魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
さて、どうしたものか。
いろいろと起こり過ぎて気が削がれてしまい、最初の勢いはない。もちろん、向こうが妙な行動に出れば遠慮無用の武力行使に走るけれど。魔石を五つ破壊したことが効いているのか、私のご機嫌を伺っている節がある。第一皇子と銀髪くんにヒロインちゃんは例外で、空気の読めない子判定している。
問題児であるヒロインちゃんは皇帝が凄く気になるようでそちらに気を取られているし、銀髪くんは右手首の痛みに必死に耐えている。治してあげるべきか迷った末に、静かになったので止めておこうと腹を決めた。
「皇帝陛下、わたくしたちを攫った責任を取って頂きたく。――大国故の面子もありましょうが、此度の件、少なくとも西大陸の二国を敵に回しております」
皇帝陛下の肉襦袢の圧が凄いけれど彼の前に立ち確りと目を合わせて、言葉を紡ぐ。収め所を示しているのだから、そのことに気付いて欲しいが如何に。
「……宰相。どう考える?」
ぎょろりと視線だけを動かした皇帝は宰相閣下に問いかけた。どうやら顔も動かすのが面倒だったらしい。カロリー消費しないと太る一方だし、肥満だと寿命が縮む原因なのだけれどね。痩せればそれなりの見た目になりそうだけれど。ミラクルが起きれば、ヒロインちゃんが振り向いてくれるかもしれないよとアドバイスを送りたくなるが、我慢ガマン。
「は。事を穏便に済ませるならば、責任はある程度取るべきかと。上手く交渉が進めば黒髪黒目のお方との縁も維持できたまま、西大陸の者との交流も願えましょう」
ちらりと宰相閣下が私の方を見るので、小さく頷いておく。帝国がこのまま滅びてしまうと面倒極まりない。
東大陸が荒れるのは自由だけれど西大陸にまで波及するのは困る上に、私が東大陸の情勢をどうにかしろとか言われかねないのだから。代替わりとか簒奪ならば、勝手にどうぞと思う。それで治世が安定するなら一つの方法であり手段だもの。無能をトップに据えているより、全然良い。
「帝国が潤うならば、隣の大陸との交渉もアリ……――吾はその桃髪の娘が望みだ。手に入れられるか?」
うーん、堂々と私たちの前でその話をするのは不味いと思うけれど、皇帝が望んでいる相手はヒロインちゃん。庇う気も起きないのでアルバトロスの判断次第だ。
「それは娘子の所属国次第かと。彼女がアガレス皇帝陛下へ嫁ぐ価値ありと考えられれば、機はありましょう。陛下の男っぷりの見せ所ですぞ」
持ち上げてる。宰相閣下は大変そうだと苦笑い。メンガーさまも大聖女さまも若干引いているけれど、帰れる望みが出来たので少し顔色が良くなってきたかな。
このまま帝国暮らしとかシャレにならないので、アガレス皇帝が好色の無能でも話は通るので希望はある。宰相閣下は常識人のようだし、黒髪黒目信仰の狂信者ではない。帝国上層部が宰相閣下のような方ばかりでありますようにと願っていると、またしゃしゃり出る人が居た。
「宰相っ! また貴様はそうやって陛下を誑かすのか! 好色陛下と他国から、しかも隣の大陸の者にまで舐められるではないか!」
テンションが銀髪くんみたいだと溜息を吐きつつ、もう舐められてますと第一皇子を見る。身内の問題を私たちに曝け出しているから、他国にも舐められるのだ。第一皇子は私たちのことを気にしていないか、かなり下にみて何もできない者だと判断しているのだろう。
アルバトロスに戻ったら報告書を提出しなければならないし、聖王国の大聖女さまも同様。メンガーさまも、国から聴取を受けるだろうし戻ったら春休みが潰れるだろうなあ。どうしてこうもお休みの日に問題が起こってしまうのだろうか。学生として休暇を楽しみたいというのに、理不尽だよなあ。
「アイン殿下、そう高圧的に怒りなさるな。威厳と言うものは身形や言葉で身に付くものではありませんぞ」
宰相閣下がジト目で第一皇子を見た。ぐっと息を呑む第一皇子。
「アイン、陛下を好色というならば貴方の趣味は如何なものでしょう?」
ウーノ皇女がここぞとばかりに第一皇子の追撃に出たようだ。まあ好色どころか男色だもんねえ。お貴族さまや王族、皇族としては問題だろう。堂々とそのことを暴露したのだけれど、本人は周囲に気付かれていないつもりだったのだろうか。侍女や侍従が就く皇族である。スキャンダラスな噂は直ぐに広まるだろうし、隠し通せるとも思えない。
火がたつからこそ煙が出るのだから、まあ事実だろうなあ。個人的な意見を述べて良いのならば、ヒロインちゃんも銀髪くんも熨斗を付けてくれてやるのに。いや熨斗は違うか。裸に赤いリボンでも身に纏わせて送るのがベストかな。本人たちは凄く抵抗しそうだけれど。
「ウーノ、貴様……女の癖に出しゃばるなと毎度言っておろう」
「その考えが甘いというのです。貴方が次代の皇帝となれば帝国は好色どころか男色を好む国と言われてしまいますよ」
好色よりも男色の方が不味いよね。子供が出来ない可能性だってあるのだから。他に十四人も皇子たちが居れば、男系の血統は維持できるから彼らの子を第一皇子の養子として迎え入れれば問題なさそうだけれど。
「なっ!」
「露見していないと? 噂は何年も前から流れておりますよ。そして事実を証明する者も居ります。――黒髪黒目のお方。此度は帝国がご迷惑をお掛けいたしました」
わたくしの頭では足りぬでしょうが、まずは交渉の席へ就いて頂きたいとウーノ皇女が。宰相さまも彼女の言葉に頷いているし、私の身分は知っているのだろう。あとは聖王国の大聖女さまとメンガーさまも一緒の席に座れることが出来れば良いのだけれど。彼らの様子を伺うよりも聞いてみる方が早いかなコレ。
「此度の件は皇子殿下方の暴走とお見受けいたします」
「黒髪黒目のお方、我々帝国上層部も殿下方を止めることは出来ませんでした。であれば殿下方と同罪でございましょう。ご迷惑をお掛けしたこと、謝罪いたします」
あー……そんなにぶっちゃけてしまわなくとも。黙っていれば良いのに、どうして謝ってしまうのか。ここではない何処かから召喚できる可能性もあっただろうし、そっちを狙っていた可能性もあるから止めなかったのだろうね。結果は同じ世界の隣の大陸の人間だったけれど。
――しかしまあ、なんで私以外の四人が召ばれたのだか。
黒髪黒目は私だけだし、本当に謎。まさか彼らも転生者ということはあるまいし……あれ、そういえばヒロインちゃんは『ゲーム』と言っていたことがあったな。
随分と以前だしどうでも良い事だったので忘れ去っていたけれど。大聖女さまも何故か第一皇子殿下が男色もイケる人だと耳打ちしてくれたし。あれ、あれと頭の中で思考がぐるぐるし始めるけれど、やるべきことがある。
頭を下げる宰相閣下に、これじゃあ暴れることは出来ないなと苦笑い。まあ、収めるべき所に収められそうなので、文句を言っても仕方ないか。
皇帝はヒロインちゃんを手に入れられる可能性が出てきたことに、ウッキウキみたいだし御しやすい。いろいろと考えている間に皇女さまや宰相閣下の命によって、銀髪くんには再度足枷、更に手枷と猿轡を嚙まされた。一応西大陸の人間なので、私の安全を脅かすということで拘束とのこと。
「いえ、わたくしへの謝罪は結構です。それより竜の大群やアルバトロスの魔術師たちが帝国へ乗り込んでくる可能性が高いでしょう」
直ぐに攻撃態勢に移るとは考え辛いですがと、付け加えておく。クロが怒っていたら、例のレーザービームが飛んでくる訳で。一夜にして帝都が……一夜あれば帝国の半分くらい落とせそうだな。失礼、一瞬にして帝都が灰燼と化す気がする。
「え?」
「あ?」
「はい?」
「お?」
順番にウーノ皇女、第一皇子、宰相閣下、皇帝陛下が声を上げ呆けた顔になる。まあ、竜が襲ってくるなんて考えられないよねえ。帝国の使者が訪れた時、クロには引っ込んでいてもらったし。あとついでに割と強いスライムさんと成長途中のフェンリルに、エルフのお姉さんズやお婆さまも一緒に来るんじゃないのかなと踏んでいる。エルとジョゼはどうだろう。
子育ての最中だし、ちょっと分からない。アルバトロスの竜騎兵隊もやってきそうだなあ。航続距離は竜よりも短いだろうから、彼らの背に乗って帝都に着いたら空母から発艦する航空機みたいになりそう。
アガレス帝国に召喚されて三十分程度の時間が過ぎた頃だった。
◇
ミナーヴァ子爵邸の執務室で雑務をこなしていた家宰さまとソフィーアさんにわたくしは、城からの使者の言葉に驚きを隠せませんでした。ですが、何故でございましょうか自身の落ち着きようは。
「ナイが消えただと! 一体どういうことだっ!」
ナイが攫われてから一時間半程度経っているとのことですが、随分と早い知らせ。おそらくは攫われた現場から転移で城へ参ったのでしょう。
だん、とソフィーアさんが執務机を右腕で叩きますが、ご自身の腕が痛いだけでしょうに。それに怒ってもナイは戻っては来ません。おそらく黒髪黒目信仰のある帝国が攫ったと考えるのが妥当ですが、魔術にも抵抗できるようにとお師匠さま特製の魔術具を肌身離さず付けておりました。それを搔い潜り攫ったというのならば、アガレス帝国は侮れない相手と言わざるを得ないでしょう。
アルバトロス王国と東大陸のアガレス帝国との戦争になりかねない事態。嗚呼、いえ、訂正させて頂きましょう。亜人連合国とアルバトロス同盟とアガレス帝国の構図ですわね。……西大陸の一国に過ぎないアルバトロスが、東大陸の覇者である帝国に喧嘩を売るなど暴挙に過ぎませんが、全く負ける気が致しません。帝国へと乗り込むというならば、また巨大な竜の背に乗れる可能性もありますね。ナイ付きの護衛侍女としての役目を万全に果たす絶好の機会でもありましょう。
「ソフィーアさん、使者の方を威圧しても仕方ありません。先ずは城へ赴きましょう。情報を集めなければなりませんわ」
彼女が慌てる様子は珍しいものでしょう。婚約者であった元第二王子殿下がピンクブロンドの幸せな思考の方に取られた時でさえ慌てず静観を決め込んでいたというのに。まあ能面のような顔で第二王子殿下の相手を務める彼女を見ているのはつまらないですし、わたくしは今のソフィーアさんを見ている方が愉快でございます。
ナイに振り回され困り果てた顔を浮かべ、彼女を諭す貴女を見るのは不思議と嫌いではありませんから。高位貴族の、ハイゼンベルグ公爵家の孫娘として育てられた貴女は気持ち悪いくらいに完璧でした。
確かに貴族然とした態度に将来の第二王子妃としては最高の人材でしょうが、血が通っていなかったとでも表現すべきか。
今は昔の話などどうでも良い事ですわね。ナイを助け出す算段を整えなければならないのですが、アガレス帝国は生きていられるでしょうか。ナイはかなりの無茶をしつつも、既の所で思い止まりギリギリの線を狙っております。今回も聖王国の時のように帝国を限界まで追いつめて、ふっと引き下がりそうですが。
「っ! ――すまん、城へ行こう」
はっとした顔を浮かべてソフィーアさんが言葉を口にして立ち上がりました。わたくしも同時に立ち上がり、子爵家の者たちに声を掛けます。当主が居なくなってしまったことに驚く面々と屋敷の中でふらふらと飛んでいた妖精たちが一瞬にして消えてしまいました。
これで、亜人連合国にも知れ渡ることでしょう。まあ、城からの使者が飛んできているので、隣の領事館にも同時に駆け込んでいるでしょうが。使者の方は生きた心地がしないでしょう。亜人連合国の皆さま方、特に代表格の方たちはナイをとても気に入っているようですから。
ふうと息を吐き馬車へ乗り込み城へと辿り着くと、城に勤めている皆さまは随分と慌てている様子で、廊下をすごい勢いで走り抜けて行きます。いつも机に座り事務作業に従事している方たちとは思えません。それだけナイが唐突に居なくなったことに、慌てているのでしょう。
『ソフィーア、セレスティア』
ぱたぱたとご自身の翼を広げてわたくしたちの下へクロさまがいらっしゃいました。いつも穏やかなクロさまは少し悲し気です。――全く、帝国は碌なことをしてくれない。王国へ提出された報告書に目を通しましたが、前回の帝国からの使者は横暴極まりないお方。アガレス帝国にはあまり期待できませんねと、ソフィーアさんと話していたばかりです。
「クロさま! ナイはっ!?」
『どこかへ消えちゃった。西大陸に居ないことは確かだよ。多分東の大陸だと思う』
クロの後にはナイの専属護衛である、ジークフリードさんとジークリンデさんが控えているのですが、異様な空気を放っておりますわね。物静かであり、ナイの護衛として存在感をあまり出さないようにと日頃から努めているお二人ですが、今の雰囲気は誰でも斬り捨ててしまいそうなものを背負っております。
「クソっ! 何故、こんなことに!」
「ソフィーアさん、言葉遣いがなっておりませんわ。謁見場へ参りましょう、今は無制限で開放しているようですから」
悪態をつく彼女を嗜めますが、あまり効果はなさそうです。本当に珍しいですわね。今はその時ではないので、いつか彼女が必死になっている理由が聞けると良いのですが。
情報収集の為に皆で謁見場へと歩を進めると、城の主だった面子が集まり沈痛な面持ちで陛下方と話し込んでいました。亜人連合国の方々も既にいらっしゃっているようで、陛下方と話をしております。少し、異様な雰囲気を醸し出しているのはエルフのお二人です。
「陛下、幽閉塔に閉じ込めているアリス・メッサリナが突然に姿を消したと警備の者が!」
は、と皆さまが呆けた顔となります。どうしてあの幸せな方も居なくなってしまうのでしょうか。そしてアリス・メッサリナが居なくなってしまったことで第二王子殿下が暴れているそうな。警備の者には迷惑極まりないですが、これ以上の騒ぎは御免被りたい所。大人しくしてくださいましと、鉄扇を広げて口元を隠していると、更に慌てた様子の外務官が駆け込んでまいります。
「陛下、皆さま! たった今知らせが入りました、聖王国の大聖女さまが行方を晦ませたと一報が!」
「なんだと! いったいどういう事だ!」
「分かりません! ――あともう一つ! メンガー伯爵家の子息も学院の宿舎で突然姿を消し、宿舎に残っている者と教諭陣で捜索しているようですが見つからないと……!」
時間が止まったような気が致しました。同時に四人が消え失せてしまったのですがら驚きは隠せません。しかし、黒髪黒目信仰のある帝国がなんらかの手段によってナイを攫ったとしたら。その影響で同時に別の場所で彼ら彼女らが攫われたとなれば、話が綺麗に纏まりますが。
アルバトロスや亜人連合国としてはナイの身を一番に優先すべきこと。少々ひどい扱いとなってしまいますが、政とはそういうものです。国にとって利が大きい方を優先させる。当然の事でございましょう。
「すまん、もう一つ知らせだ。――アレも突然姿を消したそうだ」
アレと言うのは銀髪の手に負えない男性のことでございましょう。代表さまの言葉にまた場が固まります。しかし今は彼らに構っている時ではございません。
『ボクは単身で東大陸に乗り込むよ。ナイの事が心配だし、帝国もある意味で心配だから』
クロさまの周りにはスライムとフェンリルも居ます。妖精も集まっているようですし、エルとジョセもどこからか情報を仕入れたようで、城へと参っているようです。
「しかし御身に危険があれば……黒髪の聖女も悲しむでしょう」
『大丈夫、大きくなって飛んでいくから。ジークとリンもロゼもヴァナルも一緒だからね』
陛下の言葉に目を細めながら答えるクロさま。どうやら東大陸にナイが居るのは確実なのでしょうね。クロさまが帝国の帝都へたどり着けば、ジークフリードさんとジークリンデさんで城を制圧できそうな雰囲気があるのですが。ナイもじっとしていない性分でしょうし、下手をすれば今頃はさっさと城を掌握している可能性もありそうでございます。
なんとも我が主は破天荒であると笑みを浮かべながら、帝国へ乗り込む算段を付けるわたくしたち。さて、向こうへ辿り着くまでに一体どのくらいの時間が掛かりましょうか。どうやらハイゼンベルグ公爵閣下は全軍に命を下し、竜のみなさまと乗り込む気満々のようですが。
わたくしもソフィーアさんもエルとジョセに乗ることが決定いたしました。ルカには申し訳ないですが、今回はお留守番です。聞き分けのいい子で助かりましたわ。子爵邸で皆さんと一緒に帰りを待っているということです。
――さあ、準備は整いました。
先行は単騎でクロさまが。一緒にジークフリードさんとジークリンデさんにロゼとヴァナルが同道しますが。後詰、というか本隊がわたくしたちアルバトロスと亜人連合国の皆さまとなります。
アガレス帝国の皆さま、アルバトロスを小国と侮ったツケを払って頂くお時間が参りましたわ!