魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0193:道すがら小話。

 冒険者ギルドを出て歩くことしばらく。領境はすぐにあり、ここを一歩またげば副団長さまが王国から預かり管理している土地になるそうだ。強い魔物が出るという話なので、領地だというのに人っ子一人居ない。ただ鬱蒼と茂る森と視界の奥に高い山が聳え立っている。

 

 『ねえ、ハインツ。強いヤツ居るの?』

 

 「どうでしょうねえ。ロゼさんや聖女さま、ジークフリードさんにジークリンデさんには少し物足りないのかもしれませんよ」

 

 それだと副団長さまも物足りないだろうに。ロゼさんはちょっと残念そうにぽよーんぽよーんと跳ねながら、私たちと一緒に並んでついてきている。クロは私の肩の上で大人しくしていた。きょろきょろと興味深げに周囲を観察しているから、何か感じるところがあるのだろう。

 

 腕試しは有難いけれど、アルバトロス側も思い切った決断をしたものだ。今まで私をあまり外に出そうとしなかったというのに、今回急に副団長さまと一緒に魔物の間引きに行ってこいだもんなあ。

 

 「その辺りはハイゼンベルグ公爵閣下の一押しですねえ。周囲は渋っておりましたが、何かあった時に“殺せぬ”では、いくら訓練を積んだところで無駄にしかならないという閣下のお言葉が決め手でしたから」

 

 副団長さまの言葉を聞きつつ、また心の中を読まれていると微妙な顔になる。一応、強い魔物が出やすい土地柄だけれど、副団長さまや護衛の魔術師さまたちにジークとリンの腕と、私の魔術師団での訓練光景が評価されたようで。

 

 「腕試しの機会を頂けたことは幸いです。魔術師団の訓練場だとやはり気を使いますから」

 

 壊すわけにはいかないものね。学院と同様に魔術師団の訓練場はお城の魔術陣から障壁の転用をしている。固い障壁だから遠慮はいらないと言われたけれど、障壁を突き破り建屋を壊してしまったのは記憶に新しい。

 平謝りしつつどうしようとアワアワしていると、副団長さまが僕の責任なので僕がどうにかしますねと男前な言葉を発していた。なんだか凄くカッコいいなあと心の中で褒めていると、何のことはない国からの命令だったので、修繕費はアルバトロス王国持ちだったのである。

 

 「ですよねえ。僕も魔術師団の訓練場での演習は物足りませんから。聖女さまがいらっしゃれば障壁を張って頂ければ全力を出せます」

 

 副団長さまの声に、護衛の魔術師さまたちがざわめいた。フェンリルを消し炭に出来る人だから、期待があるのかもしれない。先ほどのざわめきは、ドン引きという雰囲気ではなく期待を込めているものだったから。

 

 「加減、よろしくお願いします」

 

 「おや、魔獣クラスが出現すればそうもいきません。その時はよろしくお願い致しますね、聖女さま」

 

 学院の一年生全員参加した遠征訓練でフェンリルを倒した時の副団長さまの魔術の威力は凄かった。必死こいて何節も詠唱していたのが懐かしい。あの頃よりも上手く魔力を使いこなしているので、一節くらいは減るかもしれないけれど、大変なのは同じである。

 あと私の実力を見定めているだろうし、絶対ギリギリ対応できる所を攻めてくるはずだ。副団長さまという人ならば。ロゼさんも戦闘狂の気質があるかもしれないから、気が抜けない。

 

 然う然う、魔獣なんて出てこない筈だけれど。というか頻繁に出てきてたまるかと叫びたい。魔獣は一生に一度出会うかどうかと言われているのだから、然う然う出会っても困るだけだし、向こうもまた副団長さまの手によって消し炭にされるのだから、出てこない方がお互いの為である。

 

 「善処しますが、無理な時は逃げましょう。ロゼさんもジークもリンもね」

 

 これに限る。命あっての物種だし、リベンジは可能なのだから。副団長さまでも対応できない魔物や魔獣が出たとなれば大騒ぎだろうけれど、軍や騎士団のみなさまに、魔術師団所属の魔術師さんたち、そして教会所属の聖女さま方が駆り出されて討伐隊を編成するだろう。

 アルバトロス王国の上層部の方たちが頭を抱えるかもしれないが仕方ない。自然に発生するもので、人間の管理下に置くことは出来ないのだから。

 

 私の言葉に意味深な笑みを浮かべた副団長さまは、ひたすら歩いている。足元が悪く進み辛いのだが、彼は慣れているようだ。

 

 『マスター、ハインツ。何か居る!』

 

 ぴょーんぴょーんと跳ねていた歩みを止めて、進んでいる道から逸れている右側をロゼさんは見つめている。私には何もわからないけれど、しばらくそちらを見つめながら待っていると、副団長さまが反応を見せた。

 

 「おや、ロゼさんに負けてしまいました。うーん、師弟関係は解消でしょうかねえ」

 

 『ハインツはずっとロゼのお師匠さまだよ』

 

 仲良きことは素晴らしきかな。でも副団長さまとロゼさんでは、混ぜるな危険状態である。硝酸と塩酸を一対三で混ぜて王水を作り、その中へ金属を放り込んで溶かすようなもの。

 それか強酸性の液体と強アルカリ性の液体を混ぜ込むようなものだろうか。何にせよ思考がデストロイな方向性なので、危ない限りである。

 

 ふふふ、えへへと笑いあっている成人男性とスライムさん。これから先、妙なことになりませんように。雑魚な魔物でありますようにと願っていると、茂みがガサゴソと怪しく揺れ始める。緊張感が一瞬で張られて、みんな戦闘態勢へと入った。

 魔術師の方たちや私は魔力を練り、すぐに魔術を発動できるようにと準備。ジークとリンも抜刀しており、赤と黒の刀身が陽の光によって反射し、準備万端と言わんばかりに輝きを放っている。

 

 『数が多いね』

 

 「ですねえ。しかしこのメンバーであれば十分対応可能です」

 

 ロゼさんと副団長さまが茂みの中から現れた魔物をしげしげと見やりつつ、そんな言葉を発し。

 

 「クロ、後ろに下がっておく?」

 

 私は私でクロをどうするかを聞く。

 

 『ボクは見ているだけで良いかな。邪魔そうになったら飛んでおくから大丈夫』

 

 クロも魔物に慌てる様子もなく、普段通り落ち着いた声色だから問題はないだろう。

 

 「そっか。ジーク、リン、強化魔術は必要そう?」

 

 「腕試しで訪れたんだ。状況が変われば頼む」

 

 「うん。先ずは切れ味を試して、訓練の成果を確認しなきゃ」

 

 二学期の騎士科主催の模擬戦で負けて、悔しい思いをして訓練に一層励んでいた二人。今日という日は、鍛錬の成果を試す良い機会なのだろう。

 

 「ああ、聖女さま。護衛の魔術師のみなさんに、魔力増加系のものを掛けて頂いても?」

 

 護衛の魔術師さまたちは、現れた魔物の姿に少し腰が引けている。副団長さまが居るから心配は必要ないだろうに。

 

 「勿論です。あと私も倒してしまっても良いんですよね?」

 

 状況はどう転ぶか分からないから保険は掛けておくべきもの。副団長さまに言われた通り、護衛の彼らに強化魔術を施すと『おお!』と声が上がってる。

 

 「聖女さまの訓練の結果を試す為に訪れましたからねえ。存分にどうぞ」

 

 自然破壊は自重して下さいと副団長さまが言葉を付け足した。一番ヤバそうな人に言われてしまったと、口元を引き延ばしながら私たちを見定める魔物に視線をやる。火蜥蜴が十匹。一人一匹がノルマだろうなあ。冒険者登録も果たしているし、素材交換でどんな金額となるのだろうか。

 

 何にせよ、目の前に現れた火蜥蜴を真っ先に倒すべきだと、魔力を練る。

 

 『ナイ、漏れてるよ』

 

 『マスター、魔力漏れてる。ロゼが吸収しておくね』

 

 腹ペコなのかどうかは知らないけれど、私から漏れた魔力をちゃっかりと吸い取る竜とスライムだった。

 

 ◇

 

 クロとロゼさんに練った魔力を吸われつつ。暫くの睨み合いの末に一匹の火蜥蜴がしびれを切らしたのか、右前足で地面を何度か掻いた後で後ろ足の発達した筋肉を使って一足飛びで迫ってくる。

 視界の端で誰かが前へと踏み出たのを一瞬捉えた後に、ジークとリンが飛び掛かってきた火蜥蜴と交差した。

 

 サラマンダーは何とも言えない悲鳴を上げた後、首と右前足から大量の血を流して絶命する。ドワーフの職人さんが鍛えた剣は凄い切れ味だし、二人の実力もあるのだろう。討伐が難しい部類に入る火蜥蜴があっさりと倒してしまった。

 

 「すまん、先に倒した」

 

 戻ってきたジークが発した言葉に苦笑いをしつつ、状況はまた膠着してしまった。

 

 「ごめんね、ナイ」

 

 素早いと魔術師は対応出来ない場合がある。詠唱が間に合わなければ食われるのみなので、素早い判断が求められる。

 一節目さえ唱えていれば、二節目の詠唱をキャンセルして放つことが可能だけれど威力がダダ下がるし、十分な効果が得られない。ジークとリンの判断は間違っていないから問題ないし、副団長さまや魔術師の皆さまも動かなかったのだから。

 

 「次は私で良いのかな?」

 

 「ええ、どうぞ。間引きはまだまだ終わりませんので」

 

 副団長さまがにっこりと笑って私に告げた。どうやら火蜥蜴十匹を倒しても、先はまだ続くようだ。流石、強い魔物が出現しやすいと言われている場所である。副団長さまを満足させてくれる魔物は出現するのだろうか。

 

 そんな魔物は出ない方が良いけれど、見てみたい気もする。残り九匹、全部任せて頂いても良いような口ぶりだった。今回の魔物討伐は通常の遠征とは違って、守りに徹する必要もない。この面子ならば、攻撃は最大の防御である。

 

 『マスター、ロゼと一緒に倒そう?』

 

 ロゼさんはまだ共同作業という言葉を気にしているようだった。ちゃんと出来るかは分からないけれど、属性の違う魔術をそれぞれ使えば共同作業っぽく見えるかも。

 

 「ロゼさん。じゃあ一緒に魔術を使おうか」

 

ロゼさんが体をぷるんと揺らして、喜びを表している。さて、共同作業となるのだから相乗効果のある魔術をと考えるけれど、火や雷属性の魔術は自然破壊となりそうだからNGである。

 ならば風や水が無難となるけれど、派手さが皆無。うーん、こうして考えるのも楽しいけれど、難しいものだよね。周囲のことを考えるならば、風や水、もしくは無属性の魔術だろうなあ。重力系の魔術でも使えれば良かったけれど、扱いが難しく使い手が少ない。

 ただ古代魔術であれば、似たようなものが見つかるのかも。自然の理がよく理解されているのか、術式を見ているとそういう部分が見受けられる。古代人の先祖返りというのもあるのだろうけれど、前世の科学的知識も古代魔術を使いこなせる理由の一端だろう。

 

 「自然を壊すのはダメだから、相手だけを狙える魔術を使おうね」

 

 ロゼさんは副団長さまから教えを受けているのだから、その手の魔術も習っているだろう。

 

 『ロゼ、分かった』

 

 体を縦に伸ばしたロゼさんは言い終わるや否や元の形に戻って、左右に体を揺らした。

 

 「ん。――じゃあ詠唱しよっか」 

 

 今回は古代魔術よりもエルフのお姉さんズから教わった魔法を使った方が良さそうだ。威力は古代魔術より期待できないが、九匹同時に狙える魔法を教えて貰っている。まだ不慣れな部分があるので自信という部分は下がるけれど。

 この四年間は聖女として討伐に参加していたから、後衛に徹して補助や怪我を治していたから。攻め手に回るのは初めてだよなあと、ふっと息を吐く。

 

 「――"風よ鳥のように優雅に舞え″"姿を見せぬ風は自由"」

 

 魔法の詠唱ってちょっと不思議な感じ。エルフのお姉さんズには、楽しそうに軽やかに唱えるのが味噌と教えられた。

 それが出来ているかどうかはわからないけれど。魔力と発動した魔法の影響で髪がバサバサと揺れている。

 

 『――"木々の葉から落ちる雫よ″″小川となり大河となれ″』

 

 ロゼさんは水属性の魔術をチョイスしたようだ。私は風属性なので、周囲への影響は少ない。ロゼさんの体の周りには水がどこからか湧き出てきており、渦を巻いている。

 危険を察知した火蜥蜴は口からちょろちょろと火を吐いたり、後ろへ後ずさったり。前足で地面を搔いている火蜥蜴は私かロゼさんに狙いを付けているようだ。

 

 「ロゼさん!」

 

 『うん!』

 

 呼吸を合わせて同時に魔術と魔法を走らせたと同時、前から迫ってきた火蜥蜴だけではなく私たちの横っ腹から襲ってきた。狙いを定めていた九匹の火蜥蜴は魔術と魔法によって倒れてたが、横っ腹から飛び掛かってきた火蜥蜴三匹は副団長さまとジークとリンの手によって倒される。

 ふう、と安堵の溜息を吐く。うーん、前ばかりに集中しすぎていたか。ジークとリンと副団長さまは気づいていたようだし、まだまだ精進が足りないようだ。

 

 「大丈夫、ナイ?」

 

 「ありがとう、リン」

 

 剣を鞘に納めたリンがこちらにやって来て、私に問いかけた。ジークもゆっくりと近づいてきて、私の側に立った。

 

 「まだまだ、鍛えないと駄目だね」

 

 魔術や魔法はこのままで良いかもしれないけれど、周囲の把握や対応の仕方も身につけないと。でもこの辺りって実践をこなすのが一番手っ取り早いから、まだまだ時間は必要だろう。上手く物事が運ぶのは難しいなと、副団長さまを見る。

 

 「素材や魔石を回収して、死体処理を施したら先へ進みましょう」

 

 彼の言葉に同意して、地面に横たわり死体となった火蜥蜴を見た。確かギルド支部長さんが討伐した数と種族を覚えておけと言っていたので、カウント九になるのかなあ。ロゼさんとの共闘だから半分になるかも。

 数が多いからどうするのだろうかと疑問に思っていると、護衛の魔術師さんや副団長さまがどこからともなくナイフを取り出して素材を剝ぎ取っている。

 ゲームならば死体が勝手に消えて素材や魔石が地面に残っているけれど、現実はこんなものかと感じつつ私も持ってきていたナイフを取り出して、魔術師さんたちの助言を受けながら素材を剥ぎ取る。

 

 「素材を綺麗に残すのも、魔術を究める為の方法でしょうね」

 

 副団長さまがそんなことを言いつつ、テキパキと動いてる。私やロゼさんが倒した火蜥蜴は、無惨な姿になっているから、素材回収という意味では不合格なのだろう。倒すだけじゃダメなのだなあと感心しつつ、魔術師さんたちがはぎ取った素材を私たちに渡された。倒した人が素材を受け取るのだそうだ。ジークやリン、副団長さまが倒した火蜥蜴は割と形を残しているから、受け取った素材は私たちよりも多い。取り尽くすと、副団長さまが魔術を詠唱して綺麗さっぱりと火蜥蜴を消し去った。

 

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