魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.07.24投稿 2/2回目


0168:【前】誕生会。

公爵さまの誕生会に参加する為に開催場のホール控室へとやって来ていた。本来なら爵位の低い順番に入場するので、会場に入っているのが普通だけれど、後ろ盾である公爵さまの計らいで最後の方に入場する手筈となっている。

 

 「閣下、おめでとうございます」

 

 ロマンスグレーの髪を後ろに撫で付けた偉丈夫が、私の様子を見に控室へ顔を出した。公爵さまに付いている護衛の騎士さまたちも、控室にぞろぞろと続く。座っていた席から立ち上がり、挨拶をする私を見た公爵さまがにっと笑って片手を上げる。

 

 「ナイ。もう歳も十分に取ったから今更だが、皆が祝うと言って聞かんのでな」

 

 顎に手を添えて撫でつつ、私に言い放つ公爵さま。約五年前に出会ったのだけれど、公爵さまはその頃と変わらない気がする。私はちょっと身長が伸びて、聖女としての仕事をこなしている。

 ジークとリンも護衛騎士として立派に務めを果たしているし、クレイグとサフィールも自分の道を進んだ。子爵邸に再びみんなが集うことになるなんて全く考えていなかったけれど、彼らは私の弱味の部分だ。妙な輩に絡まれて拉致られたなら、私はキレ散らかす自信があるから。

 

 「本当は会場でお渡しするべきでしょうが、こちらに来られたならこの場でお渡し致しますね」

 

 我が家の家宰であるギュンターさまへ顔を向けると、ケースを手に取って中の蓋を開けてくれた。

 

 「ほう。――もしやこれは、ドワーフの職人が作ったものか?」

 

 箱の中身は杖だ。ここ最近、公爵さまが杖を持っている時があるので、丁度良いかなと思いドワーフの職人さんたちに頼んで作って頂いた。本当はアルバトロス王国を通し亜人連合国を経由してドワーフさんたちの下へ話が入るのが正規ルート。

 私は裏ルートを使った。代表さまに直接お願いして職人さんたちと話をした訳である。怒られることはないだろうけれど、特権を使った。腰を折ってしげしげと眺めている公爵さまは、気に入ってくれただろうか。それともまだそんな歳ではないと怒るだろうか。本当、プレゼントってどんなものを贈れば良いのかが難しい。

 

 「はい」

 

 「手に取っても構わんかね?」

 

 「勿論です。使い心地を確かめて下さい。不具合や不都合があれば直しも利きますから」

 

 この場で教えて貰っておいた方が、職人さんたちに話を通しやすい。ドワーフさんたちから、渡す人が使い辛いならば直すから言ってくれと言葉を賜っている。

 

 「ふむ。良いな。――このまま使っても?」

 

 「はい、気に入って頂けたようでなによりです。――閣下、再度になりますがお誕生日おめでとうございます」

 

 「ありがとう。まさかこんな立派なものをワシに贈ってくれるようになるとはな」

 

 呵々と笑う公爵さまを見つつ、後ろに控えているジークとリンへ顔を向ける。

 

 「ジーク」

 

 「はい。――この度はお誕生日おめでとうございます、閣下。私とジークリンデ、クレイグとサフィールからです」

 

 ジークの言葉に合わせて、リンも一緒に頭を下げる。公爵さまに渡したものは花束だ。

 生花店で花束を作って頂き、私が状態保存の魔術を施している。招待客は沢山居るだろうし、贈り物は沢山貰っているであろう公爵さま。満足して頂けるかどうかは分からないけれど、気持ちの問題でもある。渡さないより渡した方が心象が良いに決まっている。

 

 「お前たちからもか。すまんな、気を使わせて」

 

 ジークから公爵さまへと花束が渡る。公爵さまが花束を見つめているけれど、花の種類とか分かるのだろうか。

 ちなみに私はよく分からない。薔薇とか百合、チューリップに菊辺りなら見分けはなんとなくつくけれど、他になれば花は花じゃんと言い切りそうな勢い。そもそも食べられないしなあ、花って。食用の薔薇とかあるみたいだけれど、高級品だし紅茶に花びらを一片アクセントとして添えてるくらいだし。

 

 「いえ、日頃からお世話になっておりますので」

 

 ゆるゆるとジークが首を振る。公爵さまが私の後ろ盾になってくれなければ、彼らは貧民街で果てていた可能性もある。本当に運が良かった。それに教会で出会った元聖女さまのお婆さんにも感謝しなければ。彼女が居なければ、公爵さまと伝手が出来るなんてあり得ないから。

 

 「お前さんたちは退屈かもしれんが楽しんでいってくれ、と言えん所がなあ……」

 

 喜んでいたのもつかの間、公爵さまが微妙な顔になる。今回のお誕生会に参加したのには理由がある。公爵さまからのお願いで、邪魔な貴族を弱体化させたいそうだ。そのお貴族さまは国への貢献なんてゼロなのに、態度だけは大きいそうな。

 

 「仕方ありません。本来ならば閣下へ贈り物を渡して済ませるだけでしたし」

 

 「まあなあ……。お前さんの名声を使わざるを得ないのは情けない限りだが、相手が相手だからのう」

 

 珍しく歯切れの悪い公爵さまだが、追い落とす覚悟は決まっているだろう。だって今回の相手は公爵家だし。

 要するに王家や公爵さまの身内である。陛下にも話は通してあるし首を縦に振っているそうだから、王国からのGOサインは出てる。王家のスペアである公爵家がこんな事態に陥っているということは、救いようのない状態ということだ。

 

 「とはいえ、国に馬鹿も無能も必要ない。遠慮はいらんからな!」

 

 親指を立てて良い顔を浮かべる公爵さま。いや、身内なんだから少しは躊躇っても良いのでは。本当に愉快というか、国に忠実な方である。

 

 「私にそれを言われても……」

 

 「お前さん、聖王国を潰す気でいただろうが」

 

 目を細めて私を見据える公爵さま。

 

 「そんな物騒なことはしませんよ。後が面倒なことこの上ないです」

 

 嘘を吐け嘘を、と言いたげな顔を浮かべている公爵さま。そんなことはしませんて。私がやったのは、大聖女さまに決断してもらう為に迫っただけだ。

 向こうでの出来事をどう報告されているのだろうかと頭を抱えるが、終わったことなので気にしてはいけない。前を向いて歩くべき。強く生きよう。やるべきことは沢山あるのだし。

 

 「お爺さま、ナイ」

 

 真っ赤なドレスを身に纏ったソフィーアさまが顔を出した。

 

 「来たか。ソフィーア」

 

 「ソフィーアさま。こんばんは」

 

 ドレスが似合っているのだから、羨ましい限りである。

 

 「どうした?」

 

 「いえ、ドレスとても似合っています」

 

 む、と妙な顔を浮かべるソフィーアさまに首を傾げる。そんなに変な事を言ったつもりはないのだけれど、どうしたのだろうか。この場に控えているセレスティアさまが吹きそうになっているけれど、一体なんだろうか。

 

 「ありがとう。まさかナイに褒められるなんて思っていなかった」

 

 あ、そういうことですか。ドレスの流行りなんて分からないけれど、独断と偏見で似合っているかどうかの判断くらいはつくけれど。ソフィーアさまの顔の良さと身長と体のバランスが取れているからこその着こなし方だし。

 

 「巻き込んで済まないな。少々面倒なことになるが、堪えてくれ」

 

 眉を八の字にして困った顔を浮かべるソフィーアさま。第二王子さまの時にはこんな顔をしなかったというのに、一体相手の公爵さまはどんな方なのだろう。

 

 「はい。――美味しい物が食べられれば帳消しになりますから、大丈夫です」

 

 公爵家主催の夜会である。美味しい物が沢山あるだろうし、面倒や嫌なことは食べて上書きすれば良い。ソフィーアさまも今回の件に噛んでいる。というか一番の被害者ではなかろうか。相手の公爵さまには盛大に自爆して欲しい。今回、引き受けたのにはいろいろと思う所があったからだし。

 

 無事に終えることが出来るかなと、控室の扉を見る私だった。

 

 ◇

 

 ――公爵さまのお誕生会が始まった。

 

 会場となっているホールの天井を見上げると、凄く豪華なシャンデリアが。落ちると凄惨な事件現場に早変わりだなあとか、妙な事を考える。手抜き工事をしていませんようにと願いつつ、視線を戻した。今回の夜会には陛下の名代として第一王子殿下や彼の婚約者である他国の王女さま。

 アルバトロス王国の高位貴族の方たちが多く参加しており、場違い感が半端ない。公爵さまが気を使ってくれて、入場は最後の方だったのが救いだろう。勘の良い方ならば、公爵さまの手により私が優遇されているのが分かるはず。

 

 海外の風習にあまり馴染がないけれど、祝われる立場の人が主催するんだよね。

 

 公爵さまの誕生日だというのに、主催者は公爵さま本人。せめて家族が開いてあげてと言いたくなるのは、日本人としての価値観が強い所為だろうか。

 取りあえず、主催者である公爵さまの下へ行き挨拶を交わさないと失礼になる。ちんまいので人波に飲まれないようにと気を付けながら、一段上がっているステージを目指す。そこに公爵さまや次期公爵さまに夫人やソフィーアさま、ハイゼンベルグ公爵家の面々が勢揃いしていた。

 

 真っ先に公爵さまへ挨拶したのは第一王子殿下と婚約者さまである他国の王女さまだ。ホールの中で序列が一番高いので、納得の順番。で、次に公爵さまへ挨拶をしたのが、問題となっている方で。

 バーコーツ公爵さま。ハイゼンベルグ公爵さま曰く、バーコーツ公爵家は名前だけの公爵家で、何ら国へ貢献出来ていないお家であると言い切った。笑顔で挨拶を交わしているけれど、お互いの腹の内を考えると妙な光景である。公爵さまは追い落とす気満々だしなあ。

 

 血筋が近しいだろうから身内の情はないのかと聞いてみると、少し遠いしあんなのが公爵を務めているのは税金の無駄遣い。年齢は次期ハイゼンベルグ公爵さまよりも少し若いくらいだろうか。

 バーコーツ公爵夫人も一緒で随分と派手なドレスを着込み、遠目からでも随分と目立つ指輪を身に着けている。お金回りが良いのか、単純に放蕩しているだけなのか。息子さんと娘さんも一緒に来ているようで、派手な格好をしている。

 

 やらかすこと前提なのだけれど、一体なにをするのだろうか。疑問を浮かべつつ、順番待ちをしていると私の番となり、公爵さまたちの前へと進む。

 

 「あ奴、ワシが持っている杖を強請ってきおった」

 

 挨拶は控室で済ませているので、周囲に聞こえない限りは雑談だった。開口一番、ハイゼンベルグ公爵さまが不愉快な顔をありありと浮かべて、右手に持っている杖を床へ一度下ろした。

 

 「正規ルートで買えば良いのでは?」

 

 欲しければ正規ルートがあるし、公爵家というネームバリューがあれば普通に購入できそうだけれど。

 

 「確かにその手があるが、お前さん最上級の素材を使っただろう」

 

 あれ、公爵さまにバレている。杖の材料は代表さまの鱗と牙である。持ち手の部分は牙で繊細な彫り物をお願いしたし、杖の部分は鱗を細く加工して貰ったけれど、どれだけ体重を掛けようともビクともしない。

 魔石に術式を仕込んで公爵さまの身に危険が及べば自動で発動するように取り付けてある。一度発動すれば、それきりだけれど。ドワーフの職人さんたちと話していると、どんどん盛り上がった結果だった。

 

 「ああいう所は抜け目がないからな。良い素材を使っておると嗅ぎ分けた。目敏さは一級品だな」

 

 ふんと鼻を鳴らす公爵さまに苦笑いをする。どうやらバーコーツ公爵さまは、珍しい物に目がないみたいだ。

 あれ、アクロアイトさまヤバくないかな。ホールの中で一番珍しい気がする。拉致誘拐なんてやった日には亜人連合国の方も黙っていないし、私も黙ってはいないし、アルバトロス王国も黙っていない。状況を理解しているなら手を出さないだろうけれど……出さないけれど……うーん、嫌な予感がしてきた。

 

 「私に隠れてコソコソしていると思えば、お爺さまへ渡す贈り物だったんだな」

 

 小さく笑ってソフィーアさまが公爵さまが持っている杖に視線を向けた。彼女に知られると必然公爵さまにバレるから、なるべく居ない時に話していたけれど。杖の製作進捗状況は彼女の目の前で報告されていたから、気付かない振りをしてくれていたのだろう。隠し事は苦手だから、変に取り繕ってもバレるだけ。

 

 「バレてましたか」

 

 「それはそうだろう。気付かない振りをするのも大変だったんだぞ」

 

 微笑みから苦笑いに変えたソフィーアさま。その辺りは彼女の優しさだろう。分かっててなにも言わないでくれたのは有難い。

 

 「お前は……だが、お爺さまも喜んでいた。ありがとう」

 

 「いえ、閣下には以前からお世話になっておりますし、ご迷惑も散々かけましたから」

 

 平民なのに学院へ通えるように手配してくれたし、教会に掛け合って聖女の仕事も減らしてくれたのだ。

 ジークとリンも一緒に通うように指示してくれたのは、公爵さまの優しさ。お貴族さまたちと縁を持てるようにという配慮もあっただろうけれど、学院へ通わせた一番の理由は『学べ』という単純なものだろうし。

 

 「自覚、あったんだな」

 

 一応は。くすくすと公爵家の皆さまに笑われ、立つ瀬がない私。必死だっただけで、やらかすつもりは微塵もなかったのだけれどね。

 まあ良いかと、頃合いなのでステージから降りる。取りあえず壁の花になろうと、場所を移動。途中、家宰さまとは別れた。家宰さま、武力に関してはからっきしのお方なので、社交で子爵家やご自身の家に有益な情報や人脈がないか探すと気合を入れていた。公爵家主催の夜会に参加するのは難しいらしく、良い機会なのだそう。

 

 「よろしいのですか、ナイ」

 

 壁際へ移動したので、当然私の後ろは壁となって背後の心配は必要なくなる。取りあえず、これで前だけ心配しておけば良い。ジークとリンも警戒を前だけに集中できる。

 私の横に立ったセレスティアさまが、声を掛けてきた。周りへ視線を配っている辺り、いろいろと何か気にしているようだ。

 

 「何がですか?」

 

 質問が抽象的だったので聞き返す私に、鉄扇を広げて目を細めた彼女。

 

 「公爵閣下の追い落としに協力するのでは?」

 

 「何もしなくとも、向こうから来る気がします……」

 

 「……愚問でしたわね。先程の言葉を撤回させて下さいませ」

 

 バーコーツ公爵家はどうにもならないからアウト判定を頂いた気がする。国からも公爵さまからも。年齢が離れているハイゼンベルグ公爵さまに、杖をくれと強請るなんて失礼極まりない行為。

 

 珍しい物に興味があるようだから、アクロアイトさまを肩に乗せている私に、ジークとリンが佩いている特注の剣に目を向けない訳がない。セレスティアさまが持っている鉄扇も素材は竜の鱗だし。極上反物の切れ端で作ったコサージュをアクセントに身に着けているから、分かる人には分かるだろう。

 あれ、それなら私が身に纏っている聖女の衣装もか。実力行使に出るようなら、遠慮なくやっても構わないと言われているが、なるべく穏便に済ませたい。

 

 公爵さまの意図が読めてきたというよりも、私が居れば確実にバーコーツ公爵家の方が興味を持つなと会場を見渡すのだった。

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