魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
帝国の使者の方たちが帰って行った。割とあっさりと戻って行ったので拍子抜けであるが、数日後には事後処理が始まっていた。
そう小麦畑のあの惨状である。飛空艇が着陸する為に小麦畑が随分と駄目になった。大国らしく補填費用は払ってくれるけれど、お金を払うだけで知らぬ存ぜぬである。小麦畑の持ち主の人たちは涙目だろう。収穫量が減る=収入が減る、なのだから。
食べ物は大事に精神の私はコレを痛く問題視した訳である。
飛空艇に潰された青い小麦の芽が悲鳴を上げているように見えてしまったし。まずは抉られた土を元に戻すことが真っ先にやることだなあと、王城の外へ出ていた。
人手は軍の皆さまが駆り出されたらしく、上半身裸の人たちが一生懸命小麦畑の土を均していた。公爵さまが統括している軍の方たちは、騎士の方たちに負けず劣らず筋肉が付いている。
訓練で身についた筋肉なので、自然な筋肉の発達の仕方だった。これが見せる筋肉ならば、あんなに美しくは仕上がらないだろうなあと妙な事を考えていた。
「ナイさま! 凄い人手ですねえ」
アリアさまが感心したように私に語り掛けた。
「アリアさま。そうですね、軍の方々のお力で随分と元へ戻っておりますから」
まだまだ先は長そうであるが。私の隣でロザリンデさまも、この光景を眺めているのだけれど随分と熱心なご様子。箱入りのお貴族さまだから、こういう景色は珍しいのだろう。
『では私たちも手伝いましょうか。ジョセはあまり無理をせずに』
エルがジョセの方へ向いて話しかけている。ルカはまだ幼いので子爵邸でお留守番だ。ここ最近、畑の妖精さんたちと戯れることを覚えて、楽しそうに庭を駆けまわっている。
妖精さんたちは命の危機を感じているのか、必死になって逃げていた。そしてその姿を爆笑しながら指を指してお婆さまが笑っている。まさしく子爵邸の庭は混沌とした雰囲気。突っ込むのも面倒になって放置しているのが現状だけれど。みんな慣れたのか何も言わないし。
『ええ。でも子爵邸で過ごしているからでしょうか、回復は随分と早いのですよエル』
天馬さまのエルとジョセが事情を聞くと協力を申し出てくれたのだ。農機具を牛や馬の代わりに引いてくれるそうで。通常の馬や牛よりも力があるし、なにより言葉が通じるのである。的確な場所を耕してくれるに違いない。
アリアさまやロザリンデさまも、天馬さまが農機具を使って人間の手伝いを名乗り出たことに驚いているようだ。が、しかし。一番ショックを受けているのはセレスティアさまだったりする。農機具を天馬さまが引くという光景が見るに堪えないものらしい。ソフィーアさまの隣でブツブツと呪詛を吐いていた。
『聖女さま~!』
「どうして、貴方たちが。訓練は良いの?」
何故か王城の片隅の位置からワイバーンたちが飛んできて静かに降り立った。その数、二十頭。代表さま、もといディアンさまからワイバーンは成長が早いと聞いていたけれれど、早すぎではなかろうか。
『今日の訓練はお休みなんだ。幼竜さまからお話を聞いていたから、暇だし手伝おうってみんなで決めたよ』
私の身体に顔を擦り付けてくるワイバーン。ふと、この光景に感じるものがありクロを見るけれど拗ねてない。あの拗ねはロゼさん限定のようだから、やはりロゼさんは特別なのかも。まだまだ力を身につけそうだし、恐るべきスライムさんである。
『手伝う~!』
『何をすれば良い?』
何故か私の周りに集まってすり寄って来るワイバーンのみんな。本当に人懐っこいし、賢いからこうしてお手伝いまでお願いできる。彼らが何を担うのかは、陣頭指揮を執っている軍の方に相談しないと。私が勝手に判断する訳にはいかない。
「そっか、ありがとう」
『みんな協力ありがとう』
私とクロがワイバーンのみんなにお礼を伝えると、集まっていたワイバーンが目を細め、順番に私の身体に顔を擦り付けた後、クロと鼻先をちょんと触れ合っていた。
『気にしないで。聖女さまの家で採れたお野菜とか貰っているし、一番嬉しいのはワイバーンの数が順調に増えているしね。そのお礼』
畑の妖精さんが頑張る為にお野菜さんは飽和状態となっている。エルやジョセにルカが食べる分、子爵邸で働く人たちが持って帰る分や子爵邸で使う分、公爵さまや辺境伯さまへのお裾分けのものを確保しても余っている。
ならば有効活用しようと、間引きしたお野菜さんや不格好なお野菜さんはワイバーンのみんなの下へ届けていたのだ。世話係の方が、食欲が随分とあるから助かると喜んでいた姿が記憶に新しい。
副団長さまもこの話を聞きつけて分けて欲しいと零していたが、薬草は率先して渡しているというのにお野菜にまで興味を示すのかと笑った所だ。余っているから問題ないけれど。
子爵邸で採れた野菜の種を男爵領でも育て始めている。報告によると普通の物より生育が早いらしい。収穫が楽しみだし、男爵領の人たちの腹を満たせることが出来るならそれで良いし、副収入と考えているならばそうすればいい。
代官さまに任せてお金だけを出している状態だけれど、名主の方に農業系の本を送って技術を高めるようにと伝えてある。あとは男爵領民のやる気次第で、化ける可能性があると期待してる。
「お嬢ちゃん、あっちの整備が終わったぞ」
なんだか久方振りに隊長さんに会った気がする。前に会ったのは大規模遠征の時だけれど、教会の枢機卿さまにお金を取られた際に協力をお願いした一人でもある。私はその時顔を合わせていないけれど、随分と力となってくれたらしい。
「隊長さんもお疲れさまです。――今行きますね」
「おう。しかし、面白い事を思いついたなお嬢ちゃんも。ま、悪いことに使うよりは全然良いんだが、やり過ぎるなよ」
なんで隊長さんにまでそんな心配をされているのやら。しかも周りの視線が痛いのだけれども。好きでやらかしている訳じゃないやいと心の中で叫びつつ、今回は目的があるので突込みは無し。指定された場所へ、アリアさまとロザリンデさまに魔力量が高いと言われている聖女さまたちと歩いて行く。
今回の事を重くみた上層部や教会に話を付けて、魔力を込めながら種籾を播いてみるのはどうだろうかと提案していた。協議の後に私の意見は採用され、今に至る。
「聖女さま方、ウチの小麦畑にわざわざご足労頂き申し訳ありません」
「いえ。何の効果もない可能性もありますから、あまり期待はせずに……」
畑の持ち主――領主さまが居るから意味合いは違うかもしれない――に頭を下げられるけれど、試験的な取り組みなのであまり期待しないで欲しい。教会の統括が農家出身だからか、小麦の種籾の播き方をレクチャーしてくれた後、種籾が入った籠を渡されてた。
――よし、気合入れないと。
折角丹精込めて種を播き息吹き始めていた小麦の芽が無残な姿を晒していたのを見た、農家の方々の思いはいかばかりだろう。
魔力を込めながら播けば生育が早くなるかもしれないという、短絡的な考えだけれど効果があると良いなあ。昔話の花咲じいさんではないけれど、ちゃんと芽吹いてくれればそれでいい。
「ナイさま」
アリアさまに声を掛けられ、ロザリンデさまを始めとした聖女さま方の顔を見渡し。最近、王族の傷跡を綺麗さっぱりと治したアリアさまの評価がうなぎ登りらしい。傷を負っても治るという安堵感がお貴族さまの中であるようだ。ただ面倒なことになるかもしれないので、王国上層部は対応策を考えているそうな。
「じゃあ、みなさん。――よろしくお願いいたします!」
元気よく声を出して魔力を練りながら種播きをみんなで始めるのだった。
◇
手作業で種籾を播くって、こんなに大変なのか。
田舎の小学校だったので授業で田植えを行ったことがあるけれど、その時は直ぐに終わったことと物珍しさできゃっきゃっと騒ぎながら苗を植え付けたから。
トラクターのような機械で畑を均した訳でもないから、足元が余計に悪いというか。靴も確りとしたものじゃないし、この国の農家さんたちの大変さの一端を味わった気がする。機械工学が発展するのはもっと後の時代だろうし、まだまだこうした手作業で行うのだろう。知識さえあれば農機具の開発をすれば一儲け出来そうだけど、私の残念なおつむでは無理なことで。
「ちゃんと芽吹いてくれると良いのですが……」
「ええ。まさか聖女として種籾を播くことになるだなんて夢にも思いませんでしたわ」
種播きを終えたアリアさまとロザリンデさまが、畑の畔に座り込んで言葉を交わしている。他の聖女さまたちも種播きが終わったことで各々休憩をとっていた。最初は言い出しっぺの私が一人で行うつもりだったけれど、実験ついでに他の聖女さまたちも巻き込んでしまえと王国上層部と教会は決めたようだ。
思い切ったことを敢行したなあ。お給金が支払われるから、聖女さまたちが参加すればするだけ、費用が嵩むのだけれど。小麦畑の惨状を見て帝国の使者の方が補填費用を払うと言っていたから、公爵さまたちとの話の付け方次第で全額帝国持ちなんて話になっていれば愉快だけれど。
『聖女さま、お疲れさまでした』
『お疲れさまです。――きっと良い小麦が収穫出来ますよ』
「エルとジョセもお疲れさま。種を播く時期がズレてるからどうなるか分からないけれどね。元の収穫量を確保できていれば、一先ずの問題は解決かな」
エルとジョセがこちらへやって来た。畑仕事の後の白い馬体は、土の汚れが目立ってる。
「屋敷に戻ったら、土を落とそうね」
彼らの身体に付いている土を手で軽く払い落していると、エルとジョセが更に近寄ってくる。このまま過ごすのは気持ち悪いだろうし、せっかくの白い馬体が残念なことになるだろう。セレスティアさまも二頭の姿を見て、八十年代頃の漫画のショックを受けたヒロイン見たいな顔になっていたから、彼女の尊厳を守る為にも落とさないと。
『申し訳ありません。どこか水場があれば良いのですが、この辺りには見受けられず』
『聖女さま手ずからなど』
「気にしないで。私がやりたくてやってるだけだから」
割と憧れていた所があるし、楽しいのだから何の問題もないのだけれどね。馬車引き用に子爵邸で飼っているお馬さんの手入れをやりたいと伝えると渋い顔をされるけれど、天馬さまであるエルとジョセの世話ならば誰も文句は言わないし。
「聖女さま方、この度は誠にお世話になりました」
身形の良い方が聖女さまたちの下へしずしずとやってきて頭を下げた。恐らく領主さまか名主の方かな。手元とかチラ見すると、綺麗な手をしているから。農家の方の手じゃないことは確かだった。
「いえ。試験的な取り組みですので何の効果もない可能性もありますから」
聖女の代表者は私らしいので対応を余儀なくされた。言い出しっぺだから甘んじて受けるけれど、こういう挨拶はロザリンデさまの方が適任じゃないかなあ。
侯爵家のお嬢さまなのだから、目の前の方のような地位のある人と話すなら爵位の低い人より……あ、私、子爵家の当主だった。なんだか微妙な気持ちになりながら、やり取りを進める。
「それでも、あの惨状をこのような短時間で戻して頂けるとは夢にも思いません出した」
その辺りは軍の方たちのお陰である。隊長さんが言うには、平時の暇な時は工作部隊として街道の整備に従事しているから、こういう作業は慣れているらしい。
王国内の領主さまから依頼があれば灌漑工事にも駆り出されているようで、軍隊だというのに仕事内容は多岐に渡る。単純な力仕事だし、指示する人に専門知識があればそれなりに事が運ぶとかなんとか言っていた。
「そちらに関しては軍の方々へ感謝の言葉を送って頂けると、彼らは喜びましょう。わたくしたちは種籾を播いただけですので」
種籾を播いただけだけど、人手は必要だからなあ。忙しい時期は過ぎて育っていく小麦を見届ける期間だというのに、帝国も無茶を仕出かしてくれたものだ。
飛空艇でやって来たのは、力の差を見せつける為なのかも知れないが悪手だろう。事後処理にみんなが駆り出されているのだから。
魔力を込めながらの種播き作業。結果がどうなるか分からないけれど、無事に発芽してくれることを願うばかりだ。
『聖女さま~』
空を飛びながらワイバーンのみんながこちらへ降りてきた。エルやジョセ、ワイバーンのみんなの力は人間よりも強大である。空を飛べる利点も生かして、作業性が上がったようだ。
「みんなもお疲れさま」
クロが私の肩から飛び立って、ワイバーンのみんなと鼻先をちょんと付けて挨拶をしている。可愛いなあと見守りつつ、私の一番近くに居るワイバーンの子に話しかけた。
『うん、僕たち頑張ったよ。あとね、あとね天馬がね僕たちの言葉をみんなに教えてくれたから、順調だったんだ』
「そっか。あとでお野菜送るよ。頑張ったお礼だから一杯食べてね」
沢山動いただろうからお腹も空くだろう。ワイバーンは雑食らしく、なんでも食べるらしい。お肉も喜ばれるけれど、子爵邸で採れたお野菜は普通のお野菜より魔力が多く宿っているらしく好まれているそうで。
『やった! ありがとう聖女さま!』
えへへと嬉しそうに顔を擦り付けてくるワイバーンを、驚いた顔で見ている方がいらっしゃった。
「わ、ワイバーンの言葉が分かるのですかっ!?」
あ、そっか。話の途中でワイバーンのみんなが戻って来たから、領主さま――多分――の驚きは仕方ないのか。
「何となくですが、彼らの気持ちは理解出来ます」
喋っているなんてバレたら面倒だし、何となく気持ちが伝わるんです位の説明に止める。
『あ、そっか。僕たちの声は聞こえてないんだった。まあ、いっか。聖女さまや届けたい人に分かれば良いんだし』
驚いている領主さまを一度見て、また私に顔をすりすりとしているワイバーン。割と淡白な考え方の持ち主なのだなあと、手ですりすりし返すと目を細めて気持ち良さそうにしている。
生き物のこういう顔って不思議と癒されるなあ。帝国の問題なんて忘れ去って、こうした日常をゆっくりと送りたい。
「お嬢ちゃ――失礼いたしました! 聖女さま、みなさま、我々軍は撤収作業に入ります!」
領主さまが居ることが分かって態度を改める隊長さん。私がいつも通りで良いとお願いしているから問題ないけれど、こういう時はもちろんそれなりのモノが必要な訳で。
「はい。お疲れさまでした。皆さまの働きぶりはハイゼンベルグ公爵閣下へお伝えしておきます」
「軍の皆さま方にもお礼を。あのままであれば我々は困り果てたまま途方に暮れていたでしょう。――感謝致します」
「我々は軍人です。そのお気持ちはアルバトロス王国へ向けて頂ければ、軍人として至上の喜びでございましょう。――では、失礼致します」
隊長さんはこんなリップサービスも言えるんだと感心。私たちに挨拶を終えた隊長さんは、軍式の敬礼をしてこの場を辞する。
「皆さま方のお力を借りたのです。良い小麦が育つでしょう」
「はい。収穫時期はズレてしまうかもしれませんが、きっと強く育ってくれます」
試しに魔力を込めたのだし、何かしらの恩恵はあるはずだ。少し高くなっている場所から小麦畑を見渡すと、緑色の場所と茶色の場所に綺麗に分かれている。そのうち芽吹いて、この差もなくなってしまうのだろう。
ぴゅーと吹く風がみんなの頬を撫で、肌寒いアルバトロス王都外を一瞬にして去っていくのだった。