魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
大陸各国からとうもろこしの種が届いていた。転移魔術陣を使用しての転送だけれど、人間を転送する訳ではないので送料は安い。失敗しても命を失うことがないので、料金に如実に反映されていた。魔力が足りなければ私が出張るつもりだったけれど、余計な心配だった。
そうして手元に届いた種を吟味して甘い品種を選び畑の妖精さんに種を渡すと、嬉しそうに受け取って畑に種を蒔いてくれた。翌日には芽吹いているという不可思議っぷりだけれど、今回ばかりは早く育って欲しい。我慢できずに魔力を畑に注ぎ込もうとしたら、周りの人たちから必死に止められた。
これ以上、屋敷をおかしなことにするなと。雇っている者たちに説明をしなければならない、家宰さまやソフィーアさまの気持ちを考えろと。そこまで言われてしまうと諦める他ない。子供じゃないのだし――成人していないから子供だけれど――我慢すべきところは我慢しなければ。
でも沢山実って頂いて、種を作って男爵領で育てるという野望もあるのだから、少しくらい良いじゃないかと思わなくもない。やらないけれど。
それを見ていたエルとジョセは苦笑いしているし、ルカは無邪気に子爵邸の庭を駆けまわっている。何故かアクロアイトさまも加わり、ルカの後ろを飛んでいた。黒い馬と白銀の幼竜という幻想的な光景に鼻血を出しそうになっていた方が約一名居た。
平常運転の子爵邸。早朝、学院がお休みの日にあと一ヶ月で冬休みが訪れると、部屋の窓から夏の空より高い空を見上げた。
――ん?
竜が二匹、気持ちよさげに空を飛んでいた。長期休暇前半に使節団が構成され亜人連合国へ向かい私たちが戻ってきてからというもの、王都の上空を舞う竜は増えていた。子爵邸や学園のベランダに出て手を振ると、フライパスして辺境伯領方面へ飛んでいく竜の方も時折居る。
結構距離があり豆粒みたいな私だろうに、良く見えるなあと感心したのだけれど。私の肩に乗っているアクロアイトさまに『朝早くから大変だね』と声を掛けると、首を小さく傾げて短く一鳴きした。会話を交わせる日は遠いなあとアクロアイトさまの頭を撫でて、もう一度空を見上げた。
今日の竜の方々は凄く低空を飛んでいる。手を振っていると身体を左右に揺らしてフライパスしてくれたから、もうすぐ王都の空から辺境伯領か亜人連合国方面へと飛び立つだろう。そうして飛び立つまで見送るかと待っていたら、私室に設置してある通信用の魔法具が鳴る。
「はーい」
聞こえる訳ではないけれど、ついつい返事をしてしまうのは何故だろう。ベランダから部屋へと戻って通信機に魔力を通すと、聞き知った声が部屋に響いた。
『あ、おはよう~』
「おはようございます」
間延びした声の持ち主はエルフのお姉さんBだった。
『おはよう。朝早くからごめんなさいね』
「いえ、起きていたので大丈夫です」
お姉さんAの声も届いた。一体何の用だろうと首を傾げていると、本題に入った。
『外に出て空を見上げて貰っても良いかしら』
「もしかして竜の方々ですか?」
『あれ?』
「さっきまでベランダに出ていましたから」
朝早いんだねえとしみじみ言われているけれど、お姉さんズも起きているのだから同じなのだけれど。知っていたのかとお姉さんズがくすくす笑いながら、次の言葉を口にした。
『もう直ぐ竜の子供がそっちに行くから、面倒を見てあげて~』
『夕方になったらまたお迎えが来るわ。お婆さまが転移で上空まで仔竜を送ってくれるから、心配しなくても良いわよ』
何故、学院が休みだとお姉さんズは知っているのだろうか。話の展開についていけないまま、通信が途切れた。竜の方々の事だというのに代表さまが話をしなくて良かったのだろうかと、疑問を感じつつ取りあえずベランダに再度出る。大きな竜の背中から小さい竜が飛び立って子爵邸を目指して飛んできていた。
無事にこちらへ辿り着けるか、少し冷や冷やしながら見守っていると随分と近くなっていた。そして口になにか咥えているようで、白い紙らしきものが目に入る。
「あ」
アクロアイトさまが私の肩を蹴って、空へと飛び立った。ゆっくりとこちらへ飛んできている小竜さまを迎えに行ったようだ。
合流してお互いにくるくると空を回りながら飛んで、満足するとベランダに居る私の下へ降り立った。アクロアイトさまより一回り大きい小竜さまは、小さくお辞儀をして口に咥えている手紙を差し出した。
「読んで良いの?」
そう声を掛けると身体を縦に大きく一度振る小竜さま。アクロアイトさまはその姿を見て、首を傾げる。では遠慮なくと手紙を開封して目を通すと、綺麗な文字で代筆であることを許して欲しいと文頭に書かれており、文字の主は人化した白竜さまが書いたようだった。
アクロアイトさまが私の下で日々を過ごし成長していることが竜族の皆さまには嬉しいことだそうで。ただ同族の竜との交わりも必要だから、辺境伯領で過ごしている小竜を時々派遣しますと。
偶には亜人連合国や辺境伯領の巨木の下で暮らしている、竜の皆さまの所へ顔を出してくれると嬉しいと書かれていた。あとは小竜さまへの注意事項……――というか、お腹が空いたようなら魔力を与えて貰えると嬉しいとはっきりと記されている辺り、ちゃっかりしているというかなんというか。
亜人連合国へ赴くのは大変だけれど、辺境伯領の巨木の下へ向かうことは可能だなと考える。辺境伯さまや王国に転移する許可を取って遊びに行けば良いだけの話だし。
ソフィーアさまは少し渋る可能性があるけれど、セレスティアさまは嬉々として『参りましょう!』と言ってくれるはず。辺境伯さまへの許可も迅速な対応を取ってくれそうだ。
手紙を読んでいた間にアクロアイトさまと小竜さまは、鳴き声を上げながらじゃれ合いを始めていた。
怪我をしない程度で本気じゃないなら好きにしても構わないだろうと、止めずに見守るだけに止める。爪や牙が刺さると痛そうだけれど、堅い表皮に覆われているし大丈夫だろう。
ベランダで戯れるアクロアイトさまと小竜さまを部屋の椅子へ腰掛けて見ていると、ノックの音が二度鳴り響く。
どうぞと声を掛けると、静かに扉の音が開かれた。慣れるとドアノブの音や扉の開き方の音で、誰か大体見当が付いてしまう。この音は私の世話役の侍女さんだ。
「ご当主さま、朝食の用意が出来るそうで……――竜が増えていらっしゃるっ!!」
部屋へと入るなりお辞儀をして私を呼びに来た理由を告げると、視線がベランダへと向けられた。まあ、急に増えていたら驚いてもしかたないし、その言葉を責めるつもりもない。言葉の驚きだけで済ませてくれている、侍女さんの胆力が凄い。
「驚かせて申し訳ありません。――」
先程、亜人連合国から連絡が入ったことや白竜さまが代筆した手紙を読んで頂く。
「取り乱して申し訳ございませんでした」
「いえ、急な出来事だったので驚きは仕方ありません」
深々と頭を下げる侍女さんに顔を上げて下さいと願う。顔を上げた侍女さんはアクロアイトさまと小竜さまを見て『お可愛らしいですね』と目を細めて、ベランダの二匹を見ている。
うん、気持ちは凄く理解出来る。大きくなると竜の方々の容姿は厳ついとかカッコいいが先行しちゃうけれど、小さい時期は『可愛い』という言葉がぴったりの外見をしているから。もちろん竜の中でも種類があるので様々だけれど、アクロアイトさまと小竜さまは可愛い系だった。
「ご当主さま、朝食は如何なさいますか?」
朝は仲間内みんなで食べるのが通常だ。待たせる訳にはいかないし、早くいかないと。ただアクロアイトさまと小竜さまを放っておく訳にはいかないので、ベランダで戯れている二匹に声を掛けた。
「今行きます。――私はご飯食べて来るけれど、どうする? このままここで遊んでる?」
私の言葉にアクロアイトさまと小竜さまは戯れるのを一度止めて、顔を見上げた。可愛いなあとデレデレになりそうになるけれど、顔を引き締めてどうにか我慢する。二匹なら放っておいてもどこかに行ったりはしないが、見張り役は必要だなあと考えていると、また戯れ始めた。
遊んでいる方が良いのだろうと判断して、部屋を開けたままにしておくので、護衛の方たちを数名呼んできて欲しいと侍女さんに頼む。暫くすると、護衛の騎士さまが慌ててこちらへとやって来た。事情を話すと緊張した面持ちで、私の言葉に頷いてくれたので、食事を摂りに行こうと部屋を出ようとする。
――ナイ~。
名前を呼ばれた気がして、後ろを振り返る。
「へぶ!」
置いて行かれることに怒ったのか、アクロアイトさまが私の顔面にダイブした。騎士の方たちが『子爵さま!?』『聖女さま、大丈夫ですか!?』と心配しているけれど、不思議なことに怪我はしないんだよね。
「どうやらご一緒の方が良いようですね」
微笑ましそうにアクロアイトさまと私を見る騎士さまたち。小竜さまもいつの間にか私の足元へとやって来ている。騎士さんたちに呼びつけて申し訳ありませんと平謝りをして、私の肩にはアクロアイトさま、腕の中には小竜さま。
二匹分の重さがちょっとキツいけれど、スライムのロゼさんは図書室にずっと引き籠っているので最近は喧嘩になっていない。
ロゼさんの知識吸収速度が半端ないし、何故か副団長さまと意気投合して魔術を教わっていた。今では中級の攻撃魔術なら、十全に扱えている。私よりも魔力消費が少ない上に、威力も高かった。私、攻撃系の魔術のセンスはあまりないのだろうかと、最近悩んでいる。
「ごめん、お待たせ」
「竜が増えてるっ!!」
クレイグ、先ほどの侍女さんと一緒で見事な突っ込みを有難う。事情説明をもう一度すると、呆れ顔でみんな私を見る。いや私の所為じゃないと言い返すけれど、どう考えてもお前の所為だとクレイグに力強く言い切られるのだった。
◇
子爵邸へ遊びに来た小竜さまを、お婆さまが無事に親元へ送り返してくれてから数日。
――間に合った。
私室の机の上に置かれている、収納ケースを開けて一人でニヤニヤしていた。流石ドワーフさんの作品だ。納品前に確認を取ったのだけれど、見事に仕上がっている。装飾も華美なものではなくいぶし銀だし、贈る相手である公爵さまの年齢や外見も考えるとぴったりである。
『マスター、嬉しい?』
足元に居たロゼさんが声を掛けてくれた。今は図書室ではなく私の部屋で一緒に過ごしている。図書室の本は読破してしまったようで、言葉が確りしていた。本当にロゼさんの成長が早い。そっかとロゼさんが机の脚を這って上がって、ドワーフさんたちの力作を眺めてる。興味があるのかロゼさんはじっと見つめていた。アクロアイトさまは、机の上にあがったロゼさんを不思議そうに見ている。あれ、いつもなら鳴くのだけれど、どうしたのだろうかと不思議に思いつつ、ロゼさんの言葉に返事をしようと口を開く。
「もちろんだよ、ドワーフさんたちは良い物を作ってくれたから」
良い物には対価が必要である。それなりの大枚を払ったつもりだ。だからこそ今目の前にあるソレは、輝きを放ちケースの中で存在感を放っている。
公爵さまと出会って後ろ盾になって頂いてから、年に一度の誕生日には贈り物を届けている。初めての時は、孤児院の庭で咲いている雑草を切り取って、枯れないようにボロ布に水を染み込ませて適当な紙で包んで渡した記憶がある。
しかも誕生日当日ではなく、かなり遅れて。保護してくれた五人全員からと理由を付けて渡したのだけれど、今思えば失礼極まりない。でも当時の精一杯だった。それは公爵さまも理解していて、驚いた顔をしつつしゃがみ込んで視線を合わせてから受け取ってくれたのだ。
それから聖女として働き始めたので、渡す品物のグレードが年々上がっていった。今年は一番良い物を渡せると自負している。ただ来年からどうしようという悩みが増えてしまう。
「ナイ、そろそろ時間ですわ」
開けたままにしている部屋のドアをノックして、セレスティアさまが顔を出した。昼ご飯を終えて時間になるまで自室で時間を潰していたのだけれど、そろそろ支度を開始しなければならないらしい。
今日の夜は公爵さまのお誕生会である。私の後ろ盾だし、贈り物は送っていたけれどお誕生会に参加するのは初めてだ。面倒なことに巻き込んで済まないなと、公爵さまが手紙を寄越してきたけれど、いろいろと事情があるのは理解しているし、世話になっている方のお願いなのだから問題はない。ただ参加するにあたってのいくつかのお願いは飲んで頂いたけれど。
「はい」
セレスティアさまの言葉に短く告げると、入ってもと聞かれたのでどうぞと答えた。いちいち許可を取られるのが面倒なので最近は部屋の扉を開けていることが多い。勉強の時間や見られたくないことをしている時は、当然閉めている。
「ドレスでなくてもよろしいので?」
「ドレスを着ると貴族としての参加となってしまうので」
報告会で夜会や茶会への参加の手紙が多く届いているのだ。ドレス姿で参加すれば、そういう意思があるとみなされてもっと増えるだろう。公爵さまにお願いしたことのひとつが、聖女の格好で参加することを許して欲しいというものだった。
聖女という役職に就いているので正装だけれど、いちゃもんを付けたい人はつけるだろうし。先に主催者に断っておけば問題がなくなる。聖女の衣装で参加するのは、夜会やお茶会になんて興味ないよという主張の一環。
「確かにそうですが。――ドレスに憧れはないので?」
セレスティアさまが質問を投げた。ソフィーアさまは公爵家で準備に追われている筈である。前々から今日はお休みさせて欲しいと申請されていたから。無理をいう気はないし、お爺さまの誕生日なのだから当然だろう。
お祝い事は大事だし、家族の時間も大事。ソフィーアさまの仕事は家宰さまであるギュンターさまが担うけど、有能な方なので苦にしていない。
「憧れはあるかも知れませんが、似合いませんしね。なら仕事着で参加した方が恰好は付きます」
黒髪黒目でチビで地味顔だ。派手なドレスなんて似合いません。似合ったとしてもお子ちゃまと認識されるのがオチだ。身長があとせめて十センチくらい高ければ、まともに着こなすことが出来たかも。今から十センチ身長アップは難しいし。
「貴女の意思を尊重しますが、ドレス姿も見てみたいと考えるのは我儘なのでしょうか……」
セレスティアさまが妙な表情を浮かべる。一体その顔にどういう意味があるのだろうか。
「ご当主さま、そろそろ準備を」
セレスティアさまの顔の意味を考えあぐねていると、侍女さんたちが私の部屋へ入って扉を静かに閉めた。クローゼットに仕舞い込んでいる聖女の服を取り出して、そそくさと私が着ている服を剥き、新たに聖女の服を着せてくれた。
エルフの方々と妖精さんたちが作ってくれた極上反物を仕立てたもので、最初は似合うのかどうか心配だったけれど、最近は慣れたものとなっている。教会にストールを何枚か送ったのだけれど、役に立っているだろうか。身に着けていると魔力の回復速度が上がるので、結構便利。ただお腹の空き具合が酷くなるのはご愛敬。
「わたくしも用意して参りますわ」
「はい。よろしくお願いします」
セレスティアさまは侍女兼護衛として、公爵さまのお誕生会に参加する。もちろんジークとリンも私の護衛として参加。
家宰さまも贈り物持ちとして参加し、終わると社交に勤しむとのこと。クレイグとサフィールは子爵邸でお留守番だ。一緒に来るかと伝えると、彼らはお貴族さまの中に交ざるなんてとんでもないと凄い勢いで断られた。
「素敵ですよ」
着替え終わったことが分かったのか、アクロアイトさまが私の肩へと飛び乗る。侍女さんたちがその光景を微笑ましそうに見ていた。
「ありがとうございます」
着付けが終わると侍女さんからお褒めの言葉を頂くけれど、いつもと変りない。リップサービスも大変だなと苦笑をしつつ部屋を出ると、外の廊下に教会騎士服に身を包んだジークとリンが待っていた。二人がいつ来たのか分からないので、顔を見上げて待たせてごめんと言葉を口にした。
「俺たちも今来たところだ。気にするな」
「うん。――可愛いね、ナイ」
「ありがとう。ジークとリンも似合っててカッコ良いよ」
お互いにお互いを褒める。といってもジークは黙ってリンと私のやり取りを見ているだけだけれど。
「公爵さまへの贈り物は俺が持とう。入って良いか?」
とはいっても子爵邸の馬車止まりまでだろう。公爵邸に着けば、その役目はギュンターさまの役目である。
「うん。ジーク、お願いします――って、なんで二本あるの……」
机の上に置かれたままの公爵さまへの贈り物。ケースの中に鎮座しているモノと、机の上に鎮座しているモノ。部屋へ一緒に入ったジークとリンも驚いている。
『マスター、ロゼが真似した』
片方の贈り物から声が聞こえた。その声の主はロゼさんで。
「え?」
何をしているのという言葉は口にでなかった。どうやらずっと見つめていたロゼさんが、贈り物を真似たらしい。外見は寸分違わぬもので、完璧な模倣といえよう。
『出来るかどうか試したら、出来た』
「そっか。ロゼさん、そんなことまで出来るんだ」
何故試そうと思ったのかは謎だけれど。好奇心が旺盛過ぎやしませんかと言いたくなる。どんどん通常のスライムからかけ離れていくロゼさんに、目を細め。
『うん。ロゼ、出来るみたい』
「人間を真似ちゃ駄目だからね。あといろいろと……危なそうなものも駄目だよ?」
『よく分からないけど、マスターが言うならしない』
贈り物の形から普段のスライムさんの姿へと変わるロゼさん。ふうと息を吐いて安堵しつつ、この子は一体どういう道を目指そうとしているのだろうと謎に苛まれるのだった。