魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0173:他国の王族が来る。

アルバトロス王国第一王子殿下の婚約者である、ツェツィーリア・マグデレーベンさまの妹さんの治癒術をアリアさまが施す。

 

 王族の方へ治癒を掛けるなんて緊張するとアリアさまが零していたが、約束がブッキングしたことによって一緒になったお茶会で少しは気が紛れたみたい。ツェツィーリアさまがアリアさまへ気を使っていたし、アリアさまもアリアさまで緊張すると言いつつも、妹さんの残ってしまった傷の状況を聞いていた。

 どのくらいの魔力が必要で、どの魔術が適当なのか考えるつもりなのだろう。緊張して失敗しそうと嘆いた手紙を寄越してくれたというのに、結局のところ肝が据わっているというか。ツェツィーリアさまとアリアさまの話し合いを聞いていると、施術する場所の話へ移っていた。

 王族の方なのだからアルバトロスかマグデレーベンの王城で行う筈だ。おいそれと身分の高い方が外には出られないから、転移魔術陣を使い施術を施しそそくさと帰るつもりだろう。

 

 『妹は今後、国から出ることはありません。ですから、施術はアルバトロスで行いたいのです』

 

 ツェツィーリアさまの妹さんは、王家との繋がりを強くする為にマグデレーベン国内のお貴族さまへ嫁ぐそうだ。幼いながらも王族として自覚を持ち、どんなお相手でも国の為ならば嫁ぎましょうと言い切っていたとか。

 

 しかし、悲劇が訪れた。自身で熱い紅茶を膝の上に落としてしまい火傷を負い、傷が残ってしまった。

 マグデレーベンの医者や聖女、魔術師には治せなかったそうで、アルバトロスに留学兼花嫁修業中のツェツィーリアさまに母国から声が掛かった。アルバトロスの聖女で残った傷を癒せる者が居ないか探せと命じられたそうだ。

 

 言いたくはないけれど、傷モノ令嬢の嫁ぎ先はかなり限られてくる。王族だって同じだろう。傷のない玉肌が令嬢として王族として当たり前なのだから。

 

 『出歩くことは不可能でしょうが、他国へ赴くとなれば刺激も受けましょう。アルバトロス王には、こちらで施術を受ける許可を頂きました』

 

 ツェツィーリアさまは妹さんの事を大事にしているようだ。でなければそこまで考えないだろうし、王族の方がわざわざ足を運ぶなんてことはしない。彼女はアルバトロスへ嫁ぐ身だし何か思う所でもあったのか。

 アルバトロス王国ならば妹さんに見せても問題ないと判断してくれたならなによりだ。妹さんの容体が全く問題ないことと、マグデレーベン側からの依頼ということもあってアルバトロスに赴くのだろうけれど。

 

 『では私はマグデレーベン王国へ赴くことはないのですね?』

 

 『申し訳ありませんが、わたくしたちの我儘を受け入れて下さいませ』

 

 アリアさまがツェツィーリアさまへ問うと、申し訳なさそうに一瞬目を閉じた。逆を言えばアリアさまが外国へ赴く機会を奪っているということだから、ツェツィーリアさまには何か思うことでもあるのだろう。

 

 『そうなると教会ではなくアルバトロス王城内のどこかで行うことに……?』

 

 『はい。アルバトロス王の話では、人の少ない区域で行えば良いだろう、と』

 

 お忍び扱いと聞いていたからそうなるよねえ。恐らく王族の方と護衛の方しか入れない居住区のどこかを解放するはずだ。

 

 『……王城の立ち入りが出来ないような場所に私が行くなんて』

 

 うっとアリアさまが妙な顔になる。お城の魔術陣へ魔力補填をしているし、珍しい場所に入れるくらいの感覚で居た方が気が楽だけれど。宛がわれた部屋に王族の皆さまが揃う訳でもなし、ツェツィーリアさまと妹さんに護衛の女性騎士さまとお付きの侍女さんたちくらいじゃないだろうか。

 ツェツィーリアさまと私が『深く考えずとも』『王城なんてどこも一緒です』等の言葉をアリアさまへ掛けるが、聞こえていないようで。ふと思い浮かんだことを口にする。

 

 『城の立ち入り禁止区域が苦手なら、私の屋敷か亜人連合国の領事館を借りるという手もありますが……』

 

 警備に関してならば問題はクリア出来るし、王城と屋敷までの転移魔術陣が施されているので移動も問題はない。ただ、アクロアイトさまに天馬さまに時折屋敷のどこかしらで光る玉に、叫ぶ野菜や土の妖精さん。

 見事にテーマパーク化している屋敷にマグデレーベン王国の王族の方々を招き入れる訳にはいかない気がする。それなら亜人連合国のお屋敷を借りれば良いかなあ。話が上手くいけば亜人連合国とマグデレーベン王国と何かしら関係が築けるかもしれないし。

 

 『お姉さまのお屋敷っ!』

 

 『聖女さまのお屋敷に!?』

 

 机に視線を向けていたアリアさまの顔が勢いよく私へ向けられたと同時、ツェツィーリアさまも目を見開いて私の顔を見ている。声を上げたタイミングも同じだったけれど、何でこんな反応をしているのだろうか。

 つい首を傾げると、肩の上で大人しくしていたアクロアイトさまに当たってしまった。ごめんねという意味合いで肩から膝の上に移動させていると、いつものように足踏みして寝心地の良いポジションを探し出して丸くなって寝たアクロアイトさま。

 後ろで控えてくれているソフィーアさまとセレスティアさまから、呆れた雰囲気を感じ取れた。私はまた妙な事を言ってしまったのだろうか。単純に王城以外の安全な場所を思い浮かべて口にしただけなのに。

 

 『あ、あの! ツェツィーリアさま! 問題がなければ是非、ナイさまのお屋敷で施術を行いたく存じます!』

 

 面通しした際にアリアさまはツェツィーリアさまの名を呼ぶ許可を頂いているから大丈夫だけれど、そういえば先程私の事を『お姉さま』と彼女は呼んだ。きちんとしている子なのに珍しい。今は既に治っているのだから。

 

 『ええ、アリアさま。こちらとしても何も問題はありません』

 

 あの、私の屋敷で施術を行うならば私に問うのが筋なのでは……いや、でも主導権はツェツィーリアさまにあるからアリアさまの言葉は正しい気もする。アリアさまの言葉ににっこりと笑みを浮かべて返事を返したツェツィーリアさま。

 

 『ナイさま、アリアさまのご予定に合わせます。――妹の傷を治して下さいませ』

 

 目礼するツェツィーリアさまに、妹さんの傷を治すのは私じゃなくてアリアさまなのだけれどなあと微妙な気持ちになりながらお茶会を終えたのだけれど。

 

 ――朝、子爵邸にて。

 

 日程も決まりお屋敷のみんなへ報告した後、私の言葉の軽率さを今更ながらに実感している。朝食を終えて何をしようかと考えている最中、侍女の方数名とメイド長さんが私の部屋へとやって来た。

 

 「ご当主さま、本日はお屋敷のお掃除を徹底して行います!」

 

 「みなさんが毎日丁寧にお掃除されておりますし十分では?」

 

 学院がお休みの日なのでゆっくりしようと考えていたのだけれど、どうやら無理そうな気配がひしひしと。明日の放課後、ツェツィーリアさまと妹さんが治癒を受けに子爵邸へ参られる。いつもお掃除は確りとして頂いているし、問題ないだろうに。

 

 「毎日手抜かりはございません。がしかし、他国の王族の方がお屋敷にお越しになられるのです。塵の一つでもあろうものならミナーヴァ子爵家の沽券に関わります!」

 

 ふんすと鼻を鳴らしそうな勢いのメイド長さん。恰幅の良いお母ちゃんという言葉がぴったりの方で、いつも子爵邸のお掃除を担ってくれている働き者。

 うんうんと侍女の方数名がメイド長さんの言葉に頷いているのだけれど、メイド長さんは平民で侍女の方はお貴族さま出身。仲が良さそうでなによりと彼女らを見つつ、子爵家の沽券なんてあってないようなものだから、そこまで気にしなくとも。

 

 「ですのでご当主さま方は、図書室で本でも読まれているか、外でエルさまとジョセさまとルカさまのお相手を!」

 

 流石にみんなが右往左往している時に、一人だけじっとしているのも居心地が悪い。

 

 「私も手伝います」

 

 「何を仰いますか! この家のご当主さまにそんなことはさせられません!」

 

 当主命令と言って彼女たちを黙らせてお掃除を手伝うことも出来るけれど、横暴だしパワハラになってしまう。メイド長さんの言葉に従って、アクロアイトさまを抱きかかえ外で待機していたジークとリンに事情説明して図書室へと向かうのだった。

 

 

 ◇

 

 ――子爵邸に他国の王族がやってくる。

 

 ミナーヴァ子爵邸のみんなは大変に驚いていた。確かに一介の子爵家に王族が、それも他国の王族が来訪するなんて考えていなかっただろう。

 一応事情を説明するとそういう事かと納得はしてくれたけれど、簡単に子爵邸へ招き入れるのは気を付けるべきとも言われてしまった。今回は第一王子殿下の婚約者さまであるツェツィーリアさまだから良かったものの、バーコーツ公爵のような方だって居るのだから気を付けろと口酸っぱく告げられた。

 

 相手がアリアさまとツェツィーリアさまだったので、子爵邸はどうだろうと意見してみたのだけで深い意図はなかった。

 

 ただ、子爵邸のみんなに迷惑を掛けたのは事実で。普段から綺麗にしているというのに更に屋敷を磨き上げていたし、庭師の小父さまも庭の手入れに時間を掛けていた。侍女さんたちも紅茶の買い出しや、料理長さまも出す茶菓子を考案していた。

 子爵邸で雇っているみんなと私の中での王族の価値観にズレがあったようだし、お偉いさん方に接し過ぎて私の感覚が麻痺していたこともあるのだろうけれど。家宰さまと相談の上でお給金に少し色を付けておくべきだろうと頭の中に刻み込む。

 

 「き、緊張してきました……」

 

 アリアさまが応接室でエルフのお姉さんズから頂いた薬茶を飲みながら緊張した面持ちでそう告げた。

 

 「大丈夫ですよ。いつもと同じように術を施せば良いだけですから」

 

 学園から戻って暫く、迎えに出した馬車に乗ってアリアさまは子爵邸へやって来た。私も彼女と同様に聖女の衣装を纏っている。以前アリアさまに渡したストールを身に纏ってくれているのが、少し嬉しい。

 

 「ナイ、フライハイト嬢、時間だ」

 

 「はい」

 

 「はい!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の部屋へと顔を出して、名前を呼んだ。そろそろ時間となるので、転移魔術陣を施してある屋敷の地下室へと移動する。彼女の声が聞こえたと同時にアクロアイトさまが籠の中から立ち上がり、雨に濡れた犬が水気を取るように体をぷるぷる揺らした後こちらへ飛んで来る。

 

 「相変わらず、お可愛らしい」

 

 「ああ」

 

 私の肩へ飛び乗ったアクロアイトさまを見てセレスティアさまがぼそりと零した言葉に、ソフィーアさまが同意して移動を開始した。部屋の中で護衛を務めてくれている、ジークとリンにアリアさま付の護衛騎士の方も一緒に歩き始める。

 王族の方の出迎えとあって、みんなぴっちりと正装を着こなして背を真っ直ぐに伸ばして歩いていた。

 もちろん私も聖女の衣装を着て、いつもよりも背を張っている……はず。道すがらギュンターさまも合流し、手すきの侍女さんたちも同道してる。厳重に管理されている地下の扉を開いて、中へと足を進めると勝手に魔術具の灯りが点いた。人感センサーが内蔵されているようで、人が通ると勝手に点く仕組みになっている。

 

 「そろそろですね」

 

 懐中時計を手にしたギュンターさまが時間を確認して、懐の中へとしまい込む。ぼーっと魔術陣を見つめていると、描かれた陣に光が灯る。どうやら向こうで魔力を流し始めたようだ。

 光が灯ったことを確認したので、私も魔力を練る。アクロアイトさまがつまみ食いを始めているけれど、もう慣れた。お腹が空いているなら余分に練っておこう。きっちり食べてくれるだろうから、空気中の含有魔素量は上がらないはずだ。

 

 「…………」

 

 魔力を練りつつ向こうの魔力を感じ取りパスを通す。どうやら副団長さまが魔力陣に魔力を流したようだ。ツェツィーリアさまや妹さんの護衛も兼ねているなと頭の中で考えていると、空気が"ズレ"る。

 ツェツィーリアさま一行の姿が魔術陣の上に現れた。迎えられることはよくあったけれど、迎える立場になるのは珍しいかも。

 

 「ミナーヴァ子爵邸へようこそ」

 

 ツェツィーリアさまと妹さんの名前を告げる。ツェツィーリアさまの右隣に立っている妹さんはいたって普通の様子。少し緊張気味だけれど、しっかりと私を見ていた。副団長さまも一緒にこちらへ来たようで、静かに頭を下げ、マグデレーベン側の方々もしずしずと頭を下げる。

 

 「本日はよろしくお願いいたします。イルフリーデ・マグデレーベンと申します」

 

 年の頃は十二、三歳くらいだろうか。姉であるツェツィーリアさまの面影がある気がする。私の肩に乗っているアクロアイトさまに視線を寄せたけれど、直ぐに外していた。

 

 「王女殿下へ治癒を施させて頂きます、アリア・フライハイトです」

 

 「この屋敷の当主でございます、ナイ・ミナーヴァと申します」

 

 挨拶の順番はアリアさまと事前に話し合っていた。王女殿下へ治癒を施すのはアリアさまなのだから、先にすべきだろうと。挨拶もほどほどに応接室へとみんなで進んでいると、侍女さんたちが廊下の端へ寄って頭を下げる。

 応接室へ辿り着きみんなが部屋へと入ると手狭ではあるが、どうにか収まった。事情説明もほどほどに男性陣を追い出し、最低限の人だけが残る。私も退散しようとしたけれどアリアさまに居て欲しいと止められた。

 

 「では失礼します」

 

 女性だけとなったので服を脱いで下着だけになって頂いた。姉であるツェツィーリアさまは顔を顰め、マグデレーベン側の侍女さんや女性騎士の方も悲壮な顔になった。足に火傷の後が残っている。傷は癒えているので私の魔術では治せない。

 

 「これなら……――きっと治り、治してみせます!」

 

 傷を見たアリアさまが確信したように言い切った。ほっとした顔をしたイルフリーデさま。

 

 「よろしくお願いいたします」

 

 王女殿下の声に確りと頷いたアリアさまが歌うように軽やかな詠唱を始める。治っている傷だからか、三節分唱えていた。

 アリアさまが魔力を練って外へ放出させているのが肌で分かる。アクロアイトさまも微かに反応を見せている。唱え終えて魔力光が消えると、イルフリーデさまの足に残っていた火傷の跡は消える。全く分からないようになっているのが凄い。私ではこうはいかないなとアリアさまの顔を見ると、汗を流して疲れている様子だった。

 

 ツェツィーリアさまとイルフリーデさまは安堵の息を零し、マグデレーベンの方たちは残っていた傷が消えたことを喜んでいる。

 

 「イルフリーデ、良かったわ。本当に……」

 

 「お姉さま、ありがとうございます。――アルバトロス王国の聖女さまは優れていらっしゃるのですね」

 

 彼女たちが喜びの余韻に浸っている間に、やることをやってしまおう。

 

 「アリアさま、手を」

 

 魔力の使い過ぎで疲れたのだろう。失ったというなら、取り戻せば良い。私は席から立ち上がって手を差し伸べた。

 

 「え?」

 

 アリアさまが戸惑いつつ私に手を差し伸べてくれたので、魔力を練り活性化させる。以前にソフィーアさまとセレスティアさまへ魔力の受け渡しを行ったから、成功するはず。

 

 「あ……」

 

 「少しは楽になりましたか?」

 

 アリアさまの顔色が少し良くなったので、おそらく成功だ。

 

 「はい! ナイさま、ありがとうございます」

 

 「お気になさらず。――大役、お疲れさまでした」

 

 アリアさまを見て笑みを浮かべると、彼女も大輪の花を咲かせたような笑みを浮かべる。さて、これから少しマグデレーベンの方たちとお話をしなければと、ツェツィーリアさまとイルフリーデさまに向き直るのだった。

 

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