魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0174:窓際にて。

 ――成功して本当に良かったぁ……!

 

 私に突然舞い降りた指名依頼は、マグデレーベン王国の王女さまの傷跡を消して欲しいというものでした。教会の方やアルバトロス王国からの使いの方から詳しい話を聞くと、本当はナイお姉さまへの依頼の筈だったとのこと。

 ナイお姉さまは怪我を癒すことが出来ても残った傷までは治せないと、アルバトロス王国第一王子殿下の婚約者さまでいらっしゃるツェツィーリア・マグデレーベンさまにはっきりと仰ったそうです。その流れで私を王女さまへ紹介してくださったとのこと。

 

 ナイお姉さまはちゃんと私を見ていてくださったのだと嬉しかったと同時、王族の方へ術を施すという重圧で心が潰れてしまいそうでした。

 教会や国の皆さまは私が駄目ならば別の者を選定し、傷を負った王女殿下へ再度術を施せば良いだけと仰ってくださいましたが、そう何度も失敗できるわけがありません。他国の王族の方なのですから、アルバトロス王国の聖女としての面子もあります。

 

 ナイお姉さまからの推薦だから大丈夫。

 

 よく見ていて下さったと感心します。大規模討伐遠征では怪我人が多く出て、聖女である私たちは必死で治癒を施していましたし、治癒院でも同様に忙しいのですから。ナイお姉さまが疲れている所をほとんど見たことはありません。討伐遠征の際に浄化儀式を執り行った時くらいでしょうか。

 治癒院では来られた方々の治癒を手際よく施し、一言二言患者さん方と喋ったあとに次の方へと移っていました。そんな中で、私が怪我を治し傷も治していたことを知っていてくださったことは本当に嬉しい限りです。

 

 聖女として見いだされ魔術を習い始めた頃、先生役のシスターさんに告げられました。

 

 『綺麗に傷跡まで治せる方は珍しいですね。――きっとそれは貴女の武器になりましょう』

 

 その時の私はシスターさんの言っている意味がよく分かりませんでした。治癒魔術を施せば、怪我も傷も病気も綺麗に治るものだと思い込んでいましたから。それは無知な私の勘違いで、個人の適性や資質によるとシスターさんから教えて頂いたのです。

 

 しかし今回、王族の方の傷を治すと依頼を受けたあと貴族のみなさまの間で私の噂が流れています。学院でもクラスや廊下での視線が刺さって大変。

 私の実家であるフライハイト男爵領で魔石の鉱脈が見つかったことは事実として、みなさんが知っている情報でした。王国や有力貴族の方々が管理することになったと知れ渡ると、直ぐに噂は沈静化していきました。

 おそらく自分たちの家が関わることは出来ないと悟ったからでしょう。私も曲がりなりにも貴族出身者ですから、お零れに預かりたいとかお金になる話だから、どうにか一枚噛みたいという気持ちは理解出来ました。フライハイト男爵である父には、貧乏から脱出する良い機会だと説得したこともあります。

 

 父は最初乗り気ではありませんでしたが、継嗣である兄と一緒に薬草畑に力を入れるとのことでした。魔石の鉱脈は、ただの男爵家が取り扱えるものではないと権利を王国へ譲渡しました。

 ただ土地の所有者として、利益の一部は頂くことが出来るそうです。これで領のみんなが貧乏から脱出する準備が整いました。あとは私もフライハイト男爵領の為に、聖女として働いてお金を稼がないといけません。

 聖女の癖にお金に汚いと言われる可能性もありますが、ちゃんと教会や国が定めた掟を守った上での行動ならば問題はないのですから。

 

 そして今回私に突然舞い降りた指名依頼。

 

 国内の貴族の方ならばこんなに緊張していないかもしれません。初めての指名依頼が国外の、しかも王族の方だなんて。ナイお姉さまのお陰でアルバトロスの聖女は質が高いと、国外では専らの噂だそうで。

 嬉しいですが、緊張に押しつぶされそうになってナイお姉さまに手紙を出して縋ってしまいました。

 

 すげなく断られることも覚悟をしていましたが、お姉さまは学院のサロンでお話をしようと仰ってくださり。それと同時にツェツィーリアさまからも、事前にお会いして話がしたいと手紙が舞い込んできました。

 

 ――同日の同時刻に。

 

 どうしようと迷っていると当日を迎えてしまい、学院のサロンで私が一生懸命に頭を下げるとお二人は笑って許してくださったのです。お忙しい方々だというのに私を気遣ってくれているのは凄く伝わりました。そしてお二人ともお優しい方で、私は決意しました。

 

 ツェツィーリアさまの妹王女であるイルフリーデさまの傷を必ず治してみせると。

 

 心に決めると不安な気持ちはどこかへ飛んで行きました。ツェツィーリアさまに妹王女さまの傷の状態を聞いたり、容体を確かめたり。聞けることは全て聞き出して、どれが適した治癒魔術なのか算段していきます。

 

 一つ気になることが、王城で治癒を行うことになるのが気がかりでした。王族の方が住まうお城に一介の男爵家の者が赴いても良い物なのか。謁見の間まで足を運んだことはありますが、アレはお姉さま会いたさで浮かれて緊張なんてどこかへ消えていましたから。

 他の貴族の方に何か言われるのではないか。考え始めるとキリがありません。どうしようと私が零すとナイお姉さまが、提案なさって下さいました。

 

 『城の立ち入り禁止区域が苦手なら、私の屋敷か亜人連合国の領事館を借りるという手もありますが……』

 

 そう仰ったのです。ナイお姉さまが貴族としてお屋敷に移り住んでから、最近ある噂が流れています。天馬さまが子爵邸に住み着いたと聞いたり、光る玉が時々飛んでいるとか、お屋敷で働く方たちの賄いが凄く美味しいとか。

 

 そうした噂も聞きますが、私はナイお姉さまが大好きです。お優しくて、いつも聖女たらんお姿に憧れています。お姉さまに少しでも近づきたいと願うのは、何かおかしいことでしょうか。いえ、間違えなんてありません。正しい気持ちです。

 

 ですから私は直ぐにお姉さまの言葉に飛びつきました。ツェツィーリアさまも同様でした。王女さまの後押しがあれば、お姉さまのお屋敷がどんな所か伺える! 最近学院で会うことはできますが、話しかけることは中々難しいのですから、チャンスは逃しません。

 

 ツェツィーリアさまの後押しもあり、お姉さまのお屋敷で術を施すことになりました!

 

 気合がさらに滾ります。話が纏まったあと三人でお喋りをしましたが、本当に優しく穏やかなお二人で。学院から教会宿舎へ戻っても治癒関連の書物を漁って調べ尽くしました。――そして当日。

 

 迎えの馬車が宿舎の前へ停まって、私の護衛騎士さんのエスコートにより馬車の中へと乗り込みます。

 ふと目に入ったお馬さんが凄く立派でした。領地で田畑を耕すお馬さんとは全然違います。子爵家の家紋が入った立派な馬車は、当主であるお姉さまも使ったことがあるのでしょう。なんとなくお姉さまの魔力の残りを感じ取ることが出来ました。

 

 馬車に乗ること暫く、ようやくミナーヴァ子爵邸前まで辿り着きます。正門を潜ると、整備された立派な庭園が目を引きます。

 馬車止まりに止まって馬車から降りると、ナイお姉さま方がお迎えに来てくださっていました。恐縮しながら歓待を受けて応接室へ案内されます。出されたお茶は珍しいもののようで、不思議な味がします。

 

 『エルフの方が分けてくださったお茶です。気分が落ち着くそうですよ』

 

 緊張している私を気遣ってくれたのでしょう。私を見ながらナイお姉さまは微笑んで下さいました。時間が訪れ王女さま方を迎えに行きます。転移魔術陣に姿を現したのはツェツィーリアさまにイルフリーデさま。そしてマグデレーベン王国の方々にアルバトロスの護衛の方々。

 

 ここから先は緊張であまり覚えていませんが、イルフリーデさまの足に残っていた傷が綺麗に治っていました。

 ちゃんと私は治癒をほどこせたようですし、ツェツィーリアさまもイルフリーデさまもマグデレーベンの方々の皆さまが喜びに満ち溢れています。魔力の使い過ぎで意識が遠のいていく中、聖女になって良かったと初めて思えたかもしれません。

 

 『アリアさま、手を』

 

 ナイお姉さまの言葉が聞こえます。無意識に返事をして手を伸ばすと、お姉さまの魔力が私の体の中へと流れ込んでくるのが分かりました。

 とても暖かく心地が良い。おそらくですがお姉さまの魔力は親和性が高いか、私の魔力との相性が良かったのかのどちらか。でなければ、こうして魔力が戻ることなんてありませんから。

 

 ――朦朧としていた意識が引き上げられました。

 

 ナイお姉さまの顔をはっきりと捉えると大役お疲れさまでしたと声を掛けて頂き、安堵の笑みを浮かべて、陽が落ちかけている茜色の空を見上げます。

 

 「黒い馬?」

 

 小さな黒いお馬さんが茜色の空を背景に空を飛んでいて、つい声が零れてしまいました。黒いお馬さんの後を天馬さまが二頭後を追いかけています。

 

 「え?」

 

 ナイお姉さまが窓の外を見上げ、ずっと静かに彼女の肩に乗っていた幼竜さまが一つ鳴いて。

 

 「ルカが飛んだ……!」

 

 目を見開いて窓へと近づいて行くナイお姉さま。ヴァイセンベルク辺境伯嬢さまが、バシンと鉄扇を開いて口元を隠し目を細めています。一体何事だろうと驚きますが、黒いお馬さんは天馬なのでしょうか。謎が深まるばかりでした。

 

 ◇

 

 アリアさまが施した術は完璧だった。ツェツィーリアさまの妹王女であるイルフリーデさまの足に残っていた火傷の跡は綺麗に消えていたのだから。魔力不足で脱力していたアリアさまへ魔力を渡すと、意識は確りしてきたようで安心した所。

 

 「黒い馬?」

 

 「え?」

 

 アリアさまが窓の外を見てぼそりと零した言葉に窓の外を見る。陽が沈むあの独特な赤色の空を、黒天馬さまであるルカが空を翔けていた。

 

 「ルカが飛んだ……!」

 

 少し前、生まれたばかりで足元が覚束ない様子でジョセのおっぱいを飲んでいたあのルカが。子爵邸の庭を駆けまわって、ぼてっと転んでいたあのルカが。エルやジョセのようにまだ喋れないあのルカが。

 

 「……良かった」

 

 本当に。天馬さまがどのくらいの時期に飛べるようになるのかは知らないけれど、四枚羽のルカだしちゃんと飛べるのか心配していたから。

 

 「あの、ナイさま?」

 

 アリアさまの声に意識が戻された。そうだった。今はツェツィーリアさまの妹さんの治癒を施した所だから、後にしないと。流石に部屋を出て庭に行くわけにはいかないだろう。

 

 「黒髪の聖女さま、あの……不躾な質問で申し訳ありませんが、空を飛んでいるのは天馬でしょうか?」

 

 「はい。邸に居付いた天馬さまですね」

 

 ツェツィーリアさまの問いに答える。アルバトロス王国には報告しているので彼女も知っていそうだけれど、知らなかったのか。

 まだ他国の王女さまだからだろうか。おいおい知ることとなるだろうし、隠している訳でもないから問題ないけれど。マグデレーベン側の皆さまも驚いた顔を浮かべているけれど、他国ということもあって口には出さない。

 

 「王都で天馬を見ることができるなんて……」

 

 感慨深そうにツェツィーリアさま窓の外を見ていると、彼女の妹さんであるイルフリーデさまが横に並ぶ。

 

 「あ、あの!」

 

 「はい?」

 

 イルフリーデさまが胸に手を当てて私に声を掛けた。服は既に身に纏っており、ドレス姿がとても似合っている。うーん、年下だというのに身長が抜かれているのはこれ如何に。やはり私はチビだよなと、思い知らされた。

 

 「こちらの窓から見ても良いでしょうか?」

 

 「もちろん、構いませんよ」

 

 窓から見るだけなら問題は何もない。興味深そうに、そして嬉しそうにイルフリーデさまが窓へと近づいて、空を見上げる。

 

 「ナイさま、私も良いでしょうか?」

 

 アリアさまも男爵領以来なのだろう。彼女は基本、王都で過ごしているので男爵領に顔を出した他の天馬さまのことなんて知らないだろうし。

 

 「勿論です。――というかこちらに来てもらうことも可能ですが」

 

 エルとジョセなら王族の方の相手も務められるだろう。ただジョセはルカの面倒を見なければならないので、こちらへ呼ぶのはエルだけだなと判断する。窓を開けて顔を覗かせると、目敏くエルとジョセが私を見つけた。離れているのによく分かるなあと笑うと、エルがこちらへ足を向けて空を蹴る。

 

 『聖女さま、なにかご用事でも?』

 

 「用事って訳じゃないけれど、エルとジョセにルカに興味があるって」

 

 『おや、それはそれは。――お嬢さま方、天馬のギャブリエルと申します。以後お見知りおきを。そちらの方は以前にお会いいたしましたね。お久しぶりです』

 

 エルがみんなの方を見て、自己紹介をして軽く首を下げた。本当に紳士である。ジョセも物腰は柔らかいし、ルカも成長したら二頭みたいに育つのだろうか。強い個体だからモテモテになるみたいだけれど、イキりハーレム主みたいにはならないで欲しい。天馬は番を決めるのであり得ないが、ルカは特殊個体である。どうなるか分からない。

 

 「ご丁寧にありがとうございます。マグデレーベン王国第一王女、ツェツィーリア・マグデレーベンと申します」

 

 「同じく第二王女、イルフリーデ・マグデレーベンと申します。天馬さまに出会えて光栄です」

 

 お二人とも綺麗なカーテシーをしてエルに頭を下げた。良いのかな、一国の王女さまたちが天馬さまに頭を下げて。でもまあ、問題があるなら人前で頭を下げたりしないだろう。アリアさまも再度、エルへ頭を下げていた。

 

 天馬は希少種となるので、こうして出会うことは一生に一度あるかないか。というよりほぼ会う可能性はないらしい。

 竜とも出会うことはほぼないらしいのだけれど、出会いまくっているよね私たち。数奇な運命というよりも、魔力量の多さが原因ではないだろうか。アルバトロス王国は他国よりも魔素量が多いと聞くし、そういう方たちを寄せ付けやすいのだろう。

 

 アクロアイトさまが私の肩から飛び去って、エルの頭の上に乗って翼を広げて一鳴きした。どうやら、アクロアイトさまも挨拶をしたかったようだ。

 

 『おや。幼竜さまも"よろしく"と言っておりますよ』

 

 アクロアイトさまは案外八方美人なのだろうか。それとも美人には弱いのか。エルの通訳が切っ掛けで、三人がアクロアイトさまに自己紹介を始めた。お三方が挨拶を終えると、また一鳴きしてエルの頭から私の肩へと戻って、顔を顔へ擦り付ける。どうやら満足したらしいので、私もアクロアイトさまの頭を撫でておく。

 

 「聖女さまは生き物に好かれているのですね」

 

 ツェツィーリアが微笑みを浮かべてそう言った。どうなのだろうか。好きか嫌いかで問われると好きだし、嫌われるよりも好かれている方がそりゃいいけれど。

 

 「偶然です」

 

 こうして竜や天馬さまが傍に居るのは単純に運が良かっただけだ。浄化儀式だって、私が居なくとも聖女さまたちを集めれば出来たことだろうし。

 

 「――うわっ!」

 

 アクロアイトさまがかなり大きい鳴き声を私の耳元で上げた。珍しいこともあるものだと驚いていると、ソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリンから妙な視線を頂く。一体何だろうと首を傾げるけれど思い当たることが全くない。

 

 『聖女さまにしか出来ないと仰っていますが、一体なんのことでしょうか……?』

 

 エルが首を傾げている。そういえば浄化儀式を施して産まれた卵から孵ったと知らないんだっけか。アクロアイトさまの魔力量で上位の竜種だとは理解しているようだけれど、ご意見番さまの生まれ変わりとは伝えていなかった気がする。

 詳しい話をすると私が全裸になったことや、あんなことやこんなことを話さなければならない為、黙っておいたほうが賢明だ。他国の王女さまに全裸聖女とか思われたくないし。あれ、でも他国でも儀式魔術を執り行う際は全裸の筈だから恥ずかしがらなくても良いのかな。なんだか訳が分からなくなってきたので、考えることを止めてしまおう。深く考えない方が良い気がしてきた。

 

 「なんで怒っているんだろう」

 

 苦笑いを浮かべてアクロアイトさまの頭を撫でるとフス―と息を吐いて、肩を足踏みしながら翼をパタパタさせている。相当にご立腹かなと肩から腕の中へ移動して頂くと、脇の下にぼすっと顔を突っ込んだ。それを見たツェツィーリアとイルフリーデさまとアリアさまは笑っている。

 

 『どうやら拗ねられたようですね』

 

 「……機嫌直して欲しいけれど」

 

 アクロアイトさまとエルと私のやり取りを静かに見ていたお三方がくすくすと笑い始めた。とりあえずお茶にしましょうとその場を濁し、今日のお礼やこれからのことを話し合う私たちだった。

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