魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
時間が取れたので、新に名前をミナーヴァ子爵領へと変えた領地へ顔を出していた。王都から手紙で指示を出すだけでは出来ないことも今日の予定に組み込まれている。
領主館を建てる場所の選定に、名主の皆さまへの顔見せ。手入れが行き届いていない場所を探して、整備をお願いしたり。放置されている畑を借りて……領主なのに借りるってどうなのか分からないけれど、ちょっとやりたいことを始める用意をするつもり。で、その計画の発案というか、希望したのがクロである。
『ナイ。ボク、これが良い』
子爵領の片隅でみんなで集まっていた。私の肩から降りて、数ある苗木の前で悩んだ末にクロが一つを選んだ。残りの木も近くの畑に植えて果樹園にしようと計画中。量産するかしないかは、様子見してから考える。美味しい実が生るなら希望者を募って、生計を立てようと考えている。
「この苗木って?」
『オレンジだよ。甘くて美味しい実が生る木になってくれると良いけれど』
苗木屋さんで同じ種類の若木を買ってきてくださいと頼んで、種類はお任せしますとお願いしていた。で、お使いの人が選んだのはオレンジかあ。オレンジも良いけれど、ミカンが食べたいなあ。時期的にも冬だし、こたつでミカンは正義。食べ過ぎるとお手洗いにすぐ行きたくなるのは難点だけれど、それでも食べてしまうのだから魔の食べ物である。まあ、品種がないので諦めるほかないけれど。オレンジも十分美味しいし。
苗木屋さんでは他にもいろいろなものが売っていたそうだ。林檎や葡萄、桃に洋梨。温暖な気候のアルバトロスなので育つのかと不思議だったけれど、品種改良が施されて比較的暖かい場所でも育つらしい。
とりあえずはクロが選んだオレンジの苗を植える。ブドウも考えていたけれど、ワインにするなら加工場も必要となる。資金も知識も必要だし、そこまでの規模は考えていないので諦めた。
「ね。私も食べたい」
『採れるまでには数年掛かるから、まだ少し先だね』
確かに植えて直ぐに食べられるようにはならないと聞いたことがある。クロの言う通り、私たちの口に入るにはまだ時間が掛かるけれど、植えなきゃ始まらない。お世話は領の方に任せることになるけれど、お給金は出すので問題にはならないはず。
「食い気が先行されているな。まあ、構わんが……」
「ナイらしいですわ。休耕されている場所を使いますし、軌道に乗れば領が潤う可能性がありますもの。……クロさまお可愛らしい」
ソフィーアさまが呆れているものの、いつものことだと諦めている様子。セレスティアさまは果樹を植えることに問題はないみたい。むしろクロが主導しているから、様子を見るのが楽しいのかも。コッソリ写真の魔術具も持参しているようだし。
「ジークとリンも選んで植えよう」
それぞれが選んで植えた木が一番美味しい実を付けたら勝ちという、クロと私で他愛のない競争をしている。植え方は苗木屋さんから聞いている。お世話に関しては紙に書いて任せてしまう。本当はきちんとお世話をしたいけれど、王都暮らしで度々こちらへ顔を出せる訳もないし。
転移魔術を少しづつ覚えて身についてはいるものの、長距離移動や誰かと一緒に転移できるようになるのはまだ先の話。護衛の人たちやソフィーアさまとセレスティアさま方も同行していなきゃ問題になってしまうから。
「俺もか?」
「私も?」
ジークとリン二人が同じ方向へ同じ角度で首を傾げた。流石双子と感心しつつ口を開く。
「クロと美味しい実を付けた方が勝ちって勝負をしてて。それなら、勝負する人増えた方が楽しいかなって」
私の肩に乗っていたクロがジークとリンの方へ飛んで行き、ジークが腕を差し出したのでその上にちょこんと乗った。
『ジークとリンもひとつ苗を選んで。ソフィーアとセレスティアもやらない?』
ジークの腕から飛び立って、今度はセレスティアさまの腕の中へ。へにゃりと顔を緩ませている方が居るけれど、何も言わないのが優しさであろう。
苗木は二十本ほどある。苗木屋さんにお使いへ行った方の話によると、治癒院で私の魔術を受けたことがあり感謝しているのだとか。で、買った本数は十五本だったのだけれど、五本はオマケで付けてくれた。申し訳ないから感謝状を送るとして、二十本植えられるスペースが確保できるのかどうか。
「私たちもですか?」
「よろしいのでしょうか?」
『うん。みんなで植えて、みんなで採って、みんなで食べよう。余ったら、持って帰ってソフィーアとセレスティアのご家族に』
数年先だろうけれど、鈴生りに実ったオレンジを一人で平らげるのは大変だろう。お二人は生粋のお貴族さまなので、野良仕事なんてしないかもしれないが、苗を選ぶだけでも良いんだし。
私もすべて食べきれる訳はないので、クレイグとサフィールの分を確保したら、子爵邸の皆さまにお裾分けするつもりだ。それでも余るなら領の人たちにもだなあ。一本の木からどれだけ採れるのか詳しくはないけれど、それなりに実るはず。ソフィーアさまとセレスティアさまが顔を見合わせて、少し考えたのちに確りと頷いてくれた。
『マスター、ロゼも選ぶ!』
『!』
私の影から勢いよくロゼさんが飛び出してきた。私の身長を軽く超えて飛び出してきたのだけれど、そんなに選びたいのか。クロと勝負したいだけかもしれないけれど、楽しそうだからいいか。ヴァナルもロゼさんと一緒に出てきて、足を綺麗にそろえ座れをして私を見ている。
「じゃあロゼさん、苗木を選んで。ヴァナルも選ぶの?」
『ヴァナルも選ぶって。美味しいの匂いで分かるらしい』
ぽよんと体を揺らしたロゼさんが、ヴァナルの気持ちを通訳してくれた。
「そっか。ヴァナルも選ぼうね」
わんと一鳴きするヴァナルの顔の横、首のあたりを撫でると気持ち良さそうに目を細める。これ以上やると地面に寝転がって腹を撫でろとなるので、いい加減なところで止めておいた。
「ナイ、魔力を込めるのか?」
「どうしましょうか……」
ソフィーアさまが私に問いかけた言葉に少し詰まる。少し前、他の聖女さま方と小麦畑に種籾を蒔いた。思いつきで発案したけれど、どうやらちゃんと効果があったようで、順調に……というか後から私たちが蒔いた種籾の成長が、元から蒔いていた小麦に追いついたそうだ。
そしてもう一つ、魔力を込めた聖女さまたちの特性が出たみたい。通常の種籾よりも出芽量が多かったり、踏まれてもすぐに元気を取り戻したり。……これ、他の植物でも効果があるのではと、アルバトロス上層部の面々がどうしようかと悩んでいるそうだ。
自然に従うべき派と魔力に頼って生産量を上げるべき派に、困った時だけ聖女さまや魔力持ちの人間を頼ろう派。あまりやり過ぎるとリーム王国の二の舞になりそうだから、慎重にならざるを得ないのかも。
私たち聖女は国や教会から命が下れば従うしかないが、自領となると話は別となる。領主に裁量が任されてあるから、勝手が出来る。
「……込めると問題に、込めなければ何事もなく平穏。口に入るまでに時間が掛かるけれど……ぬぅ……」
食べ物に関してはどうしても食い意地が張るから、迷ってしまう。私の周りに居る人たちは、私をじっと見ている。どうやら私の一存で決めてい良いようだ。
「早く食べたいけれど……止めておきます」
気持ち的には全力で魔力を放出して、不可思議現象に掛けて美味しいオレンジさんが食べられれば幸せだけれど。それをやると周辺の畑にも問題が起こりそうだし、畑の妖精さんが誕生するとまた大変なことになる。
「そうか。――穴を掘って苗木を植えよう。皆でな」
ぼそぼそと呟いていたのが聞こえていたのかソフィーアさまが苦笑を浮かべたのちに、良い顔になってみんなで植えようと音頭を取ってくれた。
「はい」
『ボクも自分で掘るね』
ソフィーアさまの言葉に答える私に、クロは自分の脚で穴を掘るようだ。収穫は数年後だろうけれど、きっと美味しいオレンジが実るに違いないとスコップを手に取って穴を掘るのだった。
◇
アガレス帝国の第六皇子として生まれた俺は、スペアもスペア、六番目。正室腹である優秀な第一皇子がいるから、俺は気軽に皇子さま生活を送っている。一応皇子として生まれたから、皇族としての責務は果たしているはずだ。
言葉遣いがなっていないとか生活態度がなっていないとか、臣下たちから注意を受ける。でも俺、頭良いし事業だって成功して金は稼いでいるし、上から六番目の皇子なのだから、これで十分じゃんね。
俺の双子の兄である五番目の皇子は俺と違って、態度にこそ表していないけれど俺と一緒の気持ちだし。表に出しては負けですよと双子の兄には言われるが、誰かのご機嫌を取らなければならないくらいなら、最初からこれで良い。そもそも帝国の玉座に興味なんてこれっぽっちもないのだから。上に立つ者として取り繕う必要はないからね。
「ねえ、魔石はどれだけ使うの?」
俺が見つけ出した魔術師に問いかける。アガレス帝国では廃れた技術の一つとして魔術が上げられる。暗く湿気の多い地下室に籠って、魔術についての書物を読み漁り研究をしているらしいのだが、本当に使える技術なのだろうかと訝しむ。
帝国で、東大陸で魔力持ちが生まれてくることは珍しい。大昔は沢山居たそうだが時代と共に減っていき、今では魔力持ちは貴重である。いや、少し間違いがあるか。魔力は生まれた者に備わっているが、少ないのだ。魔力量を多く所持している者が珍しく、その手の人間は魔術を嗜む傾向がある。
手から火や水が出てくれば奇跡だし、雷を落とすことが出来ればそれは神の御使いと言われるからねえ。俺は魔力なんて微々たるものだし、奇跡なんて起こせない。俺の前に立つ魔術師は手から火が出せて、魔物を丸焦げにしたことがあると自慢気に語っていた。だからこそ、地下に引き籠って魔術書を読みふけっているんだと。少しでも効率よく魔術が使えるように、違う魔術が使えるようにと。
「そうですね。ここではないどこかから黒髪黒目の者を召ぶとなれば質の良い巨大魔石が二、三個は必要となりましょうか」
巨大魔石が二、三個必要となるならば、飛空艇を二、三機潰すことになるんだけどな。長兄が許可を出してくれれば可能だろう。違う世界から黒髪黒目の者を召ぶことに賛成したのだから、これで出さないとなれば長兄の面子が潰れる。
まあ魔石ならば鉱脈から新たに掘り出せば良いだけだ。質が下がっているとか、小さくなってきているとか報告が上がっているが、廃鉱となるには時間があるようだし。
「ふーん。で、確実に召べんのソレ」
「はい。これは偶然見つけた古い文献なのですが、黒髪黒目の者が現れず苦肉の策として召喚儀式を使ったと記録が残っていますから」
当時は魔石と魔術師の魔力で召喚を執り行ったそうだが、魔力量の多い者は期待できないので、魔石で補うしかないとのこと。仕方ないのか。まあ、どうにかなるのならば、どうにかするしかない。
黒髪黒目の者は、皇帝の次に崇めるべき者と言われているんだし。
昔に奇跡を起こしまくって、国を栄えさせたとか滅ぼしたとか伝承が残っている。もちろんこのアガレス帝国にも残っており、初代皇帝が重用していたんだとか。
初代さまによる帝国快進撃の理由は、彼の後ろに黒髪黒目の存在が居たと。魔力量の多さで魔物や魔獣を従えて、初代さまに協力してたって。まあ、随分と昔の事だから初代さまが力でねじ伏せていた可能性もあるけれど、真実なんて当時生きていた奴しか知らないだろう。
事実はどうであれ、大事にされ重用されていた。初代さまが重用していた黒髪黒目の者が死んだ後も、天災や問題があればフラッと姿を現して解決して、またどこかへと消えるんだって。
本当にそうなのかと疑問だけれど、人心を掌握しているのだから利用しない手はない。俺たち兄弟の中には本気で黒髪黒目の者を崇めているのも居るから、これで成功すれば俺の立場が盤石になる。
歳を重ねれば皇宮から出て行かなきゃならないが、政略婚には興味ない。俺に宛がわれる女って魅力がない上に、俺の金目当てなのがバレバレだったから見合い話は全部蹴った。金がなけりゃ政略婚を受けるけど、俺、金なら今の暮らしを一生維持できる程度のものはあるし。
ただ皇宮から出るとなりゃ、ここより良い環境を見つけるのはなかなか難しい。だからこそ、魔術師をみつけて黒髪黒目召喚を執り行える者を抱えたのだ。で、皇宮内での立ち位置を確保して、離宮で一生暮らすんだ。
「そっか、わかった。んじゃあ準備しててよ。俺、兄上と魔石の交渉してくるから」
こんな面倒なことをしなくても、西大陸のアルバトロス王国に居るという黒髪黒目の少女を奪ってきた方が早いんだけれどなあ。
向こうの戦力がどんなものか知らないけれど、飛空艇を持っている帝国に逆らえる国なんてないだろうし。魔物も飛空艇の大砲があれば難なく倒せる。人間にも効果絶大。
外務大臣の話だと、田舎の小国だと言っていたのに攻め入らないのは何でだろ。……あ、距離がある上にルート上に味方が居ないな。だったら時間を掛けて奪えばどうにかなりそうな、とも考えるけれど面倒だし止めよう。政治面は長兄の仕事だから、六番目がしゃしゃり出れば良い顔しないし。
「殿下、お願い申し上げます! 黒髪黒目の者は魔力量を多く所持していると聞きます。――」
数々の奇跡を起こし、困っている東大陸の人間を助けたんだって。目の前の魔術師は黒髪黒目の者が魔術を行使する瞬間を、その目に焼き付けたいと。魔術師だというのに自分で起こせないことを悔しがらないのはどうなのだろう。まあ、魔術師って辛気臭い連中が多いから仕方ないのかも。良く分からない人種とも言われて久しいし変わり者なのだ、きっと。
「まあ待っててよ。ちゃんと魔石を兄上から頂いてくるから」
魔術師を背にして歩き始めた俺は軽く片手をあげた後、部屋を出る。ぎょっとする警備の兵士に声を掛けると、お供いたしますと俺に付いてくるようで。割と自由の利かないことに気分が下がるが、兄上との交渉もあるのだから仕方ないと割り切る。
「アイン兄上、ゼクスです」
長兄の執務室の前に立って扉を四度叩くと、兵士がゆっくりと扉を開いて顔を出して俺を中に案内した。
「どうした?」
「黒髪黒目召喚の儀に必要な魔石を融通して頂きたく参りました」
ぴくりと兄上の片眉が上がる。兄上は帝国の為に黒髪黒目の者を欲していたから、悪い話じゃないはず。どうでるのかと待っていると案外あっさりと、三つの巨大魔石の使用許可を出してくれ。
「ゼクスよ、確実に召べるのか?」
「はい。魔術師によると儀式魔術となるので魔力さえ確保できれば失敗はないって」
魔術師は自信満々に俺に告げた。嘘をならば殺すぞと脅しをかけているので、ある程度その言葉に信憑性はあるはず。儀式は黒髪黒目の因果を探し見つけ、魔術陣へと誘うものらしい。あれ、それならアルバトロスの黒髪黒目の者が呼ばれないかと頭を過ったが、それならそれで構わない。黒髪黒目の者を召んだということに変わりはないのだから。
失敗したら魔術師の首だけではなく俺の首も飛ぶことになりそうだが、その時はその時だ。大博打に出たのかもしれないが、人生楽しまなきゃ損。兄のような堅物な考えの人生は、性に合わない。
「ならばあと二つ融通しよう。必ず成功させろ」
「ありがとうございます」
合計五つ。兄上は本気のようだ。こりゃマジで失敗できねえな。これだけ用意してもらって失敗なら、アイン兄上はキレ散らかしそう。
「ウーノには気を付けろ。アレは他所から招き入れることに難色を示している」
長姉であるウーノはあまり快く思っていないらしい。他国から帝国に移るだけでも、名誉あることだというのに何故疎むのだろうか。女の身で出来ることなど少ないし、そのうち帝国内の貴族に嫁ぐのだから関係ない。さて、魔術師の下へ戻って召喚の準備に取り掛かりますかねと、アイン兄上に背を向けて部屋から出ていく俺だった。