさい」

 

 厩の隣にあるエルとジョセが生活している小屋の近くに副団長さまが立っていた。どうやら外に出て仔天馬さまの相手をしているエルとジョセの観察を行っていたようだ。朝一番で子爵邸に顔を出しているはずだけれど、ずっと観察していたのだろうか。私たちが近づいていることが分かり、挨拶をくれた。

 

 「副団長さま。――こんにちは」

 

 私の言葉にこんにちはと返してくれる副団長さま。研究の為と言って子爵邸に出入りしている彼。身元も確りしているし陛下方からの許可もあるので、彼が子爵邸に居るのは問題ない。

 それよりも、魔術馬鹿を拗らせてご飯を抜くことがしょっちゅうあるので、今日のお昼は食べたのだろうか。一応、副団長さまに軽食を出すようにとお願いしているけれど、家宰さまによる今日の報告会はこの後に行われるから分からない。聞いた方が早いけれど、副団長さまは魔術師団の方へ顔を出さなければならない時間の筈。

 

 「お邪魔しております。――しかし、黒化に翼が多く生えている個体……素晴らしいです!」

 

 人間だと手や足が六本あれば奇形と言われてしまうのだけれど、仔天馬さまも他の天馬さまたちからそんなことを言われないだろうか。

 心配になってきたので副団長さまに聞いてみようと顔を上げると、違う方向から声が掛かかる。エルがこちらへ来たので、副団長さまは私の相手をしなくて済んだと判断し、ジョセと仔天馬さまを凝視し始めた。放っておいて大丈夫だろう。

 

 『お帰りなさいませ、聖女さま、みなさん。――まさか黒い天馬が産まれ、翼も多いとは思いませんでした』

 

 でしょうねえ、でしょうねえと副団長さまがエルの言葉に納得しながら呟いていた。ジョセは少し離れた場所で、仔天馬さまの面倒をみている。

 朝、彼らと別れた時よりも仔天馬さまは随分と確りした足取りとなり、ぎこちないながらも走っている。でも、白色ではなく黒色で。翼も通常の個体よりも多く生えている。

 

 「えっと、他の天馬さまたちから嫌われたりしない?」

 

 みにくいアヒルの子みたいに……。アレは種族というか鳥の種別が違うからああなった訳だけれど、仔天馬さまは正真正銘の天馬である。同族である他の天馬さまたちから仲間外れにされないだろうか。

 

 『心配はご無用です。――』

 

 天馬さまたちは白が通常だけれど、極々稀に黒や赤毛の個体が産まれることもあるそうだ。突然変異ではあるが通常の個体よりも強くて優れている、とか。翼も多く生えることもあり、色違いの個体が産まれるよりも更に稀だとエルが説明してくれた。

 これを聞いていたソフィーアさまは頭を抱え、セレスティアさまは目を輝かせている。ジークとリンは『そうなんだ』くらいの顔を浮かべながら、私の護衛を務めている。

 

 『きっと沢山の雌に言い寄られますよ。良いことです』

 

 「あ、男の子だったんだ」

 

 雄か雌か朝の時点では知らなかった。そういえば性別も聞かないまま名前を付けると承諾してしまっていた。次があるなら気を付けないと。

 

 『はい。相性の良い番を見つけ、仔を成してくれれば親として本望です』

 

 雌であれば強い雄を、雄であれば良い仔を産んでくれる雌を望む。自然界に生きている為か、子孫を残すという意識が強い。

 エルが私に顔を寄せたので手を伸ばして、彼の顔を撫でる。気持ち良いのか目を細めて無言で受け入れてくれている。そうしているとアクロアイトさまが、私の肩の上で一鳴きした。どうしたのだろうと、アクロアイトさまへ顔を向けるとエルが言葉を理解していたようだ。

 

 『おや、名前が決まったのですか?』

 

 「あ、うん。学院の図書棟で調べてたら、良い名前候補があったから」

 

 忘れる所だったので、教えてくれたアクロアイトさまの顔を優しく撫でる。気持ち良いのか細く高い声を出して、喜んでいるみたい。

 

 『聖女さまに話が通じて嬉しいみたいですね』

 

 ロゼさんが誕生してからというもの、アクロアイトさまの鳴く回数が多くなっている。昨日あたりは鳴くというよりも、短く何かを声に出しているというか。ベッドの上でアクロアイトさまが私を見ながら、短く鳴くのでテーブルの椅子からベッドの縁に移動して座って頭を撫でると満足していたけれど。

 

 「そう言えば、エルとジョセは言葉が分かるんだね」

 

 『何となくですが、幼竜さまの仰っていることは理解できますよ』

 

 丁度良いから、最近のアクロアイトさまとロゼさんのやり取りをエルに聞いて貰う。

 

 只今、ロゼさんは影の中。ロゼさん曰くアクロアイトさまが五月蠅いそうなので、私の影の中が良いと言い切ってしまった。なのでロゼさんは私の足元で大人しく本を読んでいるか、影の中で過ごしているかである。

 私の部屋に置いている本を読破しそうだから、次は子爵邸の図書室に目を付けているそうだ。あと魔術を練習してみたいと零していたので、副団長さまに話をつけて魔術師団の施設を借りる予定だ。

 

 『嫉妬、ではないでしょうか。聖女さまの周りには沢山の方々がいらっしゃいますが、魔物や魔獣といった類の方は幼竜さまだけでしたから』

 

 ポジションが侵されそうなので、それを危惧していると。

 

 「気にしそうにないけれど……」

 

 『ご意見番さまの生まれ変わりですが、生まれ変わり故に幼いのですよ。きっと』

 

 「知ってたんだ」

 

 アクロアイトさまがご意見番さまの生まれ変わりと、エルとジョセには伝えていないはず。

 

 『魔力の色や形でなんとなく分かりますし、屋敷の皆さまに聖女さまのお話を聞きました』

 

 ふふ、と笑っているエル。屋敷の方たちから一体何を聞いたのだろうか。ご意見番さまの浄化儀式から亜人連合国へ派遣されることになった経緯とか、あまり知られていない筈なんだけれどな。

 もしかして誰かが見ていて噂でも流したのだろうか。長期休暇の前半に竜に乗って王都に戻っちゃったし。王都での噂がどんなものか、一度調べて貰うのもアリかも知れない。治癒院に参加した際に、割と凄い視線を頂いていたから。

 

 「あ、そうだ。名前!」

 

 『ああ、そうでした。本題から逸れる所でした。ジョセ!』

 

 少し離れている場所で子天馬さまの面倒をみているジョセにエルが声を掛けた。それに気が付いてジョセがこちらへとやって来る。ジョセは普通に歩いているけれど仔天馬さまにはまだ早いようで、ギャロップのように走っている。

 可愛い――

 

 「――ああ、とても愛らしいですわっ!」

 

 ――なあ、という気持ちは声を出した主に遮られた。今まで黙って見守っていたセレスティアさまが我慢の限界を超えたらしい。鉄扇を広げて口元を隠し、目を細めてうっとりしてる。

 

 『よろしければ、可愛がってやってください。この屋敷の方たちならば問題はないでしょうから』

 

 エルに呼ばれてこちらへやって来たジョセがセレスティアさまに向かって告げると、彼女は鉄扇を広げたまま物凄く幸せそうな顔を浮かべた。セレスティアさまの隣に立つソフィーアさまが呆れた顔を浮かべている。セレスティアさまは竜や魔獣が関わると、大体こんな感じなので諦めた方が早いのに。

 通常運転なセレスティアさまは放置して、エルとジョセ、そして仔天馬さまへ向き直る。仔天馬さまへの名前なので、目線を合わせた方が良いかとしゃがみ込むと、仔天馬さまが小さく首を傾げる。

 

 「えっと。みんなで君の名前を決めたんだ。エルとジョセ、なにより君が喜んでくれると良いけれど」

 

 短い時間だったけれど今日のお昼休みにあーでもないこーでもないと考えてながら、探し当てたのだから。気に入ってくれると嬉しいなと、仔天馬さまの小さい顔を撫でた。

 

 「ルカ。――光って意味だよ」

 

 性別が分からなかったので、どちらでも通りそうなものをと考えていたけれど男性名なんだよね。仔天馬さまが男の子で良かったと安堵していると、仔天馬さまが嘶いた後にぶるると鼻を鳴らす。

 

 ――魔力、持っていかれた。

 

 なんで、そうなるのかなあと遠い目になる。もう慣れてきているのも、どうなんだろうと目が細くなるけれど。時折、お婆さまが遠慮なく私の魔力を奪っていく時よりも少ないけれど、仔天馬さまがある程度の魔力を私から取っちゃった。

 

 『!』

 

 『!!』

 

 エルとジョセも気が付いたようだし、副団長さまもにんまりしているので気が付いたかな。所で、魔力を取られたってことは気に入ったという解釈で良いのだろうか。誰も何も答えてくれないまま、仔天馬さまへの名付けを終えるのだった。

 

 ◇

 

 ――夜。アルバトロス王国・王都・ミナーヴァ子爵邸横、亜人連合国領事館とある一室。

 

 最近、天馬が産まれた。喜ばしいことである。

 

 以前から個体数の減少が気になっていたおり、亜人連合国と称する大陸北西部で繁殖をと何組かの番の天馬に話を通したことがあるが、何故か選んでくれなかった。仮定ではあるが、大陸北西部はあまり緑が多くない。

 エルフが住まうエルフの街周辺は彼らの手により木々が鬱蒼と茂っているが、彼らの管理下から一歩外れれば草木の生えない山肌が露出した大地である。おそらく彼ら天馬の好みの場所ではなかったのだろう。

 

 「オブシディアン、にやにやしてるわね」

 

 私の名を呼ばれる……――我々亜人連合国に住まう者たちは自分の名を明かすのは、身内と自身が信頼している者に限る。普段の私は代表と呼ばれているが、私的な時間ということもあり、エルフの彼女たちは私を通称ではなく名前で呼んだ。

 

 「仕方ないよ~。天馬が産まれたんだし」

 

 保護活動に力を入れたいって前々から言っていたものね、と言葉を続けていた。そう。私は彼の意思を引き継ぐ為、天馬を始めとした魔獣の保護と生息域の拡大を目指していた。元々生息数が少ないのだから、彼らを探し当てる段階で大変であったが。大地の魔素が高いと言われているアルバトロス王国に目を付け、一組の天馬の番が仔を産んだ。

 

 「ダリア、アイリス。喜ばずにいられるか」

 

 笑みが自然と零れているのが分かる。しかも通常の天馬ではなく、黒化個体で翼まで多く生えている。産まれた仔は強くなろう。そして天馬を統べる存在にもなり得るのだ。

 雲一つなく晴れ渡った青空の下、先頭に黒天馬が翔けその後ろに天馬が続く。そんな光景を想像してしまえば、笑みも零れよう。大陸は人が住む大地と化しているが、それでも我らも彼らと同様に生きているのである。昔と同じようになどと望みはしないが、亜人や魔獣たちが大地を気兼ねなく翔けることが出来ることがあっても構わないだろう。

 

 「あら。彼の方が旅立った時には随分と気落ちしていたのに、現金なものね」

 

 エルフの代表格二人であるダリアとアイリスが私を見ながらくつくつと笑う。

 

 「む」

 

 それは仕方なかろう。ずっと長きの間に渡って我々を導いてくれた彼が死に場所を求め、国から旅立ってしまったのだから。

 大陸に住まう人間たちから迫害を受けて逃げてきた亜人を、彼が保護したことが亜人連合国の成り立ち。彼が居なければ、私の目の前に居る彼女らとも会えなかっただろうし、こうしてアルバトロス王国の領事館で新たな命が産まれたと喜ぶこともなかっただろう。

 

 「それは仕方ないよ~ダリア。みんな落ち込んでいたんだから」

 

 「アイリス。私だって落ち込んだけれど、オブシディアンが一番分かり易かったじゃない」

 

 「確かにそうだけれど。竜のみんなは酷く気落ちしてたじゃない~」

 

 ちょっと鬱陶しかったよね~、とアイリスが言い放った。今になってそんな暴露をしなくとも。知りたくなかった事実である。

 

 「白竜もじめじめじとじと酷かったけれど、オブシディアンが一番駄目ね」

 

 代表を務めているんだからしゃっきりしなさいとダリアが言い放つ。彼が旅立ってから喪失感というものが凄かった。自然の流れに身を任せるのが我々竜であるが、ずっと長きを共にした仲間であり親のような方が居なくなってしまったことに心が悲鳴を上げていた。

 

 「!」

 

 「!?」

 

 やれやれといった雰囲気のダリアとアイリスの雰囲気が一転し、通信用の魔法具へと顔を勢いよく向けた。話はこれで終わりだと言わんばかりの二人に苦笑を浮かべる。

 

 「あの子からだわ!」

 

 「私が出る~!」

 

 呼び出し音も鳴っていないのに、何故わかるのだろうか。以前に問うてみるとエルフ故の直感だそうだ。竜は鈍いから分かり辛いものねと、言葉を付け足されたが。席から勢いよく立って、二人が魔法具の前に立つと同時に呼び出し音が鳴った。

 私もソレに気が付くことが出来れば、あの黒髪の少女と魔法具で話すことが出来るのだが……何度か鳴った魔法具を私が取ることは今まで一度もなかった。

 

 『あ、夜分に申し訳ありません。ナイです』

 

 魔法具越しに黒髪の少女の声がこちらにも届いた。話の内容が気になり、少し聴力を強化しているのかもしれない。

 

 「気にしないで。いつでも連絡して頂戴と願ったのは私たちだもの」

 

 「そだよ~。君が気にしなくて良いからね」

 

 私と話している時よりも嬉しそうなダリアとアイリス。魔法具越しに、面白そうに笑っている彼女の雰囲気を感じ取れた。二人で魔法具越しに我先に黒髪の彼女と話そうとしている姿が滑稽であるが、二人が特定の人間を気に入るなど本当に珍しい。

 

 『有難うございます。――代表さまはいらっしゃいますか?』

 

 「――どうした?」

 

 彼女に呼ばれれば早急に答えなければ失礼というものだ。『うわ、早』『え、何~』と二人が引いている気がするが、この際関係ない。

 彼女は彼が生まれ変わった幼竜の世話をする方、失礼があってはならない。亜人連合国の代表として振舞わなければならぬのが残念だ。出来ればエルフの二人のように彼女と気軽に話がしたかった。だが、立場がある。そして、彼女にも聖女としての立場があった。

 

 『代表さま、夜遅くに申し訳ありません。ナイです。――少し話したいことがあって、お借りした魔法具で連絡を取らせて頂きました』

 

 「構わぬよ。それで話とは一体?」

 

 本当になんだろうか。朝に生まれた天馬のことだろうか。それとも辺境伯領の竜たちを気に掛けてくれているのだろうか。そうであれば同じ竜として嬉しいことであるし、彼女が竜に興味があるというのならば全て答えよう。

 彼女が畏怖してしまわぬようにと、優しい声を心掛ける。私の後ろでエルフの二人がなにやら五月蠅いが、彼女と話している時くらい静かにしたまえ。

 

 『アクロアイトさまの事で相談があります』

 

 彼女は私室で一人きり――幼竜が一緒に居るだろうが――だそうだ。だから幼竜の名を口にした。彼女は人前で幼竜の名前を告げない。名前は信頼たるものにしか明かさないと言った、我らの言葉を律儀に守ってくれているのだろう。

 確かに我らは簡単に名を告げない。だが、彼女自身が幼竜の名を付けたのだから、気にしなくとも良かったというのに。

 

 我々も未だに彼女の名を呼べずにいるのだから、止む無しなのかもしれないが。

 

 「何かあったのか?」

 

 『この数日、凄く鳴いていまして……理由はなんとなく分かるのですが、喉を痛めないかと心配なんです』

 

 彼女の魔力を随分と幼竜は吸っているので、どれだけ鳴こうが関係ないのだが、突然訪れた変化に戸惑いを隠せないようだ。詳しく理由を聞くと彼女が創造したスライムに嫉妬しているようだった。そういえば彼女のスライムは喋ることが出来たなと、朝方のことを思い出す。

 

 「喉を痛めることはない。――ないが、一度こちらへ来て貰っても構わないだろうか?」

 

 もう少し詳しく聞いてみるべきかと、彼女にこちらへ来るようにと願う。

 

 『本当ですか? 有難うございます』

 

 ほっと安堵したように彼女は言葉を紡ぐ。明日の学院が終わり次第にこちらを訪ねると、約束を交わし。長く生きる我々亜人であるが、明日までの時間が随分と長く感じることになるのだった。

 

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