魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0194:分け前。

 ――討伐した数を覚えていてください。

 

 アルバトロス王国ギルド支部の支部長さんの言葉だ。先ほど火蜥蜴を計十三匹倒したが、配分ってどうなるのだろうか。

 

 「とどめを刺した方が基本的に総取りですね。まあこれは僕たち魔術師のルールなので、聖女さま方はどういたします?」

 

 チームで行動している冒険者の皆さまもルールを決めて運用しているそうだ。取り分って喧嘩の元となりチーム崩壊の危機、なんてことになる可能性が高いのでかなりシッカリと決められているそうで。今回、冒険者登録を済ませた理由は素材の換金の為。本来ならこの場所に練習としてやってきても良いけれど、強い魔物イコール良い素材が落ちる、だ。

 せっかく来たのだし副団長さまたちの懐に入るだけでは問題があろうと、アルバトロス上層部に掛け合ってくれたらしい。

 実力があるからチームを組んで真面目に冒険者として取り組めば、AランクやSランクになれるそうな。昇格試験がある故に直ぐにランクが上がるのは不可能だし、銀髪くんの件で審査が厳しくなったので、低ランクの冒険者でも昇格審査に時間が掛かるとか。

 

 冒険者を副業としてやるなら、適当な場所に赴いて魔物を倒し素材をギルドに売り払うのが一番効率が良いそうだ。討伐依頼等は受けず、ただひたすら換金のみ。なので副団長さまの冒険者ランクはEランクで止まっている。

 彼の実力を知っている人たちは、昇格試験を受けてみてはとよく言われるそうだが、忙しいの一言で断っているとか。

 ランクが上がると指名依頼があるから面倒なのだろう。拒否権があるので断ることも出来るが、拒否を続けるとランクが下がる。高ランクなんて目指していないので、冒険者としてのランクには興味はなく、ギルドで換金する為に登録しているに過ぎないそうだ。

 

 「ジークとリンはどうする? 私は副団長さまの方式で良いかなって考えているけれど」

 

 必要なものは自分たちの懐へ。残りはギルドで換金してお小遣い稼ぎ。

 

 「試し切り出来ただけでも十分だが……」

 

 「どうしよう?」

 

 魔物を倒すとお小遣いが貰えるって感覚があまりないので、ジークとリンが戸惑っている。教会護衛騎士は討伐派遣の時はいくら倒しても、討伐派遣手当がつくだけだもんねえ。私も討伐派遣の時は定額の支給だから、ちょっと慣れないかも。

 ちなみに討伐派遣の時は軍や騎士の方たちが素材や魔石を回収する。で、被害を被った領にいくらか払われて、あとは軍や騎士団の補填に回されるから。

 

 「気軽に考えて頂ければ良いですよ。今回は通常の派遣ではなく魔術の練習としてこの地に赴いているんです」

 

 強い魔物が出現する地域なので、軍や騎士の方々を常駐させるよりも魔術師さんたちの遊び場にする方が効率や利益が良かったのだろう。常に副団長さまのような強い方は居ないが、チームを組めば大抵の問題は片付く。本当、魔術師と呼ばれれる方々は変態と言われるだけはある。

 

 「じゃあ三人で山分けする? 後で美味しいもの買って貰って、みんなで食べようよ」

 

 私は王都の街に出られないから子爵邸で働く誰かにお使いを頼むことになるけれど。お留守番組のクレイグやサフィールに託児所の子供たち、ちょっとしたものならば邸で働いている人たちに差し入れも良いのかも。

 美味しいものを食べている時は幸せだから、たまにはこうして贅沢をしても誰も怒らないだろうし。王都の流行りのお菓子とか手に入れられるなら、食べてみたいよねえ。料理長さんがご飯やお菓子を丹精込めて作ってくれ、滅茶苦茶美味しいけれど偶には違うものも口に入れたい。ようするに偶に食べるジャンクフードは何故か美味しいというヤツである。

 

 「お前はまた食いに走るのか」

 

 「ナイはもっと食べても良いと思うけど」

 

 ジークが呆れつつ、リンがフォローに回っていた。食べても太らないからなあ。食べた先から魔力に変換されているようだけれど。胃の大きさは決まっているので、食べられる量は決まっているから悩ましいよね。無限に食べられるならば、無限に食べてみたい気持ちもある。

 

 「もう。――で、どうするの?」

 

 歩きながら先を目指しているけれど、また魔物がいつ現れるか分からないしさっくり決めておく方が良いだろう。

 

 『?』

 

 クロが私の肩で大きく首を傾げる。

 

 『うん?』

 

 ロゼさんは何故かいったん立ち止まって、長く縦に伸びて天辺の部分を左右に揺らしている。

 

 「何か気配が……いえ、勘違いですね」

 

 副団長さまも周囲を見回し不思議そうに首を傾げた後に、目を細めつつ結局何もないと判断したようだ。

 

 「どうしました?」

 

 何が起こるか分からないし、念の為に聞いておく。いつもと違うようなという感覚は結構大事で、こういう感覚も大事だろうから。残念なことに、私は全く分からなかったけれども。魔術は各々で得意分野や領域が違うから、仕方ない部分もある。

 

 「いえ、何か視線を感じたのですが……一瞬で感覚が逃げていきましたね」

 

 『ボクも何か感じたけれど、分かんなくなっちゃった』

 

 『ロゼも感じた。でも何だろう、分からない。ごめんね、マスター』

 

 一人と一頭と一匹、それぞれ同じような意見だった。感知に長けている方たちだから、気を付けた方が良さそう。そもそもこの場所は強い魔物が出る土地なのだから、気を抜かない方が良い。

 

 「謝らなくていいよロゼさん。気を付けて進もうね」

 

 ぺたんと地面に平面に伸びたロゼさんに声をかけると、丸みを帯びて元の形に戻ったあと、ロゼさんのまん丸ボディーを撫でる。何故かクロが私の顔に顔をすりすりしてくるので、クロの頭も撫でておいた。

 

 「ジーク、リン。素材は三人で山分けで。――この先何があるか分からないし、気を引き締めて行こう」

 

 申し訳ないけれど分け前は勝手に決めさせて頂いた。

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 私の言葉に確りと頷いてくれたジークとリン。気合を入れる為に片手を二人の前に突き出すと、ジークとリンも私の意図が伝わったようで拳面を突き出した。軽くそれぞれの拳面に合わせる。儀式とか気分の切り替えに丁度良いよね、コレ。あとは私がやりたいだけの自己満足だけれど。

 

 魔術師としてならまだまだ半人前。ジークとリンは騎士なので前衛としての役割が大きい。副団長さまが前衛が居ると楽でいいですねえと、少し前に呟いていた。普段は一人でこの場所に訪れたりしているのだろうか。

 彼ならばどんな敵が出てきても軽くあしらってしまうイメージがあるので、苦笑いをするしかないのだけれど。

 

 「奥へ進みましょう。時間が経てばもう一度冒険者ギルドへ戻って換金です」

 

 ちょっとした不安と期待を持ちつつ、足元の悪い道を進む一行だった。

 

 ◇

 

 ――アルバトロス王国、王城にて。

 

 甥が……アルバトロス王が招集を掛け、返事のあった国々から寄せられた名簿に目を落とす。

 

 「錚々たる面子ですな」

 

 本当に。まさか大陸の各国のほとんどが集まる機会など滅多にない、むしろこのような光景は初めてみたが。特に大陸南部……アルバトロス周辺に位置する国は今回の議題に力を入れているのか、かなりの面子を派遣しておる。

 リーム王国は王太子殿下、ヴァンディリア王国は国王陛下、マグデレーベン王国も外務卿と宰相を寄こしているので本気度が伺えよう。

 聖王国は大聖女と先々代の枢機卿殿だ。きちんと話が出来る人物を選んだのだろう。亜人連合国は当然のように代表とエルフの二人。彼の国を快く思わない……亜人嫌いの国の連中は忌々しい顔を浮かべているな。

 

 そう分かりやすい顔をするでない。相手にバレバレでは外交は務まらんだろうに。まあ例の大陸南東部の国なので、推して知るべしというべきか。ギルド本部の者も招集を掛けた。アルバトロスだけで戦力が足りぬのならば助力を乞う事態となる。事情説明くらいしておかねばと呼んだのだ。

 

 数日前、この招集を掛ける為にアルバトロス王国全土に障壁展開させる為、ナイに魔力補填依頼を出したのだが最近のあ奴は平気そうな顔で補填を終えていた。

 どこまで魔力量を増やす気でいるのかと問いただしたくなるが、黙っておくのが花と言うものだろう。補填の理由を深く聞いてこなかったから、問いただすと不味いと本能で理解したようだったが。

 

 「だな、公爵よ」

 

 流石に他人の耳や目がある中で叔父と甥の関係ではいられない。少し疲れた様子の甥ではあるが、腹は決めてあるのだろう。意志は折れていないし、気合も十分。これから挑む話し合いに一歩も引く気はない様子。まあ、引くとアルバトロスが滅びる可能性があるので、背に腹は代えられないというべきか。

 

 「では始めるか」

 

 今回、招集理由は東大陸のアガレス帝国についてである。不干渉を貫いてきたというのに、突然彼らはこちらの大陸へやってきた。奴隷問題もこちらに関わるための口実に過ぎぬ。帝国の情報は少ないが、断片的であれば拾えるのだ。

 

 今回保護した奴隷から彼の国の情報を得られている。東大陸上半分強は帝国領土、下半分は共和国や小国が位置しているとか。

 元々、下大陸に位置する者たちは褐色肌であるが、帝国の侵略によって混血が広まって上大陸にも褐色肌の者が次第に多くなったらしい。保護した奴隷の中に、教育が行き届いた者が一人居たことが救いだった。ただやはり祖国が良いそうで、帝国に引き取られたが。他にも情報を得ているが、今はまあ置いておこう。

 

 「はい、陛下」

 

 王城の一角にある大会議室に各国の重鎮が集まっている。これで帝国が蹂躙目的でアルバトロスに攻め入ってくれば、もろとも死ぬ羽目になるなと笑いがこみあげてきた。まあ、来れるならば来れば良いのである。ナイを無理矢理に帝国へと迎え入れようとしている態度はあり得ぬし、ナイは拒否を示したのだ。

 黒髪の聖女を差し出せば帝国の脅威から逃れられると言う声もあるが、黒髪の聖女を失った時のアルバトロスの損失を考えたことがあるのだろうか。亜人連合国の者たちが怒り狂うのは確実であるし、彼の国の基礎を作り上げた者の生まれ変わりもどう出てくるか分からん。

 強大な魔力を有しているのは傍から見ていても理解できる。ナイに懐き肩の上によく乗って顔を擦り付けておる。失った時にどう出るか分からないし、どのような力を振るうのかも分からないのである。これ以上怖いものはなかろう。

 

 ワイバーンや天馬も懐いておるし、王都の民にも人気であるし、軍の人間も慕う者が多い。簡単に向こうに明け渡してみろ、怒りで我々王家が潰されかねんわ。全く難儀なことになってしまったと心の片隅で考える自分と、楽しいことになりそうだと反対側の心の片隅で喜んでいる自分。

 

 「此度は我々アルバトロスの要請に応えていただき感謝する。本来ならば、私が各国へ赴き願い出る立場だ。不躾な要求を飲んでいただいたこと――」

 

 甥が丁寧な言葉で尽くして礼を述べている。頼み事をする立場である。甥の言う通りアルバトロスが各国へ赴いて説得すべきなのだが、事態は早く動かさなければならぬ故にアルバトロスに集まって頂いた。

 

 「――奴隷問題をきっかけに東大陸にあるアガレス帝国が、我が国に所属する聖女ナイを手に入れようとしている」

 

 ざわりと騒ぎ始める会議室。事の不味さを理解している者は青ざめた顔になっていた。別の意味で青くなっているのは言わずもがな、大陸南東部の国からの使者だ。

 あの国の馬鹿が帝国に教えなければ、こんなことにはならなかったはずだ。それかもう十年ほど黒髪黒目の者の発見が遅れるか。どちらにしろ知られてしまい問題となるのだから、彼の国の使者は居たたまれぬだろう。

 

 「彼の国の飛行艇はアルバトロスまで飛ぶことが可能と分かった。黒髪黒目の者の保護と称しているが、こちらの大陸侵攻の言い訳に過ぎぬ可能性もある」

 

 そう、黒髪黒目のナイを保護したあとで攻め入ってくる可能性だってあるのだ。竜騎兵隊も数をそろえている所だし、魔術師たちにも遠距離攻撃系を覚えろという命も下している。だが他国はたまらぬだろう。竜騎兵隊を用意など出来ぬし、質の良い魔術師は少ない上に冒険者に就いている可能性もある。

 

 「各国には帝国の動向共有を願いたい」

 

 願い出が出来るのはこれくらいだろう。あとは各国との交渉次第だ。

 

 「アルバトロス王よ。――何故、黒髪の聖女が狙われる?」

 

 どうにも情報が少ない所為でそこから説明を始めなければならぬようだ。まあ我々も今の今まで知らなかったのだから仕方ない。それを言うと何故聖王国の大聖女はこの情報を知りえていたのだろうか。――今は考えるときではないと首を軽く振る。

 甥の説明に『宗教関係か』『面倒な』『黒髪黒目の女神と黒髪黒目の者は分けて考えるべきでは』等々の言葉が各々から漏れている。

 

 「難儀だな。飛空艇を有している時点で帝国が優位な立場に立っている」

 

 「黒髪黒目の者を信仰している節がある。アルバトロスに黒髪の聖女が属している限りは強硬手段を取り辛いだろう」

 

 妙なことを起こそうものなら、ナイ自身が怒ってとんでもないことになりそうだがなあ。

 

 「日和見過ぎぬか、アルバトロス王」

 

 「私が日和見と申すかね。――では貴殿らの国が帝国と直面してみればよかろう」

 

 こちらの大陸で帝国と面と向かえるのは亜人連合国と我が国くらいのものだろうに。帝国の脅威に怯むのは理解できる。自国に火の粉が降り注げば厄介なことになるだけだ。

 

 「失礼した。発言を撤回したい」

 

 甥の言葉にむ、と言葉を詰まらせそんなことを言った。まあ気持ちは分かる。

 

 「しかし黒髪の聖女本人はどうしたのだね。本来ならば彼女もこの場に居て我々に頭を下げるべきでは?」

 

 聖王国やリーム王国の現状を知っていて尚の発言ならば勇者だな。大聖女や先々代の教皇殿が青い顔であるし、リームの王太子も妙な顔をしておる。この場に召喚しろと無理を言う輩が居るとも限らんから、ナイを王都から外に出しておいた。

 

 「貴殿の言う通りであるが、聖女には自力で身の安全を守るべく攻撃魔術を習わせておってな。あの魔力量だ、その効果は計り知れぬであろう?」

 

 今は強い魔物が出る場所で実践を積んでいると甥。その言葉におおとどよめきが沸く。竜を従え、リームの聖樹を枯らし、聖王国の腐敗を正した。

 正しい情報を掴んでいれば、正しい反応が出来るはずだ。敏い者であれば広域殲滅魔術も習わせると気づくだろう。本来ならば必要なかったものだが、実情がそれを許さない。ナイには人間を殺す覚悟も持って貰わねばならぬ。

 

 ――すまぬな、筆頭聖女よ。

 

 人を殺す覚悟など持たぬ世になって欲しいという願いは叶えられそうにないなと、人知れず視線を天井へ向けるのだった。

 


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