魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0202:見守る者。

 ――冬と言うのに、その日は暖かだった。

 

 ハイゼンベルク公爵邸から馬車に乗りとある場所へと辿り着く。こじんまりとした屋敷の正門を通り抜け本邸前にある馬車停へたどり着く。

 御者の手により降りたワシを迎えに来た屋敷の家宰によって庭の東屋へと通された。冬だというのに今日は暖かい。確かによい選択であると一人で納得し、車椅子に乗った老女と椅子に座る老女へと顔を向け、席にどっかりとワシも座る。

 

「久方ぶりだな、筆頭に元筆頭候補よ」

 

 車椅子に乗っている老女が現筆頭聖女であり、もう一人の者は若かりし頃に彼女と筆頭聖女の座を争い最後の最後で負けた。

 だが遺恨などあろうはずもない。現にこうして茶会を開くほどの仲なのだ。ワシは彼女らの体の良い茶飲み友達という訳である。まあワシの立場を理解している彼女らは無茶も無理も言わんが、偶にこうして茶会という体で現状報告を行っているのだ。

 

 「あら、公爵。――わたくしのことなど忘れ去り、楽しい日々を過ごしておられたのかと」

 

 筆頭が多くなった顔の皴を深めて綺麗に笑う。流石、見目も判断基準にされているだけはある、年を重ねても変わらぬ美しさがある。だがワシは妻一筋なので欠片も靡かんし、靡くならば若い者の方が良い。

 

 「忘れてなどおらんよ。まあ確かに充実しておるぞ。アレの周りでは何かしら騒ぎが起こっておる」

 

 筆頭が持つ異能『先見』によって貧民街に住んでいたナイを見つけた。彼女曰く、アルバトロス王国始まって以来の最大魔力の持ち主であり、最も国に貢献する人間であると先見によって知ったそうだ。当時、筆頭の言葉に懐疑的な者が多かったが、教会で魔力測定器を破壊したことによって、筆頭の先見の一つが当たった。

 疑っていた者も納得するしかなくなる。筆頭聖女の言葉を信じていた教会は、性能が良い魔力測定器を用意していたのだ。それを壊したとなれば、教会の浮かれ具合はかなりのもので。歴代最大の者が現れた、まだ子供ならばもっと成長の余地があると大騒ぎだ。浮かれている教会の人間を諫めたのは、誰であろう目の前の車椅子に座る筆頭なのだが。

 

 「閣下。あのような小さな子供に貴方の道楽で過度の期待をするのは如何でございましょう?」

 

 筆頭よりも感性がまともな元筆頭候補が苦言を呈すが、お前さんもナイにあったのだから簡単に折れるような者ではないと知っておろうに。

 

 「アレがワシの道楽で潰れるようなら疾うの昔に潰れておるさ。雑草どころか、間違えて植えてしまったミントのようなものだよアレは」

 

 本当に。潰れているなら既に潰されている。ワシらが手をまわしていたのもあるが、重圧に潰されていないのは彼女生来の鈍さと立ち回りの上手さであろう。筆頭聖女を目指す貴族出身の聖女は欲深い。平民出身の有能な聖女を虎視眈々と潰そうと狙う者が居るからな。

 それに目の前の筆頭の在位が長い所為で、余計にそういう者が多くなってしまったのだ。在位が長くなった理由に、彼女以上に有能な筆頭候補が現れなかったという仕方のない理由もあるし、とんでもない魔力量の持ち主が現れたことで代替わりを留めていたのも一つ。一番の理由が現筆頭がナイに筆頭の座を譲りたいと言い出したことだが、当の本人は知らない上に筆頭と直接会ったことがないという。

 

 ナイよ、ワシより筆頭や元筆頭に振り回されておるからな。

 

 目の前の二人を敵に回したくはない。俗にいう女狐という奴である。狸のワシが狐に敵う訳がないし。若かりし頃、聖女であった彼女らと共に戦場へ立つこともあった。魔力量の高い彼女たちは高威力の魔術を駆使して、敵兵を薙ぎ払う。

 ワシももちろん殺し合いをしていたし、彼女らに負けたとも思ってはおらんが敵兵には一切の容赦がなかった。

 無論、降伏した者には捕虜として丁重に扱い治癒を施していたが。数刻前に味方を殺した連中に、微笑みを浮かべながら施術を行う彼女たちの二面性に驚いたものだ。おそらくそういう部分の切り替えは男よりも女の方が早いのかもしれぬ。

 

 夜会で敵対する貴族の追い落としも、国に無能は要らぬと言い切って扇子で口元を隠し笑いながら、あの手この手で落としていったからな。まあワシも若い頃と違い、今は楽しむようになったから二人のことは余り言えんが。

 

 ――話がずれた。

 

 貧民街の子供がどこから知識を手に入れてきたのか、人間関係にはかなり敏い部分があった。だからこそワシとの初対面の時に取引を持ち出し、見事公爵という後ろ盾を勝ち取った。

 おそらく筆頭はこのことさえ先見で知っていたのだろう。一体彼女はどこまで先の未来を見ているのか気になるが、その異能はもう振るえない。単純に年をとってしまったのだ。本人は若い頃に無茶をし過ぎたと笑っていたが、国の為に尽くしてそうなったのだ。ナイを筆頭聖女にと願う彼女には報いたい。

 

 おそらく元筆頭候補もワシと同じなのであろう。でなければ無茶が利かぬ体でナイと教会で接触など図らなかったはずだ。他愛のない話をしただけと言っているし、ナイからの報告で話の内容を知っている。

 ワシと話を付けたのは彼女と話したそうだが、実際は筆頭が、お転婆娘の面倒を見てくれとワシに声を掛けたのだがな。まあ些末なことなどどうでも良いのだ。筆頭の先見でナイの存在は知っていたし、遅かれ早かれ後ろ盾になったであろう。

 

 「年頃の少女に向ける言葉ではありませんわね」

 

 「ええ、本当に」

 

 ワシを見てくすくすと笑う筆頭と元筆頭候補は、本当に楽しそうである。老い先短いというのに悲壮感やらは欠片もない。

 

 「お前さんたちは……」

 

 本当に強い二人である。

 

 「それで公爵、あの子はまた何か仕出かしたの?」

 

 筆頭が目を輝かせてワシに聞く。貴族出身の聖女で若い頃から国の為と尽くし、異能の為にいろいろと苦しむこともあった。年齢によりその力を失ってはいるが、見えない故にナイが仕出かすことが楽しくて仕方ないらしい。

 彼女が先見の力で見たナイに関する事柄は魔力量が多いことと、国に益を齎すことのみ。それを見たあとで彼女は先見の力を失った。

 魔力量の多さから未来を何度も何度も見た筆頭は大体のことを知っていたが、ナイが竜を従える姿も、聖王国へ乗り込むことも先見の力で見ることはなかった。だからこそこうしてワシに語り部を頼み、楽しそうに余生を過ごしている。

 

 「今度は東大陸の帝国を引きずり出した挙句に、フェンリルを連れて帰ってきたな」

 

 「まあ!」

 

 「!」

 

 筆頭が声を出し、元筆頭候補は驚きで声が出なかったようだ。

 

 「ナイは屋敷を幻獣だらけにするつもりらしい」

 

 本当に。竜に天馬に猫又にフェンリルときた。次は何を連れてくるかと軍の者たちは賭けをしているのだが……果たして勝者は居るのだろうか。この場に酒があれば美酒に酔いしれ乾杯でもしていたところだが、残念なことに陽はまだ高い。夜の楽しみに取っておこうと、ワシは二人にナイの近況を語るのだった。

 

 ◇

 

 新学期が始まり一ヶ月が経った。

 

 最近、隣の大陸から共和国の使者が来ていたそうだが、私が彼らと接触することもなく陛下方との謁見を終え母国へ帰っていったそうな。

 アガレス帝国の動向も気になるけれど、海を隔てているが故に情報が少ない。共和国の方たちからの情報によると、なにやらコソコソとやっているそうだけれどソレが何かまでは分からないそうで。気を付けるべきなのだが、気を付ける方法がないというべきか。こうなってしまえば、なるようにしかならないのだろう。

 

 何か目的があるなら、また接触を図るだろうから。今度また飛空艇でアルバトロスまでやってきたなら、私や副団長さまの遠距離魔術で威嚇射撃をしようと王国上層部で決められた。その時は遠慮なく魔術をぶっ放す予定である。もちろん威嚇射撃なので、当たらない程度に。

 

 平和、平和だ。授業が普通に受けられるし、なにか騒動が起こるわけでもない。聖女としての仕事も、討伐遠征はなく治癒院が定期的に開かれているだけ。

 あとは城への魔術陣に魔力補填を行い礼拝に参加したり、男爵領から子爵領へと改定された地に赴いて視察を行ったり。忙しいけれど、平和な忙しさで有難い限りである。これから一生、こんな感じで穏やかで波のない人生を謳歌したい。平和が一番、ラブ&ピース。

 

 子爵邸の別館で過ごすことになったアリアさまとロザリンデさまも、少しづつ子爵邸の面々や環境に馴染んでいる。アリアさまは順応能力の高さ故にクロやロゼさんに猫又さま、天馬さまであるエルとジョセとルカに子フェンリルのヴァナルとも直ぐに馴染んだ。

 ロザリンデさまはまだ遠慮があるようだけれど、真摯な態度のエルとジョセとは打ち解けているし、偶にその背に乗っていることもある。

 侯爵令嬢さまが鞍も付けずに良いのかなあと、遠目から見守っていたけれどまんざらでもなさそうなので良かった。あとはクロやヴァナルやロゼさんに猫又さまと仲良くなれると良いのだけれど、もう少し掛かりそう。

 

 ただ一番問題だったのは、子爵邸の家庭菜園である。

 

 畑の妖精さんたちが一生懸命育てている野菜や不可思議なモノに耐性が余りなかったようで、初回はロザリンデさまの顔が青ざめていた。少しづつ慣れようと毎日畑に顔を出しているらしい。なんだか一生懸命だったので、ロザリンデさまの好物を聞き出して妖精さんに苗を渡してお世話をお願いしている。

 ちゃんと育ったら美味しく食べられるだろうなあ。ロザリンデさまの好物は、お貴族さまらしくメロンが良いそうだ。私も好きだしなんたって高級品なので、妖精さんたちには期待している。収穫出来たらみんなで食べようと約束したし、本当に楽しみ。

 

 「ご足労をおかけして申し訳ありません」

 

 子爵邸へやって来たお客さまに頭を下げる私。目の前には誰かによく似た美女が二人並んでいる。

 

 「気になさらないで。黒髪の聖女さまから譲り受けた子猫となれば、社交界でいろいろと優位に立てますから」

 

 「ええ。特に欲深い方たちから羨望の眼差しを受けましょう」

 

 子爵邸のエルとジョセとルカが過ごしている小屋で、ソフィーアさまとセレスティアさまのお母さまたちと言葉を交わしていた。

 猫又さまによると、そろそろ親離れをしても大丈夫とのことで、引き取り先であるソフィーアさまとセレスティアさまのお母さまたちがどの子が良いのか選ぶ。副団長さまとエルフのお姉さんズは、どの子でも大丈夫と言っていた。

 

 本来なら私が公爵邸と辺境伯邸に赴いて子猫を送り届けるべきだけれど、せっかくだから子爵邸で引き取りたいとのこと。

 母猫であるお猫さまも見たかったのだろう。世にも珍しい猫又だし。セレスティアさまのお母さまは大の猫好きということで、先ほどからにまにました顔である。嗚呼、セレスティアさまを産んだお方なんだなあと納得できる仕草と顔である。

 

 しかしまあ、お二人とも子供を産んでいるというのにお若いし、美人である。遠目から見たことはあったけれど、こうして直接お会いするのは初めてだ。粗相のないように無事に引き渡しが済むと良いのだけれど。

 

 「どの子が良いかしら。ソフィーアは気に入った子が居るの?」

 

 「いえ、その……どの子でも良いのでは」

 

 「セレスティア、二匹引き取ることになっているのだけれど、増やしては駄目?」

 

 「駄目でございます。これ以上増えると皆が困りましょう……それに引き取り手は決まっているのですわ」

 

 お二人のお母さまが居るということは、当然本人たちもこの場に居る訳で。

 きゃっきゃとはしゃいでいるお母さまたちが恥ずかしいのか、ソフィーアさまとセレスティアさまが少々照れている気がするのだ。

 私に親は居ないので分からない感覚だけれど、前世の友人も時折恥ずかしがっている時があったから今がソレなのだろう。時間はあるから、ゆっくりと決めて貰えば良い。後からあの子が良かったなんてことになったら、心残りとなるだろう。

 

 『悩ましそうですね』

 

 『どの子も可愛いですからね。迷うのは当然です』

 

 エルとジョセが悩んでいるお母さま方を微笑ましそうに見ている。ルカはその側でぶるると鼻を鳴らし、スライムのロゼさんの丸い体に前足を置いた。

 あ、ロゼさんが潰れた。でも流石はロゼさんである、体を器用に薄く延ばしてルカの前足から脱出していた。器用だなあと横目で見ていると、クロが私の顔に顔を寄せる。

 

 『ソフィーアとセレスティアに似てるねえ』

 

 「そうだね、クロ」

 

 クロの言葉に無難な返事をする。流石に妙なことを口走る訳にはいかないだろう。初対面だし、お優しそうな方々だけれど本心はどう思っているのか分からないし。

 にーにーと鳴いている子猫は気ままに方々へ散らばっていたり、きょうだいと絡んでいたりと忙しい。短毛の黒毛の子に、毛の長い子もいたりと様々。お猫さまは二本の尻尾を揺らしながら、ソフィーアさまとセレスティアのお母さま方を眺めている。

 

 『我の子を任せても良さげだの』

 

 お猫さま、子猫の世話をエルとジョセに良く任せていたので、その台詞はアウト判定な気もする。気ままな猫だし仕方ないのかと、お猫さまの頭を撫でると目を細めている。少し前まで野生だったのが信じられないくらいに、人間に馴染んでいる気が。

 まあ、撫でると気持ちいいし構わないかと簡単に思考を放棄する当たり私も大概なのかもしれない。

 

 「決めました」

 

 「わたくしも決めました、聖女さま」

 

 お二人の腕の中に子猫が抱かれていた。決めたならなによりと、子猫たちの性格を彼女らに告げると、お猫さまが不意に立ち上がりソフィーアさまとセレスティアさまのお母さまの前にちょこんと座った。

 

 『我が子を頼む』

 

 ちょっと偉そうだけれど、それでも真剣なことは伝わる。お腹を痛めて産んだ子なのだし、数か月間面倒をみてきたのだから。残りの子たちは副団長さまとエルフのお姉さんズに引き取ってもらう。良い引き取り先が見つかって本当に良かった。

 

 「勿論です。大切に育てます」

 

 「ええ。ヴァイセンベルクの名に懸けて」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまのお母さまがお猫さまの下にしゃがみ込んで、そう告げた。大丈夫そうかなと見守りつつ、そのあとにお茶会となる。ソフィーアさまとセレスティアさまの小さい頃の話を盛大に繰り広げられ、顔が赤面している二人を見ているといたたまれない気持ちになるのだった。

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