魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0165:続・亜人連合国領事館にて。

 ――翌日。

 

 陽が沈み始めた頃、来客を告げる音が屋敷に響く。人間の国の貴族ならば、使用人が客人を迎えるのであろうが、我々は貴族ではない。自身で客人を玄関先で迎えるし、茶も茶請けも当然自分で用意するのだ。もちろん招かれざる客であれば、やらないが。

 

 「来たみたいね」

 

 「お迎え行こう~」

 

 ダリアとアイリスが待っていましたと言わんばかりに、席から立つ。他の客であれば『面倒だからお願い』『任せる~』と言葉を発するのが常だというのに。彼女が初めて亜人連合国を訪れた際には、二人は嫌々迎えに行っていた。随分と変わったと苦笑を浮かべるが、私も彼女らのことを笑えない。

 竜の浄化を執り行い卵を持参すると聞いていたが、まさか彼の方の生まれ変わりとは全く考えられなかった。信じられるはずがない、彼の方を浄化した人間が居るなどと。だから、嘘を吐き我々と接触しようとする馬鹿な者たちかと疑っていたが。結果は語らずとも構うまい。

 

 「私も行こう」

 

 私がそう告げると二人は来なくても良いのにという顔を浮かべるが、いつもの事で気にする必要もないと椅子から立ち上がる。待たせては悪いと早足で廊下を歩く。彼女が訪れることを察知したのか、妖精がいつもより多く屋敷の中を徘徊していた。

 彼女は屋敷の正門からではなく、裏門からやって来ている。ダリアとアイリスがかなり気合を入れて魔法術式を構築して、新たな魔法として組み上げた。その際にはアルバトロス王国から魔術師が派遣された。最初は大丈夫だろうかと心配していたが、知識と技術、ひらめきはかなりのものだった。

 

 ダリアとアイリスも驚いていたが、私も驚いた。人間であれほどの魔法を――人間からみれば魔術か――使いこなす者が居ようとは。ただ余りにも特殊過ぎる人物に、エルフの二人でさえ引いていたのには呆れてしまった。

 

 「こんばんは、というには少し早いのかもしれませんが」

 

 玄関を開けると、黒髪の少女と彼女の腕の中には幼竜に護衛である赤髪の双子の姿。随分と身長差があり、同じ年と聞いているが本当にそうなのだろうかと疑いたくなるくらいだ。だが、彼女の背が低いのはその身に宿る魔力量の多さが原因であろう。

 竜やエルフであれば喜ばしいことであるが、人間である彼女からすれば弊害の方が多い。低身長なのは明らかな多大な魔力による弊害だ。魔力を多量に有していても使い切ることが出来ず、新たな魔力が作られない。

 

 古い魔力を身体の中に循環させたままでは、魔力を作る器官が活性化されず、魔力の総量が多くなる可能性を潰えさせてしまう。彼女がアルバトロス王国で国の防御壁へ魔力を補填していたことは、幸運だったのだろう。

 慣れない頃は、倒れたり疲れが酷かったと聞いている。それは魔力を底まで使い切ったということだ。多少なりとも彼女の魔力量が上がったことだろう。

 

 ただ無理をすると鼻血を出したこともあると聞いている。そちらは単純に魔力の多さに身体が付いていかなかった。そういう事態になるなと忠告しておいたが、果たして彼女は聞いてくれるのか。無茶をすることがなければ良いがと願うばかりである。

 

 「こんばんは。――よく来てくれた。さあ、中へ」

 

 私の後ろで、先を越された、ずるい、と二人が視線で訴えてくるが、知ったことではない。お邪魔しますと彼女が告げ、護衛の二人も深々と頭を下げる。いつもなら幼竜が一鳴きするが、今日は大人しい。恐らく件のスライムの件で落ち込んでいるか、不貞腐れているかのどちらかだろう。

 

 やはり彼女に幼竜を預けて良かった。亜人連合国であれば、彼の方の生まれ変わりとして丁重に扱われる。スライムと憎まれ口を叩くこともなかっただろうし、尺取虫に負ける経験など積めぬ。聞いた話によるとミミズにも負けたそうだが、きっと愛らしい姿だったことだろう。

 

 「さあ、座ってくれ」

 

 私たちが立ったままで席を勧めた所為か彼女が戸惑いつつ、下座を選んだようだ。その姿に我々は苦笑を浮かべて、エルフの二人は直ぐ戻るから本題には入るなと告げて茶を淹れに行く。

 

 「突然申し訳ありません」

 

 「気にしなくて良い。君ならばいつでも歓迎だ」

 

 本当に。幼竜さまを育てて頂いていることもさることながら、妖精たちが彼女を気に入っている。お婆さままで気に入っているのだから、相当なものだろう。認めた者には好意的であるが、それ以外は嫌いという感情よりも『無』と言うべきか。興味がなく相手にしないし、居ないように振舞うことがある。気難しいドワーフの者たちも、彼女とは普通に話していた。

 

 我々に気後れせず話すことが出来るのが大きいのだろうが、人間が亜人に向ける偏見や侮蔑、何よりも恐怖や恐れを抱いていないことも要因の一つ。そういえば亜人連合国に初めて訪れた際も、緊張はしていたが恐れを抱いてはいなかった。我々と対等に在るべきと胸を張り、彼女から話を始めたことは好感が持てた。

 

 我々の国に隣接している人間の国の者は、私や皆を見ると恐怖を抱くのが常。亜人を迫害して大陸北西部へと追いやったのに、おかしなものだ。

 

 「お待たせ」

 

 「熱いから気を付けてね~」

 

 ダリアとアイリスが戻ってくる。真っ先に彼女へ茶を出し、彼女の後ろに居る双子にも淹れたようだ。自分たちの分を机の上に置き、席に着く。

 

 「……私の分は?」

 

 何故、私の下に茶がないのだろう。

 

 「代表は自分で入れてね~」

 

 「ええ。貴方はお客ではないのだし」

 

 確かに客ではないが。代表としての威厳や何かいろいろとしたモノが全くない気がするのだが。亜人連合国側の者だけならば、別に気にはしない。ダリアとアイリスはいつもそのような感じで振舞っているのだから。

 ただ黒髪の少女の前である。亜人連合国の代表として、きりりと格好よく彼女と接したい。元の姿の竜となり彼女を自身の背に乗せた時は楽しかった。大地を高く飛びあがり、青い空の下を翔ける。空を間近で感じている黒髪の少女や護衛の双子が目を輝かせながら、遠い先の大地を見、空を見ている姿は新鮮だった。

 

 エルフやドワーフを背に乗せて移動したことはあるが、移動手段として私の背に乗っていたので感動もへったくれもなかったからな。

 

 「……――すまない、少し待っていてくれ」

 

 仕方なく椅子から立ち上がり、近くの給湯室へと歩いて行く。

 

 「あ、私が淹れます」

 

 「いや、客人にそれはさせられない」

 

 声に振り返ると黒髪の彼女がおろおろしているが、あの二人が相手を務めてくれるだろう。実際、気にしなくていいと口にしているダリアの声が耳に届いた。ふうと溜め息を吐きつつ、自身で茶を淹れる。

 ティーカップとソーサーを手に取り、客室へと戻ると女子同士で話を盛り上げていたようだ。二人が戻ってくるのが早いというような視線を向けるが、知ったことではないと席へ着く。

 

 「待たせた。――それで我々に相談とは?」

 

 昨日の事と同じ内容ではあったが、新たなことも聞けた。彼女を見つめながら短く鳴くことがある、と。

 

 「名を呼ぼうとしているのか?」

 

 私がそう口にすると、彼女の腕の中に居る幼竜がこちらを向いて目を細めた。どうやらそういう事らしい。

 

 「普通は魔力を使って直接言葉を届けるが、人間と同じように会話をしたいのかもしれんな」

  

 幼竜ほどの魔力があれば十分に言葉を操ることが出来るし、知能も十分に備わっている。大きくなりたいと願えば大きくなるし、言葉を交わしたいと願えば言葉を発する。

 

 何故喋らないのか不思議であるが、思えば我々竜の中で暮らしていないのだから、分からなくともしかたないのであろう。

 幼竜自身、まだ小さく言葉を扱えぬままで良いと、心の奥底で願っている可能性だってあるのだ。突然現れた彼女の魔力で構成されているスライムに驚き、嫉妬や妙な感情を抱いてしまうのも理解は出来る。

 魔力的に近しいのは幼竜のみだったのが、突然幼竜以上の近い者となった。スライムは彼女の魔力で構成されているが、心臓にあたる核の部分は別。異物感を感じ取り、対抗心を燃やしている原因は恐らくソレだろう。それを彼女へ伝えると、微妙な顔になる。何故、そのような顔になるのか理解出来ぬまま、彼女が口を開く。

 

 「ではやはり、向こうで暮らした方が良いのではないでしょうか……」

 

 「幼竜が望むまい」

 

 彼女の下で暮らすことを望み幼竜はアルバトロスで生活しているのだから、引き離すのは酷な事である。彼女の言葉に驚いて幼竜が顔を上げて見ているが、黒髪の少女は私を見ていて気付かない。

 お互いに意思がちゃんと届かず苦労しますな、と幼竜を見ると微妙な顔でこちらへ視線を向けていた。どうやら気持ちは同じらしい。エルフの二人も我々の気持ちを理解しているようで、何とも言えない表情で彼女を見ている。

 

 「我々としては好きにさせて欲しい」

 

 「昨日も聞きましたが、鳴いて喉を痛めたりしないですよね?」

 

 「もちろん。君の魔力をふんだんに取り込んでいるんだ。そんなことにはならんよ」

 

 彼女の不安が払拭できるようにと、力強く言い切った。そう、私の言葉の通り彼女の魔力を沢山取り込んでいる幼竜が喉を痛めることはあり得ないし、仮に怪我をしても直ぐに回復するだろう。

 魔力が多いということはそういうことだ。人間にコレが適応されるかどうかは知らないが、竜は魔力の多さがいろいろなことに直結している。身体の大きさだったり、使える魔法の多さ、人化能力等に影響する。幼竜は下手をすれば彼の方を超える魔力量を有する可能性がある。期待せずにはいられない。

 

 そうなのかと納得している彼女へもう一度念を押すと、ようやく納得してくれたようだ。

 

 「あの、別件で相談があるのですが」

 

 ふっと、真剣な顔へと変えた。

 

 「どうした? 私に出来ることであれば協力するが」

 

 「あ、もちろん私も」

 

 「私もだよ~」

 

 話の内容は大したことではない。ただ彼女らしいというべきか、世話になっている者の誕生日が近いので、ドワーフの職人たちに頼みたいことがあるという可愛らしい願いだった。

 本来ならばアルバトロスから亜人連合国へ話を通すべきだが、そうなるとバレてしまうので個人的な取引を望んでいる。彼女であれば喜んで我々は引き受けるというのに、真面目というか律儀というか。

 

 彼女からの相談にアドバイスをしつつ、幼竜が順調に成長を遂げていることを喜ぶ私だった。

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