魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
来た道を戻る。馬車を引く馬の厩舎の近くにエルとジョセとルカが過ごしている小屋があるのだけれど、どうやらそこには居らず。
「どこに行ったのかな?」
子爵邸の外には出ていないだろう。だとすれば家庭菜園畑かなと踵を返して、目的の場所を目指す。
「あ、エル、ジョセ」
子爵邸の家庭菜園を眺めながらルカを見守りつつ、畑の妖精さんが間引きした野菜を摘まんでいたエルとジョセ。サフィールがこちらに来ている筈なのだけれど、姿が見えないので託児所に戻ったようだ。
エルとジョセは案外食い意地が張っているのだなと、苦笑いをしつつ近くへ寄って行く。彼らと最初に会ったのは、フライハイト男爵領で薬草を食べ過ぎてお腹を壊していた。そこから縁が始まった訳だけれど、食い意地が張っているのは元からのようだ。
『聖女さま。どうなさいました?』
『現場の方はよろしいのですか?』
「少し相談したい事があって。――」
子爵邸の片隅でお猫さまが居付いていたことと、子猫を産んで育てていたこと、魔素量の高さで猫又になっていたことを取りあえず二頭に説明。
ルカがいつの間にか私の側に寄ってきて話を聞いているような。言葉は理解していると聞いたので、何かしら興味があるのかも。都会育ちのお猫さまなので、野生には戻れないと付け加えて本題に入る。
「で、お猫さまたちを移動させなきゃならないんだけれど、小屋を間借りできないかなって考えてて」
牧場や乗馬クラブなどではお馬さんと猫や犬ってセットのイメージがある。鼠除けの意味合いが強そうだけれど、どうしてそうなったのかは謎。
エルとジョセならお猫さまと問題なく過ごせそうだし、なにかあれば彼らであれば私や子爵邸の方たちに報告を入れてくれるはず。その辺りにも期待を込めて相談したのだけれど、エルとジョセは受け入れてくれるだろうか。
『おや、それは困りましたね。もちろん構いませんよ。賑やかになって良いことです』
『はい。他種族との交流はルカにもよい勉強となりましょう』
エルとジョセが許可をくれ、ルカはルカで何故か私に頭を擦り付けた後、服を甘噛みしている。どうやら彼らに問題はなさそうだ。あとはお猫さまたちが受け入れてくれるかどうかだけ。
「ありがとう、助かるよ」
『いいえ、同じ子爵邸でご厄介になる身です。お互いに協力し合って聖女さまになるべくご迷惑を掛けぬようにしないと』
『そうですね。猫には私たちからもお願いしましょう』
本当、温和で優しいよねエルとジョセって。どうやって生きたらこんなに清く正しく真っ直ぐな天馬さまとなるのだろうか。
帝国の使者の方に蹄の垢を煎じて飲ませたい。もしかしたら奇跡が起こってエルとジョセのように紳士になれるかもしれないなあ。黒髪黒目が言っていることだから、霊感商法とかそういう手合いのモノのように飲んでくれる可能性は十分ありそうだ。
『ナイ、変な事を考えちゃ駄目だよー』
すりすりではなく、ぐいぐいと顔を顔に押し付けてくるクロ。毎度ながら心の中を絶妙なタイミングで読む。
「どうして心の中を読んじゃうかなあ、クロ」
『顔に出てるんだよ。ナイは特別分かり易い』
目を細めながら、小さく首を傾げた。
「まあいいや。お猫さまたちの所に戻ろう」
『私たちも行きましょう』
エルとジョセとルカも加わるのか。カオスな状況に工事現場の方たちが驚きそうだけれど仕方ない。一応、王家から子爵邸だから何があっても驚かないようにと通達はされているようだから、もういいや諦めよう。今更、体裁を整えても遅いんだし、ありのままの姿を見せるのだ。
「そういえば、黒色って魔力が強いとかあるのかな?」
歩きながら自分の髪を指で摘まんで、視界の中で捉える。見事な黒髪だよねえ。歳を取ると白髪が増えて目立つかもしれないけれど、まだまだ先の事だろうなあ。
「それだと、副団長の説明がつかなくなるんじゃないか?」
私の後ろを歩いていたジークが突っ込んでくれた。珍しいなあと思いつつ、身内しか居なく他の誰かは居ないので問題ない。
「そっか。でも代表さまも黒髪で竜の姿は黒色だし……あ、それだと白竜さまやダリア姉さんとアイリス姉さんの説明がつかないか」
エルやジョセも魔力量が高いはずだ。天馬さまで魔獣や幻獣となるから、基本スペックが高い。
『黒髪黒目の子が魔力量が多いのは確実だけれど、他の人たちにはあまり関係ないかも? 基本的には個体差で魔力量が決まるし、血筋によるかなあ。あとは魔素が高い所に住んでいる、とか』
遺伝とかいろいろと関わってくるのかな。ただ黒髪黒目を超える魔力量持ちが産まれる可能性はかなり低いそうだ。
黒髪黒目は古代人の特徴で、この世の理なのだとか。なんだかなあと苦笑いをしつつ、元の世界……日本の事を考える。まかり間違ってこっちの世界に渡ってきた人が居れば、その人たちも魔力量が阿呆みたいに高いのだろうか。アニメやゲームに漫画の中の話だから可能性的には低くそうだけれど、そういう事態になってみないと分からないし。
「お婆さまの話だと東大陸の人たちは、こっちの人より魔力が低いっていってたよね」
『空気中の魔素量が原因だろうね。だからこそ黒髪黒目の子が産まれ辛くなっている、とか?』
確かに空気中の魔素量で説明が付いちゃうなあ。魔素が高いといろいろと現象が起きるみたいだし。
「――お待たせして申し訳ありません」
話しながらだと直ぐに現場に着いた。エルやジョセの姿にどよめきの声が上がるけれど、無視を決め込む。
現場監督さんの案内でもう一度お猫さまの下へ行き、エルとジョセが挨拶を交わした。どうやら私の提案に乗ってくれるようで一安心だ。これで作業が続けられますと安堵する現場監督さんと、エルとジョセに説得されたお猫さまがエルの背に乗る。
子猫たちは私やジークにリンが抱えて移動したのだけれど、手に伝わる生命力の強さと小さい命の尊さは、人間であろうとなんであろうと変わりないものだなとしみじみ思うのだった。
あ……やたらと子猫が増えないようにお猫さま本人や子猫たちへの去勢や避妊を施す話もしないとね。多頭飼育崩壊とかになったら笑えないし。
◇
お猫さまたちの引っ越しと共に別館の作業も随分と進んでいた。新しく建てる訳ではないので、そう時間は掛からないそうだ。職人技だよなあと自室の部屋から別館を見つめる。
『主よ、暇なのか?』
二又のお猫さまは猫らしく気ままに屋敷の中へと侵入するようになっていた。暇なのは貴女ではと問い返したくなるが、ここは我慢。子猫は放っておいても良いのかと疑問になるが、エルとジョセが面倒をみているらしい。母親業を放棄していないかなあと、目を細めながら二又のお猫さまをジト目で見つめる。
『なんだ、我は雌ぞ。そのような熱視線を向けられても応えることは出来ぬ』
それは重々承知しているし、そもそもそんな趣味は私にはない。子爵邸で働く方たちに子猫は大人気である。まだ小さくみーみー鳴いている姿が胸にクリティカルヒットしたようで。
王都の街で買ってきたであろう猫じゃらし等の遊び道具が一式揃っており、ご当主さまも如何ですかと割と強引に置き土産されてしまった。
窓の桟を器用に歩きながらお猫さまが私の部屋へと入り、お気に入りの場所であるクロの寝床の籠の中に入り込む。ぺたんと座って毛繕いをしながら、時折視線を私へ向けてくる。
『主の魔力は凄いな。まあだからこそ我が二又になったのだが』
前足をぺろぺろ、顔をなでなで、器用に後ろ足を上げて股間の辺りを丁寧に舐めるお猫さま。定位置である籠を奪われたクロは、机の上にちょこんと鎮座している。怒らないので、何も感じてはいないようだ。
匂いが移るからちょっと苦手かもと、こっそり教えてもらったけれど。なので最近、部屋の中では私の肩の上やベッドの上に机の上が定位置。もう一つ籠を用意して貰おうかと相談したけれど、問題ないのでこのままで良いらしい。クロ自身がそう言うなら良いかと、籠問題は放置状態だ。
「みたいだね。でもちゃんと使いこなせていないし、魔術師や聖女としてなら未熟かも」
魔術よりも、古代魔術や魔法の方が使いやすいのは如何なものだろう。攻撃の手段が得られたのは良い事だけれど、古代魔術や魔法って魔力量に任せた力技だからなあ。威力や追加効果は凄いけれど、その分魔力の消費が激しい。
『まだ若いのだ。ゆっくり覚えていけばよかろうに』
毛繕いを終えたお猫さまが、一度立ち上がり毛伸びをして籠の上に座り直した。
『そうだね。ボクたちは、ナイの魔力の恩恵を受けているからこのままでも問題はないけれど……』
うーんと考えるしぐさを見せながら私を見上げるクロに、料理長さまから頂いた果物を差し出すと口をぱかっと開ける。ぽいと軽く放り込むと、閉じて咀嚼を始めた。ごっくんと呑み込んでいるのだけれど、食べるの早くないかな。詰まらせなきゃ良いけれど、竜だしそういうことは気にしないのかも。
「ないけれど?」
『畑が凄い事になるよ?』
クロの言葉に宇宙が広がる。だって勝手に畑の妖精さんたちが一生懸命、お野菜たちを育てている。時折、薬草や正体不明の植物が収穫されるとお城の薬師さまや副団長さまを召喚。調べると大概、貴重な魔術の触媒だったり効果の高い薬草だったり。
少し前に取れたモーリュと呼ばれる薬草は毒や魔術を無効化するというとんでもない物で。陛下方には有難られているそうだけれど、魔術師の方にとっては脅威だろうなあ。
「うっ……それはちょっと頂けないかも」
『だよね。妖精たちが消えない程度の魔力を制御できる魔術具か魔法具を作って貰えば良いよ』
畑は凄い事になっているけれど、畑の妖精さんに罪はない。一生懸命育てたものを私たちに差し出すという、何とも言えない存在だ。せめて消えないように魔力や魔素を潰えないようにはしたいんだよねえ。美味しいとうもろこしさんも食べられたんだし。
「私がちゃんと制御できれば問題ないのだけれど……」
本当にそれに限るが、何故か下手くそで。シスター・リズにもまだ教えを乞うているけれど、中々上手くいくことがない。
『その強大な魔力を御するなど夢のまた夢だな。――というか竜殿と妖精に甘いのではないか?』
お猫さまが金色の眼でじっと私を見つめて、何故かクロとお婆さまを言及した。
「何が?」
『魔力を渡し過ぎということだ。――我も所望する!』
そんなに渡しているつもりはないけれど。クロやお婆さまは私が魔力を漏らした時に回収しているくらい。まさか私の知らないうちに奪っているとか。クロを一瞬見やると視線を逸らされたけれど、今はお猫さまの問題発言が先だ。
「え、まだ尻尾を増やすつもりなの!?」
猫としての格が上がったって、少し前にそう言ったはずだけれど、まだ格を上げたいのか。
『こうなれば行きつく所まで行きつくのだよ。何本でも生えてしまえば良い!』
「駄目だよ。化け猫になるつもり?」
その内に王都内で怪異、尻尾が沢山生えている猫とか噂されそうだけれども。お猫さまは開き直ってまだ尻尾を増やしたいようだけれど、どうなのだろう。
『二又になった時点で今更だろうが。お主は馬鹿なのか?』
馬鹿という言葉に即行で反論できないのは如何なものか。まあお猫さまの世界のルールには疎いから仕方ないのかな。でもお猫さまに言われる筋合いは……。
「む。反論できないのが痛いけれど、我儘言うなら屋敷から追い出すよ!」
本当、子猫だけ預かってお猫さまだけ屋敷から追い出してしまおうか。今まで王都で野良猫生活を送っていたはずだし、生きていけるはずだ。でもなあ。餌が手に入れなくて腹ペコで困っている姿を想像すると、孤児時代を思い出してしまう。言い過ぎたかなと反省していると、お猫さまが慌てた様子で籠から飛び降りて、机の上に飛び乗った。クロが首を傾げながら、お猫さまを見てるけれど何も言わない。
『あ、嘘だ。冗談だ。我は王都で生まれ育った猫ぞ。外界に放たれて生きていける訳がなかろう?』
うわ、ぶっちゃけちゃったよ、お猫さま。なんだか温室育ちの野良猫だなあと目を細める。
「え、でも猫としての格は上がったんだよね?」
だったら外でも平気で過ごせそうだけれど。
『上がっただけだ。外での知識が圧倒的に足りぬ』
「人のこと言えないよね!?」
うーん、何故かお猫さま相手だと、私は突っ込みに回らなければならないようだ。何だか新鮮だなあと目を細めながら、お猫さまの額に私の親指を押し付けると、嫌そうな顔をして頭だけ後ろへ下げる。
「そうだ。子猫たちはどうするの? 屋敷に住むのは良いけれど、このままじゃあ勝手に増えちゃうだろうし」
他の野良と関係を持つかもしれないし、油断は大敵である。いつの間にか子猫が増えていたなんて大いにあり得るのだから。
『主の魔力の影響を受けておるからな。他の猫よりは賢いぞ』
「賢い、賢くないは別かな。これ以上増えても困るから、去勢や避妊は必須だよ」
本当に大事。不幸な犬猫を増やすくらいならば、人間の手で数を管理した方が正解だ。自然には逆らっているけれど、こういう考えはちゃんと持っておいた方が良い。ただ、私が過去を持つ人間だから、こういう考えを持っているのだけれど。
『それはならん。ならば引き取り手を探せ。主ならば貰い手も多かろう』
「人任せにしないでよ……」
本当に奔放なお猫さまである。しかも他人任せだし。
『我は王都育ちぞ。期待するな』
『ナイ、探してあげよう?』
「む……」
ぴしっと綺麗に籠の中で座っているお猫さまに、私の顔を覗き込んで首を傾げたクロ。今回だけだし、これ以上増えるなら子猫たちに去勢や避妊を施しますとお猫さまへ伝えるのだった。