魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0208:ちょっとキレそう。

 どうして気づかなかったと悔やむけれど、アレは儀式魔法の類になりナイを狙って放たれたもの。魔術陣も展開しない上に魔力感知も難しいもので、こっそりと誰かを攫う為に開発されたものだから、ナイが消えるまで分からなかった。

 

 『ナイ』

 

 ナイが居なくなった席に立つと、まだ温もりが残っている。

 

 ボクが卵からずっと一緒だったナイが居なくなったことで、喪失感が凄いけれど自分の事を気にしている場合ではない。

 

 『マスター……どこ行ったの?』

 

 『!』

 

 スライムのロゼとフェンリルのヴァナルは影の中から強制的に追い出された。守れなかったことを悔やんでいるのか、物凄く落ち込んでいる。ボクは彼らの気持ちも理解できる。ロゼは魔石から誕生した創造物であり、創造者であるナイは親や神さまと同然で。

 ヴァナルも短い時間だけれど、ナイの魔力に惹かれて一緒に居る。子爵領へと視察へ向かった帰り道、運悪く馬車に同道する人が居なかった。

 ソフィーアとセレスティアは休暇の為、珍しく同席していない。でも、良かったと思う。これで彼女たちが同席していれば、ナイが消えてしまった責任を取らなければならないから。外で護衛をしている人たちはまだ気付いていない。まさかこんなことになっているだなんて、思いもしないだろう。

 

 『ジークとリンに知らせよう』

 

 あとはアルバトロス王国のみんなに報告もしなきゃ。ジークとリンや護衛の人たちに咎が及べばナイは気にするから、上手く立ち回らないと。

 

 『ロゼが行く!』

 

 すっとロゼが消えた。魔力を発動させて魔力陣が浮かんだから短距離転移だ。

 

 『ヴァナル、大丈夫だよ。ナイが攫われるだけで終わる訳がないから』

 

 くーんと鳴いてナイが消えた場所の匂いを一生懸命嗅いでいるヴァナル。匂いで追いかけられるなら僥倖だけれど、ナイはかなり離れた場所へ転移しただろう。ボクが感知できる場所には居ないから、かなり離れた場所。黒髪黒目信仰のある隣の大陸が怪しいけれど確証がない。ただナイのことだから、攫われたくらいでへこたれるような子じゃないのはボクは良く知っている。

 逆にナイを攫った人のことを心配するべきなのかも。少し不安なことは、ボクたちに迷惑が掛かるならば舌を噛み切って死ぬと言っていたことだ。ジークとリンが説得していたから大丈夫だと思うけれど、どうにもならなければ本当に行動へ移しそうだから。

 

 「クロっ! ナイが消えたってどういうこと!!」

 

 がたんといつもよりも乱暴に止まった馬車と同時に、扉が勢いよく開かれ慌てた様子のリンが姿を見せた。二人を呼んだロゼも一緒に馬車の中へと戻ってくる。

 

 『ごめんね。ボクが気がついていれば良かったんだけれど……』

 

 本当にごめん。いつも仲良さそうに笑いあっている君たちを見るのが好きだった。ボクもいつかはその輪の中に入れるようにと願っていたけれど……もう無理なのかなあ。

 

 「リン、責めるな。守れなかった俺たちにも責任はある」

 

 勢いよく馬車に乗りあがってボクに詰め寄るリンの肩を掴んだジーク。いつも通りに見えるけれど、腹の中は煮えくり返っているんだろうなあ。ジークもナイに対しては特別な思いを向けているようだから。当の本人が全く気付いていない所が、ちょっと可哀そうなくらいだけれど。

 

 「……でもっ! ナイはっ!? ナイはどこかに消えちゃったんだよっ!」

 

 『リン、ボクね、なんとなくだけれどナイの居場所は分かるんだ。だからナイの魔力を追ってみる』

 

 ボクの探れる範囲外に居るようだけれど、なんとなくナイが居る場所の方角位ならば分かるんだ。凄く細くて、小さいものだけれどナイの魔力を追うことが出来る。でも今はまだ駄目だ。

 

 「本当っ!? クロ教えてっ!」

 

 『教えても良いけれど、少しやりたいことがあるんだ。アルバトロスの人たちに今回の説明をしないと』

 

 リンに教えると、這ってでも一人で行っちゃいそうだから。ナイを誘拐した人を捕まえなきゃならないし、亜人連合国のオブシディアンにも説明しなきゃ、勝手に大陸や隣の大陸までナイを探し求めるだろう。

 

 「城に行くのか?」

 

 『うん。アルバトロス王に説明しないとね。ジークやリンたちが責められれば、ナイは悲しむだろうから』

 

 それだけは回避しないと。ナイならどこに行っても大丈夫。ナイを攫うということは何らかの目的があるということだから、直ぐに殺したりはしないだろう。身に危険が迫れば防御魔術を展開すれば守れるし、攻撃系の魔術や魔法も身に着けたから、アルバトロスの副団長くらいの魔術師が居なければ苦戦はしない。

 金銭目的なのか、ナイ自身に何かしらの価値を見出しているのか、ただ単純に偶々ナイが選ばれたのか。理由によっては身の危険に晒されることになるけれど。ナイが困っている所があまり想像できないんだよね。――もちろん凄く心配しているし、いつも居るナイが居なくて寂しいけれど。

 

 『クロ、ロゼが城まで連れて行ってやる』

 

 『ん、お願いできる?』

 

いつの間に転移を覚えていたのだろうか。ロゼが攻撃系の魔術を得意としていたけれど、副団長に教えを乞うていたのか。ちゃっかりしていると目を細めつつ、ナイのことを考えた上での行動だ。それに文句などない。

 

 「すまない、俺も一緒に行けるか?」

 

 『お前も?』

 

 「ああ。説明役は多い方が良いだろうし、責任も取らんとな」

 

 ナイが攫われただけで終わる訳がなく、攫われた先で暴れている可能性もあるから早く迎えに行きたいそうだ。ナイを信用しているからこその言葉だった。

 

 「兄さん、私も。ロゼ、私も連れて行って」

 

 『分かった。ロゼに寄って』

 

 ロゼが展開した転移魔術陣の上へ乗ると、何とも言えない気分になる。ナイが魔石に魔力を込めて生まれたロゼだから、魔力の質が彼女と似ている。どうか無事で…………と思う気持ちと、割と無茶をしてしまうナイを攫った人の方が大丈夫なのか心配になりつつ、アルバトロスの王城へと向かうボクたちだった。

 

 ◇

 

 ――殴りてぇその憎たらしい顔。

 

 アガレス帝国万歳と叫ぶ人たちを両手を広げて受け入れドヤってる金ピカ鎧の金髪紅眼の青年を前にする私……いや、私たち。いきなりのことでぽかんとするしかないけれど、右隣に居るヒロインちゃんや足枷を嵌めている銀髪くんという問題児が気になって仕方ないし、左隣に居る大聖女さまや伯爵家のご子息さまも気になる。

 

 どうしてこの場に呼ばれたのか。アガレス帝国ということならば、黒髪黒目である私を攫う為に儀式召喚でも執り行ったと考えると凄く納得できた。

 でも、それだと他の四人が召喚されて理由が付かない。銀髪くんは銀髪だしヒロインちゃんはピンクブロンド。大聖女さまは銀髪で、伯爵家のご子息さまのメンガ―さまはくすんだ金髪。黒髪黒目に全くあてはならない上に、私の近くに居て召喚に巻き込まれた訳じゃないし。

 

 一緒に馬車の中に居たはずのクロとは別れてしまったようだし、ロゼさんとヴァナルの気配を影の中に感じられない。私が召喚された際に追い出されてしまったのだろうか。ロゼさんは魔石を核にして私の魔力で創造されたスライムさんなので、親和性が高いだろうから一緒に召喚されそうだけれど弾かれたようだ。

 

 召喚された反動なのかくらくらする頭をどうにか耐え、膝に力を入れて立ち上がる。仕方なく巻き込まれてしまった彼らの為――約二名は例外だ――にも道化にでもなるしかないのかと前を見据えた。

 私が立ち上がると、それに気が付いた目の前の金ぴか鎧の青年が片手を挙げ、アガレス帝国万歳と響くホールが静まり返った。

 

 「黒髪黒目の者よ、名は?」

 

 答えるべきか迷って、数舜考えを巡らせる。私と一緒に召喚された四人の事を考えるならば、余り不遜な態度を取るべきではないし、ここはアルバトロスから遠く離れた異国。

 無茶はできないので、なるべく時間稼ぎが出来る方向へ持っていきたい。もし私が帝国に攫われるようなことがあれば、必ず助けるとジークとリンが言ってくれた。もちろんジークだけではなくアルバトロスのみんなや亜人連合国の方たちも含まれる。リーム王国や周辺国は分からないけれど、陛下がこっそり根回しをしていたようだから何かしらの協力は得られるだろう。

 

 「高貴なお方とお見受けいたします。――アルバトロス王国にて聖女を務めております、ナイ・ミナーヴァ子爵と申します」

 

 話が通じる人ならばこれで分かってくれるはず。友好的な自己紹介が出来たならば、希望がある。妙な展開にはならないで欲しいと願いながら、頭を深く下げた。

 銀髪くんとヒロインちゃんは余計なことをしてくれるなよと、右隣をちらりと見るとまだ展開に付いていけないのか呆けたまま。大聖女さまとメンガーさまも召喚の影響から立ち直れておらず、正面を見据えてはいるもののキツそうな顔を浮かべている。

 

 「おお! アルバトロスの者が召喚されたのか! ――我が名はアイン・アガレス第一皇子である。此度は我が国の貴重な魔石を五つ使用し、貴殿を招き入れた」

 

 強制的に招き入れたじゃないのか。言葉は言いようだねえと目を細める。貴重な魔石を五つ消費したのはアガレス帝国の都合。私の、私たちの都合は加味されていないようだ。

 

 「……アイン」

 

 小さく呟いてふらふらと立ち上がったヒロインちゃんが一歩二歩と進んでいく。あ、不味いとヒロインちゃんの肩を掴んで、こちらへと気を引いた。

 

 「離してっ! アインが目の前に居るんだよっ!? どうして貴女は邪魔ばかりするの! リルの時もハインツもジークの時もっ!」

 

 「痛っ!」

 

 大きな声で叫び掴んだ肩の手をヒロインちゃんが力尽くで振り払った。邪魔をしたつもりなどないが、彼女の中では私は邪魔者らしい。

 

 「おい、待て」

 

 メンガ―さまがいつの間にか私たちに近寄ってヒロインちゃんを止めた。彼女は魔眼持ちなのだけれど、メンガ―さまは大丈夫か気になるが今は気にしている場合ではない。彼女から離れれば魔眼の効果が薄くなるのは、マルクスさまたちで実証出来ている。

 どうにかヒロインちゃんを抑え込んだメンガ―さま。彼女は彼に任せて前を向くと、第一皇子殿下は若干不機嫌そうではあるものの私に向き直った。

 

 「そのような女を庇うことはなかろう。我が名を許可もなく呼んだ不躾な者に慈悲を見せるのは何故だ?」

 

 「殿下、彼女はアルバトロス王国の者であります。この場に召喚された理由はわたくしには理解しかねますが、アルバトロスで罪を犯しました。彼女は罰を受けている最中」

 

 話は出来そうな相手で安心した。ヒロインちゃんが犯した罪を明かすべきか悩んだが、事実を告げておいた方が穏便に済みそうなので、アルバトロスの王族に不敬を働いたことを告げ、魔眼持ちであることも告げた。

 この場に居る男性陣を虜にしても厄介だから、物理的に目隠しをお願いしたいことを伝えると、少し考えたのちに布と手枷を用意してくれた。確かに庇う必要はないけれど誰かに死なれるのは後味が悪いから、なるべく穏便に済ませたいとは考えている。

 

 ただ相手の出方次第ではあるけれど。守りに徹するならこの警備の中を抜け出す自信はあるけれど、みんなを守りながらとなると難易度が上がる。ヒロインちゃんと銀髪くんの行動が読めないので、その時はどうなるのやら。ただ交渉の余地があるのに、敵対するのは馬鹿がやること。向こうが全面的に悪いけれど、そこはぐっと堪えるしかない。

 

 「……次にその女が貴殿や我々に無礼を働けば容赦せんぞ」

 

 びくりと片眉を上げつつも、第一皇子殿下は一応私の言葉を呑んでくれたようだ。

 

 「はい」

 

 第一皇子殿下の言葉はヒロインちゃんにも届いただろう。これでまた彼女が身勝手な行動に移したというならば、もう助ける理由もなくなる。

 

 「ナイ・ミナーヴァに告ぐ。アガレス帝国の為、その身をアルバトロスからアガレスへ移せ! 衣食住に其方が望むものがあるならば、金も名誉もくれてやろう!」

 

 右腕を前に突き出して、私に告げる第一皇子殿下。爵位も領地も好きな場所を好きなだけとって良いそうだ。帝国に興味はないけれど……その言葉を私は確りと覚えていよう。

 

 お金と名誉ならアルバトロスで受け取っているし、世話になった人たちや現在進行形で世話になっている人たちが居る。残念ながらそう簡単に切り捨てられるものではない。だから第一皇子殿下の言葉に頷けるはずもなく。大聖女さまとメンガ―さまには申し訳ないが、私の我儘に付き合って頂こう。

 

 「お断り致します! わたくしはアルバトロス王国の聖女であり貴族。その旨は貴国の使者の方にもお話し致しました」

 

 「……」

 

 私の出方を観察しているのか、言葉を遮る様子もない。周囲の一部は困惑しているので、全員が第一皇子殿下と意志を同じにしている訳ではないのだろう。ならばチャンスはあるし、言いたいことを全て言っておくべきだろうと、腹に力を入れて言葉を紡ぐ。

 

 「ですが事実を曲解されアガレス帝国の皇帝陛下は書状でわたくしを必ず迎え入れると申されました。そして此度の件!」

 

 腹に力を入れようとする所為か、勝手に魔力が練られて放出されているけれど、髪が揺れているし演出としては効果的かと更に練る。ついでに視界に入った巨大な魔石五つに意識を向けて、魔石から発する魔力を手繰る。

 

 「黒髪黒目の者を崇めながらも、その者の意志を無視をした所業! アガレス帝国は黒髪黒目の者を自国の利益の為に犠牲にしていると考えてよろしいか!?」

 

 あ、魔石に繋がった。えっと確か魔石は魔力を吸収しすぎると、限界を超えて割れちゃうんだよね。ロゼさんを創造した時の質の悪い魔石は直ぐに割れた。召喚儀式を執り行えるような魔石が五つなので、質の悪い魔石のようにはいかないだろうが、割れたら向こうの皆さまに心理的プレッシャーを与えられるだろう。

 

 腹を決めれば私の行動は早かった。

 

 私の言葉に動揺を浮かべる方たちに、怒りを露わにしている人。動揺は位の低い人たちに、怒りは位の高い方たちに。分かりやすい構図だねえと、ほくそ笑む。

 

 「帝国をここまで繁栄させたのは初代皇帝陛下と皇帝陛下へ身を捧げた黒髪黒目の者の存在があったからだ! なれば、黒髪黒目の者が帝国に尽くす道理があろう!!」

 

 至極真面目な顔で第一皇子殿下が告げると、他のイケメン顔の皇子方――身形が良いので、多分――がうんうん頷いていた。へー……。馬鹿げた行動を誰も止めないならば、致し方ないよね。まあ、私に気が集中しているようだから、魔力を練っていることは気づかないでね。魔力量が低いから気付かないかもしれないけれど。

 

 殴りたい、そのドヤってる憎たらしい顔……でも出来ないので、目の前に居る青年を睨む。

 

 「それのどこに道理がありましょうっ!? 此度の件は紛れもなく誘拐! 第一皇子殿下では話になりません、皇帝陛下をお呼び頂きたい!」

 

 この国の頂点を出して欲しい。穏便に解決する一番の早道だろう。皇帝陛下が第一皇子殿下のような調子ならば、期待できないけれど。

 今回はアルバトロスの面子や亜人連合国の方たちが乗り込んでくる前にある程度の道筋を作っておかないと、戦争まっしぐらだ。帝国の人間が死ぬのは勝手だけれど、身内が犠牲になるのは駄目。だからこそ今回は自分で考えて、暴れないと。

 

 「っ!」

 

 「黒髪黒目の者が初代皇帝陛下に身を捧げたというのであれば、わたくしが頭を下げるべきはアガレス皇帝! 第一皇子殿下ではわたくしを御すことは無理でございます! ――その証拠に…………」

 

 ぶわっと魔力の奔流がホールに満ちると、探し当てておいた魔石五つに私の魔力を一気に流し込む。先ほどまではちょろちょろとだったが、吸い尽くせる限界まで大量に。私の魔力ならば、いくらでも持っていけばいい。

 こちとら、クロやお婆さまに頻繁に吸い取られているし、最近はロゼさんやヴァナルにも吸われていたし与えてもいた。限界まで与えることもあったし、以前よりも総魔力量というか使える魔力量は増えている。

 

 ――にぃ、と口の端が伸びたその瞬間。

 

 五つの巨大魔石に罅が入ると、きぃという硝子を爪で思いっきり擦ったような音が鳴り響いた後、粉微塵に割れた。

 

 「なっ! 貴重な巨大魔石がっ!!!」

 

 驚く周囲の人たちに、頭を抱える人たち。割れた魔石を見て私を睨んだ第一皇子殿下に向けて中指を立てようとしたけれど、そういえば一人じゃないので駄目だなあと思い止まる私だった。

 

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