魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0178:竜とお嬢さまとお三方。

 ――緊張していたのかな。

 

 ご意見番さまの知識があって確りと喋っているとはいえど、卵から孵って数ヶ月しか経っていない。いつ喋りはじめるかのタイミングも見計らっていたようで、クロも気が気じゃなかったのかも。授業合間の休み時間、籠の中ですやすやと眠っているクロの背を撫でる。

 

 「お可愛らしい……」

 

 クロの背を撫でていると、セレスティアさまがいつの間にか私の横に立っていた。気配を消して移動したようで全く気が付かなかった。

 

 「クロはみんなと沢山お喋りをしたいようなので、気軽に話しかけて頂けると嬉しいです」

 

 少し声の音量を絞って、私の隣に立つ彼女と話を始める。クロは社交的だと思う。喋れるようになって幼馴染組や使用人の皆さまに、ソフィーアさまセレスティアさまたちと打ち解けようと自分から頑張って語り掛けていたのだから。

 でもクロに対してみんな気を使うのだろうなあ。竜だし亜人連合国の基礎を築いたご意見番さまの生まれ変わりである。事情を知っている人なら、慮るのが普通だ。

 

 「よろしいので?」

 

 セレスティアさまが鉄扇を広げ口元に当てながら目を細めて私を見下ろしている。身長差があるのでこればかりは仕方ない。

 

 「何がですか?」

 

 私はセレスティアさまを見上げる。どういう意味だろうか。

 

 「ナイには独占欲、のようなものはありませんの? わたくしであれば、心の中は嫉妬の嵐となりそうです」

 

 「クロの相手を務めるのがみなさんだと分かっていますから。見ず知らずの方がクロと仲が良さそうに話しているのであれば、寂しさは感じるかもしれません」

 

 これに尽きる。クロの相手を務めるのが、私が良く知っているみんなだと理解しているから安心して任せられる。

 クロに手を出さないのも分かっているし。紳士的な態度で接してくれるだろうし。妙な態度を取れば、亜人連合国のみなさまが黙っていないのも熟知しているだろうから。

 

 「貴女はやはり欲がありませんわ。もう少し我儘を言っても誰も怒りはしないでしょうに」

 

 我儘ではないような。強いて言えば、クロとみんなが一緒になって喋って欲しいと願っているから、我儘は言っているんだよね。お貴族さまの社会で生きるとなると、みんなで大口を開けて笑いながら馬鹿をやるって難しい。

 だからという訳ではないけれど、爵位や立場とかを別にして、気楽に誰かと喋ることが出来る場所があっても良いのではと考えてしまう。クロは竜でそういうものに拘らないし、相手とは対等でいたいという気持ちが強いようだから。

 

 バチンと鉄扇を閉じて、真剣な目で私を見るセレスティアさま。

 

 「人並みに持っていますよ」

 

 そんなに難しく捉えなくても良いし、もちろん人間なのだから独占欲もちゃんと持っている。食べるご飯は必ず確保するし、美味しい物なら尚由で。お金は大事だし、仲間も大切。それらは何よりも優先すべきことなのだから、独占欲と例えてしまっても構わない。

 彼ら彼女らに何かがあるならば私は怒るし我儘を言うし、無茶をしてでもどうにかしたいと考える。今まで出会った人たちも大切なのだから、同じように立ち回るのだろう。

 

 「………………」

 

 ジト目で見られて、盛大な溜め息を吐かれた。いや、お貴族さまのご令嬢としてどうなのだろうか。呆れられている感がひしひしと伝わるけれど、セレスティアさまだって大概である。

 クロや天馬さまのエルやジョセにルカを見て、悦に入って顔を蕩けさせているし、最近は絵師を呼んで下さいましとよく叫んでいるのだから。ただコレを口にしてしまうと確実に怒られるので、心の中だけで止めておく。

 

 『……ん。――あれ、どうしたの?』

 

 籠の中で寝ていたクロが目を覚ました。頭だけを起こしてセレスティアさまと私を見上げている。

 

 「ごめん、五月蠅かったかな」

 

 片眉を上げつつクロに謝る。

 

 『ううん、単純に目が覚めただけだから平気だよ』

 

 特進科の教室に居た人たちがぎょっとした顔を浮かべて、こちらに視線を集中していた。そういえばクロが教室内で言葉を発するのはこれが初めてか。

 状況に気付いたソフィーアさまが席から立ち上がって、事情を知らないクラスメイトに説明を始める。面倒事を任せてしまったので、あとでちゃんとお礼を言わなければ。こういう気配りは有難い。

 

 クロがゆっくりと身体を起こしてこちらへ飛んで肩の上に乗る。目が覚めたのか授業を一緒に受けるつもりらしい。偶にこういうことがあるのだけれど、私の後ろの席に座るセレスティアさまにとって至高の時間らしい。

 視界に竜の背中を捉えて観察をしているそうだ。私の肩の上で尻尾を左右に揺らしたり、縦にぱしんぱしんと空を斬る。授業の内容を聞いているのか時折首を傾げてみたり、身体を揺らして何かを考えているようだと興奮気味に語っていたことがある。

 

 『セレスティア、ボク邪魔じゃない?』

 

 後ろの席だと見えなくなる可能性もあるから、クロは気を使ったのだろう。

 

 「問題は全くありませんわ。ナイの肩の上でお過ごし下さいませ」

 

 クロが起きている時は私の肩の上がほぼ定位置である。セレスティアさまは授業を聞いているフリをしつつ、クロの観察に勤しむのだろう。休憩終わりのチャイムが教室に鳴り響いて、席へと各々戻るのだった。

 

 ◇

 

 学院が終わって子爵邸へと戻り、制服のまま亜人連合国領事館へと足を運ぶ。お隣さんには朝連絡を入れておいたので、何の問題もない。玄関で呼び出しの音を鳴らすと代表さまとエルフのお姉さんズが迎え入れてくれる。

 

 「こんにちは。――お邪魔します」

 

 ジークより背の高い代表さまと女性として背の高いエルフのお姉さんズを見上げながら口を開く。代表さまは気を使って少し猫背気味。それを見たお姉さんズが苦笑いというか、何とも言えない顔を浮かべている。亜人連合国の代表としてちゃんとした態度で、人間と対応しろとでも考えているのだろうか。

 

 「よく来たな。中へ入ろう」

 

 穏やかに微笑んで代表さまが私へ語り掛けつつ、クロへと視線を向ける。ご意見番さまの生まれ変わりであるクロへは、竜のみなさまを始めとした亜人連合国の方々は並々ならぬ思いを抱えている。

 そんなクロを預かっているのは恐縮の限りだけれど、クロが居たからこそこうして繋がった縁なのだから大切にしたい。

 

 「こんにちは」

 

 「こんにちは~」

 

 お姉さんズがそれぞれ私へ声を掛けてくれたので、私もお二人に返事を返す。クロはまだ喋る気はないのか私の肩の上で黙ったままだ。緊張しているのかなあと顔を向けると、なんだか微妙な雰囲気でお三方を見ている。

 護衛役でついて来たジークとリンが私の後ろで控えているけれど、基本的に関わることはない。護衛だから仕方ないけれど、少し寂しくはある。

 代表さま……というよりもエルフのお姉さんズは人間の好き嫌いが割とはっきりしているので、ジークとリンの存在が嫌ならば『邪魔だ』と口に出している筈なのだ。言わないということは、二人の事を認めてくれているのだろう。

 

 廊下を歩いて応接室へと通された。割とシンプルな部屋は落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 

 「突然の連絡を快く受けて頂きありがとうございます」

 

 今朝、私が話したいことがあると連絡を入れて受け入れて貰った経緯がある。内容も話さないまま承諾を頂いたので、恥ずかしいというかなんというか。クロが喋ったことが嬉しかったのか、うっかりミスをやらかしてしまった。

 

 「気にするな、構わない」

 

 「そうそう。気軽に連絡を貰えて嬉しいわ」

 

 「うん~。忙しいみたいだし中々会えないからねえ」

 

 そうかなあ。割と頻繁に会っている気がするけれど。仔天馬さまのルカが産まれた時やクロの相談に乗って貰ったこともあるんだし。

 

 『みんなはナイの事が大好きなんだよ。――だからこうして君を歓待しているんだし』

 

 肩に乗っていたクロが唐突に喋りはじめた。あれ、クロから代表さまたちに語り掛けなくて良いのだろうか。

 なんだか代表さまたちの扱いがクロの中で低いような気がする。ぐりぐりと顔に顔を擦り付けてくるクロ。勢いに押されて身体が斜めに傾いてしまう。またしてもクロに心の中を読まれてしまったのか、代表さまたちが居るので恥ずかしいのだけれど。

 

 『あ、つい癖で』

 

 大丈夫だよとクロに伝えると、代表さまたちが笑っている。あれ意外な反応である。てっきり喋ったことに対して驚いて、てんやわんやの大騒ぎになるのかと考えていた。

 

 「喋れるようになったのですね。おめでとうございます」

 

 穏やかな顔を浮かべて代表さまがクロへ頭を下げた。クロはクロで肩の上に乗ったままで、代表さまと話すつもりらしい。

 

 『うん。少し時間が掛かっちゃったけれど、ようやくね』

 

 「そうですか。彼女がやきもきしていたようなので何よりです」

 

 代表さまとクロが話し始めたから、邪魔をしては悪いと口を閉じる私。お姉さんズが私の隣に立って、椅子の背凭れや肘掛けに身体を預けて顔を近づける。

 

 「ようやくだね~。もっと早くてもおかしくなかったのに」

 

 「そうね。でもまあ、良かったわ。この子が心配していたから、意思疎通が出来るようになったのは大きいもの」

 

 何度も言うけれど、ご意見番さまの生まれ変わりだからなあ。もっと早く喋っていてもおかしくはない状況だったのだろう。

 

 『ごめん、ごめん。ちょっと話すタイミングを逃したこともあったから。でも、こうしてみんなとようやく喋れるようになったからね』

 

 小さな身体でえへんと胸を張るクロ。やっぱり想像していた反応と違うなあと目を細めていると、クロがまた語り始めた。

 

 『ねえ、代表』

 

 「どうかしましたか?」

 

 『あ、そんな丁寧な言葉じゃなくて良いよ。知識を引き継いではいるけれど、ボクは生まれ変わりだから』

 

 竜としての格が上がるのは長い時間を生きなければならないらしい。む、と考え込む素振りを見せる代表さまに、それを押し切ろうとするクロの間で何かしらの葛藤があるらしい。代表さまとクロは竜なので、何かしらの意味合いがあるのだろう。人間である私では理解できない所であった。

 

 『代表たちはナイに名乗らないの?』

 

 クロの言葉に代表さまとエルフのお姉さんズがはっとした表情になる。あ、これはまだ聞いちゃ駄目なヤツだと判断して、クロへ顔を向ける。

 

 「クロ、私が簡単に聞いちゃいけないことだよ」

 

 『あれ、朝にも言ったよね。ボクと一緒でタイミングを逃しただけだよ。このままじゃナイが三人の名前を知らないままだし、良い機会だからね』

 

 代表さまたちには強気なクロ。長く一緒に居た所為なのか気安いといえば気安いのかな。よく分からないけれど、お三方の名前を知れるならば知りたい所ではある。なんだか見たことのない顔を浮かべている代表さまたちに、私はどうするべきかと考える。

 

 「確かに良い機会なのかもしれないな。――オブシディアンだ。名乗りが遅くなって済まない」

 

 代表さまが私に視線を合わせて名前を教えてくれたので、椅子から立ち上がる。

 

 「ナイ・ミナーヴァです。気軽に名前を呼んで下さると嬉しいです」

 

 人間には亜人連合国のような風習や習慣はないのだから、気にせず名前を呼んでくれると嬉しいけれど。聖女と名乗らなかったのは不思議な感覚である。個人としての名乗りだろうから、多分大丈夫なはずである。

 

 「ああ。これからもよろしく頼む、ナイ」

 

 「よろしくお願いします。――……」

 

 オブシディアンさまと呼ぼうとしたけれど、何となく駄目な気が。

 

 「どうした?」

 

 「私が代表さまの名前を呼んでいいものなのかと……」

 

 「気にしなくて良いのだが」

 

 『あ、じゃあ愛称は? ボクもナイにクロって付けて貰ったからね』

 

 またえへんと胸を張ったクロは、その後に身体を左右に動かしてるけれど、無茶振りを言ってくれるなあ。私が代表さまの名前の愛称を決めるなんて良いのだろうか。というかクロが考えるべきでは。その方が喜ばれる気がする。

 

 「済まない、頼めるだろうか」

 

 「私で良いのですか?」

 

 乞われると断れない現実がある訳で。代表さまの返事を聞く前からどうしようかと悩み始める。

 

 「ああ、頼む」

 

 お姉さんズが微妙な顔をして代表さまを睨んでいた。どうしたのだろうか。お姉さんズが代表さまの愛称を決めたいのならば譲るけれど。語彙というか、愛称を考えるセンスもないのだけれどなあ。望まれれば付けなければ失礼でもある。

 

 「ディアンさまは如何でしょうか?」

 

 単純なものだけれど。普通に付けられているような名前になってしまうけれど。

 

 「良い響きだ、気に入った。これからそう呼んで貰えると嬉しい。正式な名ではないから他の者が居る場で呼んでも構わない」

 

 そっか、それなら良かったと安堵する。気に入って頂けたなら何よりだ。

 

 「むぅ。代表だけずるい~」

 

 むくれた顔をしてお姉さんBがディアンさまにブーたれている。

 

 「そうね。でも名乗らなければ始まらないわ。――ダリアよ。遅くなってごめんなさいね、これからよろしくナイちゃん」

 

 むくれ顔のお姉さんBにお姉さんAが先に名乗ってくれた。

 

 「アイリスだよ~。エルフはね、竜みたいに頭が固くないから普通に呼んで貰っても大丈夫なんだ。ナイちゃんの好きに呼んで良いからね~」

 

 えへへと笑いながらお姉さんBが私の後ろに回って、お腹に手を回して抱きしめてくれた。あれ、ちゃんと挨拶ができないのだけれど。まあ取りあえずは先に私の前に立っている方へ挨拶をしないと。

 

 「ナイです。これからもよろしくお願いします、ダリアさま」

 

 「んー。何か違うわね。私の名前をもう一度お願い」

 

 ということは『さま』付けが駄目なのだろうか。

 

 「ダリアさん?」

 

 大丈夫なのかな、エルフの方をさん付けで呼ぶだなんて。そしてまたリテイクを食らう私。

 

 「私たちお姉さん、もしくはお姉ちゃん!」

 

 押しが強いなあと苦笑い。

 

 「ダリア姉さん?」

 

 「あ、ちょっと意外だったかも。でも悪くないわね」

 

 「私も、私も~!」

 

 あ、手を回したままで身体を左右に振らないで下さい。あ、クロが逃げて代表さまの差し出された腕に乗った。何だか鷹匠みたいな光景。

 

 「アイリス姉さん」

 

 「おおっ! 何だか新鮮だよ~」

 

 エルフの中では若手に属しているお二人らしく、妹的存在は嬉しいらしい。クロが喋ったことの報告に来たのだけれど、目的がズレてしまったような。でもまあ、クロとお話できるようになったのは伝わったのだから問題ないのだろう。

 銀髪くんが引き連れていたハーフエルフの二人の再教育が終わり、ちゃんと良識のある良い子になっていると姉さんたちから聞く。ほどほどに会話を繰り広げて改めてよろしくと言って、亜人連合国領事館を離れることになったのだった。

 

 本当に何をしに行ったのやらと、首を傾げるのだった。

 

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