魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0196:クロの本気。

 どうやら副団長さまが目指していた場所に辿りついたようだ。ここが折り返し地点なので、元来た道を戻ることになる。領境にあるギルド支部で換金を終えれば、副団長さまの転移で子爵邸まで直帰。魔術の練習にということでの参加だったけれど、結構楽しかった。

 聖女は後衛とか支援を務めるから、前衛を務めることはない。

 場数を踏んでいないので、まだまだ未熟なところや研鑽すべき事がある。それはまた戻って副団長さまや慣れている人たちからアドバイスを受ければ良い。

 ジークやリンも試し切りが出来て満足そうだし、今日は出かけて良かった。お城の魔力補填や教会の礼拝に治癒院以外に外に用事で出ることもなかったし、良い気晴らしでもあった。

 

 『ナイ……ボク、本気のブレス試していない』

 

 「え、あれで本気じゃないの?」

 クロが放ったブレスの威力は高くて、魔物が丸焦げになっていたのだけれども。あの威力を見せて本気でないとは……。

 

 「でもあれ以上の火力を出しても無駄だよね」

 

 うん、確実にオーバーキルだ。

 

 『だよね……』

 

 今度は丸焦げどころか、灰化してしまいそうな。何か思うところがあるのかクロが首を傾げた後、私の顔に顔を擦り付けた。

 

 「試し打ちなら空に放ってみるとか?」

 

 魔術を空打ちすることはあるんだし、ブレスの空打ちしても良いんじゃないかな。本気のブレスを試していないということは、クロも自分の火力を把握できていないということだろうし。私もクロの本気を見てみたい。

 

 『良いのかな?』

 

 こてんとまた首を傾げたクロ。やろうと思えば勝手にやれるだろうに、確認を取るあたり賢いというか。

 

 「自分の限界を把握していないと危なそうだし、この場所なら見ている人も少ないから良いんじゃないかな?」

 

 どうでしょうと副団長さまを見ると、頷いてくれた。現場責任者的には問題はないようだ。

 

 「ここならば人に当たる心配はないですし、空に放つというならば自然も守られますからね」

 

 少し開けた場所へ移動しましょうと副団長さま。この場所を熟知しているのか、迷う様子もなく彼の言葉通りの遮るものがない場所へと辿り着く。

 

 『じゃあ、空に鳥が飛んでない時に放てば良いよね。ちょっと時間が掛かるかもしれないけれど……』

 

 私の肩から飛び降りて、地面に降りたクロが私たちに距離を取って欲しいと願い出た。ブレスを放つ本人が本気の威力を把握していないので念の為なのだろう。時間が掛かるのは射線上に鳥が飛んでいれば巻き込まれてしまうから、クロなりの配慮なのだろう。

 

 「強い竜の生まれ変わりが放つブレスですか。興味が尽きませんね! そもそも僕が生きている間に見れるだなんて……やはり聖女さまは規格外ですね」

 

 副団長さまがふふふと笑って私を見ているけれど、凄いのはクロ自身で私は関係ないような。というか魔力を提供しているだけなのだけど。

 

 「でもクロはまだ体も小さいですし、本気と言ってもさっき見たブレスとそう変わりないのでは?」

 

 私の肩にちょこんと乗れるサイズなのだ。魔物を倒す際に見せてもらったブレスも凄かったので、あれ以上を上回るというのは考えづらい。ご意見番さまの生まれ変わりだけれど、生まれてから半年ほどしか時間が経っていないのだ。何万年も生きていたというご意見番さまのような威力を出せるのか疑問だ。

 

 「どうでしょうねえ。案外聖女さまの魔力で更に強くなられている可能性も捨てられませんから」

 

 「まさか」

 

 確かにバカスカ魔力を吸われている時もあったけれど。副団長さまの言葉を否定した後にクロを見る。小さい体で地面に確りと足を付け、空を見上げている。鳥が飛んでいるか確認しているようでじっと空を睨み、しばらくしてぱかっと口を開く。なんだか戦闘機が弾薬庫の蓋を開けるみたいだなと呑気なことを考えた私。

 後ろ脚の爪を地面へ食い込ませたその時、口の周りが青い光で照らされていた。夜でもないのに目にはっきりと映る光に驚いていると、青い光が消えた。刹那、クロの口から青い光の線が上空へと放たれた。

 

 「え?」

 

 今見た光景は、ブレスというよりもレーザービームとか荷電粒子砲とか称される類なのでは。レーザービームと荷電粒子砲の区別があまりついていないけれど。

 流石ご意見番さまの生まれ変わり。クロが放ったブレスは雲を突き抜けたあと自然消滅していた。いや、うん。今のブレスに魔法や魔術的要素ってあるのかな。これでクロの体が成長して、大きくなった時に放てば大陸一つくらい簡単に潰せそうな気がする。

 

 「素晴らしい!」

 

 「……」

 

 「凄いね」

 

 『ロゼ、負けちゃった……』

 

 副団長さまは歓喜し、ジークは無言、リンはクロを褒めているし、ロゼさんに至っては勝手に敗北しちゃってる。護衛の魔術師さんたちは、口をあんぐり開けたまま空を見上げてた。

 奇跡が起きれば鳥の糞が口の中へストライクしちゃうので閉じましょうと願いつつ、竜種って凄いんだねと改めて考え直しながらクロを見ると、クロも口を開けたままあんぐりしていた。

 私の腕から降りていたロゼさんは、地面にべちょーと伸びていた。クロと言い合いをしていた間柄だったけれど、クロの本気を見て思う所があったらしい。ロゼさんはロゼさんの、クロにはクロの魅力があるのだからそんなに気にしなくても良いのに。べちょーとなっているロゼさんを何度か撫でて、歩き始める私。

 

 「クロ、大丈夫?」

 

 終わったようだし、動かないクロが心配になって近づいて地面にしゃがみ込む。

 

 『!』

 

 まだあんぐり口を開けているクロに苦笑していると、私に気が付いて口を閉じた。

 

 「凄かったね」

 

 『ボクも驚いたよ。まさかあんな威力になるなんて』

 

 全力は出せないねと呟いて私の肩に乗ったクロ。そうしてみんなの下に戻ると、クロは時間を取らせてごめんなさいと伝える。

 副団長さまは興奮気味にクロに語り掛けつつ、ギルド支部へ戻ろうと指示を出す。まだ凹んでいるロゼさんを諭しクロも何故かロゼさんを慰めると、少し立ち直ったらしい。少し元気がないけれどぴょんぴょんと飛んで歩き始めた。

 

 歩くことしばらく、また茂みが揺れて一同魔物かと臨戦態勢となるけれど、茂みの中から顔を出したのは先ほど会った子フェンリルだった。何故また会うのだろうと疑問に感じつつ、どうしたものかとみんなで首を傾げた。

 

 ◇

 

 ――どうしようか。

 

 茂みの中から姿を現した子フェンリルを見る。前足に古傷のある子フェンリルはどうやら私たちに興味があるみたい。

 で、私たちの中で一番興味を示しているのが副団長さまなのだけれど、彼が子フェンリルに近づこうとすると唸るんだよね。私はこちらに被害がないのならば放置で良いと考えているので、この場を早く去ってくれないかなあと言うのが本音。ギルド支部へ戻って、換金作業がある。袋の中に詰め込んだ素材がどのくらいの値段が付くのか気になる所。

 

 「無視して戻ります?」

 

 「僕たちに興味を示しています。もう少し観察させて頂きたいのですが……」

 

 まあ、穏やかな魔獣と遭遇するのは珍しいとのことなので、副団長さまが興味を示すのは仕方ないのか。護衛役の魔術師さんたちも気になっているようだし、ここは待つしかないかと諦める。毛並みはつやつやだし毛量も多く長いから、撫でたい欲求もある。

 クロは鱗で覆われているし、ロゼさんはスライムさんなのでツルツル。エルとジョセにルカは短毛である。猫又さまも黒色の短毛。ようするに長毛が居ない訳で、撫でたい欲求が発生するのは仕方のないこと。モフ成分は心の癒し。

 

 「諦めてどこかに行ってくれると良いけれど」

 

 子フェンリルのつぶらな瞳が野良犬みたいに見えて仕方ないけれど、自然の中で生きるのが一番だ。拾って帰るのは簡単だけれど、大きくなって凶暴になる可能性だって捨てられないんだし。気軽に引き取るものじゃない。

 

 『ボクが話を聞いてこようか?』

 

 「分かるものなの?」

 

 クロの声に反射的に答えてしまう。でもこれで連れて行って欲しいと請われたらどうするべきなのか。クロに頼んで、ここを住処にするようにお願いするしかないのかな。

 

 『うん、魔力の感じ方で大体は分かるから。ナイ、どうする?』

 

 「決定権は私じゃないかな……副団長さま、どうされます?」

 

 今回の責任者は副団長さまなので彼に聞いてみると悩ましそうな顔をしている。

 

 「出来ることならば魔獣や魔物の発生理由を知りたいですが……」

 

 『小さいからまだそういう知識は持っていないと思うよ。ボクが出来るのは、あの子がどうしたいか聞くだけかなあ』

 

 「それは残念です。せめて以前のように倒してしまう事態に陥らないように済めば僕は満足でしょうか」

 

 『?』

 

 「そっか、クロは知らないものね」

 

 以前、足を怪我したフェンリルが痛みに耐えかねて狂化して副団長さまが消し炭にしてしまった話をクロに伝える。

 

 『ナイも規格外だけれど、君も規格外だねえ』

 

 「褒めて頂き感謝いたします。幼竜さま」

 

 クロの言葉に凄く嬉しそうな顔を浮かべる副団長さま。

 

 『あ、ボクのことはクロで良いよ。畏まられるのは苦手だから気楽に接してほしいなあ』

 

 「! ――ありがとうございます。ハインツ・ヴァレンシュタインと申します。ハインツとお呼びください」

 

 クロの言葉に珍しく団長さまが驚いたあと、直ぐになりを潜めさせ自己紹介をしている。変わり身が早いなと感心しつつ、一頭と一人のやり取りを見守る。

 

 『うん。挨拶が遅くなっちゃったけれど、これからよろしくね』

 

 「よろしくお願いいたします、クロさま」

 

 副団長さまの言葉遣いは基本的に丁寧だから、あまり変わった気がしない。クロの交友関係が少しづつ広がっているようで嬉しい限りだ。ただ副団長さまが暴走しなければ良いけれどと願うのみ。

 陛下の目もあるから妙な事態にはならないだろうけれど、副団長さまだしなあ。機会があるならクロの血が欲しいとか言い出しかねない。代表さまの血も研究で使っているようだし、頂けるチャンスがあるなら逃さないだろう。世の為人の為に使って欲しいけど。

 

 「あ、で。副団長さま、どうしましょう?」

 

 「このまま自然の中で生きるのが一番ですが、子フェンリルの意志もありますしね。クロさま、お願いしてもよろしいですか?」

 

 『うん、大丈夫だよ。もし何か希望があるなら叶えて欲しいし』

 

 クロは敵意のない生き物には優しい。少し前までミミズや尺取虫に負けていたとは思えないのだけれど。あれは遊びの範疇だったのだろうなあ。私の肩から飛んで行ったクロは子フェンリルの前に降り立つ。クロが近づいたら逃げるかなと考えていたのだけれど、予想が外れた。

 

 くーんと鳴いている子フェンリルと、首を傾げている幼竜。セレスティアさまが居たら、鼻血を噴出しそうな光景である。

 良かった本人が居なくて。というか副団長さまが狂化したフェンリルを倒した時、彼女の心の中は複雑だったのかも。人間に脅威を振りまくから仕方ない処置だったとはいえ、幻想種系が好きみたいだしフェンリルも魔獣とはいえそれに近い存在だし。

 

 『ナイと一緒に行きたいって』

 

 何故、そうなるかな。また私の魔力に惹かれてしまったのだろうか。微妙な気持ちになりつつ、クロに向き直る。

 

 「……これ以上子爵邸に生き物を持ち込むと、本気でソフィーアさまの雷が落ちると思う」

 

 彼女なら魔術で雷を放てそうだし。実際、雷系の攻撃魔術は存在するし。家に野良犬や野良猫を拾って帰る子供の気分である。子爵邸の主なので決定権は私にあるけれど、ソフィーアさまは頭を抱えるだろう。

 

 『ソフィーアが怒るかな?』

 

 「本気で怒りはしないし認めてくれるけれど、頭は抱えるかなって」

 

最後には認めてくれるだろうけれど、お小言は頂くだろうなあ。お猫さまの件を手紙で伝えた時も呆れつつ、子猫の引き取り手となってくれたけど。

 

 『あー……ボクたちの感覚では良い事なんだけれどねえ』

 

 「大きくなって暴れない保証もないしね」

 

 人間と共存するか、敵対するか、無視するかは個体によりけりのようだから。王都の貴族街でなにかあったら大問題である。

 

 『それならナイがあの子に名前を付ければ良いよ。言ったでしょ、古代人は彼らを使役していたって』

 

 「!」

 

 なんだか約一名喜んでいる人が居るけれど、話がややこしくなりそうなので無視を決め込む。

 

 「……良いのかなあ。それに使役なんて考えていないけど」

 

 『無理矢理に使役する訳じゃないならボクはお勧めするよ。そもそもあの子がナイと一緒に行きたいって言っているんだし』

 

放っておくと悪い子になる可能性もあるしねえとクロが言葉を付け足した。一緒に来たいのならば来れば良いいのだけれど、食べ物とか住環境とかどんなものが良いのだろうか。

 このままじゃあ話が進まないし、クロを介して子フェンリルに話を聞くしかないなと子フェンリルに近づくのだった。

 

 

 


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