魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ソフィーアさまとセレスティアさまが領地からのお土産を持って、子爵邸へと顔を出してくれた次の日。
彼女たちが昨日持ってきてくれたお土産は、私のことをきちんと把握してくれているのか食べ物関係が多くを占めていた。あとは託児所や孤児院の子供たちにと子供服を送ってくれた。古着で申し訳ないとお二人とも仰っていたけれど、そこは高位のお貴族さまなのでヨレヨレに着潰しているものなど一枚もなく綺麗なもの。
ごきょうだいの着れなくなった服も持ってきてくれていたので、男女ともに揃っていた。
託児所の子たちに必要分を取って頂いたあとは、子爵邸に住む方たちに古着屋さんより安い値段を付けて売り払い、そのお金は孤児院に寄付しようという話に。
もちろん余った服は孤児院に送って、要らないものは引き取ったのちに古着屋さんに売り払って現金化のちに孤児院に寄付かな。孤児院で処分してくれると一番良いけれど、そんな時間ないだろうし。
執務室、いつものメンバーで報告会を開いていた。
「ぶへっ!」
お城から届いた私宛の書状に目を通していたのだけれど、なんだかとんでもないことを書かれていたので、思わず吹いてしまった。
クロが心配そうにこちらを見ているし、足元に居るロゼさんと子フェンリルは一瞬びくりとした後、私の顔を見上げている。驚かせてごめんなさいという視線を向けると、納得したのか子フェンリルは私の足元でぺたりと体を付けて伏せの体勢になり、ロゼさんは子フェンリルの横でじっとしている。
「何故いちいち吹く、ナイ」
「ええ。貴族としてはしたないですわ」
吹いた私に苦言を呈すソフィーアさまとセレスティアさまに、護衛のリンが近寄って来てハンカチを手渡してくれた。
ありがとうと伝えて口を拭うと、お二人は冷ややかな目で私を見ているけれど、書状を見れば驚くのも仕方ないと納得してくれるだろう。ソフィーアさまとセレスティアさまに家宰さまが読んでも問題ない内容だったので、書状をまず家宰さまに手渡すと目を通していた。
「すみません。…………賜った男爵領がいつまでも男爵領では体裁が悪いからミナーヴァ子爵領と名乗るようにって……」
以前に捕まったアルバトロス教会枢機卿さまの一人であった男爵領を賜って、代官さまに運営を丸投げしている場所である。トウモロコシさんが美味しく育ったので、試験的に農家の人に種を渡して栽培をお願いしている所だ。
軍馬や馬車曳き用の馬が多く飼われている為、飼料用のトウモロコシさんも大事だけれど、食用の甘いトウモロコシさんは珍しいので高く売れると踏んでいる。
男爵領もう一つの特産品になれば良いと考えていたのだけれど、これでミナーヴァ子爵領産となれば更に付加価値が付きそうな。個人的には高級食材という位置よりも、世間一般に広がって欲しいのだけれど。調理方法の基本が茹でるだから、下町の奥様方に別の調理方法を確立して欲しいのだ。
「それは当たり前だろう。お前が、ミナーヴァ子爵家があの地を治めているのだからな」
確かに私が王家より賜り預かった領地である。前に公爵さまが子爵家を失っても永代の男爵領があるから安心だとか言っていた。結婚する気はなく、私の子供に継がせるというのはあり得ないので返上する予定のもの。
男爵規模の領地を子爵と名乗ると問題があるような気がして大丈夫なのかと首を傾げたのだが、陛下方アルバトロス上層部はソレを見逃すような方々ではなかった。男爵領隣にある空白地を統合して子爵領と定めるから、好きに使えとのこと。その空白地はバーコーツ公爵家に取り入っていた男爵家が運営してた領である。
バーコーツ公爵家のやらかしの際に一緒に吊り上げられたお家で、その家も帝国の奴隷を買っていたとか。
「そうですわ。今の今までが異常だったのです。むしろ何故今日まで放置していたのか疑問です」
代官さまに頼り切りなので、私があの地を治めている感覚は低いけれど。なんだろう、子爵邸の家庭菜園よりも収穫量が期待できる農園感覚かもしれない。困りごとがあれば頼ってくださいと代官さまに伝えてあるけれど、優秀な方なので定期報告が来ていつも通りですと書かれているくらい。
規模が大きくなるなら代官さま一人じゃあ大変だろうし、補佐役を何名か雇うか代官さまをもう一人立てるかになるのかな。この辺りは詳しくないので、家宰さまに助言を頂くしかないけれど。うーん、いろんなものが増えていくなあ。
「城の皆さまも忙しかったのだろう。なにせ、やらかすのが目の前にいる」
「否定が出来ませんわね。しかし国にとっては良いことばかりです。多少の苦労は致し方ありません。それが貴族であり国に仕えるということでございましょう」
現状維持が一番望ましかったのだけれども。でも陛下方が動いたということは、何かしらの目的がありそうだけれど、どうなのだろうか。単純に余っている領を振り分けただけのような気もしなくもないが。気にしたら禿げるから、前向きに考えよう。
この度編入される隣領の特産品やら問題点やら見つけて、運用方向とか新たに決めないといけないだろうし。
「貴族としては良い事だがな。この子爵邸も随分と手狭にはなってきているから、せめて外観だけでもどうにかしなければな」
もともと警備の関係で別棟が建てられていたミナーヴァ子爵邸。今回、聖女さま方が生活するスペースも用意されるとなったので、日中はトンカントンカン工事中。冬休みが終わる前には完成され、アリアさまを始めとした聖女さまが子爵邸の別館へと移り住むので、子爵邸の佇まいは少々不格好。
「最初から伯爵位かそれに準ずる屋敷を賜るべきだったのです。ナイならばまだまだ上を目指せますわ!」
セレスティアさまは私が爵位を賜った頃、伯爵位が適当でしょうと良く口にしていた。なんだか懐かしいなと目を細めつつ、私の意志をみんなに知って頂いておかないと。
「もうお腹いっぱいですよ。これ以上は――」
「――ご当主さま。もう一枚、書状がございますね」
必要ないのでと言いかけた言葉は、家宰さまの声にかき消された。二枚あった書状に気が付かなかった私。どれだけ鈍いのだろうかとがっくりしながら、家宰さまから渡された書状へ目を落とす。
「…………なんでこんなことに!」
おやと首を傾げる家宰さまに、またなにかやったんだなという顔を浮かべるソフィーアさまとセレスティアさま。私の所為じゃない気がするし、私よりも私の周りに居る子たちが凄すぎるだけである。
「で、どうしたんだ?」
「今度はなんでございましょうか?」
今さっき読んだ書状を机の上に広げると、お三方みんな書状へ視線を落としている。クロも興味があったのか私の肩から机の上に移動して、書状をのぞき込んでいた。
「順当だな。しかし今言ったことが直ぐに解決する方向になった」
「まあ、宜しいのでは。このままよりはマシでございましょうから」
「そうですね。暫くは騒がしくなりましょうか」
頭を抱えている私にお三方の声が降り注ぐ。その声は呆れているような、苦笑いをしているような声で。書状の内容は、子爵領も新たな編成となったのだから領地に邸を構え、こちらをタウンハウスとして運用なさいと。
ミナーヴァ子爵家のタウンハウスの外観が悪いからお隣さんと話をつけておいたので、設計士や建築士の専門家を派遣するので新しい主館を建てるようにと綴られていた。
ちなみに費用は王国が半分出してくれるそうだ。半分なんてケチなことを言わず全額負担してくださいと、涙目になる私。
いや、貴族としてならソフィーアさまとセレスティアさまが言うように良い事なのだろうけれどね……。
◇
夜、子爵邸の私室。いつもと変わらない場所だというのに、何故か部屋が狭く感じる。狭く感じるの原因は、お猫さまにお猫さまが生んだ子猫が居る上に、新参者の子フェンリル。
しかも子フェンリルをいたく気に入っているロゼさんは、私の影の中に居る時間が少なくなって子フェンリルと一緒に居る時間が増えていた。空を飛べるようになったルカも、私の部屋にベランダからよく遊びに来る。偶にお猫さまを背に乗せてやってくる時もあるし、本当に子爵邸内はカオス状態だった。
一つ良かったことは、子爵邸で雇っている人たちが彼らに拒否反応を見せない所だろうか。驚きはするものの、数日後には慣れている人がほとんどだ。まあクロを始めとした子爵邸に住み着いた方たちが、紳士的か大人しいというのが一番の理由だろうけれど。
意外なことは、副団長さまが子爵邸にいらっしゃると警戒態勢に皆さまが入るのだ。どうやら『幻獣保護活動隊』が勝手に結成されて、副団長さまの動向を見守っているらしい。仕事の合間や休み時間に行動する分には構わないし、副団長さまもその辺りは弁えているだろうから過激にならないでとは伝えている。
副団長さまにも念の為に伝えると知っていたようで、抑止力となるので構いませんとのこと。自重出来ない場合のことでも考えているのだろうか。少し心配だけれど、副団長さまが妙な行動に出れば子爵邸に立ち入り禁止となるのだから無茶はしないだろう。
で、幼馴染組がいつものように集まっていた。
夜はいつもその日に起きたことの報告会のようなものだ。クレイグは家宰さまの下で働いているから子爵邸の財政状況や人手が足りないところとか教えてくれるし、サフィールも託児所の子供たちの様子や孤児院のことを語ってくれる。
ジークとリンはその横で静かに話を聞いているだけ。でも、それが私たちにとっての普通なので何にも問題はない。今は私が今日の出来事を話していた。というか、私の話が一番長くなるから自然に最後に回るようになっていた。解せない。
「はあっ? 屋敷がデカくなるだってぇ!」
「クレイグ、声大きいよ」
座っていた椅子から立ち上がって大きな声を出したクレイグに、サフィールが窘めた。まあ私も大きな声をだして、どうしてこうなったと叫びたいけれど。お昼にソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまが居る執務室で叫んでおいたから。
「馬鹿っ! こんなこと聞いたら叫ぶだろうが! しかも隣の家の人間引っ越しさせるなんざ、大丈夫なのかよ!?」
私も心配になったけれど、その辺りはアルバトロスの上層部が上手くやってくれているはずである。これで遺恨なんて残れば、面倒ごとの種にしかならない。私のやらかしに頭を抱えている陛下たちが、下手を打つことはなさそうだし。大丈夫と信じるしかないだろう。
「そこは陛下方がお隣さんを説得してくれたんだと思う」
というか命令だけ下したとは考え辛いし。国家が横暴を働いたって噂を立てられれば、痛い目を見るのは私よりアルバトロスである。だからその辺りはきっちりと話し合いを済ませた上で、好条件の転居先が用意されているかなあと。
「……まあ、代々の家じゃねえとかソコより良い場所になったとかなら恨みは買わねえか。というか陞爵するんじゃないのか、ソレ?」
「まさか。だって最近、何もしてないよ」
亜人連合国とアルバトロスとの橋渡しを持った以降、ぶち壊す方面の方しかやってない気がする。アルバトロスの教会にリームに聖王国に。ヴァンディリア王国は、ご愁傷様としかいえない状況なので難しい所だけれど。
東大陸の帝国の件は私が居ることによって降りかかった問題だから、国に迷惑をかけている形となるのでノーカウント。
ぶっちゃけ王国の子爵家の貴族一人くらい手放しても痛くも痒くもないだろうに。陛下と公爵さまに辺境伯さまや、仲良くしてくださる方々はどんな事態となっても帝国から守ってやると言ってくれた。
亜人連合国の皆さんも、本人の意志を無視して連れ去ったり、無理やり連れて行くようなことがあれば帝国に対して相応の態度をとると確約してくれたのだ。我儘を言って申し訳ないが、アルバトロスに根を下ろすと決めたのだ。決めたことは最後までやり遂げないと。
やらかすにはやらかしているような気もするけれど、国に貢献したことがぱっと思いつかない。何かあったかなあと考えていると、何故かみんなから白い目で見られる。
「……はあ。まあ、ナイだからなあ」
「ナイだもんねえ」
クレイグとサフィールが呆れた声を出して私を見ている。ジークは優雅に紅茶の入ったティーカップに口を付け、リンは膝に乗っている子猫を幸せそうに撫でていた。まだ告げていないことがあったと思い出して、呆れているみんなを見つつ声にした。
「領地もミナ―ヴァ子爵領に名前を変えて、あの規模じゃ小さいから王家に返上された隣の男爵領を編入させて子爵領の規模にって言われた」
「ああっ!? 領地もデカくなるのかよっ! というか隣の領地が都合よく空いてるな! なんだその豪運!」
いや、うん本当に。タウンハウスなら説得して引っ越しを了承してくれたというなら話はまだ分かる。領地となれば、代々云々があって初代さまから続く土地だからと拒否されただろう。本当に空いていたのは奇跡のようなもので。
「運、良いのかな。悪運じゃない、コレって」
本当にそう思う。いろんな方と出会えるのは有難いことだし、クロや亜人連合国の方たちにエルやジョセにルカ、他のみんなに会えてこうして一つ屋根の下で暮らしているのも良い事だけれど。
その反動なのか面倒なことが降りかかってくる。でも、一応自衛できる手段を手に入れられたし、魔法と古代魔術を駆使すれば帝国を迎え撃つ位なら一人でどうにか出来るはず。戦いの場がアルバトロスになりそうなのが唯一の気がかり。帝国で単身渡るとなると無茶が過ぎるし。
「悪運かどうかはナイが決めることだな。まあ妙な場所じゃなけりゃ赤字には早々ならんし、金があるのは良い事だ…………陞爵どころか国を手に入れそうだなお前」
「怖いこと言わないでよ、クレイグ」
「ま、流石にお前でも国は無理か」
流石に一国の王なんて座には就けない。その責任は重いものだと知っているし、簡単に就けるものではないことも。
「あ、今度子爵邸の別館に住む聖女さま、可愛い子だから期待してて良いと思う」
アリアさまは可愛い系なので好きな人は好きだろう。もう何年かすれば美人度も増すだろうし。他の方も来るのだけれど、まだ誰か教えられていない。ただ美人な方や可愛い人が多いので、目の保養にもよかろうと、男性陣に期待しておけと告げるのだった。