魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0181:大聖女さまからのお手紙。

 ――なんてものが。

 

 畑にとんでもないものが勝手に育っていた。どうして……どうやってケシの種が混在しているのだろうか。妖精さんたちかお婆さまの悪戯で全ての説明がついてしまうあたり、防ぐのは難しいのではと頭を抱えてしまう。

 マズい物を育ててしまったので王城への報告はもちろん済ませてある。陛下や上層部の方々は『子爵邸の畑ならば仕方ない』とのことで。お芋さんとかお野菜をおすそ分けしておいて良かった。消費を子爵邸内で済ませていれば、私が家庭菜園を始めているなんて、知らないままだっただろうし。

 

 ケシの花が子爵邸の家庭菜園の隅っこで、大地に根を張りしっかりと実を実らせていたのを見つけたのが二日前。

 日中でも寒いというのに、子爵邸の家庭菜園における季節感は全くなく。夏野菜が実や芽を付けているし、春野菜も実ってる。畑の妖精さんは凄いなと感心しながら、私の肩に乗ったクロが畑を見つめて軽く首を傾げた。

 

 『お婆も妖精も悪気はないんだけれどねえ。お城から薬師の人と副団長が来るんだっけ?』

 

 クロは目を細めながら、私に語り掛ける。悪戯好きの妖精さんたちだから仕方ないのだけれど、どうして私の家で悪戯を敢行するのだろうか。

 王都の街へ出て面白おかしく遊び倒すことも出来るだろうに。妖精さんの仕業だと分かれば、みんな笑って許してくれることだろう。多少は困るだろうけれど。

 

 「うん、薬草としての側面もあるから調べてみたいって」

 

 用法用量を守っていれば痛み止めになる。もちろん大量摂取すれば中毒症状を引き起こすのだけれど。

 どうも副団長さまや薬師の方は『子爵邸に薬草が生えた!? 興味がある! 見たい、行きたい、調べたい!』みたいな勢いなのだろう。研究職の方の熱意は凄いなあと、子爵邸に訪れるのを許可したのは昨日のことだった。

 

 『そっか。魔素量が多いから、何かしらの影響は受けているだろうしね。アルバトロスにケシの利用方法が確立されてないならエルフを頼れば良いよ』

 

 きっと教えてくれるから、とクロが言ったけれど……エルフのお姉さんズに聞いた場合、なんだか嫌な予感しかしないのは何故だろう。

 効果が高すぎたり、少量でも効き目があるとか。良いことだとは思うけれど、今後になにかしらの影響がありそうだ。なるべく穏便に済むようにしたいから、お姉さんズに頼るのは最終手段ということにしておこう。

 

 「ありがとう。――とうもろこしさんも美味しそうに育ってるし、あと数日で収穫できるみたいだから楽しみ」

 

 『ナイは甘いとうもろこしを食べたいんだっけ?』

 

 ポップコーンを作るのは成功してみんなで食べた。基本の塩味だったけれど、久方ぶりのお菓子類である。頬が緩みっぱなしで、ソフィーアさまに締まりのない顔をするなと注意を受け、仕方ないけれどと呆れ顔をされたのだった。

 

 ジークとリンも後で食べたし、クレイグとサフィールも味見をすると美味しいと笑ってくれる。爆裂種の種と調理方法を秘匿すればお金儲けできると教えてくれたけれど、美味しい物はみんなで食べるべきだ。種が平民のみなさんに広がれば、子供のおやつとして普及しそうなので、むしろ広がって欲しいからレシピはどんどん広めて下さいとお願いしている。

 

 まあ、熱したフライパンの中へ放り込み蓋をするだけなのでレシピというものではないけれど。乾燥させたとうもろこしを熱するという発想が中々出来なかったから、ポップコーンというお菓子は存在していない。

 探せばどこかで誰かが作っているかもしれないけれど、アルバトロス国内に限れば誰も思いつかなかったものだ。爆裂種の種とレシピを添えて公爵さまと辺境伯さまに手紙を添え、美味しければ広めて下さいと記して届けた所。

 

 熱して塩を振りかけるだけなので、種さえあればそのうち広がるんじゃないのかなあ。託児所の子供たちのおやつのメニューにも加わったし、少しずつでも広げていきたい。

 

 「うん。いろんな種を交配させて試行錯誤したんだけれど、やっと形になりそうかな」

 

 これも畑の妖精さんのお陰である。甘いとうもろこしさんを食べたいと、呪いのように妖精さんたちの隣で唱えていた。気を使ってくれたのか、甘いとうもろこしさんを見つけ出してくれて、あれとそれを交配させろと教えてくれたのだ。

 で、前世のテレビでなんとなく観ていた受粉シーンを思い出して、交配させ、実をつけ、種を作りを繰り返す。試しに何本か頂いて食してみると、世代を経る度に糖度が高くなっていた。

 

 こうなればもう行きつくところまで行くしかなく、凄く甘いとうもろこしさんを食べたいという欲求が湧いてしまう。子爵邸の家庭菜園に魔力を注ぎ込めば、滅茶苦茶甘いとうもろこしさんが出来るのではという誘惑に何度負けそうになっただろう。

 負けていれば、マンドラゴラもどきを始めとした不可思議野菜や魔術で使用する薬草などが知らぬうちに屋敷内を占拠していたに違いない。そんな事態に陥っていないということは、誘惑に負けなかったのだ。私、偉いと心の中で褒める。

 

 『……魔力が洩れているから意味はないけれどねえ』

 

 耳元でクロの声が聞こえたけれど、聞き取ることが出来なかった。

 

 「? 何か言ったクロ?」

 

 『美味しいとうもろこしを食べられるようになって良かったねって』

 

 こてんと頭を傾げながら言い直してくれたクロに笑みを向ける。

 

 「うん。すごく楽しみ!」

 

 にししと笑う私にクロが苦笑いをしている。何となくだけれど雰囲気でそう感じ取れた。

 

 『ジークとリンも楽しみ?』

 

 クロが護衛に付いていたジークとリンに声を掛けた。兄妹で顔を見合わせ、こちらへと向き直る。

 

 「俺は甘い物はあまり……」

 

 「兄さん、野菜の甘さも苦手なんだ。私は楽しみ」

 

 食べられるけれど好んでは食べないということだろう。リンはジークを見て苦笑いをしている。双子の兄妹だけれど味覚は違うようだ。多分、男女の差なのかな。女の人の方が甘いものが好きだから。

 

 『クエ』

 

 いつの間にか足元へとやって来ていた妖精さんから、皮つきのとうもろこしさんを差し出された。しゃがみ込んで受け取ると、違う妖精さんもこちらへやって来る。

 

 『シゴトクレ』

 

 『タネクレ』

 

 また例の台詞の大合唱である。なんでそんなに働き者なのだろうか。少しは休んでもらいたいので休まないのかと問いかけてみた。

 

 『シゴトクレ』

 

 『タネクレ』

 

 「……いや、偶には休もう」

 

 『畑の妖精だからね。夜になれば休むから心配は要らないよ』

 

 クロによると、畑の妖精さんたちにとって最も大切なものは魔素なのだそうだ。魔素がある限り、陽が出ていれば働き続ける運命の下にあるとかなんとか。嫌な宿命だなあと目を細めるけれど、畑の妖精さんたちにとってそれが当たり前なのだろう。今度、畑の近くで魔力を練ってみようかなあと考える。

 

 『ソフィーアが頭を抱えるから止めてあげて』

 

 「む……どうして心の内を……」

 

 『ナイは顔に出ているから分かり易いよ』

 

 クロの言葉にリンが頷き、ジークが苦笑いを浮かべてた。そんなに分かり易いのかな。ポーカーフェイスを習得するにはまだまだ先になりそう。取りあえず妖精さんに頂いたとうもろこしさんを塩茹でして貰おうと調理場へと足を向け。

 

 「甘い!!」

 

 ようやく、ようやくだ。甘いスイートコーンを口にする事が出来た。あとはバターコーンとポテトサラダと他思いつく限りのものを料理長さまに提案して、食べることが出来れば万々歳だ。

 自分で作ることも出来るけれど、料理長さまが作った方が確実に美味しいし、私が調理場に立つと良い顔をされないのだから。

 

 『幸せそうに食べるよねえ……』

 

 クロの言葉にジークとリンがうんうんと確り頷く。

 

 「ナイ」

 

 ひょっこりと調理場へ顔を出して私を呼んだ人は良く知る方で。

 

 「ソフィーアさま?」

 

 あれ、執務室で仕事を片すと言っていたのだけれど、どうしたのだろうか。

 

 「手紙だ。目を通してくれ」

 

 彼女は真面目な顔をして手渡してくれる。急ぎの用件なのだろう。でなければわざわざ私を探し出して、差し出したりはしないのだから。

 差出人を確認すると、聖王国の大聖女さまであるフィーネ・ミュラーさまからだった。聖王国も大変な時期を脱出して落ち着いてきたと手紙が届いたのが、つい最近だったというのに。一体何がと思いつつ、差し出されたペーパーナイフを受け取って丁寧に封を切るのだった。

 

 ◇

 

 ――黒髪の聖女さまへ。

 

 綺麗な字で文頭はそう記され、定型文の挨拶が続き本題へと入る。フィーネさまの字は、私の字とは大違いだなあと苦笑をしながら調理場で読み進める。

 

 「ぶっ!」

 

 割とぶっちゃけ過ぎていることに驚いてむせてしまう。

 

 「な、おい、大丈夫か?」

 

 『ナイ、大丈夫?』

 

 「ごほっ、うっ。――だ、大丈夫です。ちょっと驚いて吹いただけで。お行儀が悪くてごめんなさい……」

 

 ソフィーアさまが背中を撫でてくれて、クロは肩から飛び立って私の目の前で滞空飛行をしている。

 目の前に丁度良い高さのテーブルがあるけれど、調理場のテーブルに降りるのは不味いと考えたようだ。ジークとリンも気遣ってくれるけれど、ソフィーアさまに先を越されてしまったのは護衛だから仕方ない。

 

 「何が書かれていたんだ?」

 

 言っても良いのか悪いのか。けれど手紙に記されていることは、誰かに知れ渡っても問題はないということで。

 

 「ヴァンディリアの第四王子殿下、いえ元第四王子殿下が聖王国へ修道士として送られたそうです」

 

 「…………そ、そうか。まあ、仕方がないといえば仕方ないのか」

 

 ソフィーアさまは私の言葉を聞いて、事態を咀嚼するのに少し時間が掛かったようだった。聖王国は大陸各国で問題を起こした王族やお貴族さまを預かるシステムを構築していたようだ。

 もちろんそれなりのお金を積んで、である。だからこそヴァンディリア王国は元殿下を修道士として送ったのだろう。受け入れることを拒否しなかったのは問題ないということだから。

 

 ただ大聖女さまは、前回の大掃除を終えた所に、また問題を起こしそうな人がやって来たと嘆いているそうな。どうやら亡くなられた殿下の母親である側妃さまと、大聖女であるフィーネさまのご尊顔が似ており、妙に懐かれてしまったというのだ。

 そりゃ、あんなの……――イケメン勘違い大立ち回り野郎に絡まれれば迷惑極まりないとは思う。でも、大聖女さまと一介の修道士では格の差があり過ぎるので、絡むことも難しい気がするのだが。何故だろうと疑問符を浮かべていると続きが書かれていた。

 

 『普段の生活は凄く真面目で、お祈りや信徒の方たちとの交流も卒なくこなしているんです』

 

 戒律の厳しい修道院へと送られたが、大聖女さまに再会することを目標に凄く真面目な修道士と化してしまったそうだ。

 一応、島流しの刑に処された元殿下なので身元は秘匿されている。それを知らない周りの修道士や修道女の方たちに応援されて、聖女さまたちが居る教会へと早々に戻ってきたらしい。うわあ……はた迷惑な、と本心が駄々洩れしそうになる。

 

 『懐かれるのは我慢できますが、度々平手打ちを望まれるのが困るんです』

 

 確かに大聖女さまがただの修道士に平手打ちを見舞わせてしまえば、一体どうしたのだと騒ぎになる。年齢も同じ美男美女が妙なプレイを楽しんでいるようにも見えてしまうだろうし。そりゃ困るのも仕方ない。

 ただ私にはどうにもできないことなので、聖王国の上層部の人たちに報告すれば引き離されるのは時間の問題であろう。普通の結論に達して、ふうと溜め息を零す。まだ続いている文字に目線を走らせた。

 

 「ぶへっ!」

 

 またしても妙なことが記されており、吹いてしまった。今度は誰も優しさを発揮してくれない。

 

 「またか。平気か?」

 

 ソフィーアさまは言葉だけを掛けてくれた。でも、なんだか視線が冷たいような。

 

 「はい」

 

 この文面をクロに知られる訳にはいかないなあ。ご意見番さまの知識を吸収しているし、記憶のようなものもある可能性だってある。話を聞けば、良い気はしないのは確実だ。

 

 「で、今度はなんだ?」

 

 ただ黙っていると、賢いクロは何かしらあると分かってしまうだろう。

 

 「大陸を見せしめ行脚している方が聖王国へ辿り着いたようですね。――反省はしていないそうです」

 

 当たり障りのない言葉で伝えてみた。

 

 『?』

 

 良かった。クロには話が通じなかったようだ。ソフィーアさまはアイツかという顔を浮かべているので、今の言葉で理解出来たのだろう。ジークとリンもあまり良い顔をしていないので、今の言葉で分かったようだ。

 

 「そうか。で、他には?」

 

 あ、気付いてくれたのかソフィーアさまが話題を変えてくれた。有難いなと感謝しつつ、急いで手紙の文字を追う。

 

 「この二人をどうしようかと頭を抱えているようですが、もう一つ。南東の国で隣の大陸からの奴隷が逃げて大変だとか」

 

 聖王国の南東隣にある国は奴隷制度が存在する。隣の大陸から買い付けた奴隷が扱いの悪さに辟易して逃げ出し、町や村で迷惑を被っているとか。しかし何故、大陸南部であるアルバトロスに住んでいる私に報告されるのだろうか。意味のない事を記すようなフィーネさまじゃないし、首を傾げる。

 

 「ああ、報告であった冒険者ギルド本部でお前に突っかかった者が所属している国だな」

 

 ソフィーアさまがさもありなんみたいな表情で言い切った。なんだか随分と昔に思えるが、冒険者ギルド本部へ赴いた際に広場で突っかかてきたあの人が居る国である。身分差が激しい国と聞いているので、奴隷の扱いも期待しない方が良いのだろう。確かにさもありなんだなあと目を細めた。

 これ、大陸南東部の国に買われた奴隷が、隣の大陸……ようするに帝国に窮状を訴えれば抗議くらいはされるんじゃなかろうか。最下級の奴隷とはいえ帝国の民である。奴隷なんて知らないと言われればそれまでだけれど、帝国の陛下が駄目だと言えば駄目だろうし。

 

 ま、大陸南東部なので関係ないかなと、手紙を読み終えるのだった。

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