魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――帝国の使者が来る。
公爵さまの口からそう告げられたのが数日前。そろそろ冬休みになろうという頃だった。外交ルートを通じて帝国から打診されたそうだ。アルバトロスに向かうから黒髪の聖女に会わせろと。
公式の書面だからきちんとした物言いだと思うけれど、帝国への信頼度が低い所為か凄く上から目線で言われているような気がしてならない。アルバトロスを見下すような態度ならば会う必要もないのではとも考えてしまう。
「騒がしくなりそうだな」
「ええ。ですが強国を相手にするのもまた一興。手を出すと言うのならば、何倍にもしてやり返すだけですわ!」
子爵邸の執務室内で、常識人とパワフルな方との差が大きい発言だった。私は何事もなく穏便に済んでくれればそれでいいと願っている。
この知らせがきた時から、王城は警備体制や迎えの方法などを協議しているようで、お偉いさん方やその下に続く方々が忙しそうに城内を走り回っている。私はそれを横目に城の魔術陣へ魔力を補填してきた訳だけれど。いつもの空気とは違う王城内に違和感を感じつつ、ああもうすぐ帝国の使者がやってくるのだなあと実感していた。
「どうなるのでしょうか」
本当に。戦争なんかになったりしないよねえと、遠い目になる。なったらなったで聖女として戦場へ駆り出されるだろうから、聖女として向かうことになるだろうけれど。
私は良いのだ。後方で治癒魔術を施しているか、前線で防御魔術陣を張っているかのどちらかだろうし。問題はジークとリンである。私に命の危険があると分かれば、二人は真っ先に敵に切りかかっていくだろう。
戦争をしているのだから、人殺しなんてという綺麗ごとを言うつもりはない。ただ人を殺した後のメンタルが持つのかが心配だし、某戦場に出た新兵の平均生存時間が十六分なんてことを耳にしたことがある。守る自信はあるけれど戦場では何が起こるか分からないので、どうしてもそういう最悪の事態を考えてしまう訳で。
「普通なら穏便に済むだろうが……」
「……帝国の興味の対象が貴女ですものねえ」
ソフィーアさまが残念そうな視線を向け、セレスティアさまが鉄扇を広げて口元を隠す。まあ黒髪黒目信仰というピンポイント過ぎる狙いに乾いた笑いが止まらないけれど。私を見つけてからのアクションが早いから、帝国も必死なのだろうか。
『その時はボクがおっきくなってみるよ。脅せば逃げてくれるかもしれないし』
大きくなれるのか。大きくなれるということは小さくなれると言っているような気もするけれど。
「ありがとう、クロ。アルバトロスの問題だからね」
亜人連合国に所属しているクロに協力してもらうのは気が引けるような。いままでさんざん代表さまたちを頼っていたけれど、解決できるならば自力で解決すべきだし。
『そうだけれど、ナイの問題でもあるでしょ』
「まあね。でも使者の人はマトモな可能性もあるんだし、取りあえずは会ってどんな人たちなのか判断しないと」
戦争やら外交問題はその後で良いのだろう。あと元奴隷の子たちも預かっているのだから、あの子たちが帝国へ戻りたいというなら使者の方に預けるのも一つの手だよねえ。無理難題を要求されそうで怖いけれども。
「ああ、そうだ。先生がナイに教えたい事があると言っていた」
「あの件ですの?」
ソフィーアさまが副団長さまが私に用があると伝え、セレスティアさまも用件の内容は知っているようだった。
「教えたい事、ですか」
教えたい事ってなんだろうか。魔術に関してならば中級までなら攻撃系の魔術を過不足なく扱えるようになっている。ロゼさんは高威力の攻撃魔術を何度もぶっ放して、魔術師団に所属している方たちを驚かせていたけれども。
あと古代魔術にも興味を示して、少しづつ術式の解析や構築にチャレンジしているようだ。ロゼさんは現代魔術よりも古代魔術の方が私に合うのではと言っていたけれど、果たしてそうなのか。
「そうだ。子爵邸の観察に来たついでに伝えると言っていたから、そろそろじゃないか?」
ソフィーアさまが言葉を言い終えると同時に、扉の向こうからノックする音が部屋に響いた。侍女の方で、副団長さまと何故かお姉さんズがやってきているそうだ。理由が分からないけれど、待たせると悪いのでお迎えに行くかと立ち上がって応接室を目指す。
「ああ、聖女さま。突然の面会申請、申し訳ありません」
「いえ、お気になさらないで下さい」
副団長さまがソファーから立ち上がって頭を下げたので、私も小さく頭を下げる。
「ナイちゃん、私たちを忘れないで欲しいわ」
副団長さまの後ろに立っていたダリア姉さんが、彼の背から身体を斜めにして顔を出していた。
「そだよ~。折角名前で呼べることになったのに」
あ、気軽に名前を呼んでくれて良いからねとお姉さんBもといアイリス姉さんが。
「ダリア姉さん、アイリス姉さん、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「こんにちは~」
ふふふと笑いつつ、私を左右に取り囲む当たり素早いというかなんというか。副団長さまがやれやれという視線をこちらに向けているけれど、お二人は全く意に介していない。まあお姉さんズだしなと思える辺り、彼女たちとの付き合いが長くなっているのだろう。
「陛下から身を守る手段を講じろと命じられまして。僕から魔術を習っていますが、最近聖女さまは古代人の先祖返りと分かりましたので」
気付かなかったのは迂闊でしたと副団長さま。私の魔力量や不思議現象の方へ目を取られていて、黒髪黒目の方へ興味が向かなかったみたい。古代人ということは起源の古い古代魔術やエルフの方々が行使する魔法の方が私に合っているらしい。
陛下は私が帝国の使者と面会することに対して、取れるだけの手段を取るようだ。副団長さまが私の下へ派遣されたのも、その一環らしい。そそくさと副団長さまが私に近寄って来たと同時にロゼさんが私の影の中からひゅばっと出てくる。
『ロゼの出番』
着地の際に何度か身体を揺らしつつ、言葉を口にした時はまるで私を見ているように体を少し縦に伸ばした。
「ロゼさんも古代魔術の解析に一役買ってくれましたからねえ」
一人と一匹でいつの間にそんなことを。どうやら共同作業をしていたようだ。私の肩に乗っているクロが顔に頬ずりしてきたけれど、ロゼさんが居るとしょっちゅうこうしているから放っておく。
エルフのお姉さんズもやる気満々だし、こりゃ逃げられないなあと諦めた。そうしていつものメンバーと副団長さまにエルフのお姉さんズで王城内にある魔術師団の訓練場へと向かって。
「……高威力過ぎませんか」
教えて頂いた古代魔術を一発放つ。副団長さま曰く、初級の魔術に当たる代物らしいが、扱いやすく通常の魔術と比べると威力が段違いだった。
「聖女さまの魔力が規格外ですからねえ」
ぷすぷすと煙を上げる的とその後ろにそびえ立っていたはずの石壁が消し炭になっている。やはり私に魔術のセンスは皆無だなあと苦笑いをしつつ、興味を抱く面子と呆れている面子にもっとやれーと囃し立てる人。
お姉さんズはお姉さんズで、次は魔法ねとルンルンで私を見ているし。止められれる人が居ないなあと心の中でぼやきつつ、お姉さんズから教えを受ける。魔法も使いやすいけれど、攻撃特化という感じはしない。それよりも付属機能の方がエグイ。相手に当たるまで自動追尾とか魔術ではなかなか出来ない効果を有していた。魔術でも出来るけれど、術式が複雑すぎてかなり難しい部類に入り、使いこなせる人が少ないと聞いている。
この場に居る人たちの反応はそれぞれ。更に魔術師団の訓練場を破壊することになるのだけれど、私の名誉に関わるので多くを語らない方が良いだろう。
◇
帝国の使者がやってくるということで、私たちはお城でお着替えをしている所だ。王城で働く侍女さんたちの手による着替えは凄い。いつもと同じ衣装を身に纏っているというのに、何故だかピリッと服が立っている……とでも表現すれば良いのだろうか。
私の側に控えるソフィーアさまとセレスティア、ジークとリンも侍女さんたちの手に依って式典用の礼儀服を着ている。身長が高いし、顔が小さく手足が長いので様になっているのが凄く羨ましい。
アルバトロス上層部も教会の面々もかなり気合が入っており、帝国の使者を迎え入れるそうで。教会関係者の参加は私が聖女だからということで、動向を見守るらしい。
何故かメンバーの中にアリアさまとロザリンデさまに他数名の聖女さまが一緒に見学するらしいのだが、帝国の動き次第で碌な事にならないのだから大丈夫か心配である。今回は騎士だけの護衛ではなく軍からも動員するようで、本当に厳戒態勢。
あとは子爵邸で預かっている帝国の元奴隷の子やアルバトロスで保護した元奴隷の人たちも一緒。希望者は帝国へ戻れるようにと陛下が帝国へ打診をしたら、受け入れてくれたそうだ。やはり異国の地よりも母国の方が良いようで。
案外話が通じる相手なのだなあと感心したのだけれど、帝国へ戻ってまた奴隷身分に落とされやしないかだけが心配である。
帝国の使者がアルバトロスに来るのは良いけれど、海を挟んだ向こう側からやって来る。方法は飛空艇による大陸横断。燃料が持つのか不思議だったけれど、燃料補給を受けずにこちらへ一足飛びで来れるあたり、帝国の技術力は凄いのかも。
「なんだか緊張してきた」
『大丈夫?』
私の肩に乗っているクロが心配そうに見ている。今回、クロはお城でお留守番である。向こうがクロを見てどういう反応を見せるか分からないので、代表さま……ディアンさまたちに預けるのだ。
帝国が私を目的としてアルバトロスへやってくるという話を聞いたディアンさまは、陛下にコンタクトを取って許可を得たのだとか。
クロ本人は渋っていたけれど、竜を見て欲しいとか言い出しかねないし、余計な問題を引き起こさないようにという対策だ。以前に副団長さまに作って欲しいとお願いした魔術具の失敗作を使って、帝国との会談風景を代表さまたちが控えているお城の一室に流す。
そこでは陛下や第一王子殿下方と一緒に観るそうで。映像中継の魔術具はお婆さまが持つことになった。妖精さんだから向こうの人たちに見えない可能性が高いので、余計な警戒をされず都合が良いとのことで。
映像を流すことは出来るようになったけれど、映像を撮るということは難しいらしく、もう少し時間をくれとのこと。
急いでいないし構わないのだけれど、映像を流す方が難しそうだけれどなあ。魔術具の制作は門外漢なので、副団長さまたちに頑張って頂くしかないのだけれど。
「私がどうなるか次第で戦争の可能性もあるから、どうしてもね」
『確かにそうだけれど。そんなに簡単に戦端が開くかなあ?』
本当にどうなのだろう。向こうがどんな国か分からないのが、不安を駆り立てる。
「ナイ、その為の外交だ。いきなり開戦などありえんさ」
「向こうも貴女と接触する為の人員しか用意していないでしょうし、距離もありますから」
ソフィーアさまとセレスティアさまが私の言葉を否定する。不安を払拭する為なのだろうけれど、彼女たちもまた帝国という未知の国に何かしら思う所はあるのだろう。
数日前から同じような会話を繰り返しているなあと苦笑い。ジークとリンはいつものように、私の後ろで護衛を務めてくれる。相手が妙なことをしたら直ぐに首と胴体がお別れしそうな勢いの雰囲気があるから、やはり緊張はしているようだ。
「聖女さま方、お時間でございます」
呼びに来てくれた侍女さんにお礼を言って部屋を出る。途中、ディアンさまとお姉さんズに会う。アルバトロスの王城で会うのは初めてかもしれない。妙な感じがするなあと苦笑いをしつつ、背の高いディアンさまの顔を覗き込む。
「気を付けて。――相手がどう出てくるか分からぬのだ、用心に越したことはない」
「はい。クロをお願いします」
ああ、と言ったディアンさまへクロが飛んで行く。何だか肩が寂しい気もするが、クロの安全の為だ。
「ナイちゃん。危なくなれば魔法を遠慮なく使いなさい」
「そうだね~。相手が先に手を出したんだから仕方ないよ」
ダリア姉さんとアイリス姉さんの考え方は随分と攻撃的。ただ賛同する人が何人か居そうだよなあと遠い目になる。そうならない為の会談なのだし、無事に終わることを願うしかない。
『気を付けてね、ナイ』
「うん。クロも」
ディアンさまとお姉さんズと一緒なら絶対に大丈夫だろうけれど一応。ぱっと現れたお婆さまがクロの代わりに私の肩のあたりで飛んでいる。
『本当に話題が絶えないわねえ』
「お婆さま……」
否定が出来ぬまま彼女をジト目で見ると、疑問符を浮かべている。マンドラゴラもどきの時はお婆さまが原因だったし、他にも『面白そうだから』と言って問題を引き起こそうとしている時もあるのだから。
お城の外に出て王家が用意してくれた馬車へと乗り込んだ。会談の場は外という何とも言えない扱いではあるが、帝国も了承済み。ディアンさまたち竜の方々が以前王都に降り立った場所である。
中に乗り込んで揺られること暫く、馬車から降りる。会談に同席するメンバーは公爵さまを筆頭に外務卿さまや、宰相補佐さまと名だたるメンバーであった。
「来たな」
公爵さまが空を睨んでいる方向を、私も見ると寒い日の晴れた青い空に黒点がどんどんと大きくなっているのが見えた。飛行ルート下にある国にはアルバトロスから通達が済んでいるので、騒ぎにはなるだろうけれど問題にはならない。
今までが今までなので、使者の方がマトモであるようにと願わずにはいられない私だった。