魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0184:甥と叔父の見解。

帝国の奴隷問題やピンポイントで狙われているかのような黒髪黒目信仰は取りあえず棚の上。

 

 ただ外務卿さまは慌ただしく働いているようで、光が当たるのは嬉しいけれど激務過ぎて笑いが止まらないと周囲に愚痴っているそうだ。

 帝国が攻めてきた際にはアルバトロス周辺国家と共同歩調を取るそうな。大陸南東部の国には勝手に私の存在を帝国に教えたことの抗議文書を送ると、向こうの国の使者の方がアルバトロスへやって来て平謝りを敢行したとかしないとか。

 

 私は謁見場へ招かれなかったので真実はよく知らないけれど、使者さんは陛下や公爵さまに辺境伯さま方たちに嫌味を鱈腹頂いたとか。

 冒険者ギルド本部へと足を向けた際に亜人嫌いを拗らせた末に、代表……――名前で呼んで欲しいと乞われていた――ディアンさまたちに突っかかってきた人が所属する国なので良い印象はない。なので使者の方がアルバトロスで胃に穴を開けて血反吐を吐いても――治癒は施すけれど――私は知らないしというスタンス。

 

 「リン、いい加減に機嫌を直してよ」

 

 「……む」

 

 どうにも私が先日言い放った『舌を噛み切って死ぬ』が彼女に痛く効いたようで。リンの腹の虫が治まらない時は一緒に寝れば翌朝には機嫌を直していたというのに、今回は長引いている。ジークも『知らんぞ』と言いたげな視線を寄越しながら護衛を務めていた。

 

 「リン、リーン。リンさーん」

 

 学院から子爵邸へと戻って、リンの後を付けている。足の長さが違うので彼女が大股で歩くと、私が小走りになるのはいつものことで。邸で働く人たちが何事かと一瞬こちらを見るけれど、遊んでいるのだろうと勘違いされたようで微笑ましい視線を向けられた。

 

 『ボクが言い出したことだけれど、ナイは考えなしでモノを言う時があるよね』

 

 私の肩に乗ったまま、私へ声を掛けたクロはリンへ視線を向けたままだった。

 

 「クロ。私、そんなに考えていないように見えるの?」

 

 私はそんなにちゃらんぽらんなのだろうか。真っ当に生きてきたつもりだし、これからも真面目に生きていく予定だというのに。ただ誰かに迷惑を掛けるくらいなら命を終わらせる……私、周囲に迷惑掛けまくっているかもしれない。

 ソフィーアさまはしょっちゅう頭を抱えているし、陛下もなんだか口の端が引き攣っているし。セレスティアさまや公爵さまは楽しそうにしているから、主に真面目な方たちに負担を掛けている。

 

 『うん』

 

 言い切った。言い切られた。アレは考えあっての言葉だったというのに、酷い。とはいえクロも本気で頷いた訳ではないだろうけれど。

 

 「リーン、リン、リンってば~」

 

 「…………」

 

 あちゃあ。こりゃ本格的に拗ねてるなあと苦笑い。何故か子爵邸の外に出てずかずかと畑の方へと歩いて行くリンの後を、ストーカーのように堂々と付いていく。途中でエルとジョセとルカに会ったけれど空気を読んでなにも言わずに見送ってくれた。

 いつも声を掛けてくれるのに、本当に人間以上に出来ているというか。ありがとうと目を伏せながら、リンの後ろ姿をまだ追う私。畑に辿り着くと、畑の妖精さんたちが一生懸命に作物の世話をしている。

 

 「いい加減に機嫌直してよ、リン」

 

 「……怒ってないけれど……ナイは不意に居なくなりそうだから怖い」

 

 「そんなつもりはないよ。アルバトロスに根を張るつもりだし」

 

 リンは私が亜人連合国へ使者として出向いた際や幼い頃の私に不安を抱いていたようだ。どうにも地に足が付いた生き方をしていないと常々感じているそうで。言われた本人には全くそのつもりはないのだけれど、そんなに危なっかしいのだろうか。日々、こういうことを感じているからか、先日の私の言葉が妙に真実味を帯びてしまったらしい。

 地に足を付けているつもりだけれどね。ただ不可思議現象や自分の考えている方向とはまったく違う方向へと進んでしまっているだけで。ただ、人間は突然死ぬことだってあるのだから、リンは私が居なくなった後の覚悟は出来ているのかどうか。まだ若いしそういう実感はないのかもしれないが、若くして死ぬなんてそこらに転がっているから。

 

 「本当?」

 

 個人的には騎士科で友人の居なさそうなリンの方が心配だ。私も友人と呼べる人が少ないので人の事は言えないけれど。爵位を貰った上にお屋敷まで賜っているし、捨てられないものが出来てしまった。聖女になり立ての頃とは状況が違う。

 

 「うん。中途半端に逃げ出すのも癪だしね」

 

 子爵邸で雇っている人たちに、貧民街から救い上げた子供たちに元奴隷の子。孤児院にも寄付しているのだから、途中で辞めてしまってどこかに逃げるのは何か違う気がするから。拾った野良犬や野良猫ではないけれど、最後まで責任を持って面倒をみないと。

 

 「……でもやっぱり危なっかしいから、傍に居る」

 

 結局そこに帰結するのねと苦笑い。

 

 「そんなことはない筈だけれどね。私の周りで問題が起こり過ぎているってだけで」

 

 クロの件しかり目の前の畑や辺境伯の大木とか、まあいろいろと。それに何かこれから起こりそうな予感もするし。

 

 『ヤル』

 

 畑の妖精さんが足元へとやって来て何かを差し出した。ただの雑草に見えるけれど、この畑で採れたものが草であるはずもなく。

 

 「何だろう?」

 

 「草にしか見えない」

 

 『多分、薬草だよ。ボクは詳しくないけれど何回か見たことがある』

 

 リンとクロと私で首を傾げながら妖精さんが差し出してきた草を眺める。結局、子爵邸では持て余すだけなので王城の薬師さまに解析をお願いすることに。

 数日後、雑草の正体はモーリュと呼ばれる薬草だそうで、毒や魔法を打ち消す力があるのだそうな。珍しいので売ってくれと頼まれたけれど、妖精さんたちが一生懸命に育てた為に沢山生えているから、研究材料として使って下さいと手紙を認めると大層喜ばれたそうな。

 

 ◇

 

 ――東大陸の連中が手を出してくるのか否か。

 

 まあ十中八九手を出してくるだろうなあ。帝国が興味を示しているのは黒髪の聖女なのだから。しかし話を持ってきた聖王国の大聖女は何故帝国の事情に詳しいのか。帝国のある東大陸とこちらの大陸は基本的に不干渉を決め込んでいる。いつからそうなったのか、何故そうなったのかは定かではないが、昔からそうだったのだから。

 

 ただナイが報告に上げた話は興味深いものだった。黒髪黒目は古代人の特徴で、ナイはその血を色濃く宿している可能性があると。

 多大な魔力量と竜や亜人たちに懐かれている原因はソレだろうと考察されていた。亜人連合国礎の竜が言うのだから間違いはないのだろうて。何千、何万年の時間を生き朽ち果てた彼の竜が言うことである。

 

 「さて、どうしたものかのう」

 

 取りあえずは外務卿が周辺各国へ根回しを行っている最中である。大聖女からの情報だと帝国は航空戦力を有しているが故に、制空権を取られると大陸の国々は苦しい戦いとなると厳しい表情を浮かべて言っていたが。

 アルバトロスでは竜騎兵隊がようやく形となってきておるし、竜騎兵隊に魔術師を乗せれば簡易的に遠距離攻撃の出来る空中戦をけし掛けられる。帝国の飛行艇がどのようなものなのかはさっぱりと分からんが、後れを取ることはそうないはず。

 

 「叔父上、何故そのように楽しそうなのですか……」

 

 アルバトロス王国の頂点に立つ王が、そのような眉を下げて気弱そうに言葉を吐くでない。ワシの顔を見て深々と溜め息を吐く甥であるが、やることはやっているのである。

 執務室には人払いをさせているから問題ないが、あまり溜め息を吐いていると幸せが逃げていくぞ。ナイが言っていた言葉であるが、王族や貴族には無縁のものかもしれんな。個人の幸せよりも国への貢献が務めなのだから。

 

 「軍には訓練を怠るなと発破をいつも掛けているから良いとして、近衛騎士や騎士団の連中は腑抜けておらんよのう?」

 

 「それは勿論です。――ただ空中戦となると厳しいものがあるでしょうか」

 

 随分と様にはなってきた竜騎兵隊だが、ワイバーンの数もまだ少なく大編隊を組めるのはまだ先。対抗手段がないよりはマシだろうに。竜騎兵隊にヴァレンシュタインを乗せて空を飛べば、高笑いをしながらヤツは帝国の飛空艇を沈めてしまいそうだが。

 最近、研究ばかりで魔術を放てていないと愚痴を零していたので、お前さんに忠誠を誓うとかなんとか言ってヤツは嬉々として戦場に立つぞ。

 

 「まあ、帝国が攻めてくるには時間が必要だろうて。その前に外交的接触が必ずある筈。――どうするのだ?」

 

 「黒髪の聖女を帝国へ引き渡すなどあり得ません」

 

 そうだ、あり得ない。ナイは週に一度の城の魔力補填の他に、亜人連合国との繋がりを結んだ。ナイが居なくなれば亜人連合国は自国へ戻ってしまうだろう。幼竜がナイの下で過ごしているとはいえ、どうなるか分からん。

 アルバトロスは黒髪の聖女を失う訳にはいかないのだ。黒髪の聖女が東大陸へ行ったとなれば、リームも五月蠅いだろうし、ヴァンディリアも黙ってはおらん。聖王国もどういう反応を見せるのかわからないし、冒険者ギルド本部も我々に何を言ってくるのやら。

 

 「ああ、あり得ぬな。ナイをむざむざと帝国に取られてみろ、笑い者も良い所だ」

 

 欲のある国は、アルバトロスは弱体化したと言って周辺国を纏め攻め入ってくるかもなあ。まあ、むざむざと負けはせぬし、防衛側なら負ける気もせんが。

 

 「良からぬことを考えておりませんか?」

 

 くつくつと笑うワシに、じっとりとした目線を向けてくる。甥は一度くらいは命のやり取りをするべきかもなあ。国の頂点に立つ身故、前線になど出れぬのが痛い所か。

 

 「良からぬこと、のう。どうせなら帝国へ攻め入って痛い目を見て貰うかのう」

 

 今や竜騎兵隊が存在するのだから不可能ではない。大陸南東のあの馬鹿な国を脅して、帝国への足掛かりにすれば不可能ではない。

 彼の国へは抗議をしておいたが返事はまだなく、時間を経過させて有耶無耶にでもするつもりなのだろう。馬鹿な国よなあと目を細めると、何故か甥がまた溜め息を吐いた。

 

 「駄目ですよ。そもそも距離がありすぎます」

 

 確かに。だが、方法を思いついてしまったのだから試してもよかろうに。まあ命令が下らなければやらんがな。

 

 「冗談だ。――兵站が持たぬことなど百も承知。だが、ナイが居れば馬鹿な魔力量で殆ど補える」

 

 転移魔術陣を施して物資輸送すれば解決してしまう。本当に魔術というものは便利である。あくなき研究で魔術の発展を導いた魔術師には頭が上がらぬよ。魔術がなければ、もっと原始的な戦い方しかできぬだろう。

 

 「叔父上……彼女を戦場に出すおつもりで?」

 

 「必要ならばな」

 

 力を持つ者の義務として、必要ならば命を下して戦場へと立たせるさ。聖女は兵士を癒す存在ではあるが、治してまた戦場へと送り込む役目も担っている。精神が弱ければ泣き言をいうかもしれんが、あ奴は達観している部分がある。

 命令を下せば、嫌な顔をしつつもきちんと役目を全うするし、考えている以上の戦果をあげるであろう。

 

 「戦場になど出させませんよ。――帝国には手を出させるつもりなど微塵もありません。外交的手段を講じて防ぎます」

 

 魔物を殺すのと人間を殺すのは少し違う。戦場に立ち、初めて人間の肉を切ったあの時の感触を今でもワシは覚えておる。魔物の時は何の感慨も浮かばなかったのに、どうしてだか手に着いた血の重さが記憶に残っていた。

 だが次第に慣れてしまう。何人斬ったのかなんて覚えてはいないし、どんなヤツを斬ったのかも覚えていない。若かったころはまだ情勢も安定していなく、仕方なかった。戦場で死んだ友も居るし、部下も上官も死んだり運よく生き残っていたり。平和は尊い。たかが二十年やそこらでも安らげる時間があるのだから。

 

 ――だが。

 

 攻めてくると言うのならば別である。問答無用で屠れば良い。宣戦布告を行い受けたものならば、合法的な戦なのだ。

 他国からも文句を言われる筋合いもないのだから、両者が折り合いの付ける所まで殺し合いを始める。そもそも戦争は外交の延長線。手段のひとつなのである。

 

 「おや、どうしたね。珍しくやる気ではないか」

 

 「亜人連合国がどうでるのか分かりませんからね」

 

 なんぞ、お前さん的には帝国よりもそっちが問題なのか。確かに怖い存在よのう。竜の数は少なくなっているとはいえ、一個の戦力が高すぎるのだから。協力してくれと言えれば簡単だが、頼り過ぎるのも問題である。

 

 「さっそくですが帝国が黒髪の聖女との面会を望んでおります」

 

 「やはりか。――馬鹿が代表としてやって来てくれれば、痛い目にあわせることが出来るのだがなあ……」

 

 馬鹿が来れば攻め入る絶好の理由を、我らアルバトロスに齎してくれる。無理矢理に帝国へ連れて帰ろうとしてみろ、抗議どころか戦争まっしぐらよ。

 

 「はあ。血の気が多すぎやしませんか? きちんと段階を踏んでください」

 

 「いや、普通だろう。お前さんが平和主義なだけだろうに。――で、どうするのだ?」

 

 「相手の出方次第と言いたいですが、黒髪黒目を信仰しているのです。会わせてみて判断するしかないでしょう」

 

 はてさて、帝国からはどのような使者が送られてくるのだろうか。ワシが対応して、碌でもないヤツを送って来たのならば首を切って送り返すのも一興かもしれん。余計な事をしないで下さいという意味の視線を飛ばしてくる甥に苦笑しつつ、執務室を後にするのだった。

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