魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0177:竜とスライム。

リンとアクロアイトさま、もといクロと一緒に階下の食堂へ向かう。途中、出会った使用人の方たちに頭を下げられるのだけれど、クロへと視線が向いていた。

 おそらく着替えの際に介添えの方が一人部屋から出て行ったので、侍従長さまか家宰さまに知らせに行ったのだろう。そうして話が広がっていき、普段よりも注目を浴びているようだ。

 

 「クロは人気者だ」

 

 廊下を歩きつつ、一匹と二人で話しながら移動する。リンと私だけなら無言でも何も感じない。側に居るだけで、無言でもなにも問題はないのだから。クロが喋れるようになったのだから沢山お喋りしたいので、話題をなんでも振ってみる。

 

 『竜って珍しいのかなあ……』

 

 亜人連合国だと結構な数の竜の皆さまがいらっしゃる。ご意見番さまが住処を提供したからこその結果だろうけれど、当事者のクロはその辺りのことは気にも止めていないようだ。

 

 「アルバトロスで見たことはなかったよ。ね、リン」

 

 王都に十五年住んでいるけれど、記憶にある限り見たことはない。討伐遠征に参加している時も、出くわしたことはなかった。魔物と接触したくらいで、魔獣はあの時が初めてだったし、竜さまや天馬さまに出会ったのはつい最近。

 

 「うん。亜人連合国へ行って初めてみた。希少だって聞いていたからびっくりした」

 

 竜の方に会ったのは亜人連合国が初めてだった。数が多い少ないの判断は出来ないけれど、リンが言ったとおり希少と聞いていたので、代表さまの背に乗って移動して竜の皆さまが集まった時は驚いたものだ。

 

 『昔より随分と減ったけれどね』

 

 何千、何万年前は空を見上げれば竜が飛んでいたとか。そりゃ数は少なくなっているなあと目を細める。

 辺境伯領の大木の下で子育てをしている竜が居るので、これからどれだけ増えるのか楽しみらしい。天馬さまたちもアルバトロスの魔素量が多い男爵領にて繁殖を試みるようなので、そちらも良いことだと嬉しそうに声にしていた。

 

 「おはよう、みんな。お待たせ」

 

 食堂に入って、席に座って待っていたみんなへ声を掛けると、三人が私へ視線をくれた。

 

 「おう、おはよーさん」

 

 「おはよう、ナイ」

 

 「おはよう。遅かったな」

 

 クレイグ、サフィール、ジークの順にそれぞれ返事をくれる。

 

 「ちょっと嬉しいことがあって。ね?」

 

 リンとクロへ視線を向けると二人とも頷いてくれ、男衆が不思議そうな顔をする。

 

 『おはよう。――やっぱり照れ臭いね』

 

 クロはそう言いながら、みんなから視線を外した。言葉通り、恥ずかしいらしい。

 

 「うお、喋ったぞ!」

 

 「え、嘘」

 

 「……」

 

 クレイグはストレートに驚き、サフィールは喋ったことが信じられないらしく、ジークは無言。それぞれがそれぞれの反応を見せてくれたけれど、もう少しクロに対して気づかいしてくれても良いのでは。

 

 「クロ、言いたい事があるんだよね?」

 

 『うん。えっとね、みんなの事をなんて呼べば良いかな?』

 

 こてんと首を傾げたクロは、三人へ問いかける。

 

 「俺はクレイグだな。あと、おはようさん」

 

 「おはよう。僕はサフィールかな」

 

 「俺はジークで構わない」

 

 私の肩からジークの頭の上に移動して、ばっと翼を広げて口を開いたクロ。

 

 『ボクのことはクロって呼んで貰えると嬉しいな。ナイが考えてくれたんだ。クレイグ、サフィール、ジーク、これからもよろしくね』

 

 クロの声に三人が確りと頷くと、ご飯の配膳が始まる。いつもの様にみんなと食事を摂ったのだけれど、最後に料理長さんからお祝いだと言われてデザートが出てきた。クロはデザートを食べないけれど、おめでたいことだと言って急遽作ってくれた。

 食堂に現れた料理長さんにお礼を伝えると、クロも私と一緒にお礼を告げる。クロにはエルフの里から贈られた果物を切ってくれていた。以前はカットした果物を投げてキャッチして遊んでいたけれど、これからは出来ないのかなあ。クロはお皿の上に鎮座している果物を美味しそうに食べている。少し寂しいけれど、成長した証だから仕方のないことなのか。

 

 デザートを食べ終わり、学院へと向かう馬車の中。前日とは違って話し相手がいるということは有難いことで。

 

 「学院までの時間が退屈だったけれど、今日から楽しい時間になりそう」

 

 今まで馬車の中は誰も居ないし、暇だったのだ。時々ソフィーアさまやセレスティアさまが私の相手を務めてくれていたけれど、これからはクロが馬車に乗る度に相手を務めてくれるだろう。

 

 『ボクがナイの話し相手になれば良いんだよね』

 

 その瞬間、影の中からロゼさんがひゅばっと出てきて馬車の床板にぽよんと小さく跳ねたあと、またぽよんと身体を揺らして独特な丸い形が安定した。

 

 『ロゼがマスターの話を聞く』

 

 ロゼさん、今まで興味の対象は知識系の本だったけれど、クロが喋ったことによって何かしら別の感情でも生まれたのだろうか。丸い身体を少し上に引き上げて、私の話を聞くと言い始めた。

 

 『話を聞くだけで済むなら簡単だよ。ナイの話し相手にならないと。――スライムの癖に生意気だ』

 

 初手の邂逅がアレだった所為か、クロが攻撃的。何だか意外だと見つめていると、ロゼさんもクロに対して思うことがあるらしい。

 

 『竜の癖に小さい。――オマエ、なんで喋れるようになった』

 

 あ、ロゼさんが核心的な所を突いた。クロはかなり流暢に喋っている。ご意見番さまの知識が関係しているのだろうけれど、それならそれで最初から喋れた気がするし。ロゼさんと私がクロを見る。む、と目を細めて私たちの視線から目を逸らした。

 

 『スライムに説明する気はないけれど、ナイには話しておくよ。――』

 

 ロゼさんの名前を頑なに呼ばないクロに苦笑を漏らしつつ耳を傾ける。卵から孵った当初、クロの意識は朧げなものだったそうだ。ご意見番さまの知識が頭の中へ大量に流れてくるので、そちらの処理に専念していたとのこと。

 知識を受け入れる為に頭のリソースを使っており、外側のことは疎かになっていたと。知識の受け入れが完了し喋ろうとした時は、クロが喋ることが出来ないと周りのみんなに思われていたし、言葉のやり取りが念話なので人間の波長に合わせるのが大変だった。

 エルと普通に会話していたから、言葉は誰とでも交わせるのだろう。話し始める切っ掛けを探りつつ、タイミングが掴めないまま昨日まで過ごしたとのことで。

 

 『代表のことを笑えないね』

 

 肩に乗っているクロが顔を下へと下げる。何か思うことがあるらしい。

 

 「でも良かったよ。このまま喋ることが出来なかったかもしれないんだし。ロゼさんもクロも仲良くしてね」

 

 クロが勇気を出さなければ、まだしばらく喋ることはなかった筈なのだから責める訳にもいかない。ロゼさんが馬車の床から椅子へと移動して、私の隣へやって来た。肩に乗っているクロがむっとしつつも何も言わなかった。

 

 『やっぱり、竜の癖に小さい奴だ』

 

 『スライムの癖に態度がデカいなあ』

 

 お互いに喧嘩腰である。呆れ笑いを浮かべていると学院がほど近くなる。

 

 「ねえ、クロ」

 

 『うん?』

 

 「ちょっとだけ……これから少し騒がしくなるかも」

 

 馬車がゆっくりと止まって学院へ着いたことを知らせた。大フィーバーしそうな方の顔を思い浮かべ、肩の上で首を傾げているクロに断りを入れ。亜人連合国のみなさまにも連絡を入れなければと、心に刻み込むのだった。

 

 ◇

 

 ――馬車を降りる。

 

 今日のエスコート役はリンだった。私の顔を見て目を細めるリン。馬車の上なので視線が私の方が上で、リンが見上げる形となっている。改めて考えると新鮮だと感じつつ、ステップをゆっくりと踏んで地面へ足を降ろした。ロゼさんは周りの視線が嫌らしく、馬車の中で私の影の中へ避難している。

 

 「ありがとう、リン」

 

 「ううん。気にしないで」

 

 えへへと笑い合う私たちのやり取りを静かに見ているクロとジーク。

 

 『ボクもナイのエスコートしたいなあ』

 

 私の肩の横で言葉が聞こえてくることに少し慣れない。けれどクロの声は不思議なもので、不快に感じたり声量を大きく感じたりしない。リンとジークがぴくりと肩を揺らした。一体どうしたのだろうかと思いつつ、クロを無視できる訳もなく。

 

 「人になれるの?」

 

 『うーん……ちょっとまだ難しいかも。代表にやり方を教わらなきゃ』

 

 ご意見番さま時代は必要性を感じなかったから人型に一度もなったことがないそうだ。考える素振りを見せながら首を傾げつつ、代表さまに教えを乞うらしい。代表さまなら喜んで教えてくれそうだから安心だ。クロへ熱心に教えている代表さまをエルフのお姉さんズが揶揄う所まで想像できてしまう。

 

 「ナイ、遅れるぞ」

 

 ジークに声を掛けられてはっとする。あ、そうか。朝からクロと話していた為に、普段よりも学院へ辿り着く時間が遅くなっているのだった。

 

 「あ、うん。――行こう」

 

 そうしてみんなで歩き始める。暫くするといつものお二人が私たちと合流する。

 

 「おはようございます、ミナーヴァ子爵」

 

 「ごきげんよう、子爵」

 

 人の流れが多いのでソフィーアさまもセレスティアさまも体裁を取り繕っているようだ。大丈夫かなと心配になりつつ、口を開いた。

 

 「おはようございます。ソフィーアさま、セレスティアさま」

 

 私の言葉に頷いて前を向くお二人に、クロが首を傾げつつ何かを考えているようだ。タイミングを逃すと喋り辛くなるから早い方が良いだろうと、クロが乗っている方の肩を少しだけ上げて行動を促す。

 

 『おはよう、二人とも』

 

 私の少し後ろに並んだ彼女たちにクロが顔を器用に後ろへ向けて、言葉を発した。少し照れ臭そうだから、緊張しているのだろう。人間相手にそんなに緊張しなくともと苦笑いをしてしまいそうになる。でもクロにとっては大事なことだろうし、笑うのは失礼か。

 

 「!」

 

 「――っ!!!!」

 

 歩きながら校門を目指す。さてお二人の反応はどんなものだろうと、背後の気配を感じ取りつつも足は止めない。

 クロが喋ったことに大層驚いているようだけれど、お貴族さまの矜持なのか大声を出したり、慌てたりしていないのは流石高位貴族出身のご令嬢さま。ただ状況が呑み込めていないのか、言葉が返ってこない。どうしようかと考えているクロと、どういう状況なのかと頭を張り巡らせているお二人の差が酷い気が。

 

 『えっと……あのね、二人のことを名前で呼びたいんだけれど良いかな?』

 

 学院だし他の方の目もあるから、屋敷の時みたいに手助けが中々出来ない。私に出来ることは心の中でクロ頑張れと応援するのみである。お二人の反応がなくて、足を器用に動かして後ろへ向くクロ。少し寂しそうな気配を醸し出しているけれど、大丈夫だろうか。

 

 「え、ええ。もちろん構いません。そうだろう、セレスティア」

 

 クロの言葉に困惑しつつソフィーアさまが答えて、無言のままのセレスティアさまへ問いかける。

 

 「…………」

 

 「お、おいっ!? 気を確りと持てっ!」

 

 気になって後ろを少し振り返ると、黙ったまま歩くセレスティアさま。なんつー器用な事をしているのだろうか。口を真一文字に結んで、白目を剥きかけているような。ご令嬢さまとしての品位が欠片もないなあと、苦笑いになる私。アクロアイトさまは変わらずどうしたものかと困惑している。

 

 「ええい、しゃんとしろっ!」

 

 ぱんと音が鳴るけれど、私の動体視力では捉えることが出来なかった。

 

 「はっ! 失礼いたしましたですわっ!」

 

 後で話を聞いたジークとリンによると、それはそれは綺麗で見事なローキックがソフィーアさまからセレスティアさまへ齎されたとのことだった。

 凄く妙な言い回しをしつつセレスティアさまが元に戻ったけれど、まだ頭の回転は弱いままで。鉄扇を広げてどうにかご令嬢の体裁を整えているけれど、クロが語り掛けたことによってキャパシティーが超えておりくるくると目が回っているような。

 

 『驚かせてごめんねえ……。ボク、やっと喋れるようになったんだ。それで、二人と沢山喋りたいなって思ってて』

 

 クロの言葉がだんだんと尻すぼみになっている気がする。

 

 『えっと、えっと。名前で呼んじゃ駄目かな?』

 

 お二人に向けてこてんと首を傾げるクロ。ちょっとあざといなと思わなくもないけれど、可愛いから許せる。

 

 「はい、是非。私はソフィーアとお呼び下されば嬉しく存じます」

 

 「……わたくしはセレスティアと呼んで下されば」

 

 少し戸惑いつつも確りと返事を返したソフィーアさまと、何かを考えているのか少し反応が遅れて言葉を発したセレスティアさま。セレスティアさまの頭の中は大変な事になっているのだろう。

 

 『ありがとう。ボクのことはクロって呼んで欲しいな。ナイがボクに付けてくれた名前なんだ』

 

 クロは先程から同じ説明を繰り返しているなあと、おかしくなる。でも大事なことで必要なことだ。直接伝えられるのと又聞きでは、クロに対して向ける感情が違ってくるだろうから。

 

 『良かったあ。ソフィーア、セレスティア、これからもよろしくね』

 

 「はい」

 

 「勿論でございますわ!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは生粋のお貴族さまだから、許してくれるかどうか不安だったそうだ。そんなことまで理解しているのかと驚きながら、ジークとリンと別れる場所までやって来た。

 

 『また後でね。ジーク、リン』

 

 いつも二人に伝えている私の言葉を先にクロに言われてしまった。クロの言葉にジークとリンが返事をして、騎士科の校舎へと歩みを進め始めるのを確認して。

 

 「台詞取られた!」

 

 見事なタイミングで先にクロに言われてしまったのだから、少々の文句は仕方ない。

 

 『言ってみたかったんだ、ごめんねナイ』

 

 まあ良いか、クロが楽しそうだから。ジークとリンと別れて、今度は三人と一匹で歩き始める。クロは私の肩の上に乗っているだけなので、歩いてはいないけれど。

 

 「仲が良いな」

 

 「尊いですわ…………やはり絵師を数名侍らせておくべきでしょうか」

 

 セレスティアさまの贅沢極まりない言葉に、ソフィーアさまが止めておけと釘を刺した。そのうち本気で絵描きの方を連れて回っていそうだ。そういえば魔術具でカメラやビデオのようなものはないのだろうか。

 今度、副団長さまに聞いてみて、存在しなければ魔術具作成が得意な方を紹介して貰って制作依頼を出そう。写真とか沢山残せるなら思い出や記念になる。悪いことじゃないから、止める人もいないだろう。

 

 教室に辿り着いて席へ座すと、クロは何も言わないまま指定席になっている籠の中へ潜り込んで、寝息を立てはじめるのだった。

 

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