魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0166:続報。

アクロアイトさまの様子が変だと、亜人連合国の方たちへ相談したのが昨日。

 

 無駄鳴きをしなかったアクロアイトさまが、ここ最近しょっちゅう鳴くようになった。原因はスライムのロゼさんだと分かっているし、ロゼさんが喋ったことによって私と会話を交わせないアクロアイトさまが怒った……というよりも拗ねた結果だろうけれど。

 

 ただ、あまりにも鳴くため喉を痛めないのか心配になったので、代表さま方に相談したのだ。

 

 聞いた話によると、鳴きすぎて喉を痛めることはないとのこと。魔力量が多い為に自然治癒力も高いから、痛めた端から治るというとんでもないものだった。仮にどこか怪我を負ったとしても、直ぐに治るらしい。ご意見番さまよりも優れている可能性を秘めているので、将来がとても楽しみだと代表さまが言っていた。

 そんな方を私が預かっていて良いのだろうかと悩むが、アクロアイトさまが私に懐いているし、こちらでの生活を楽しんでいるようだから構わないと。竜の方々に育てて貰った方が良い気がするけれど、本当に大丈夫なのだろうか。

 

 学院から戻って課題を捌きながら、私室のベッドの上で鳴いているアクロアイトさまへ顔を向けると私に気が付いてこちらへ飛んできた。ロゼさんは子爵邸の図書室に入り浸っている。学院に赴いている時は私の影の中だ。

 

 「本当に向こうで生活しなくて良いの?」

 

 言葉が通じているかどうかは分からないが、なんとなく把握していそうな気がする。こうして声を掛けるとちゃんと鳴いて返事をくれるのだから。ほら、不思議そうな顔をしつつ何度か鳴いた。恐らく否定の言葉である。私の肩の上から膝上に移動して貰って、アクロアイトさまと視線を合わせる。

 

 「念話を教えてもらえば、直ぐに喋れそうだけれど……」

 

 本当に。竜の方々は念話のようなもので私たちと言葉を交わしている。喉の形態が人間とは違うだろうから、念話を使っているのだろうと考えていたけれど。

 そういえば代表さまは念話の『ね』の字も口にしなかった。今の状況を面白がっているとは思えないし、アクロアイトさまや私が自力で解決できるようにと黙っていたのだろうか。

 

 『!』

 

 何かを感じ取ったのか、口を少し開いて固まっているアクロアイトさま。そんな顔は初めて見たが、もしかして念話の概念に気が付いていなかったのだろうか。天馬さまのエルとジョセも念話で話すし、お婆さまも念話で話している。竜の方々でなくとも師事できる方はいらっしゃる。

 思い立ったが吉日。お婆さまは気紛れな妖精さんなので、今どこに居るかなんて分からない。心の中で強く『魔力上げるから出てきて下さいっ!』と唱えれば、現れてくれそうな気もするが後が怖いのでやらないでおこう。

 

 「エルとジョセとルカの所に行ってみようか」

 

 何かコツのようなものを教えてくれるかもと、膝上に乗っているアクロアイトさまを抱えて椅子から立ち上がって部屋を出る。家族水入らずの時間を過ごしている所を申し訳ないが、アクロアイトさまの事なので大事なこと。

 私室を出ると、ジークとリンが部屋から顔を覗かせた。なんで分かるのだろうと苦笑しつつ、エルとジョセの所へ行くと伝えると二人も付いて来るそうだ。腕の中に居たアクロアイトさまが私の肩へと移動して、何度か身体を左右に揺らして顔を擦り付けてきた。

 

 「ご機嫌だね?」

 

 アクロアイトさまを見たリンが問いかけた。

 

 「みたいだね」

 

 「そんなに喋りたいのか」

 

 私の言葉の後にジークがアクロアイトさまを見ながらそう言うと、ジークの頭の上にアクロアイトさまが乗って長めの一鳴きをしつつ翼を大きく広げた。

 アクロアイトさまが喋りたいということはジークとリンも知っているからこその言葉だけれど、アクロアイトさまには気に入らなかったのだろうか。くつくつと笑いながら三人と一匹で階段を降り、一階の廊下を歩く。

 

 「ご当主さま、どちらへ?」

 

 若手の侍女の方に声を掛けられた。確か彼女は騎士爵家のご令嬢さまだったはず。お屋敷で雇っている人の履歴書を以前見せられていたので、なんとなくだけれど覚えていた。雇った当時は一代限りの子爵家だというのに、面接を受けてくれた奇特な方。いつも着替えの補助や食事の配膳等でお世話になっている。

 

 「エルとジョセの所へ行ってきます」

 

 天馬さまと言わずともエルとジョセでお屋敷で働いている方々に通じるのは、エルとジョセの頑張りだなとしみじみ感じつつ。

 

 「もう少しでお夕食の時間ですよ?」

 

 私がご飯の時間を楽しみにしていることは屋敷の皆さまにバレバレであった。料理長さまが言うには、美味しそうに食べるし、残すことがないので嬉しいとのこと。

 侍女さんたちはテーブルマナーはまだまだ鍛えなければならないが、美味しそうに食べているのは好ましいって。ただちっこいのでもっと食べても良いのではと料理長と画策しているらしい。普通に大人の方々が食べる量を摂取しているし、何も問題はないはずだけれど。

 

 お城の魔力補填を行った日は、いつも出して頂いている量では足りないので二割増しにして頂いているというのに。まだ食べさせる気満々らしい。いや、残さず食べるけれど。

 

 「直ぐに部屋へ戻りますので」

 

 「承知致しました。――いつもの時間でよろしいですね?」

 

 「はい。よろしくお願いします」

 

 当主なのでご飯の時間は自由に調整できる。ただ、準備している人たちや待機している人も居るので、時間はなるべく同じ方が迷惑が掛からない。長居はしないように気を付けなければと心にとめて、裏から厩の方へと足を向ける。

 小屋の外にエルとジョセにルカが居た。ルカは無邪気に庭を随分と確りとした足取りで駆け、エルとジョセは静かに見守っている。

 

 「エル、ジョセ」

 

 ルカはまだ言葉が分からないし、少し離れた場所に居た。エルとジョセが私の声に振り返って、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 

 「ルカは元気だね」

 

 本当に。無邪気に走ったりギャロップしたりと一人遊びを楽しんでいた。もう直ぐ空を飛ぶ練習も始めるそうだ。自然界で生きている為か、こういうことは凄く早い気がする。

 

 『ええ、とても』

 

 『はい。順調に日々を送っております』

 

 「ジョセは大丈夫?」

 

 子供は無事に産まれても、産後の肥立ちが悪くて亡くなった……なんて話はよく聞く。強い個体が産まれたと喜んでいたけれど、ジョセの体力や魔力を吸われた可能性だってある。言い方は悪いけれど。心配になってジョセに問いかけると私の方へ顔を寄せた。

 

 『大丈夫です。こちらで頂いていた食事は良質なものでしたから』

 

 「そっか」

 

 まだ本調子ではないだろうに。気を使ってそう言ったジョセの顔に手を当てる。目を細めてそれを受け入れてくれる彼女の顔から首へと手を移動させつつ撫でていると、気持ち良いのか口を動かしていた。

 

 「あ、本題があったんだ」

 

 よく脱線してしまうので、気を付けないと。私の言葉にエルとジョセが疑問符を浮かべ。

 

 「エルとジョセってどうやって喋っているの?」

 

 念話を使って周囲に言葉を理解して貰っているのだろうか。本当に不思議である。

 

 『私たち、ですか……――意識しないままこうして語れるようになっていましたが……』

 

 『どうしてでしょうね? 魔力に感情を乗せているとでも言えば良いのでしょうか』

 

 ありゃ。二人……二頭でも良く分からないらしい。参ったなあと頭を抱えていると、アクロアイトさまが一鳴きした。

 

 『おや。幼竜さまには伝わったみたいですよ?』

 

 『練習してみると仰っております』

 

 そんなに簡単に出来ることなのだろうか。魔力が多すぎて魔力操作が下手だと周りからいわれている私。

 代表さまにご意見番さまを超えるかもしれないと言われている、アクロアイトさま。感情を魔力に乗せるとして、細かい表現となる言葉を扱うのは可能なのだろうかと微妙な気持ちになるのだった。

 

 ◇

 

 ――とうもろこしさん。甘いとうもろこしさん。

 

 甘いとうもろこしさんが食べたい。溢れ出る食欲のお陰で大陸全土の冒険者ギルドに『甘い食用とうもろこしを探しています』という募集も掛けた。私の名前で出すつもりが、周囲からの大反対を食らった。騒ぎになるし、とんでもない量が集まりそうだからそれだけは止めろと。

 代替え案でソフィーアさまかセレスティアさまの名前を借りて募集を掛けようとしたが、お貴族さま周りには彼女たちが私の侍女を務めていることはバレている。ということは他国にも知れ渡っていてもおかしくはない。ならば、どうするか。

 

 そこで上がった名前は、ジークだった。

 

 彼の二つ名と顔は騎士と軍の人たちには知れ渡っているが、国外となると公爵家と辺境伯家のお嬢さまと比べると低い。

 適任ではと白羽の矢が立ち、そうなるとジークは頷くしかない訳で。ただジークの名前を借りるということは、ラウ男爵さまの名前も借りるということになる。こんなことで大陸全土にラウ男爵家の名前を轟かせる訳にもいかないし、申し訳なさもあるので念の為に男爵さまの許可を取りに行った。

 

 『かまいませんよ。アルバトロスでは食用のトウモロコシは貴族が贅沢品として嗜むだけ』

 

 食用のとうもろこしが存在していることに安堵しつつ、私が国から賜った男爵領は家畜用のとうもろこし生産で国内では有名だったらしい。食用のとうもろこしはアルバトロスでは珍しい故に贅沢品なのだとか。

 贅沢品ということはお貴族さまが道楽で食べるくらい。ラウ男爵さまも何度か食したことがあり美味しいと知っていた。王国で広まるならば喜ばしいことだし、いずれは平民の皆さまたちも食せるようになるなら喜ばしいことだと笑いながら許可をくれて名前を借りることができた。

 

 で、今日は冒険者ギルドに募集を掛けた途中経過の報告日。

 

 私の部屋で我が家の家宰さまであるギュンターさまに、ソフィーアさまとセレスティアさま、護衛のジークとリンが勢揃いしていた。

 報告会なのでとうもろこしさんの件以外ももちろんある。有象無象――知らない人ばかりなのでこう表現させて頂く――のお貴族さまたちからの、お茶会や夜会の誘いに、王国内での出来事に亜人連合国のドワーフさんたちに頼んだ依頼の進捗状況とか。

 

 「毎度のことだが、諦めないのは凄いな」

 

 「ええ、本当に」

 

 「仕方ありません、それが貴族というものですから」

 

 順にソフィーアさま、セレスティアさま、家宰のギュンターさまである。子爵邸に届いた手紙の数の多さに呆れているし、懲りない方は何度も送っている。私も手紙の多さに苦笑を浮かべつつ、お三方の話に耳を傾ける。

 

 どこそこのお貴族さまが私に嫉妬してるから気を付けろとか。本当にいろいろとある。

 

 「あまりご当主さまの耳に入れたくはないですし、関係ありませんが……」

 

 ギュンターさまが前置きして言葉にしたのは、奴隷の売り買いが秘密裏に行われているようで、見つけたら国へ報告して欲しいとお願いがあったことだろうか。

 アルバトロスは奴隷や人の売買は禁止されている。大陸では合法の国もあるのが、国内に限れば禁止だ。バレると割と重い処罰が下されるのだけれど、お貴族さまは珍しい人種や容姿が優れている者を欲しがるし、物珍しさから亜人を欲しがる人も居る。

 

 目的は多くを語らなくとも良いだろう。労働力を求めて買い付ける人も居るが、下種な理由で買う人も居る。

 

 亜人連合国と国交を開いたので、亜人を買ったもしくは以前から所有しているお貴族さまは気が気じゃないだろう。

 元々が違法な上に、亜人連合国の方たちの目もある。もっとも今回の件は別大陸から肌色の違う人たちの売り買いが問題視されているようなので、妙な言い回しとなるが、アルバトロスと亜人連合国との関係に亀裂が入るような事にはならないはず。

 

 「嫌な話ですな」

 

 「全くです」

 

 「ええ、本当に」

 

 ギュンターさまの言葉にご令嬢お二人が賛同する。アルバトロスでは違法だけれど、どうにも立ち行かなければそうなる可能性だってあった。

 死ぬか生きるかの選択で何かを選ばなきゃならないとなれば、そちらへ落ちる道もあったのだ。確かに嫌な話だと、ギュンターさまの言葉に頷いて話を終わらせると、最後にとうもろこしの番となった。滅多に喋らないジークが珍しく一歩前に出て、数枚の紙を机の上に置いた。

 

 「ナイ、とうもろこしの件だ」

 

 ちゃんと集まっていると良いけれど。募集内容は単純に食用のとうもろこしの種を求めているというもの。味や見た目がどういうものになるのかも添えて欲しいと、募集内容に付け加えておいたのである程度の情報は得られるだろう。

 

 「竜使いの聖女がとうもろこしを求めているだなんて、誰も考え付かないだろうな」

 

 ソフィーアさまが苦笑を浮かべて、机の上に置かれた紙に視線を落とす。美味しい物は正義だし、人間の三大欲求のうち二つを満たせているなら幸せだし。

 

 「本当に。ですが、まあナイらしいかと」

 

 「そうだがな。――ただ忙しすぎやしないか?」

 

 「大丈夫です。以前よりも余裕が出来ていますしね」

 

 教会上層部によるお金の使い込みが発覚して、聖王国へと足を向けた頃より落ち着いている。やりたいことをやって忙しいならば、それは良い忙しさだ。疲れるけれど、良く寝られるし問題ない。

 バターコーンを食べたいという欲求もあるし、ポテトサラダを食べたいという願いもある。マヨネーズは料理長さまが難儀しているようだけれど、もうすぐ形になりそうと教えてくれた。

 

 食に関して異様な執着心を見せているけれど、食事事情があまりよろしくはないので改善したい所もあるしなあ。

 お金を出して料理人さんや研究家の人を雇って、食文化を充実させるのも手かも。自分の知識じゃあ限界があるけれど、娯楽が沢山溢れていた世界に生きていたのでアイディアならば沢山出せる。その道のプロに任せていれば、ある程度のものは出来上がるという寸法で。本当なら自分で全部やるべきだけれど、無理なのでやらない。

 

 「いくつかの種が集まっているそうだ。時期がくればアルバトロスのギルドを通して転移魔術で送ってくれる」

 

 送料はもちろん着払いという名の私が払うことになっている。でもラウ男爵さまが仰ったように、贅沢品ではなく庶民の味にしたいので、頑張って男爵領で量産できる体制を整えないと。あとは届いた種がどんなものなのか精査して、気になるものから畑の妖精さんに預けて育てて頂く予定である。

 

 「そっか。甘いとうもろこしさんがあると良いけれど……」

 

 「ナイはそればかり口にしているな」

 

 「そんなに良いものでしょうか?」

 

 良い物なのです。甘い品種を見つけて育てて、塩茹でにしたヤツをお二人に食して頂こう。お醤油があればやきとうもろこしにするけれど、お醤油はこの世界に存在しない。

 残念極まりないけれど諦めるか、代用品で魚醤かと考えているけれど、しょっぱいし臭いが気になる。考え始めるとキリがないから、まずは塩茹でしたとうもろこしさんとバターコーンが目標だなと、心の中で強く決意する。

 

 私が魔力を注ぎ込んだら大変なことになるので、早く食べたい気持ちを抑えるのだった。

 

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