魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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 エルがこちらへ顔を出した後、ジョセとルカもやって来た。天馬さまも珍しいけれど、黒い天馬となると更に珍しい。まだ近くに寄って来てはいないが、アリアさまとツェツィーリアさまにイルフリーデさまのテンションが滅茶苦茶上がって、女性三人で盛り上がっていた。『可愛いですね!』『ええ、とても』『まだ小さいですね』とかいろいろ。そうしてはっきりと姿を捉えると、さらに驚いた顔をしている。

そりゃ翼が四枚生えているとなれば、驚くよねとしみじみアリアさまたちを私は見つめていた。

 

 「翼が……」

 

 「……何故」

 

 「六枚!?」

 

 え、あれ? ろ、く、ま、い……だってぇ……。顔を窓の外に思いっきり向けると、ジョセとルカが随分と近くへ寄って来ていた。何故、翼が増えているのだろうか。数日前までは四枚であったはず。

 どうしてこんな事態になっているのか。そして他国の王族の方がいらっしゃっている時に、こんなことが発覚するのか。ツェツィーリアから速攻アルバトロス王国へ報告される筈だ。妹さんの傷跡が無事に消えたことだし、ことのついでに記されるのだろう。

 黒天馬さまが産まれ、翼が四枚だということは知られているのだ。今更翼が二枚増えた所で誰も驚きやしない、多分。いろんなことが起こり過ぎて驚くことが沢山あるけれど、驚き慣れてきた気がする。

 

 『ええ、聖女さまのお蔭でしょう。――仔に名を付けて頂いたことで、天馬としての格が上がったようで』

 

 エルが驚いている三人衆に答えを教えてくれたけれど、名付けで格が上がるってどうなのだろう。自分の口がひくひくしているのを感じつつ、壁際に控えている例のお二人に視線を向ける。

 口の端を歪な形にして、必死に普通の顔を取り繕っているソフィーアさまとニッコニコ顔のセレスティアさま。ジークは『またか』という感じで、リンは『可愛いから別に良し』みたいな感じ。子爵邸の護衛任務に就いている方々も『ああ、またか』という雰囲気をひしひしと感じる。みんな不可思議現象に慣れてしまったのだろうか。せめて驚くくらいはして欲しかった。

 

 「ナイさま、凄いです!」

 

 凄くない。単純に私の魔力に影響されているだけで、私自身は何も凄くないのだから。アリアさまはエルとジョセに天馬の生態でも聞いて男爵領へ情報を渡した方が良いのではないだろうか。

 でもツェツィーリアやイルフリーデさまがいらっしゃるし、止めておいた方が無難かもしれない。男爵領で天馬さまが居付く可能性があると広く知られるのは不味そう。

 

 「ありがとうございます。――いつでもいらっしゃって下されば、彼らに会えますよ」

 

 褒められているのかどうか分からないアリアさまの言葉に適当に返しつつ、また屋敷に来て天馬について聞いて貰えば良いだろう。ツェツィーリアさまやイルフリーデさまにも顔を向け頷いておいた。

 イルフリーデさまは国へ戻ってしまうが、ツェツィーリアさまはアルバトロスに居るのだから彼らを見たいのならばいつでも来れば良いのだし。アポさえ取ってくれれば、子爵邸に出入りすることは可能なのだから。

 

 すごく嬉しそうな顔を浮かべるアリアさまと、困ったような何とも言えないような顔をしたツェツィーリアさまとイルフリーデさま。お二人はやるべきことが沢山あるだろうから立場上難しいのだろう。ままならないなあと片眉を上げるが、どうにもならないのだから本当に仕方ないことだ。

 

 「アリアさま、ナイさま、本日は本当にありがとうございました」

 

 「これで私も心置きなく国の為に尽くすことができます」

 

 王女さま二人が頭を下げた。――生まれ落ちた場所で人生が決まる、かあ。王族という使命を背負った方々を近くで見ることが幸運にもできたけれど、お城から出ることも中々叶わず暮らしているし、仕事も大変なものが多い。

 誰かの命を簡単に奪うことが出来れば、誰かの命を守ることも容易い。発言一つで国の未来が決まることだってあるだろう。そう考えれば私はまだ自由であるのかもしれない。

 

 「ちゃんと綺麗に治って本当に良かったです!」

 

 王族の治療という大役をやり遂げたアリアさまが、明るい顔を浮かべながら頭を下げたので、私も一緒に頭を下げる。そうしてお二人やマグデレーベン王国のみなさまと、アルバトロス側の護衛の方々や副団長さまが地下の転移魔術陣を施している部屋へと向かい王城へと戻って行った。

 

 ふうと息を吐く。なにも起こらずに治癒依頼を終えることが出来て良かった。アリアさまも私の横で安堵の息を吐いている。

 

 「大役お疲れさまでした。――アリアさまも聖女として皆さまに認められるようになりますね」

 

 王族の方の傷を癒したのだ。怪我を負って傷が残っているご令嬢が居れば、指名依頼が増える可能性だってある。フライハイト男爵領の現状を変えたいようだし、お金はいくらあっても困らない。有名になると大変な事も多くなるけれど、お金の実入りは確実に良くなるから。

 

 「そう、でしょうか……」

 

 私の言葉に対して、珍しく影を落とすアリアさま。いつも笑顔を絶やさない彼女が珍しい。

 

 「何かありましたか?」

 

 「えっと……――」

 

 少し言い辛そうに最近起こった出来事を話してくれるアリアさま。

 

 私や侯爵家の聖女さまであるロザリンデさまと縁を持った彼女に目を向ける人が多くなり、実家に縁談の話が舞い込んできたり、学院で男子生徒から声を掛けられることが多くなったそうだ。

 まだ実力行使には出られていないけれど、お貴族さまであればいつか強硬手段に出る場合もあるだろうと。

 吹けば飛ぶような男爵家では他家からの話を断り辛いし、アリアさまも学院で男子生徒に絡まれるのは困るとのこと。名前が売れるってこういう事になるんだと、今更ながら思い知る。

 

 「アリアさまはどうしたいのですか?」

 

 彼女に上昇志向があるのならば、良い婚約相手を見つけて嫁入りすることは悪い話じゃないだろうけれど。

 失礼な話ではあるがアリアさまはお貴族さま的な婚姻を望んでないようにみえるし、強硬的な見合い話は困るのだろう。でなければ私にこんな態度はとらないだろから。

 

 「聖女として働いてお給金を頂き、実家を盛り立てたいです! 貴族の女性としての発言ではないのかもしれませんが、あまり婚姻に興味はないですし……」

 

 しかし何か手を打たないと彼女の下にはその手の話が舞い込むばかりではないだろうか。私は国や公爵さまに辺境伯さまが盾になってくれているけれど。教会と王国で聖女の扱いをキチンと話し合うべきだろうか。名が売れて厄介ごとが起きると、聖女の仕事が嫌になる人だって出て来るだろうし。

 

 「では教会と国へ相談しましょう。名前が売れ始めた聖女さまに無理矢理手を出す不届き者がいると知れば、対策を練って頂けるはずです」

 

 「本当ですか!?」

 

 アリアさまも王国の防御魔術に魔力を補填している方の一人なのだから、問題提起してくれるはずである。 

 私も報告書で話を通せば、どうにかしてくれるはずだし。緊張しつつも王族相手に施術を頑張った彼女に、ささやかなお礼のようなものだなと地下室から一階の廊下へと出るのだった。

 

 ◇

 

 アリアさまからの相談は、即教会や国へ報告し、問題提起された。

 

 名が売れたことに対する周囲への牽制や配慮、爵位の低い聖女さまにたいしては後ろ盾を付けようということに。

 教会の方も何かしら対策を考えるとのことだけれど、いろいろとあったこともあり難儀しているようで。聖女の扱いを国と教会両方でやるか、国の障壁維持に関わる聖女を国預かりにすべきかもしれないとか考えているようだ。

 

 学院に通いつつ教会の枢機卿さまの候補選定や男爵領の視察に子爵邸の家庭菜園の様子を見てみたり。辺境伯領の小竜さまが子爵邸にやって来てアクロアイトさまと戯れたり、ロゼさんがついに上級威力の魔術を放ったり。

 教会の礼拝へ参加したりしていると、もうすぐ冬休みとなる。期末試験も近いので勉強時間を多く取りつつ、日常生活を送っている。一学期や長期休暇に二学期中頃までに比べると随分と穏やかな時間が流れている。

 

 家庭菜園の畑の妖精さんたちによる、収穫時期をガン無視した野菜の実りは毎度豊作である。大陸各国から集めたとうもろこしさんを乾燥させたあと、種として彼らへ渡すと嬉々として土へ播き芽を出していた。

 本当に自然条件や育成条件とかを無視しているけれど、魔力や妖精さんたちの魔法のお陰らしい。そして実がなると大量に収穫されて子爵邸の食事に出されたり、働いている人たちにおすそ分けしたり、公爵さまや辺境伯さまへのお土産として渡している。

 

 甘いとうもろこしさんも無事にみつけたけれど、実が小さいものだった。もっとサイズが大きくならないだろうかと、色んな種を播いて人工受粉させて交雑種を作っている最中である。

 上手くいくと良いと願っていると、何故か妖精さんたちに指示されたので、スイートコーンが誕生する日は近いかもしれない。ポップコーンの原料である爆裂種もあるので、少し前に試して鍋へと放り込んでみた。

 パンパンと音が鳴って調理場の人たちが驚いていたけれど、塩で味付けした単純なものだけれど美味しかったなあ。あとはアレンジでカラメルとかを絡めたり、チョコレートをコーティングして楽しみたい所。

 

 ギド殿下から頂いたお芋さんも無事に何度か収穫し、殿下へ差し入れをすると凄く喜ばれていた。食べた感想を頂いたり、いくらかのお芋さんを母国に送って育ててみるとか。

 

 リーム王国でひっそりと暮らしている聖樹さまも順調に育ち、聖樹の妖精さんも元気とのことで。農業について困ったことがあれば王家の聖樹脱却派の信頼のおける方を派遣して、相談を受けているらしい。

 

 アルバトロスもアルバトロスでバーコーツ公爵が仕出かした奴隷問題が尾を引いているようだ。他にも奴隷を買っている人が居ないか調査と保護した人たちの扱いに難儀しているようで。このまま引き取り手が居ないなら、名乗り出るべきかとも考えている。

 アルバトロスの常識や生活の基礎を学び、余裕があれば知識を身に着け、農業を行いながら生活をする。贅沢は出来ないかもしれないが、自由である。ただ、自由も難しいものだけれど。

 

 「リーム王国も大変そうだけれど、頑張っているみたいだね」

 

 就寝前、子爵邸の部屋。私とアクロアイトさまだけ。

 

 ベッドの上に寝転がって独り言を呟くと一緒にベッドの上に居たアクロアイトさまが首を傾げて言葉を理解しようとしているようだった。ロゼさんは子爵邸に居る時は図書室に引き籠っている。魔術系の本は読破した為に今度は人体に関することを記している本を読んでいるらしい。

 読む本がそろそろ尽きるはずなのだけれど、何故かどこかしらから湧いて出てくる。おそらくそれは妖精さんの仕業。

 

 時折『ハインツが貸してくれた』とも言っているので、副団長さまとの仲も相変わらず。借りパクは駄目だよと私が告げると『読み終わったらハインツにちゃんと返す』と言っていたので、借りっぱなしの心配はしなくても大丈夫だろう。

 妖精さんがかっぱらってきた本は私がエルフのお姉さんズを通じて亜人連合国のエルフの街へ返却して頂いている。時折、ドワーフさんの技術系の本も寄越してくるので、ドワーフの人たちにも謝りに行ったところだ。妖精がやったことなら仕方ないと、笑って許してくれたから良かったけれど。

 

 寝転がったまま右腕を投げ出すと、アクロアイトさまが投げ出した腕に顎を乗せて寝転がった。

 

 「いつ、喋れるようになるのかな?」

 

 私が生きている間に喋ってくれると良いけれど。ふふふと笑って右腕を伸ばしたまま側臥位になってアクロアイトさまを見る。きょとんとした様子のアクロアイトさまに左腕を伸ばして頭を撫でた。手を受けいれて安心しきった様子で、撫でられるままに撫でられているアクロアイトさま。

 

 「急いでも仕方ないよね。生きる時間が全く違うから」

 

 せめて私が死ぬより前に喋って欲しいと願う。この世から居なくなった後に喋りはじめたなんて知れば悲しいし、その時は化けて出て来るかも知れない。

 

 「ルカが喋るのが先かも……どっちが先になるだろうね?」

 

 このままだとルカの方が先に喋りそうだ。ルカはエルとジョセの子供だし、凄く丁寧な言葉使いで喋っていそう。アクロアイトさまが喋るようになれば、どんな言葉を使うのだろうか。ご意見番さまの生まれ変わりだし、お爺ちゃんみたいな年季を感じる喋り方。

 ああでも、子供らしくたどたどしいのだろうか。男の子みたいな喋り方だろうか、それとも女の子。方言を使って喋るのもアリかもなあ。

 ロゼさんに対抗心を燃やしているようだし、嫉妬や妬みだって立派な感情である。亜人連合国ではなくアルバトロス王国で生活しているから、少し心配な面もあるけれど。辺境伯領で子育てしている竜の方が時折やってくるようになったし、竜についての文化も確りと学んでいると思いたい。

 

 「ちょっと眠い」

 

 アクロアイトさまと私だけの時はこうしてなるべく喋るようにしている。もしかしたら言葉を早く覚えてくれるかもしれないし、喋ってくれるかもしれないと期待を込めて。ロゼさんに対抗心を燃やしているので、アクロアイトさまには悪いがその様子は微笑ましい。

 

 「…………」

 

 左手で頭や身体、翼の付け根を撫でていると少し体を起こし、器用に体を動かしてベッドの上を移動して私の腕の付け根までやってきた。こてんと顔を置いて目を細めるアクロアイトさまを見て、ベッドの掛け布団を引き寄せると自然と目は閉じられていた。

 

 『ナイ~、おやすみ』

 

 中性的な声が耳に届いて目を開けようとするけれど、何故だか眠気に抗えない。アクロアイトさまを撫でていた左手が身体から滑り落ちた感覚と、私の顔に何かが何度も触れる。この感触は最近よく感じるもので、よく知っているもの。気持ち良いから目を開けることが億劫になり、そのまま目を閉じるのだった。

 

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