魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――大聖女さまからの手紙が届いてから数日。
助けて欲しそうな雰囲気を醸し出している内容だったけれど、遠く離れた他国の地で出来ることなんて無い訳で。頑張ってください、そう含んだ内容の返信を送ったのが昨日の朝。少し送料は高くなってしまうが転移魔術を利用して送っておいたから、今頃大聖女さまは目を通している最中だろうか。
机の上に置かれた魔石をみんなで覗き込む。
「……禍々しい気が放たれているような気がするが」
「何となくではありますが、嫌な雰囲気は感じ取れますわね」
ソフィーアさまとセレスティアさまがそんな言葉を零し。
「ナイ、嫌な感じがする。切って良い?」
「止めておけ、リン。ヴァレンシュタイン副団長がもう直ぐこちらへ来る。それまでは我慢だ」
リンが腰に佩いた剣に手を掛けながら物騒な事を言い放ち、ジークがそれを止める。彼の言葉通り、副団長さまは机の上に置かれた魔石鑑定の為に子爵邸へ急遽呼ばれたのだ。
魔石を発見したのは、辺境伯領の大木の下で卵から孵った小竜さまだそうだ。少し離れた場所にどっしりと構えた姿の巨木の洞から、嫌な雰囲気を感じてご両親へ報告する。
ご両親も気になって巨木の下へと行くと、確かに淀んだ魔力を感じ取ったそうで。ただ、小竜さまもご両親さまも竜なので、洞の中へ入る方法がなかった。どうしたものかと考え、辺境伯領の大木の下で警備を担っている騎士の方に知らせ洞の中を調べて貰う。
――で、出て来たのが目の前にある魔石で。
本来であれば、見つけた魔石は辺境伯領主である辺境伯さまへ提出するものだけれど、小竜さまが隙を見て口の中へ咥えたまま子爵邸に行くと聞かなかった。
魔石に内包されている魔力と小竜さまの魔力を比べると、小竜さまの方が断然上。ならば問題はなかろうと、辺境伯さまの了解を得てこちらへと飛んできた次第で。
いつもの様に遊びに来たのかと思えば、子爵邸へと降りてきて早々に辺境伯さまからの手紙を咥えたまま私に差し出す。少し涎でよれている手紙を開封して読んでみると、そっちでどうにかしてくれ――もちろん意訳――と記されていた。
「父が無茶を申し、なんと詫びて良いのやら」
「辺境伯閣下も自領で解決するよりも、王都で専門家に視て貰った方が良いと判断したのではないか?」
セレスティアさまが珍しく眉を八の字にして困ったように呟くと、ソフィーアさまがフォローに入っていた。
「気になさらないで下さい。王都には副団長さまがいらっしゃいますから、適切な判断だったかと」
ソフィーアさまの言葉を補強するように、私が言葉を紡いだ。妙な人に視てもらうよりは副団長さまの方が確実である。魔術関連に変態的執着心を持っていたとしても、やることはやってのける人なのだから。
王都には魔術師団のみなさまが在籍している為、こういった魔術のことであれば右に出る者はいないから。副団長さまがその筆頭になるけれど、以前に副団長さま以外にも魔術師団には変わり者が多くいるとご本人が零していた。
「確かにお師匠さまならば信ずるに値しますが……」
む、と何やら考える素振りをしているセレスティアさま。自領で解決して竜のみなさまに良い所を見せたかったのだろう。だって彼女は無類の竜狂いなのだから。天馬さまにもにやにやしているけれど、やはり一番は竜らしい。
露骨に態度に出ているので分かり易く、今もクロと小竜さまが一生懸命爪や牙で器用に果物の皮を剥いている姿をチラチラ見ているし。床が果汁で大変なことになるので、防水加工されている布を敷いている上であーでもないこーでもないと格闘している。
部屋の机の上に観賞用として置いていた果物を小竜さまが見つけ、じっと見ているのをみんなで微笑ましく見守っていると、クロが食べて良いかと聞いてきた。
観賞用だけれど食べるのも問題はない。皮を剥いて出そうかと尋ねると、僕たちには牙も爪もあるから大丈夫と言われ断られたのである。勇ましく言い切った割には、難儀しているような気が。まだ小さいのだから仕方ない。
「――ご当主さま。ヴァレンシュタイン卿がいらっしゃいました」
家宰さまの声に扉へ視線を向けると、副団長さまが立っていた。私が礼を執ると副団長さまも丁寧に返礼。中へどうぞと招いて、机の上の魔石をしげしげと覗き込んだ副団長さまは何やら考える素振りを見せている。
「どこかでこの魔力を感じた気がしますが……はて……」
右手の指を顎に添えて首を傾げながら、前を向き目を見開く。
「ああ! もう存在を忘れておりました。あの時の流れ者の魔術師の魔力ですね」
あまりに小物だったようで副団長さまの頭の中には残っていなかったようだ。記憶を掘り返して、どうにかこうにか見つけてきたのだろう。
顎に当てていた手を放して、左手と右手をぶつけて腑に落ちたようだった。流れの魔術師ということは、ヴァンディリアの第四王子殿下を誑かして、側妃さまに死者蘇生の儀式魔術を施そうとした人か。
「どうして魔石からその方の魔力が?」
疑問に感じて副団長さまへ問うてみる。
「推測ですが、自身の魔力を注ぎ込んで要らぬことを企んでいたのでしょうねえ」
副団長さまなのにはっきりと推測が付いていないのか。珍しいこともあるものだと少し首を傾げる。
もしかして私たちが知らなくとも良いことを、流れの魔術師はやってしまったのだろうか。禁術とかなら吹聴するのはあまりよろしくはないだろうし。私も知りたいとは思わないから、別に良いけれど。
「本当に魔術の淵を覗き込みたい気持ちは理解出来ますが、そこに落ちてしまっては魔術師として終わりでしょうにねえ」
確かに、落ちてしまえば這い上がることは難しいだろう。気を付けなければならないなと、頭の片隅に置いておく。
「ああ、聖女さま」
「この魔石ですが、僕に預けて頂いても?」
「勿論です。お手間を取らせて申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」
「はい。僕の方からも陛下方には報告を致しますが、みなさんもご協力を」
副団長さまの言葉に一同が頷く。私たちも上層部への報告をよろしくということだ。いつものついでに書き記すことが少し増えるだけだ。副団長さまの方が魔石の解析結果やらを報告しなければならないだろうし、嫌だとは言えない。
流れの魔術師はアルバトロスでの取り調べを終えて、ヴァンディリアへと送られている。罪状がまた増えたし、違法性の高い魔術師である。同業者からは嫌われるだろうし、副団長さまからの嫌がらせを受けるに違いないと、心の中で両手を合わせるのだった。
◇
――至急、城へ向かえ。
王城からの使者に呼ばれた為に子爵邸にある転移魔術陣を使用して、城へと急遽登城した。一体何だろうと考えるけれど、全く心当たりがない。ソフィーアさまとセレスティアさまも不思議に思っているようだし、一体なんだと言うのやら。
今までの経験上、厄介ごとが巻き起こっているだけなので、そうでなければ良いけれどと考えながら、近衛騎士さまの後ろを付いていく。
「こちらになります。――黒髪の聖女さまが参られました」
二度のノックの後に近衛騎士さまが私の来訪を告げた。この部屋は応接室だったはずだ。部屋の前には既に、無茶振りくんもといアウグストさまに枢機卿さまのお二人と神父さまにシスター・ジルとシスター・リズと事務方数名の姿が。教会の方がいらっしゃるということは、教会関係のことなのだろうか。
王族の方が個人的に用事があるのならば、王族専用のプライベート空間へと招かれるけれど、この場は共用スペースと表現すれば良いだろうか。
重要な人物との話し合いに宰相さまや外務卿さまたちが使う部屋。本当に一体何事かと考えていると、扉が開かれ中へと招かれる。部屋へと足を踏み入れると、応接用の立派なソファーから立ち上がる気配を感じて、視線を向けた。
「お久しぶりでございます、黒髪の聖女さま」
「大聖女さま、お久しぶりです」
ソファーから立ち上がり礼を執ったのは聖王国の大聖女さまであるフィーネ・ミュラーさまだった。
少し緊張した面持ちで、聖王国側の聖職者数名と護衛の騎士さまたちが後ろに控え、大聖女さまの近くには書記官さまもいらっしゃるから公務である。アルバトロス側も書記官さまが同席しているので、最初からそのつもりではあったけれど。
「この度はお呼び立てをして申し訳ございませんでした。――アルバトロス王のご許可を頂き、面会が叶った次第でございます」
大聖女さまは以前会った時よりも、随分と確りとした雰囲気を持っていた。
「そうでしたか。しかし何故わたくしを?」
正直、聖王国と関わるだなんて考えていなかったし、彼女との手紙のやり取り位で済むだろうと軽く考えていたけれど。どうやらそうもいかなくなったようだ。
「ここ最近の隣の大陸の奴隷問題についてです」
「……何故、その話が」
本当に。アルバトロスで見つけた大陸出身の元奴隷の方々の扱いは、帝国からはお好きにどうぞである。ならば問題はないのだけれど、大陸南東部のあの国では奴隷の扱いが滅茶苦茶悪いらしく、逃げ出した末に悪いことを仕出かしているとは聞いていたけれど。
「南東部の彼の国で起こったことを聖王国が介入することなどありえません」
「ええ、それはそうでしょう。仮に介入できるとすれば政治ではなく教義に関することのみでしょうから」
うん。というか介入なんてしようものなら内政干渉だと大陸各国から苦情が大量に舞い込むだろうし。教会の教えを普及させてはいるけれど、政に関しては関わらない方が賢いやり方である。まあ、上が腐っていてとんでもない事態になってしまったけれども。ならどうして私との面会を希望したのだろうか。
「黒髪の聖女さまは、帝国が何を信奉しているかご存じでしょうか?」
隣の大陸と称するのはいちいち面倒だ。仮に東大陸としよう。その東大陸にある帝国のことだ。
こちらの大陸には帝国という名の国は存在しない。
「申し訳ございません。帝国についての教育は受けておらず、無知と称しても問題はないでしょう」
だって全く情報がないし、子爵邸の図書室や学院の図書棟にも帝国について記されている本が置いていないのだから。知りようがない。
公爵さまによると、アルバトロスと帝国との距離があるから戦争になることはないし外交問題にも発展しない。距離がある故に、奴隷の扱いを好きにすれば良いと返事がきたのだと。
「…………そうでしたか。では心してお聞きくださいませ」
いや、そう前置きされると何だか嫌な予感しかしないんだけれども。面倒事になるのかなあと遠い目になるが、面倒事になる前に知らせてくれようとしている大聖女さまには感謝しなければならないのだろう。
「黒髪黒目信仰。――東大陸を創造したとされる女神さまがそうだったと聞き及んでおります」
そうなのか。でもなぜソレが私に繋がると言うのだろうか。そもそも私は女神さまなんて崇高な人物でもないし。
何処にでも居る孤児出身の聖女ってだけなのに。この部屋に居る人たちの視線が私に刺さってる。なんでやねんと心の中で突っ込みをいれつつも、最近、私は先祖返りした可能性で黒髪黒目に生まれたらしいからなあ。
「彼の国の方々は黒髪黒目で生まれた者を大層丁寧に扱うそうです。しかしながらここ百年は見つかっていないとのこと」
こっちの大陸でも珍しいから、東大陸でも珍しいのだろう。そして黒髪黒目の男性よりも女性の方が持て囃されるそうで。
「東大陸を方々探しても見つからない為に彼らは奴隷問題にかこつけ、大陸南東部の国へ訪れたそうです」
あ、やっぱりいちゃもんをつけられたのか。時期が悪く、偶然が重なったと判断した方が良さげだ。こちらの大陸へ向かう口実の為に奴隷を故意に売り払っていた可能性もあるけれど、真実はどちらでも構わない。今は黒髪黒目信仰問題である。
――黒髪黒目の者は居らぬのかっ!
奴隷問題よりも先に帝国の使者が口にした言葉がコレだそうだ。そしてあの時の小父さまが、帝国側の圧力に負けてしまいアルバトロスの聖女がそうだと暴露してしまったらしい。
というか大陸南東部の国は何をしているのだろうか。他国に迷惑を掛けてしまう状況に陥っているのに、連絡の一つも寄越してくれていない。アルバトロスで一波乱置きそうな状況である。
「しかし何故、大聖女さまが南東部の国の情報に通じていらっしゃるのでしょうか?」
頭を抱えたくなるのを我慢して、大聖女さまでしかない彼女がどうして大陸南東部の国の出来事を知っているのだろうか。
「教会関係者も帝国との邂逅の場に同席しており、情報を得やすい状況下にありましたから」
苦笑いなのだろうか。何とも言えない表情を浮かべて、私を見据える大聖女さま。矢面に立たされることになりそうだなと、私も何とも言えない顔になる。
大陸南東部の教会から聖王国の教会経由で情報を得たのだろうけれど、何故大聖女さまがわざわざそんなことをしたのだろうか。ぶっちゃけてしまえば大陸南東部のことなんて知ったことではないだろうに。彼の国が亡国になるならば、聖王国の人間を自国へ帰還命令を出せば良いだけ。
東大陸の情報は手に入れ辛い筈なのに、黒髪黒目を仰いでいると大聖女さまが知っていた理由も気になる所だけれど。何にせよ、知らせてくれた事には感謝しなければならないのだろう。時間があれば対策が練れるだろうし。
「なるほど。聖王国は優秀な耳をお持ちのようで羨ましい限りです」
ヤバい人たちを一掃した為なのか、きちんと機能しているようで何よりである。彼女がちゃんと聖王国の教会を立て直したというならば、アルバトロスの教会も見習って立て直さないとなあ。まだまだ道途中だし、決めなきゃいけないことややらなきゃいけないことが沢山ある。
「ありがとうございます。――帝国がどう出て来るのかが全く予想が付きません。何卒、お気を付けくださいませ」
しずしずと頭を下げる大聖女さまを見ている。大陸南東部の問題だから関係ないと高を括っていたけれど。コレはガチで関わることになってしまうのだろうかは謎だけれど、面倒なことにならなきゃ良いのだし、帝国との距離はある。
幾つか帝国についての情報を彼女は口にした後は教会関係者と少しやり取りを交わし、話は終わったとばかりに、大聖女さまご一行は聖王国へと戻って行った。また何かしらの情報を得たらお知らせしますと告げて……。