魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0019:目覚め。仲間内。庭園にて。

 ――目が覚める。

 

 たしか鼻血を出してジークに手ぬぐいをあてられ、リンに抱きかかえられそのまま幌馬車の中へと放り込まれたのは覚えてる。

 馬車の中ではなく、自室のベッドの上だった。木目の天井に石造りの壁、少々硬いベッドに部屋唯一の小さな窓。

 

 「あ、ナイ。目が覚めたんだね」

 

 「……リン」

 

 いつもよりゆっくりと起き上がり、ベッドサイドで椅子に座っていた彼女へと顔を向けた。どうやら一日眠りこけていたようで、昨日降っていた雨は止んでおり、外は晴れている。

 

 「馬車の中で、気絶するみたいに寝ちゃったよ」

 

 無理をするから、と一度ため息を吐き小さなテーブルから水差しをおもむろに手に取って、水を入れたコップを手渡してくれる。

 

 「ありがとう。――いつものことだよ。ジークは?」

 

 本当にいつものことだ。どうにも術の行使と魔力量の分配を間違えると、鼻血を出したり気絶したりと忙しい。一度にそうなってしまったのは初めてだが、魔道具の指輪も壊れていたので体が追い付かなかったのだろう。

 

 「兄さんは神父さまの所に報告してくるって」

 

 いつも三人で私の部屋に居る時は片隅で壁に寄りかかっているのだけれど、今日は居なかった。

 

 「……どう説明するつもりかな……」

 

 「さあ?」

 

 一日目は順調だったものの、二日目で魔獣の襲来。聖女としての務めを果たしていたのは問題ないとして。

 

 あそこで第二王子殿下とその側近くんたちが平民の少女を囲いながら、森を探索したあげく騎士や軍の人たちを危険に晒すし、窘めた騎士に対して暴言を吐く。

 あれ、これは不味いのではと頭によぎる。学院内だからヒロインちゃんを囲っても見逃されていた節はある。王族として成人すれば遊ぶ暇なんてないだろうし、政略婚で公爵令嬢であるソフィーアさまとの婚姻を結ばなければならないのだし。学生といえども王族という立場を忘れてはいけないよね、と苦笑いしながらコップの水を一口、二口と嚥下していく。

 

 割と殿下の立場が危ないのでは?

 

 騎士団や軍から報告という名の苦情が入るだろうし、婚約者であるソフィーアさまを蔑ろにしていたこと。

 演技でもいいからソフィーアさまと仲良くして、周囲に良好アピールした方が将来の為にも良かっただろうに。あと少しでもいいから軍や騎士の人たちに労いの言葉でもかけていれば、ヒロインちゃんといちゃこらしていても印象は違っただろうに。

 

 立ち回り方次第で、良くも悪くも印象が決まってしまう。今回の件は、第二王子殿下や彼の側近の人たちの資質を疑われる事件になったような気がしてならない。

 でもまあ、関係ない……というよりも手を出せない案件だ。手を出せばとばっちりを受けて巻き込まれるだけなのだから、碌な目に合わないだろう。

 

 私は孤児仲間の五人と共に確りと地に足着けて生きていければそれでいい。大変なこともあるけれど、その為に聖女の肩書を背負っているし、ジークとリンが一緒に居てくれるのだから。

 

 「お腹空いたよね?」

 

 「空いてるけれど、先にお風呂に入りたいかも」

 

 孤児生活だとお風呂になんて入れなかったのに、慣れると一日入らないだけで不快に思える。贅沢だよあと

 

 「じゃあ、用意してくるよ。一緒に入ろう」

 

 椅子から立ち上がってリンは部屋を出ていった。なんとなくベッドサイドに座ってぼーっとリンを待っていると、直ぐに戻ってきた。

 手には自分の部屋から持ち出したであろう服とお風呂セットが。私も簡素な衣装箪笥から下着や着替えを出して、その上に置いているお風呂セットに手を伸ばす。

 

 「持つよ」

 

 「ありがと。――でも過保護過ぎじゃないかなあ」

 

 「いいんだよ、ナイはそのくらいでも。行こう」

 

 そう言いながら一緒に風呂場を目指して身綺麗にすると随分とさっぱりした。隊長さんに借りた外套も洗って返さなければと、部屋に戻ってハンガーに掛けられたソレを見て思う。

 次の魔物討伐遠征はいつになるのだろうか。学院生活が始まっているし一学期が終了するまではなさそうだ。あるとすれば長期休暇の時分だろう。

 

 「――聖女さま」

 

 「はい、どうされました?」

 

 「公爵さまからのお手紙が届いております」

 

 食堂でリンと一緒にご飯を食べている最中に教会関係者の人が、申し訳なさそうな顔を浮かべながら声を掛けてきた。手渡された手紙には封蝋が施されており、家紋を見るとハイゼンベルグ公爵家のもの。

 なんだろうと首を傾げるけれど、思い当たる節はない。手紙を持ってきてくれた人が『この場で開封なされますか?』と問うてきたのでお願いしますと返せば、どこかしらからペーパーナイフを取り出して丁寧に開封してくれた。

 

 「どうぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 少しお行儀は悪いけれど公爵さまからの手紙なので、さっさと内容を確認した方が吉だ。緊急性があるものなら、何故早く対応しなかったと言われるだろうし。

 

 ――公爵邸に来なさい。

 

 要約すれば、この一言で収まるものだった。

 

 ◇

 

 手紙を受け取って内容を確認したあと、教会の人に先触れを頼んで公爵邸へと赴く準備をする。公爵邸ともなると通常の平民服という訳にはいかず、学院の制服をチョイスしておいた。

 聖女の格好は恥ずかしいことこの上ないので却下。こういうときは制服というものは便利である。

 

 「ナイ、いいか?」

 

 「ジーク、ごめん……ちょっとだけ待って」

 

 ドア越しのノックの音が響くと直ぐにジークの声が聞こえてきた。着替えている途中だったので、流石にジークを部屋に招き入れる訳にはいかない。

 

 「お待たせ」

 

 ドアノブの音と蝶番の音が響くと、目の前にはジークとリンの姿が。既に二人とも着替えていたようで、同じタイミングで部屋に戻り着替え始めたというのに早いものだと感心する。

 

 「いや、大丈夫だ」

 

 「どうしたの?」

 

 いつもなら教会が用意してくれる馬車の近くで待機しているというのに。

 

 「公爵さまの所へ行く前に話がしたかった。直ぐに終わる、いいか?」

 

 「了解、入って」

 

 先触れの人に伝えた時間までには余裕があるので、二人を自室に招き入れる。三人で居るといってもジークは男性なので、部屋の扉は開けたまま。

 聖女なので異性関係にはかなり敏感で、貴族の女性相当の扱いをされているんだよね。だからジークと二人きりという状況は皆無で、三人セットで行動するのが基本。

 ジークは孤児仲間なので男女の関係になるだなんて、おかしな話である。ただ周りはそう見てくれなくて、教会に保護された初期のころは距離が近いとか、いろいろと苦言やアドバイスを他の人から頂いたものだ。

 

 「公爵さまには手紙で、教会には口頭で今回のことは伝えておいた。俺の判断で、だ」

 

 ジークは教会や公爵さまに報告に行くときは、私に事前に話す内容を伝えてくれるのだけれど、珍しいこともあるものだ。

 

 「善し悪しの判断はジークに任せるけれど、何かあったの?」

 

 判断が出来ない彼ではないのでソレについては任せても大丈夫だ。私の言葉にジークの肩眉がピクリと動いて、目を細めて私をみる。

 

 「少し前の話にはなるが、あの女……俺たちにまで接触してきた。言うに事欠いてリンに『どうして貴女は生きているの?』……だ」

 

 何故リンが死んでいることを望んでいるような台詞を言ったのだ、ヒロインちゃんは。ふと思い浮かんだことに、まさかと頭を振る。

 しかしまあ、殿下たちだけでは物足りず、ジークとも接触を図ったのか。いつの間にと思うけれど、彼女の行動を逐一監視している訳でもないし、学院だと学科が違うからずっと一緒という訳でもない。だから私が居ない隙に二人と話がしたければ、学院が一番好都合な場所である。

 

 「私は気にしてないよ、兄さん」

 

 「お前が気にしなくても、あの女は今後お前やナイにどんな悪影響を及ぼすか分からん。しかも、ナイのことについてはあの女は俺にとっての何? と聞いてきた……しかも愛称呼びなんざ許していないのにな」

 

 二人の言葉に私の片眉がぴくりと動き口端が伸びるのを感じ取り、それを隠すために片手をあてる。

 

 何と問われても、無難に答えるなら小さい頃からの幼馴染であるし、もう少し踏み込むならば貧民街でボロボロの子供なりに知恵を働かせて共に生き抜いた仲間であり家族である。

 ジークが彼女に興味があるのならば、それは彼の自由だし好きにすればいい。引き留める権利は私にはないのだから。ただ、愛称で呼ぶことは王国の習慣では『親愛』を示すもので、家族や当人が許可しなければ呼ぶことはないのだけれど。

 

 「あ、そういえば兄さんのことジークって呼んでた……」

 

 リン、言われて今気づいたのか。あまり他人の感情の機微については鈍いのでしかたないけれど、私は心配になるよ。もうすこし周囲に目を配ろうとリンに視線を向けると、へにゃりと笑う。

 どうやらヒロインちゃんのことは彼女にとってどうでも良いらしい。言われたことも気にしていないようだし、本当にもう少し周りに興味を持とうと心配になる。

 

 「お前なあ……」

 

 「……リン」

 

 「?」

 

 こてんと首を傾げるリンを見てから、ジークと目を合わせて『育て方、間違ったかな?』とアイコンタクトを取ると、ゆるゆると首を振る彼。どうやら育児放棄を宣言したようだ。

 

 「リン、もう少し周りを見ようね」

 

 「見てるよ。――兄さんやナイに危険があるなら私は全力を持ってそれを排除する」

 

 その言葉にもう一度ジークを見て『やっぱり育て方……』と再度視線を送ると『諦めろ』と顔に出ていた。拳を握ってふふん、とドヤ顔をしているリン。可愛いけれど言ってることが物騒だし思考が脳筋だよ……と意識が遠くなりかける。

 小さい頃に貧民街で育ったことも影響しているのだろうけれど、ジークと私でいろいろと生き残る術を教え込んだのが裏目に出てしまったか。

 

 「……まあリンには俺たちがついている。――それより、あの女には気を付けろよ。騎士団に拘束されたらしいが、今後の展開次第でどう転ぶか分からんしな」

 

 リンに付いては既にジークは諦めているようだった。目下はヒロインちゃんの方を注視するようだけれど。殿下たちがその範疇に入っていないのは、彼らが貴族だからだろうか。

 お貴族さまと平民では枠組みが違う。ようするに住む世界が違うので、本来ならば関わることなんてない人たちだものね。

 

 「大丈夫、だと思うけれど……ここで考えてても仕方ないし、公爵さまの所に行こうか」

 

 魔獣との戦いで力もないのに前に出ちゃった前科があるので、大丈夫だと言いきれない所があるよなあ。でも騎士団に拘束されたなら、取り合えず解放されるまではこちらに影響はないけれど。

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 話をほどほどに公爵邸へと向かう私たちであった。

 

 ◇ 

 

 教会の馬車に乗り込んで街の整備された道を軽快な蹄の音を鳴らしながら、徒歩より少し早い速度で進んでいく。窓のカーテンを開け街並みを眺めなていると、新しい店が出来ていたり見たことのない屋台があったりと王都には活気がある。

 

 そうして商業地区を抜けると貴族街となって景色は一変する。まだ家格の低い人たちが住むエリアだけれど、それでも漂う空気はお金持ちの匂いをまき散らしている、とでもいうべきか。

 外観が白色で統一されている為なのか、街並みに違和感が少ない統一されている景色だ。まるで景観条例でも発布されているのかと思えるくらいには。外を眺めること暫く、更に高級感が増すエリアを突き進み城にもほど近い場所で、どえらくでかい門扉が見えてきた。

 

 先触れをだしていた為に、御者の人と門兵との簡単なやり取りで屋敷内へと入ることを許され、ただ広い庭園を抜けるとようやく屋敷が見えてきた。

 相変わらずでかいよなあと、馬車から出た私は公爵邸を見上げる。玄関の扉の前で待ち構えていた執事さんに挨拶をし、公爵さまの下へと案内され。

 

 「よく来たな、ナイ。昨日とは打って変わっていい天気だからな、こちらでよかろう」

 

 案内されたのは前の部屋ではなく庭園内の東屋だった。

 腕の良い庭師によって整備されている庭にある、小洒落た東屋にロマンスグレーの髪を後ろに撫で付けた偉丈夫な男の人が一人座り、こちらに顔を向けている。

 周囲には護衛の騎士や侍従の人たちが控えて、こちらを見ている。顔見知りなので敵としては見られていないだろうけれど、職務に忠実な人たちなので手抜きはしていないだろう。私が不審な行動を取れば、直ぐに取り押さえられそうである。

 

 しかしまあこの絵面はあまりに合わないなあと、公爵さまと東屋のアンバランス感に吹き出しそうになるのを堪えながら、着席を促された為に足を進めた。

 

 「お気遣い、ありがとうございます」

 

 「倒れたと聞いているが、調子はどうなのだね?」

 

 そういって私の手元へ視線を動かす公爵さまの視線は厳しい。ジークから報告されているだろうから、知ってて聞いているのだろうなあと

 

 「いつものことで、調子は問題ありません。――しかし頂いた魔術具を壊してしまいました、申し訳ございません」

 

 テーブルにおでこをぶつける勢いで頭を下げる。公爵さまが怒るとかなり怖いし、空気が緊張するのだけれど今はそれがない。おやと思い頭を上げると、目を閉じて口元を伸ばしながら紅茶を口元へと運ぶ彼の姿が私の目に映り込む。

 

 「構わんよ。魔獣が出現したと報告を受けている。犠牲者が一人もいなかったことは奇跡に近いだろう。――だが、あの魔術馬鹿がフェンリルを消し炭にしてくれたお陰で、貴重な討伐事例が一緒に霧散してしまったがな」

 

 魔術馬鹿……誰のことかなど言葉を聞けば分かってしまうのは、どうなのだろう。公爵さまは犠牲者を出してでも討伐事例を作って、魔獣に対抗する術を編み出したかったのだろう。

 魔術師団副団長さまのように、戦闘技能に特出した人間がいつも居るという訳ではないのだから。

 

 「あれのトップにも困ったものだ。子供が心配だからとアレを護衛部隊に組み込んだからな」

 

 「しかし助かったのは事実です。魔術師団副団長さまが居なければ、あの場は膠着状態から抜け出せなかった可能性が高いですから」

 

 「わかっておるさ、ただの愚痴だよ。――さて、今日は二つほど話がある」

 

 軽い調子から、少し重たい声色になった公爵さま。こっちが本題なのは明らかなので、伸ばしていた背をさらにぴしりと伸ばした。暖かな陽気で優しい風が頬を撫でているというのに、一体何の話をするのやら。

 

 「第二王子殿下たちに子鼠が粉をかけておると聞いてな、それの事実確認をしたいのだが、本当かね?」

 

 「愚問では? 閣下であれば調べはついているでしょう」

 

 子飼いの草やら密偵やらが居るはずだし、公爵さまならば軍の関係者に命令すればその人たちの子供から情報を聞き出すことくらい、赤子の手をひねるより簡単だろうに。

 

 「確かにな。だが情報の出処が一つだけでは確証が足らん。だから貴様に聞いておる」

 

 「私の証言が、証言足りうるのでしょうか……」

 

 「十分になる。お前さんは、聖女としての価値を低く見積もりすぎだ。――あと、国の障壁を維持している一人という事を自覚しろ」

 

 はあとデカい溜息を吐かれる。確かに聖女の仕事を務めているし、ある程度の信頼はあるかもしれないけれど、お貴族さま基準だとまだ未成年である。

 成人するにはあと三年弱時間が必要だし、いいのかなと思う部分もあるのだけれど。

 

 公爵さまに学院へ入学からの出来事を粗方話す。手紙でもやり取りをしていたので、ほぼ被っているけれど黙って聞いてくれているので問題はないのだろうし、ジークや他の人たちからの報告との差異を比べているのかも知れないし侮れない。

 どうにかしたいけれど手を出したら火傷するのは私だし、何も出来ないというのが現実である。こうして公爵さまに話した時点で、ヒロインちゃんの行く末が決まっているような気がする。

 

 「――こんなもの、でしょうか」

 

 「ふむ、酷いな」

 

 ぽつりと一言漏らした。普段から厳つい顔をしているけれど、余計に顔が怖い。が、口に出すと余計に酷くなりそうだ。沈黙は金とはよく言ったものである。

 

 「ソフィーア、こちらへ」

 

 そう声を出すと、どこかに控えていたのかソフィーアさまが時間を置かずに現れたのだった。

 

 ◇

 

 公爵さまの言葉でしずしずとこちらへとやって来る彼女。

 

 「はい、お爺さま。――昨日ぶりだ、ナイ。体調は大丈夫か?」

 

 突然のソフィーアさまの登場に驚きつつ、立ち上がり礼をする。簡素なドレスに身を包んでいるけれど、生地はかなり高級品で流石は公爵家令嬢といったところ。

 

 「お陰さまで」

 

 何を以て彼女を公爵さまが呼んだのかが読めないので、最低限の会話にとどめると苦笑いをしている二人。

 

 「そう勘ぐるな、裏などない。ただ単純に知り合いだと聞いていたから会わせただけだ」

 

 「ああ。昨日の様子が気になっていたからお前が来ると聞いてお爺さまに頼んだだけだ」

 

 この流れで彼女を呼ぶのは、何かあるとしか思えないんだけれども。だって第二王子殿下の婚約者さまだし、後ろ盾になろうとしている公爵家だって何か思惑があるのだろうし。

 

 「そうですか……」

 

 「ナイ、子鼠をどう思う」

 

 「本心を言ってしまえば、殿下方に取り入っているのは自由にすればいいかと。――その代償をその身で払うのは彼女自身ですから。ただ――」

 

 殿下とソフィーアさまがどういう関係を築いているかも知らないし、ソフィーアさまはヒロインちゃんの存在を認めている節がある。

 ヒロインちゃんが愛妾で収まり正妃の座とその誇りを損なわないならば文句は言わなさそうだし、彼女。

 

 「ただ?」

 

 一旦言葉を区切った私に公爵さまが次を促す。

 

 「ジークやリンを困らせるようなことになるのならば、私は彼女を許すことはできません」

 

 もし彼女が殿下たちを頼ってジークやリンを困らせるようなことになるのならば、私は黙っていられない。知らない間に接触を図っていたようだし、一体どういうつもりなのか。ぶわりと内包する魔力が外へと流れ出ると同時に髪がぶわりと逆毛立つ。

 

 「おい、魔力を暴走させるな」

 

 「ああ、すみません。甘くなってしまいました」

 

 ソフィーアさまの言葉で、魔力をどうにか抑える。二人や周囲の護衛の人や侍従の人たちは少々面を喰らったようだけれど。公爵さまとソフィーアさまの状況把握は的確で、直ぐに落ち着いていた。

 

 「丁度いい、二つ目だ。――壊れたものよりいい魔術具を作ってもらう。ただし依頼する先は件の魔術馬鹿だ。覚悟が必要になる」

 

 私が彼と既知だと知っているから、ああいう言い回しなのだろう。ただあの人と再会するのは少々気が重い。

 

 「……私を戦略兵器にでも仕立て上げるつもりですか、公爵さまは?」

 

 本来ならば口答えになってしまうが、つい出てしまった。付き合いはそれなりなので咎められることはないだろうけれど。

 

 「それは流石に……いや、うむ。すまん……」

 

 ジト目で公爵さまを見つめること暫く、先に折れたのは公爵さまだった。多分、魔術師団副団長さまの性格を把握しているに違いないのだ。

 魔術の事に関してはどこまでも純粋に追い求めていくタイプである。おそらく私が彼の下へといけば、魔術のイロハから始まって上級魔術以上のモノを習得させられそうな気がするのだ。

 

 「しかし魔術具がないのは問題ではないのか? 先程のように感情に流されて魔力を暴走させるのはあまりよろしくないと聞く」

 

 ソフィーアさまが公爵さまを見かねたのか、黙った公爵さまの後にそう告げて。

 

 「ああ、それに関しては事実だな。暴走させて死んだ人間がいたと随分と昔の文献に残っていたからな。いずれにせよ、急いだほうが良いだろう」

 

 「しかしどうするのです、お爺さま」

 

 「依頼だけだせばいいだろう。お前さんにアレが興味を持っているのならば好都合だ」

 

 確かに公爵さまから頂いた魔術具の制作者には会ったことがないので、会って話をして作るというのは特殊な場合らしい。ただ、その後が怖いなあと広く晴れ渡る青空を見上げて現実逃避を決め込む。

 

 「――戻ってこい」

 

 「……はい」

 

 直ぐに呼び戻されてしまった。悲しい。

 

 「話を元に戻す。――ソフィーア、殿下との婚姻を続ける気はあるのか?」

 

 「正直、迷っています。お爺さまの言う子鼠を殿下が飼うのは構いませんが、側近まで熱を入れている始末です」

 

 肉体関係を持って誰の子か分からないなんて洒落にならないものね。愛妾にするのは構わないけれど、厄介ごとのネタを増やされるわけにはいかないし。

 

 「ふむ。ならばどうするのが最善かね?」

 

 「殿下を諫めてはおりましたが、改善される傾向がありません。自身の力不足は否めませんが、愛妾に据えるとも聞き及びません……ですが今回の件で女は騎士団に拘束されましたが」

 

 「子鼠がどうなるかは殿下次第であろうし、陛下次第でもあろうよ」

 

 ということは解放される可能性があるのか。ヒロインちゃんを解放するとダシにして殿下と取引を持ち掛ければ、今の行動が改められる可能性も出てくるし、頭のいい人ならもっといい考えがあるのかもしれない。

 

 「第二王子殿下妃の席は魅力的ではありますが、現状を考えればその価値は下がる一方かと」

 

 「側室腹で少々甘やかされて育ったお方だ。母親も母親で少々覚悟の足りん方だからな」

 

 本人の資質もあるのだろうけれど育て方にも問題があった模様。お二人とも私の前で王族をこき下ろしてるけれど、良いのだろうか。最初の挨拶の時の話はどこにいってしまったのか、政治の話に私を巻き込まないでくださいな。

 多分、何か理由があるのだろうなあと、遠い目になりながら暫くこの話に付き合わされるのだった。

 

 

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