魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

210 / 740
0210:蛙の子は蛙、蛙に失礼だけど。

 ――どうにかトップを引き出せた。

 

 今回の件、私は暴れすぎだよなあと思わなくもない、ないのだけれど実質誘拐。下手をすれば大陸間戦争の引き金となりそうなので、個人で動けるうちにある程度の道筋は付けておきたい。

 ぶっちゃけ帝国が……アガレス帝国政権が滅びても構わない。結局政権が滅びた所で野心家な誰かが代わりにその座に就くだけ。身内の簒奪かもしれないし、帝国は他国を蹂躙した末に出来た国だから報復者が居てもおかしくはないし。

 

 自分の命が危険と感じて、態度が軟化した――それでも偉そう、偉いけど――金鎧を着こんでいる第一皇子殿下には笑うしかない。誰も守ろうとしていなかったし、アガレス帝国第一皇子という立場に浸って周囲の人たちを慮ることはなかったのだろう。皇女さま付きの兵士はきちんと自身を盾に彼女たちを守っていた。

 

 「アガレス皇帝陛下、ご入来!」

 

 警備の兵士が大音声を上げて皇帝陛下がこの場へやって来たことを知らせると、大扉の方へとみんなの視線が一斉に向けられた。逆光に照らされシルエットが浮かんでいるけれど、ご立派な体形だった。要するに肥満、おデブちゃん。重そうな体を一生懸命に動かして、私の前までやって来た皇帝陛下。

 帝国の人たちは頭を下げているけれど、私たちが下げる必要はない。ガマガエルのような顔で私を見下ろして、ぶつぶつと何やら呟いていたので耳を澄ませる。

 

 「――(われ)の趣味ではない。いくら黒髪黒目といようとこのような子供ではなあ。報告だと十五歳、成長の見込みは無しか……残念、真に無念だ」

 

 独り言のつもりのようだけれど、はっきりと聞こえているんですが。私の口の端が引きつっていることに気が付いた宰相閣下が、慌てた様子で皇帝陛下へと駆け寄る。

 

 「なんてことを申されますか、陛下! 黒髪黒目はお方は帝国にとって希望――」

 

 「――知っておる。吾の趣味ではいと申しただけだ。黒髪黒目の者よ、其方の願いはなんだ? 出来うる限り考えて……おや、美しい桃髪だ。帝国では珍しい!」

 

 気怠そうな感じで言葉を口にしている皇帝が、私の望みを聞いている。どうしようかと少し考え始めたその時、私の後ろでメンガーさまに抑えられているヒロインちゃんを見つけて喜色の顔となった。のしのしと足を進ませて、目隠しされたヒロインちゃんの下にしゃがみ込み顎をくいっと持ち上げた。指にもたっぷり肉が付いていて凄く柔らかそうだと、出来うる限り失礼のない表現をしてみたけど。

 びくりと小さくなっているヒロインちゃんの目隠しを、皇帝が結び目を解かないまま上へと引き上げる。ヒロインちゃんの顔を確認した皇帝がにたりと嫌な笑みを浮かべ、ヒロインちゃんは珍しく顔を青褪めていた。

 

 「愛いのう。愛いのう。一瞬にして吾の心をこの者は掴みよった」

 

 「ひいっ!」

 

 ヒロインちゃんがたまらず短い悲鳴を上げた。警備の兵士や宰相閣下がまたかみたいな、呆れた顔を浮かべている。十五人の皇子と五人の皇女もの子供がいるということは好色家で、皇帝としてあまり働いていないとみた。

 お飾りの軽い神輿あつかいで皇帝の座に就いたのだろう。唐突に真顔になり、ヒロインちゃんから視線を外して、スッと静かに皇帝が立ち上がり私を見る。

 

 「此度は第一皇子の取り計らいで黒髪黒目の者を他所から召喚させたと聞いておる。黒髪黒目の者よ、其方の願いはなんだ? 吾が出来うる範囲で叶えてみせようぞ」

 

 立ち上がって私を見下ろす皇帝。先ほどよりも目に光が宿っている上に、態度がコロリと変わった。ヒロインちゃんは巻き込まれて帝国へ召喚されたと勘違いしているのだろう。その方が筋が通りやすいし、分かりやすい。とりあえず皇帝の言葉には答えるべきだと、確りと彼の目を捉えて腹に力をいれて声にする。

 

 「召喚された我々一同、アルバトロス王国への帰還を願います!」

 

 要らない人たちもいるけれど、望みを聞かれればこう言い張るしかない訳で。おや、という顔を浮かべる皇帝に、歯軋りしそうな顔の第一皇子と他の皇子たち。

 他人事みたいな顔を浮かべている皇子もいるのだけれど、十五人も居ればいろんな考え方の皇子が居てもおかしくない。皇女たち五人は大人しく、このやり取りを見ているだけだ。不味い展開となれば、割って入るつもりなのだろうか。

 

 「なにを言う! 貴重な巨大魔石を五つ消費してお前を召んだのだ! それにお前は俺に楯突いたのだぞ! 不敬罪であろう! 陛下、この者は第一皇子である俺に魔術を行使しようと――」 

 

 「――まあ、待てアイン。無理矢理に他国から呼んだのならば非礼は帝国にあるのだ。黒髪黒目信仰のない西大陸の者というならば、帝国と彼の者の国と行き来すれば問題なかろうて」

 

 あれ……必ず私を迎え入れるという書状はなんだったのだろうか。もしかしてヒロインちゃんを手に入れる為、書状の趣旨を変えてまで皇帝は動いているのだろうか。全く考えていなかった、斜め上方向に進み始めた展開に怒る気力も削がれ頭を抱えそうになるけれど、帰れるというのならば目を瞑ろう。

 出来ることならアルバトロスと聖王国に頭を下げて頂きたい所だけれど交渉次第か。帝国は大国と言う驕りがあるから難しそうだけれど、ヒロインちゃん使ってどうにかならないかなあ。犯罪者であっても一応はアルバトロス国民なので、交渉材料にはなりそう。酷い扱いだけれど、アルバトロスの魔術師たちの魔眼の実験道具だったので今更感はある。

 

 「何をおっしゃいます陛下! ゼクスが段取りを整え第一皇子である俺が取り仕切ったのです!」

 

 第一皇子が皇帝に向かって、大国とはなんたるかを説いている。大陸の覇者であり、多少の傲岸不遜は致し方ないと。金色の鎧を鳴らしながら身振り手振りで訴える第一皇子を、盛大な溜息を吐いて皇帝は自身の息子を見つめる。五十歳くらいのおデブちゃんと金鎧を纏ったイケメンという妙な構図だけれど。

 

 「……なあ、アイン。それは大国故の奢りだろうよ。歴代の皇帝は大陸制覇を夢見て掛けてきたが、戦争なぞ起こさず有能な者に任せて盤石な治世を築き上げた方が何倍も良いぞ」

 

 女を侍らせられるしな、と本心が駄々洩れだった。良い台詞を言っていたのに最後の最後にソコに帰結するのかと、頭を抱え残念にもほどがあると唸る。

 

 「陛下っ! いい加減に女に現を抜かすのはやめて頂きたい! 貴方の所為で帝国は女好きの碌でもない集まりと共和国や周辺国から揶揄されているのですぞ!」

 

 第一皇子が皇帝へと凄い剣幕で迫る。

 

 「良いではないか、舐められておけば。空挺部隊は血の気の多い連中。そうなれば彼らに任せておけば良い」

 

 飄々としているのか皇子の言葉には意に介さず、右から左へと流す言葉を投げた。

 

 「ぐ! 陛下っ!」

 

 第一皇子は皇帝の弱腰外交スタイルが嫌いらしい。国内を盤石な体制にするために他国を侵略しないのもひとつの手だろうに。

 方々に手を伸ばして回らなくなった国を知っている所為か、女好きの皇帝の方が良い事を言っているように聞こえてしまう。まあ、目の前の皇帝は有能な部下に全権を預けていそうだけれど。自分が無能と自覚しているならば、潔い良策とも言えるかも。

 

 「――はっ! 帝国がどんなものかと思えば、馬鹿の集まりじゃねぇか!」

 

 しまった! 猿轡をかましておくべきだったと反省するけれど、もう遅い。今まで静かだった銀髪オッドアイくんが、足枷で動けず胡坐をかいたまま痺れをきらし、大声で帝国に喧嘩を売る発言をしたのだった。

 

 ◇

 

 皇帝陛下と第一皇子殿下の親子喧嘩が始まったなあと成り行きを見守っていると、問題児が問題発言をする為に口を開く。

 

 「――はっ! 帝国がどんなものかと思えば、馬鹿の集まりじゃねぇか!」

 

 ざわりと帝国人がざわめきたつ。そりゃ西大陸の人間に小馬鹿にされたのだから怒りは理解できる。私と大聖女さまとメンガ―さまは、どうしたものかと顔を見合わせた。銀髪くんも犯罪者だし、今更罪が増えたところで問題はないなと結論付けて、数歩彼から距離を取って関係ないアピールをしておいた。ヒロインちゃんは、彼女のストライクゾーンに位置していない皇帝に口説かれた為にまだフリーズしたまま。この状態ならば放っておいても大丈夫だろうと

 

 「なんだと……貴様ぁああ!」

 

 皇帝陛下はくくと余裕の笑みを浮かべ、第一皇子殿下が激高する。他の人たちは第一皇子の行動を観察しているのか、動かない。歪な状況だなあと見守っていると、銀髪くんが第一皇子を見上げて好戦的な顔を浮かべた。

 

 「お、やるのか? 足枷を付けた人間を斬ることは簡単だ。テメーの方が優位だもんなあ! その腰に下げてる高価そうな剣で斬ってみろよ!」

 

 胡坐をかいたままやたらと煽る銀髪くんを、剣の柄に手を添えた第一皇子がしげしげと見降ろしている。

 

 「………………お前、よく見れば顔も体も良いな。兵士として俺の下で働かないか?」

 

 第一皇子が良い声で妙なことを口走って、顔を少し紅潮させている。もしかして男の人が好きな方なのだろうか。先ほどから展開の緩急が凄すぎて付いていけなくなっていっているし、なんだか碌でもなさ過ぎて怒る気力も削がれているのだけれども。

 帝国の人たちも引いているので悪癖が出たくらいに考えているのでは。だって皇帝は好色家だから、息子である彼にもそれが引き継がれている可能性は大いにある。第一皇子殿下という立場ならば、婚約者か既に婚姻している方が居そうなものだけれど。そういえば彼に私が従っていれば、私がその座を担うことになったのだろうか。

 

 「マジ? 俺を解放してくれるなら、アンタの下で力を振るうぞ!」

 

 そう言いつつ、銀髪くんは逃げる機会を伺っていそうだけれどね。元冒険者だからある程度の腕っぷしは見込める。

 ただ兵士というならば周りと協調しなくちゃならないし、特出した戦力を持っていても持て余すだけの可能性が。まあ近代の軍人に向けられる言葉だから、魔術や魔法がある世界ではあてはならないかもしれない。しかし彼の身柄は亜人連合国に所有権があるので、勝手は出来ないはず。

 

 「おお、先ほどの無礼は不問にしよう! 誰か、この者の枷を解いてやれ!」

 

 亜人連合国の所有物を勝手に持って行かないで頂きたいと、止めようとする私。

 

 「っ」

 

 言葉を口に出そうとしたその時、私の肩を大聖女さまが掴んで耳打ちした。その内容は第一皇子殿下はどちらでも愛せることが出来る方だと告げた。

 嗚呼、やはりかと納得しつつも頭の中でいろいろと考えてしまう。彼の奥方さまはいろいろと大変そうだし、精神を病みそうだなあとか、同性を愛することもできるとしっているのかとか。知らなければ問題にならないか。夫婦間の仲や関係性って大事だから、バレないように頑張っているかもしれないし。

 

 そう、彼はまさしく男でも女でも愛せる慈悲深いお方なのだと、無理やり納得させた方が精神衛生上きっと良いはず。妙な光景が浮かびそうになるけれど、頭を大きく振って打ち消す。一応どちらもイケメンなので、喜ぶ人は喜びそうだけれどね。

 

 ――帝国民ですらない聖王国の大聖女さまが、そんな秘匿情報を知っているのだろうか。

 

 疑問が過るが今はまだ置いておこう。気にしている場合ではないし、これから先がどうなってしまうのかの方が問題である。ただ時間が経てばお迎えが来ることは確実で。ただ距離があるので、数時間後なのか数日後になるのかが全く分からない。

 召喚された所為で距離感が全くつかめていない上に、帝国の地理も分からないからなあ。大聖女さまとメンガ―さまは野宿に慣れていないだろうし、知らない土地であてもなく数日さ迷うのは危険。

 城下町に脱出して宿に泊まる方法もある。私の身に何かあった時の為にとソフィーアさまとセレスティアさまが、小さな宝石がいくつもついたブレスレットを身に付けておけと念を押され、寝ている時も起きている時も始終付けているので、ある程度のお金に換金できるし。

 

 「久しぶりの自由だぜ。嗚呼、アンタの所為で俺は不味い飯を毎度食わされる羽目になったがなあ! あの赤髪の護衛も居ない今、ぶっ殺すチャンスだよ、なあっ!」

 

 足枷を外された銀髪くんはせいせいした顔を浮かべて私に向き直って、ぐっと右腕を握りしめたことが分かった。気の短い銀髪くんのことである、次にどんな行動にでるのかは安易に想像がついてしまった。

 

 「――"風よ、強固なる風よ"」

 

 私は術式を詠唱して、銀髪くんの真正面に防御壁を張った。障壁なのだけれど、魔術陣も浮かばないタイプのもので、無色透明の分かり辛いものである。嫌がらせかと問われそうだけれど、単純に銀髪くんの拳の軌道が見えないので、正面に広く展開できるものをチョイスしただけ。

 足を前後ろに開いて腰を入れ、右腕に伝わった勢いを全力で放ったであろう銀髪くんの拳が、障壁の正面に当たる。奇しくもその場所は私の顔面丁度の位置。なんの遠慮もなく放つつもりだったのだなあと、目を細めたその瞬間。

 

 「があっ!」

 

 銀髪くんが左腕で右手首を握りしめて痛みに耐えていた。銀髪くんの放った渾身の右ストレートは障壁に阻まれ私に届くはずもなく。骨が折れた音は聞こえなかったけれど、酷ければ骨に罅くらいは入っているのかも。素直にごめんなさいが出来れば慈悲の心で治してあげようと、苦悶の表情を浮かべている銀髪くんを見る。

 

 「なんだよテメー……。やりゃあ出来るじゃんよ……なんでコイツらをぶっ倒さねえんだ」

 

 そりゃ、やりたいけれどやり過ぎると面倒なことになるんだよねえ。帝国という大国が潰れてしまえば路頭に迷う人たちが出てくる訳で。後先考えないならば怒りに任せて出来ていたけれど、なんだか茶番で冷めてしまったし。皇帝はどうにか話が通りそうなので、あとは交渉でどうにかならないかなあ。

 帝国から今回の顛末の保証をしてくれるならば、溜飲が下がる訳だし。一応、宰相閣下とか皇女さまたちはマトモそうだし何とかなるかもと踏んでいる。姉弟喧嘩になりそうだったので呆れて怒鳴り倒したけれど、第一皇子よりはまだマシだろう。下手すりゃ皇帝よりも。

 

 「その必要がありませんから。ですが今回の事の責任はきちんととって頂きます」

 

 私や国民が攫われた面子があるだろう。また性懲りもなく召喚する可能性もあるので大陸全土の魔石を壊すか、各国で条約を結んで召喚魔術を禁止事項にして貰うのもアリだしなあ。なにせマトモに交渉の席に就ける人が居ることを願おうと、皇帝と第一皇子と十四人の皇子に皇女殿下方五人と他の方々を見据えるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。