魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0200:新たな住人。

 三学期があと数日で始まる、その日。子爵邸に新たな仲間がやってきた。仲間というのは語弊があるかもしれないけれど、今日から一つ屋根の下――別館だけれど――で暮らすのだから一緒だろう。

 新しく建てられた別館には既に荷物が運び込まれている。聖女さまたちが身の安全の為に子爵邸の別館で生活することが決まったのだけれど、まさかアリアさま以外の知り合いの聖女さまがやってくるとは考えていなかった。

 

 「ようこそいらっしゃいました。アリアさま、ロザリンデさま」

 子爵邸の馬車停に着いた教会の馬車から降りてきたのは、アリアさま以外の聖女さまはロザリンデさまだった。ロザリンデさまが子爵邸に住むことになったことは、意図的に隠されていたのか、単純に忘れていたのかは謎だけれど、知っている人で良かった。

 クロを肩に乗せて、子爵邸の面々が揃ってお二人を出迎える。クロは勿論だけれど、ロゼさんや子フェンリルにエルやジョセにルカ、何故かエルの背に乗っていたお猫さままでいらっしゃる。賑やかなのは良い事だし、新しく増えた面々も紹介しなければならないので丁度良いのだろう。

 

 「今日からお世話になります、ナイさま」

 

 「ナイさま、よろしくお願いいたします」

 

 アリアさまとロザリンデさまが聖女としての礼を執る。アリアさまは教会施設で過ごしていたから、こっちの方が確実に安全だ。

 ロザリンデさまは侯爵家からの移動となるので、下手をすればグレードダウンのような気もするが気にしていないだろうか。もちろん安全面という意味合いでは、子爵邸の右に出る場所なんて早々存在はしないだろうけれど。

 

 「気軽に過ごしていただけると嬉しいです。ロザリンデさまには少々手狭となるかもしれませんが」

 

 侯爵邸の私室の方が絶対に広いと思う。別館が完成した際に見学させて貰ったのだけれど、部屋の大きさはいたって普通。ミナーヴァ子爵邸の私の部屋より狭く、住み込みの侍女さんたちに与えられている部屋よりは広い。

 

 「気にしておりません。新しく建てられた別館が用意され、そちらで過ごすように聞いております。――この度はミナーヴァ子爵邸で過ごすこととなった栄誉、真に感謝いたします」

 

 ロザリンデさまがもう一度頭を深く下げる。私もそれに倣って頭を下げるのだけれど、そんなに畏まらなくても。別館にも侍女さんが配置されるので、基本的なことは彼女たちに任せても大丈夫。

 ただロザリンデさまはお貴族さまらしくない生活を最近満喫しているようで、介添えの方はそう必要ないらしい。なんだか最初に出会った頃の彼女のお貴族のお嬢さまっぷりが随分と懐かしい。

 

 「私も今日からナイさまのお屋敷で暮らせることになったこと、本当に嬉しいです! 改めてよろしくお願いします!」

 

 勢い良く頭を下げたアリアさまに苦笑を浮かべると、肩からクロが飛んでアリアさまとロザリンデさまの前で止まる。

 

 『今日からよろしくね。二人とは会ったことがあるけれど、こうして喋るのは初めてだから挨拶させてね。――ボクはクロって言うんだ。君たちの名前を教えて貰っても良いかな?』

 

 「ロザリンデ・リヒターと申します」

 

 「アリア・フライハイトです!」

 

 多分、爵位が考慮されているのかなあ。ロザリンデさまが先でアリアさまが後に挨拶をしている。

 

 『ロザリンデとアリアって呼んでも良いかな?』

 

 クロは社交に積極的というよりも、少々緊張気味の二人に気を使ったのだろう。ただ、クロが行くと余計に緊張するんじゃないのかな。アリアさまは顔を輝かせながら、クロが喋れるようになったことを喜んでいるけれど、ロザリンデさまは自己紹介を終えた後は固まっているし。

 

 「はい、よろしくお願いしますね!」

 

 「よろしくお願いいたします」

 

 エルとジョセは知っているし、ロザリンデさまはルカと初対面。まだ喋ることはできないけれど、エルとジョセを通して意思疎通は出来る。

 お猫さまはエルの背の上にちょこんと綺麗に座って、金色の目を細めながらぞんざいにお二人と挨拶をしていた。ロゼさんと子フェンリルは、ロゼさんが子フェンリルの紹介をしていたので、私が説明することはなく。後は子爵邸の面々との挨拶を済ませて、別館へと歩いていくお二人の背を見送った。

 

 「馴染めるかなあ……」

 

 うーん、どうだろうか。

 

 「フライハイト嬢に心配は必要はなさそうだがな」

 

 「リヒターさまはどうでしょうか?」

 

 アリアさまは割と順応能力が高そうだし、エルとジョセとも普通に喋っているし、偉そうな言葉使いのお猫さまも受け入れていた。ロザリンデさまは顔が引きつって、言葉数も少なかったから。

 

 『緊張しているみたいだったね』

 

 お二人を見送った後、クロは私の肩に戻っていた。首を少し傾げてお二人の緊張を感じ取っていたようで。

 

 『クロさま。ロザリンデさまは慣れるまでに少し時間が掛かりましょう。彼女の様子を気にしておきます』

 

 『そうですね。せっかく聖女さまの家で過ごされるのです。私たちの所為でくつろげないとなれば、聖女さまの不名誉となりましょう』

 

 エルはクロの事を幼竜さまからクロと呼ぶようになっていた。ジョセも同様でクロと呼んでいる。エルとジョセは二人を気遣っているようだけれど、余計に緊張するんじゃないのかなソレ。二頭が動くということは黒天馬であるルカも一緒に付いてくる。三頭一緒に別館に遊びに行くつもりなのだろうか。どちらにしろ、アリアさまとロザリンデさまが馴染んでくれると良いのだけれど。

 

 『人間の癖に我らに対して考えすぎであるな』

 

 顔を手で洗いながら、お猫さまも何か思う所があったようだ。苦言というよりも、お二人に対する悪意のない素直な感想なのだろう。

 

 「ロゼさんも君も、アリアさまとロザリンデさまをよろしくね」

 

 静かに佇んでいたロゼさんと子フェンリルに、視線を向けると『うん』と頷くロゼさんと『わふ』と声を上げた子フェンリルが答えてくれるのだった。

 

 ◇

 

 子爵領の領主邸が新たに建てられていると報告が入った。

 

 どこから聞きつけたのか分からないけれど、竜の方もお手伝いに参加してくれているので重量物の運搬が随分と楽なのだそうだ。時間をかけて建てるそうなので、あっちで過ごすようになるのは随分と先。完成の暁には警備の関係もあるのでお姉さんズや副団長さま特製の魔術障壁も施すし、転移魔術を習って王都から子爵領へ移動できるようにご教授頂けるとのこと。

 どんどん自分の周りが変化しているので目まぐるしくあるが、王都のタウンハウスも手狭なのは事実だし受け入れるしかないんだろう。貯めたお金が飛んでいくけれど、家宰さま曰く広がった領地の取り分と今までの収入で十分回収可能なのだとか。

 

 「うーん。明日から三学期だけれど、もう問題は起こらないよね」

 

 言葉にすると現実になりそうなので怖いけれど、言わずにはいられない。それに今は自室でジークとリンと私にクロとロゼさんと子フェンリルしか居ないから。

 一学期は婚約破棄騒動、夏の長期休暇は大規模討伐遠征、二学期はリームのギド殿下とヴァンディリアの第四王子殿下が留学生としてやってきた。三学期もどこかしらの国から留学生が来てもおかしくはない状況だし、東大陸の帝国の動向も気になる。

 物理的距離があるし海も隔てているから、こちらの国へ来るのは随分とお金と労力が必要だ。アルバトロスから帝国へ赴くことはないだろうが、帝国からアルバトロスへ来る可能性は十分にあり得るから気を付けないといけないけど。

 帝国の皇子さまたちが留学するには陛下方の許可が必要となるから、その線は薄いだろう。やはり黒髪黒目を手に入れるなら、攻めてくるしかない。国も私も帝国に行くことは拒否しているんだし。

 

 「流石にこれ以上は起こらない……はずだが」

 

 「ナイだからね。兄さん」

 

 「二人とも酷い!」

 

 リン、私が何か起こすみたいじゃない。いや、まあ強く否定できないのが悲しい所だけれど。というか私が何か起こすんじゃなくて、私の周りで何かしらが起って何故か私の身に降りかかってくるのだ。でも降りかかった火の粉は振り払うしかないし、立場もあるから上手に立ち回らないといけない。

 

 「……お前を襲う魔物や人間なら、俺たちが振り払えるがな」

 

 「それ以外だと何もできなくなるから……」

 

 それぞれがそれぞれの立場で私を守ってくれているのは理解している。

 

 「ジーク、リン。側に居てくれるだけで心強いよ」

 

 もちろんその場に居ないであろうクレイグとサフィールも。ここ最近、私の侍女兼護衛として控えてくれているソフィーアさまとセレスティアさまも。みんなに守られている自覚は持っている。アルバトロス王国上層部の方々も亜人連合国のみんなも。

 聖王国の大聖女さまも心配して私に大陸の奴隷問題を知らせてくれ、黒髪黒目信仰があると教えてくれた。人間だからすべての人が受け入れてくれるなんてあり得ないし、逆にすべての人を私が受け入れられる訳もなく。

 

 『ボクも居るよ』

 

 「クロももちろん」

 

 ぐりぐりと顔を擦り付けてきたクロに、足元に居るロゼさんがぬっと体を私の足の甲に乗り、子フェンリルが反対側の足に体を擦り付けてマーキングしている。

 

 「みんなもね」

 

 懐かれたなあと苦笑いしつつ、右腕を差し出すとジークとリンも腕を差し出して拳を合わせるのだった。

 

 ――名前がない!

 

 ジークとリンと私が部屋で話していた数時間後。執務室で家宰さまから、子フェンリルに名前がないのは困ると侍女の方や屋敷で働く方たち苦情が届いた。ロゼさんと一緒に子爵邸内をウロウロしているようで、ロゼさんのあとを一生懸命付いて行く子フェンリルの姿が可愛いらしく人気になっているらしい。

 

 「ご当主さま。如何なさいますか?」 

 

 家宰さまに問いただされるので、彼と目線を合わす。嫌われたり遠巻きに見守られるよりも、そうやって可愛いとおっしゃってくれるのは有難いけれど。

 

 「……どうしましょうか。せめて喋れるようになって、フェンリルの子の意見を聞いてからと考えていたのですが……」

 

 家宰さまが私の言葉に微妙な顔となる。当主である私と家宰さまの部下からの板挟み状態で、彼の状況は中間管理職そのもの。

 名前を付けるのって大変なんだよね。犬や猫じゃないから気軽につけられない上に、何故か魔力を取られるし。こうなればいっそみんなで一斉に名を叫ぶとかすれば、子フェンリルとみんなの繋がりが出来るのではないだろうか。

 

 『ボク、あの子に聞いたけれどナイが名前を付けても大丈夫って言っていたよ』

 

 付けてあげないのとクロが首を小さく傾げながら私の顔をのぞき込む。

 

 「うーん。名前付けると何かしらの魔力的な繋がりが出来ていない?」

 

 『スライムのロゼみたいに魔石から創造したモノじゃないから出来ないはずだよ。ナイの魔力はボクたちと相性が良いから、吸い取りやすいんだよね』

 

 だから魔力的な繋がりだって思っちゃったのかなとクロが言うけれど。確かにお婆さまやクロは遠慮なく私の魔力を吸い取ってくれる。彼らが言うには魔力の余っている分らしく、漏れ出てきそうなものを頂いているだけなのだそうだ。それだと子爵邸の畑の妖精さんが消えてしまうのではと心配になったけれど、その辺りはうまく調整しているらしい。

 新たに賜った子爵領の領館に住むことになれば、向こうの魔素濃度も上がるんじゃないのかなあとクロが言っていた。

 エルとジョセにルカはこちらのタウンハウスよりも、新たに建設予定である領館の方が広いので移り住むのもアリ。何年先になるか分からないけれど子フェンリルも大きくなるのだろうし、タウンハウスで生活するには狭いだろう。

 

 「やっぱり名前は必要なのかな……分かりました。あの子の名前を付けますが、もう少し考える時間が欲しいと皆さまにお伝えください」

 

 「承知いたしました。良き名前を賜れるよう願っております」

 

 家宰さまが柔和な声でそう告げる。プレッシャーを掛けられたなあと苦笑いを返しつつ、どうしたものかなあと腕を組んでうんうん考え始める私だった。

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