魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0192:冒険者登録をしよう。

 冬休み中盤。子爵邸の玄関ロビーでニッコニコの笑顔を浮かべた副団長さまに、彼の足元にはぷるんと丸いスライム特有の丸い形をしたロゼさんが。

 

 「さて、行きましょうか聖女さま」

 

 行くといっても何処へ行くというのだろうか。貴族位なので、外へ出るならばそれなりの護衛やお供の方たちが付く。王都の街に買い物に行きたいなんて漏らした日には、大勢の人たちの日程が調整された上に、街中の人たちにも迷惑を被ることになる。

 こっそりと脱走しようものなら、そちらも問題になってしまうのだ。私の護衛を務めてくれている方たちや、身の回りの世話を担ってくれている人たちが、何故見逃したと責められる。

 

 「えっと……冬休みなのですが……」

 

 副団長さまが護衛を務めてくれるならば、誰も文句は言わないだろう。だって彼はアルバトロス最強の魔術師。多量の魔力持ちを有するアルバトロス王国の中でも、特に魔力量が多いお方な上に魔術の知識や技術もトップである。

 そんな方故に、陛下方からの信頼も厚く重宝されているお方だけれど、こと魔術関連になると知能が低下するからなあ。

 

 「大丈夫ですよ。陛下方の許可は得ていますから。ねえ、ロゼさん」

 

 足元に居るロゼさんを腰を曲げつつ、見下ろす副団長さま。アルバトロス王国の刻印が押された書面を簡単に訳すと『副団長と例の場所に行ってきてね』だそうだ。

 聖女としてではなくアルバトロス王国に仕える貴族としての命令のようで。副団長さま、陛下方に無茶を言って承諾させたのではと心配になる。とはいえ命令書は下り、副団長さまが持参して目の前でにっこり笑っているのだ。

 

 『うん、ハインツ頑張った。だからマスターも頑張ろう?』

 

 一人と一匹で何やら裏で画策していたらしい。陛下方の許可を無理矢理取ってきた可能性が跳ね上がってしまった。ソフィーアさまとセレスティアさまという常識人――最近はセレスティアさまが常識人の枠から外れつつある気もする――が居ない状況で、副団長さまの言葉に逆らえる筈もなく。

 そろそろ私が依頼していた写真や動画を撮る魔術具が開発完了手前だし、魔力を制御する魔術具も依頼予定。副団長さまのお願いを、無下に出来ない事情がある。

 

 「ロゼさん、一体何を頑張るの?」

 

 どうもはっちゃけている所為なのか、説明が足りていない。何処に行くかも告げられていないし、何をするかも説明もない。

 

 『えっと……ハインツ?』

 

 「一先ず、冒険者登録をしましょう。それから私の領地に赴いて、魔物討伐を聖女さまと共に行います」

 

 副団長さまが所有しているヴァレンシュタイン領、ではなく歴代の魔術師団副団長さまか団長さまに与えられる領地が別にある。その領地は不思議なことに強い魔獣や魔物がよく現われるそうで、魔術師団の皆さまで腕試しと称して良く狩りに出掛けるそうだ。

 冒険者登録を済ませ、ギルドで素材や魔石を換金して研究費に当てたり、みんなで飲み食いするお金になったりと割と自由だそうで。最近、忙しくてサボっていた所為か魔物が増えているようなので、間引きを敢行したいそうで。

 冒険者登録をするのは、倒した魔物から回収した魔石や素材を換金する為。その地に赴けば爵位や地位は関係なく強い者が正義で、魔物を倒した者が取り分を得るそうで。うーん、魔術師団の管轄になるから自由裁量で決定できるという訳か。

 

 ちなみに優秀な魔術師が居なければ、騎士や軍の方たちがその地を賜るらしい。

 

 若かりし頃の公爵さまが部下を引き連れて数年担っていたそうだ。軍人としての胆力は其処で身につけたのかも。なんでそんな土地があるのだろうと不思議になるけれど、魔素量が高いのだろうなで説明がついてしまう。

 

 「ジーク、リン。お休みだったけれど、良いかな?」

 

 私の後ろに控えていたジークとリンへ振り返り、確認を取る。

 

 「俺は大丈夫だ。むしろ腕試しが出来るなら有難い」

 

 「私も兄さんと同じかな。頂いた剣をまともに試したことはないからね」

 

 そうだった。割とこの兄妹は好戦的な部分を持つのだった。二学期の騎士科での模擬戦で負けたことが悔しかったようだし、良い機会なのだろう。私も副団長さまやお姉さんズから教わった、魔術や魔法を試すいい機会である。この話を後で知ったソフィーアさまが渋い顔をしそうだけれど、後の祭りか。

 

 「恐らくこのメンバーであればそう時間は掛からないはずです。領地へは僕の転移魔術で一瞬ですから、今日中に戻ります」

 

 確かにどんな魔物や魔獣が出ても負ける気はしないけれど。同行者に副団長さまが選び抜いた護衛の魔術師さんたちが数名同行するとか。戦力過剰じゃないかなと訝しみつつ、クロへと顔を向けた私。

 

 「クロはどうする? お隣さんに遊びに行く?」

 

 危ないかもしれないから、クロはお留守番の方が良いのだろうか。本人の意思が一番大事だなと聞いてみる。

 

 『スライムが居るのは癪だけれど、興味があるから僕も行きたい』

 

 「そっか」

 

 私の顔に顔をすりすりしながらクロがそう言った。暫く外に出ていないし、良い機会だろう。魔物討伐の延長線みたいなものだけれど、集まったメンツが最強過ぎて緊張感が全然わかないなあ。

 副団長さまはもちろんロゼさんもかなりの高威力の魔術を使いこなすし、ジークとリンなら接近戦で右に出る者は少ないし。

 魔物相手だから遠慮は必要ないからなあ。魔術師団の練習場では気が引けていたので、全力を出していなかった。自然破壊をしないなら全力を出すのもアリなのだろうか。限界まで試してみたい気持ちは、どこかしらにあるからなあ。

 

 『何もできない竜は留守番していろ』

 

 『失礼だな、ブレスくらい吐けるよボク』

 

 ピシリと火花が散る。喧嘩するほど仲が良いというし、いつもの事だから放っておこう。

 

 「共同作業ですね」

 

 にっこりと笑って副団長さまが妙なことを口走ると、クロと火花を散らしていたロゼさんが身体をぷるんと揺らして私を見ている気配を感じとる。

 

 『ロゼもマスターと共同作業したい。ハインツ、どうやるのか教えて?』

 

 私から副団長さまへと視線を変えたロゼさん。にゅっと縦に身体を伸ばして、妙な形になっていた。何とも言えない表現の仕方だなと苦笑いしつつ、副団長さまが魔術で連携を取るのは楽しいですよ、とロゼさんに伝えていた。

 

 『マスター、ロゼと一緒に魔術使おう』

 

 「周りに迷惑が掛からない程度でね」

 

 一番迷惑を掛ける可能性が高いのは私だけれど、この際棚の上である。ロゼさんは何の遠慮もなく高威力の魔術を放つ傾向があるから、その時は障壁を張らないと。共同作業になるかわからないけれど、楽しい時間にはなりそうだなと子爵邸から転移を行うのだった。

 

 ◇

 

 歴代の魔術師団副団長さまや団長さま方が、アルバトロス王国から賜るという領地の手前にやって来た。副団長さまの話を聞くに、賜るというよりも管理を任されると言った方が適切なのかもしれない。

 強い魔物が湧く場所なので、強い魔術師に守って貰おうというのが王国側の魂胆だろう。魔術師は変態が多いと聞くから、魔物退治も嬉々としてやってのけるのだろうし、魔物を倒した素材や魔石は倒した魔術師の物となる。副団長さまが所持している魔石は、この先の領地で手に入れた可能性もあるなあ。お金持ちだなあと感心していたのだけれど、こういう理由があったのか。

 

 「らっしゃ……っ! ごほっ!!」

 

 冒険者ギルドの扉を潜って受付へと進む。やる気のなさそうな小父さまがカウンターに座っていたのだけれど、こちらを見るなり目を見開いて咳込んでいた。

 二度、咳込んだ後は普通だったのでタイミングの問題だったのだろう。顔を引きつらせているような気もするが、副団長さまにでも驚いたのだろうか。

 

 「こんにちは。――こちらの方はアルバトロス王国冒険者ギルド支部、支部長さまですよ」

 

 私たちに説明をしてくれた後、副団長さまはギルド支部長さまへ向き直る。

 

 「ヴァレンシュタイン副団長殿、ようこそいらっしゃいました! ――本日のご用件は換金ですか?」

 

 副団長さまの顔を見て、ギルド支部長さんが勢いよく立ち上がる。久方ぶりですと和やかに挨拶を交わす副団長さまと支部長さま。後ろで待っていると副団長さまが身体をずらして、ジークとリンと私を見る。

 

 「いえ、換金はまた夕方にでも。――冒険者登録をお願いしたい方が三名居るのですが、お願いしても宜しいでしょうか?」

 

 副団長さまや護衛の魔術師の皆さまは、既に冒険者として登録を済ませているようだ。換金の時に困るので、必然的に登録したようだ。自分たちが欲しい物は自分たちの懐に、必要ない物は冒険者ギルドへ提出して買い取って貰っているらしい。

 

 「勿論ですよ。基本、冒険者ギルドは来る者を拒みませんから」

 

 初心者が賜るランクは誰でも授かることが出来るそうだ。もちろん、犯罪者や素行に問題がある人間は弾かれるそうだが。

 他の国では冒険者を重宝し、才能のある人を随時募っている。実力があればランクは自ずと上がっていくし、問題のある人はランクが上がるごとに審査が厳しくなるので、実力があっても弾かれるのだとか。銀髪くん事件でかなり厳しくなったようで、高ランク冒険者になれる人が少し減っているとか。

 

 「支部長さま、受付のお嬢さんたちは如何なさったのです?」

 

 「ああ、アルバトロス王国ギルド支部がこちらへ移転した際に、母国へ戻りました」

 

 この田舎町が耐えられないそうだ。他の国の冒険者ギルドで働けるように支部長さまが手配して、そちらのギルドで今は働いているんだって。アルバトロス王都に在していたギルド支部は、暇な事を理由にされこちらへと移転したそうな。

 どうやらこの地に訪れる魔術師の方たちが、換金が不便だと以前から嘆願を出していたらしい。銀髪くん事件によって肩身が狭くなった冒険者ギルドは、逃げるようにこちらへやって来たのだとか。体のいい僻地への左遷のような気もするけれど、支部長さま曰く忙しいのは性に合わないから丁度良いと笑ってた。

 

 書類を三枚出されて記入方法を教えてくれる。難しい物ではなく名前と年齢と所属国を記入するくらいの簡単なもの。こんなにあっさりと終わるものなんだと三人で首を傾げると、支部長さんが少しお待ちをと告げて、書類を持って裏へと引っ込んでいった。

 

 「お三方の認識票です。冒険者として活動する際は必ず身に着けて下さい」

 

 「ありがとうございます」

 

 支部長さんに手渡されたものはドッグタグのようなもので。なんだか軍人さんみたいとしみじみと観察すると、小さい魔石が施されていた。

 

 「これを開発した方は、素晴らしく腕の立つお人だったのでしょうねえ」

 

 複雑で難しいことを簡単にやってのけた上に、技術を惜しみなく公開しているのだから、見習いたいものですと副団長さまが。

 

 「ですなあ。本人認証と本人情報にランク登録機能が付与されていますからね」

 

 小さな屑魔石を使用して作っているので、技術が相当高いとか。世の中、凄い人が居るものだねえと掌の中のドッグタグを見つめると『G』と刻印されている。ランクが上がれば勝手に表記が変わるそうだ。その辺りも素晴らしいと口にされた一端なのか。

 

 「倒した数や種族はきちんと覚えていて下さい。あとで確認した後に、討伐記録へ残します」

 

 本来は依頼を受けた後に、討伐した証拠をギルドへ持参するのだが、アルバトロス王国の冒険者ギルドは特殊なのだとか。この先にある件の領地は強い魔物が定期的に現れ、間引きする必要がある。

 いちいち依頼を出していたらキリがないので、魔術師の方々が自由に狩りを行える場所で。売り払われた魔石や素材を買い取り、買取価格よりも高い値段でギルドは取引を持ち掛け利鞘を得ているらしい。アルバトロス産の魔物が落とす魔石や素材は、他国よりも質が高いので重宝されているとか。

 

 「黒髪の聖女さまや黒髪聖女の双璧ならば心配は必要ないでしょうが、駆け出し冒険者なので無理はなさらずに」

 

 あれ、知っていたのか支部長さま。まあ黒髪黒目は目立つし、後ろに赤毛の双子が控えているから直ぐに分かってしまうのだろう。落ち着いた声色で語る支部長さまの声に反応して、特異な容姿も考えモノだと微妙な顔になる。

 

 『良いじゃない。ボクは好きだよ、ナイの髪と瞳』

 

 大人しく肩の上に乗っていたクロがぐりぐりと顔を顔に擦り付ける。

 

 「ありがとう、クロ」

 

 まあ黒髪黒目のお陰でクロと出会えたようなものだし、亜人連合国の方たちと仲良くなれた。それに元々黒髪黒目だから忌避感とかは持っていない。純粋なこの世界に生まれた人間であれば、拒否を示していた可能性もある。

 だって誰も居ないから、黒髪黒目は。紺色の人とかも居るけれど、純粋な黒髪となるとディアンさまくらいしか見たことないが、彼の瞳は緑色だし。深く考えると面倒になるし、古代人の先祖返りで納得できるのだから気楽に行こう。

 

 「クロの言う通りだよ、ナイ」

 

 それに何故かリンが加わるのは、いつものことで。

 

 「それでは行きましょうか。ふふふ、久しぶりに全力が出せそうです」

 

 あれ、もしかして。副団長さまのストレス発散の為に組まれた仕事だったのだろうかと、ジークとリンと私で顔を見合わせるのだった。

 


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