魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0201:共和国からの使者。

 ポチでもなくタマでもない、子フェンリルに似合うお名前か……。難しいなあと腕を組んで私室の部屋のベッドの縁に座って考えている。

 クロは珍しく籠の中で座って私を見ているし、ロゼさんと子フェンリルは高価な絨毯の上でじっとこっちを見ている。そんな期待の目を向けないで欲しいなと苦笑いを浮かべると、クロが籠の中から立ち上がって私の肩へとちょこんと乗った。

 

 『そんなに深く考えなくても良いんじゃないの?』

 

 クロが首を傾げて私を見る。確かに気軽に名前を付けても良いけれど、後々のことを考えるとちゃんと付けるべきなのだ。

 

 「そうもいかないよ。私たちより長く生きるだろうし、変な名前だったら私の感性が疑われるんだし……」

 

 魔獣は幻獣に近い生き物で、子フェンリルも時間が経てば喋れるようになるだろう。そして私に名前を付けて貰ったと誰かに教えることもあるはずだ。そして妙な名前を付けていれば、後世の人たちに笑いものにされるのがオチである。

 自分の名前も自分で適当に付けたものだし、ロゼさんの名前――気に入っているけれど――も割と場当たり的につけた。黒天馬さまのルカはみんなで考えて名前を付けたのだからノーカウント。

 

 『ボクの名前は凄く気に入っているよ』

 

 そう言ってクロは翼を広て胸を張る。

 

 「ありがとう。でもクロの名前を思いついたのって、奇跡みたいなものだからね?」

 

 頭を捻り切って出した名前だからなあ。そうそうクロの名前のようなレベルをポンポン思いつく訳もなく。

 フェンリルって確か神話で登場していたから、かなり格が高いはずなのだ。こちらの世界では魔獣扱いで滅茶苦茶デカくて知能が凄く高い狼とか言われているけれど。名前が一緒だし何かしらの意味があるのだろうかと疑問に思うことがある。

 

 『そうなの?』

 

 「うん。――でもこの子の名前を付けるなんて……」

 

 まあ一緒に付いてくると聞いた時点でなんとなく予感はしていたし、子爵邸に住むなら不便だし。子爵邸で働く方たちの苦言も理解できるけれど、一緒に考えませんかと言うと辞退されるのは目に見えているから、まだ誰にも言っていない。ソフィーアさまとセレスティアさまなら一緒に考えてくれるだろう。ただ新学期が始まるので、準備で忙しいだろうし声を掛け辛い。

 

 『マスター』

 

 「どうしたのロゼさん?」

 

 私を呼んだロゼさんに返事を返すと、まん丸な体をぷるんと揺らして少しだけ縦に伸びた。子フェンリルはその横で綺麗な座れの体勢を取って、私を見上げている。

 

 『コイツが紙に言葉を書いてって言ってる』

 

 子フェンリルがロゼさんの体に顔を擦り付けているので、ありがとうとでも言っているのかも。

 

 「もしかして文字のこと?」

 

 子フェンリルは喋れないというのに、文字を読めるだなんて不思議だ。ただロゼさんが付きっ切りなので教えていた可能性もあるし、賢いから勝手に理解していた可能性だってある。

 

 『うん』

 

 どうやら単語を書いて欲しいようだった。机の引き出しから真っ白な紙束を取り出した。ノートよりも安価なので、勉強用に机の中に仕舞ってあったものだ。これなら一枚に大きく文字を書くことも出来るし、数文字書いて別の紙にまた文字を書いても良い。

 とりあえずロゼさんに子フェンリルがどうしたいのか聞いてみると、一枚の中に文字を適当な大きさで何個か書いて欲しいとのこと。

 

 「これで良いかな?」

 

 はふはふと短い息を吐きながら子フェンリルは紙をじっと見つめ、暫くすると立ち上がっておもむろに紙の上に前足の片方を乗せた。

 

 「う゛」

 

 最初に置いたのは『う゛』だ。そしてまた紙を跨いで移動して『あ』『な』『る』『が』『ん』『ど』と順番に指していき、満足したのかまた絨毯の上に綺麗にお座りしている。

 

 「う゛あなるがんど……ヴァナルガンド、かな?」

 

 確か、神話の方で別名だったような気がする。記憶がおぼろげだし、調べることも出来ないから不確かなものだけれど。今の子フェンリルは可愛いというイメージが強いけれど、大きくなったらカッコよくなるだろうし似合っているんじゃないかな。

 

 『前の名前、参考になるかって』

 

 ちょこんと座っている子フェンリルの横にロゼさんが体を引きずって並んだ。ちょっと自慢気に言っているロゼさんが可愛い。

 

 「君は前の名前が好きなの?」

 

 私はベッドの縁から立ち上がり床に膝をついて子フェンリルを見ながら問いかけると、子フェンリルは短く一度吠えた。ヴァナルガンドってかっこいい名前だけれど実際呼ぶとなると長い名前になってしまう。なにか短縮できないかなあと考えたあと口を開いた。

 

 「えっと、ヴァナルガンドがちゃんとした名前で、普段はヴァナルって呼んでも良い?」

 

 へへへと短く息を吐きつつ子フェンリルは尻尾をブンブン振って、私の膝の上に両の前足を置いた。なんだか撫でて欲しそうなので、右手を子フェンリルの横顔に添えると目を細めながら手にすりすり顔を擦り付ける。

 

 「じゃあ、これからヴァナルって呼ぶね。――改めて。これからよろしく」

 

 軽くヴァナルの左前脚を取って何度か上下に振る。人間同士ならば意味合いは分かるだろうけれど、フェンリルであるヴァナルに意味が通じるのか分からないけれど。改めてよろしくと思いを込めて手を握って離した。

 

 『よろしくね、ヴァナル』

 

 クロが頭を下げてヴァナルを見ると、ヴァナルはヴァナルで伏せの体勢に。竜とフェンリルだと上下関係は竜の方が上となるのだろうか。それともクロの力が規格外なので、自然にそういう関係となったのかも。真意は分からないけれど、平和な関係のようで良かったと安堵した。

 

 『ヴァナル、良かった』

 

 ロゼさんもヴァナルの横で体を左右に揺らして名前が付いたことを喜んでいるようだ。これから名前を呼べるようになるし、ヴァナルはロゼさんに懐いて面倒をみている。短い時間だけれど、確実にロゼさんとヴァナルは絆を紡いでいるはずだ。仲良きことは美しきかな。

 これからもこの関係が続くようにと願いつつ、明日から新学期なので準備をしなくちゃと勉強道具を纏めるのだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス王国の謁見場で、見慣れない珍しい衣装を纏った者たちを少し離れた場所から観察している。おそらく邪な気持ちなど持っておらぬのだろう。甥、アルバトロス王へ平伏している彼らの表情は真剣なものがあった。

 彼らは我々に横柄な態度をとる訳でもなく、東大陸から海を渡ってこちらの大陸へと入り、アルバトロス王国を目指す為、ルート上にある国々の機嫌も損なわぬ形を取りながらようやくこちらの国へたどり着いた。

 

 「この度は我々遠い異国の地の者を受け入れてくださり感謝いたします、アルバトロス王よ」

 

 「長の旅、苦労であった。貴公らの苦難は推して知る」

 

 陛下が玉座から東大陸からの使者を労う。彼らがアガレス帝国の使者ならば門前払いされていただろうが、目の前で頭を垂れている者たちは共和国からの使者である。お互いの大陸には不干渉を長い時間を貫いていたというのに、黒髪黒目の者が居ると知られ問題がどんどん大きくなっているな。

 甥やナイは頭を抱えるであろうが、ワシとしては愉快である。老い先短い人生であるし、楽しまねば損だ。もちろん国益を損なうようなことはせぬが、向こうからやって来るというのであれば別の話。

 

 ただ今回は少々事情が違う様子。東大陸のアガレス帝国の連中はいけ好かぬ。これで共和国までまともな者ではないなら頭を抱えるしかないが。さて、彼らの本心を覗いてみようではないかと目を細める。

 

 「今回、我々共和国使節団が貴国との接触を図った理由は、アガレス帝国が黒髪黒目の者を見つけそのお方が所属している国へ旅立ったと知り、急いでこちらへと参った次第」

 

 アガレス帝国は空路、共和国は海路を経てこちらの大陸へと辿り着き陸路を使いアルバトロス王国へとはるばるやって来た。

 少々頬が瘦せているのは、長旅故の疲労の現れであろう。アルバトロス王家と接触した目的は帝国の目的を情報共有する為なのだそうだ。こちらの大陸各国との連携も願い出ている。

 

 アガレス帝国や共和国、もとい東大陸の情報はこちらの大陸では手に入れ辛い。確かに情報が欲しい所ではあるが、なにせアガレス帝国の所業がアレだった。共和国の者たちも帝国の者と変わらぬのではと訝しむのは致し方ない。ワシ以外の者も懐疑的な様子であり、彼らに向ける視線は厳しい。

 

 だが共和国の者たちは、その視線を意に介す様子はなく甥に向かい堂々とした姿を見せている。この場で縮こまった姿勢であれば、小物と切り捨てるのだがなかなかに肝が据わっておるようだ。油断はならないし、警戒をすべきであろう。全幅の信用を得るなど、かなりの時間が必要である。

 

 「長き間、我々共和国や小国は帝国に対して苦汁を舐めておりました。その思いを西大陸の方々にまで味合わせる訳にはと参った次第です」

 

 我々に対しての心配だけではないだろう。出来ることならば西大陸――彼らがそう称したので使わせて頂く――の者たちとも手を組みたいという打算があろうて。国を預かる者が優しさだけではやって行けぬことは、この場に居る者たちであれば誰でも知っている。

 

 帝国は帝国と名乗ることだけあり随分と野心的な侵略をしたようだ。占領地は帝国本土よりも重い税が課せられており、随分と苦しんでいるそうだ。それならば何故やり返さないと不思議であるが、どうやら飛空艇の存在を随分と彼らは恐れているようだ。

 飛空艇の動力の要である巨大魔石が帝国本土でしか掘り起こせないらしく、他国が飛空艇を所持していようとも無用の長物。なるほど、彼らの態度が横柄な理由はソレか。

 

 くく、と勝手に喉が鳴る。

 

 武力で土地を奪い、住人たちを帝国人として教育を施し洗脳する。教育に騙されて帝国万歳となる者も居るようだが、教養の高い者や元の国への忠誠心が高い者たちはそう簡単にいかない。そういう者たちから共和国は情報を受け、黒髪黒目の者がアルバトロスに居ると情報を掴んだようだ。

 

 「もともと褐色の肌は東大陸の下半分の者たちが有する特徴です。――帝国との攻防の末に上半分にも数を増やして現在の状況となります」

 

 確かに共和国の者たちは褐色肌に銀髪や茶髪である。おそらく白い肌よりも褐色の肌の方が血に影響しやすいのだろう。

 なるほど、帝国の使者たちの護衛に褐色肌が多かったのはそういう理由か。高官の者にもその特徴が表れている者も居たが、割合が少なかった。もしや混血化を進めているのは、褐色肌の者たちが長い時間の間で何かしらを企んでいるのだろうか。

 そうであるならば随分と気の長い話であるが、ワシは嫌いではない。即効性はないが、ゆっくりと帝国を蝕んでいき露見し辛いことであろう。帝国に支配された土地の者が共和国へ逃げ込んだ可能性もあるのだから、この話を共和国が知っているのは何もおかしくはない。

 

 「アルバトロス王、無理を承知で願い出ます。突然現れた我々を信じろというのは理解しております。しかしアガレス帝国の横暴をこれ以上広めぬ為、情報共有を願い出たく!」

 

 使者の代表が深々と頭を下げると、陛下が我々に視線を向けたので、深く頷く。情報共有だけというならば悪い話ではない。

 向こうはナイを狙っているであろうし、機会があればここぞとばかりに飛空艇を差し向けてくるであろう。とはいえ報告書で知ったアレを思いだせば、笑いしか込み上げてこないが。

 

 「情報共有のみというのならば構わぬ」

 

 我々が帝国の動向を共和国に差し出せぬと陛下が渋い顔をする。この場は外交である。ある程度の利益をお互いに齎すべきだと考えたのだろう。

 

 「一つ、お聞かせ下さい。情報提供の見返りはそれだけで構いませぬ。――黒髪黒目のお方がこの国にいらっしゃるというのは真実なのでしょうか?」

 

 「真実だ。我が国には黒髪の聖女の二つ名を持ったものが居る」

 

 今更嘘を吐いても仕方ない。情報はもう知られているのだから、価値のない情報である。陛下もアガレス帝国の情報を天秤に掛けて判断したのだ。

 

 「誠でございますか。――ではアルバトロス王国の繁栄は約束されたも同然でございましょう」

 

 東大陸では黒髪黒目の者は繁栄を齎すものとして崇められると。もちろん天災や飢饉等の事案にも、彼ら彼女らはどこからともなく現れ困っている者たちを助けるのだとか。

 随分と大仰なことをしてくれるな。その辺りは国が確りとしていれば、局所的な問題ならば国が解決出来る。これが大陸全土で起ったというならば手の施しようもないが。大昔の伝承なのだそうだが、未だに信じている者が多いと。

 

 「では我々は本国へ戻りましょう」

 

 遠き地故に出来ることは帝国の情報を流すことしか出来ないがと使者が告げ、謁見場を後にする。

 

 「なんと! お目に掛かることが出来ようとは!」

 

 偶然、遠目から見つけることが出来た共和国の使者たちは、城の魔術陣へ補填を終えたナイを見て泣いて喜んでいる。……東大陸の信仰を蔑ろにするつもりはないが、少々大袈裟なのではと呆れてしまうのは、彼らが拝んでいる黒髪黒目の少女の実態を良く知っている所為であろうと溜息を吐いた。

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