魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0212:第一皇女殿下の内心。

 ――嗚呼、なんてお可愛らしい方。

 

 黒髪黒目のお方を、まさかこの目で拝める日がくるなんて。アガレス帝国第一皇女として、こんな嬉しい事はありません。出来れば近くに寄ってご尊顔を拝見したい所ですが、そんなことをすればアレらと同じと捉えられるでしょうし、今は我慢。

 せめて関係を築き上げてから、知人、友人、それ以上の仲と変化させていかねばなりません。もちろん帝国の第一皇女として、婚約者も居ますから同性愛者だと疑われないように立ち回らなければ。勘違いされても困りますが、私は純然たる異性愛者なので、黒髪黒目のお方が女性であったことは少々残念です。

 

 ですが、百年振りにお姿を見せてくださったのですから、こんなに嬉しい事はありません。

 

 アガレス帝国、いえ東大陸ではここ百年ほど黒髪黒目のお方が現れたという話は聞きません。東大陸では黒髪黒目のお方は、東大陸を創造したという女神さまの生まれ変わりと言われ、数々の奇跡を起こしてきたと言い伝えや文献が残っております。

 我が国でも、アガレス帝国初代皇帝に付き従い、帝国制定に助力したと聞いております。ですが本当に望んで初代さまに従い、帝国の覇権を握ったのかと問われれば疑問が残ります。その時の黒髪黒目さまが野心家であればもちろん協力したのでしょうが、もし仮に初代さまが無理矢理に従わせていたとすれば。事実の改竄など簡単でありましょうし、当時を知る由もありません。父王と弟である第一皇子を見ていると、嫌なことを考えてしまいます。

 

 竜の大群やアルバトロスの魔術師たちが帝国へ乗り込んでくる。

 

 先ほど、黒髪黒目のお方、ナイ・ミナーヴァさまはそう仰られていました。一体どういう事でございましょうか。西大陸のアルバトロス王国は引き籠りの臆病国家と、西大陸南東部の国へ向かった者が現地の方からそう聞いたと報告書にあったというのに。

 

 まさか、嘘を教えられていたとでも。それとも臆病国家というのは仮の姿で、見えない所ではきちんと牙を研ぎ備えていた、一番相手にしてはいけない国だったのでしょうか。お互いの大陸の事に関しては今まで不干渉を決め込んでいましたから、誤情報は致し方ないのでしょう。

 西大陸の同盟国でもない国へ勝手に乗り込んでいったのは我々アガレス。奴隷の扱いが悪いと理由を付けて弟が命を下したようですが、不干渉を決め込んでいたのに突然飛空艇で現れれば、向こうの政に携わる方たちの機嫌も損ねてしまいましょう。本当に弟は頭に筋肉を纏っておりますね。父帝が帝位は私に譲りたいと以前にボソリと呟いておりましたが、男性優位の帝国で難しいことでございましょう。

 

 可能性は微塵もないという訳ではございませんが。

 

 上手く立ち回れば帝位を手に入れることが出来ましょう。今回の皇子たちの失敗を帝国上層部の方々に申し立てれば希望はあります。しかし、国土を大陸の六割占めている領土を纏めるとなれば少々重荷。弟は武力によって治める気のようですが、帝国外縁部の者はもともと小国であり純粋な帝国民と言う訳ではありません。

 謀反を噂されていましたし、実際に軍備を整えております。私が帝位の座を得られれば交渉の席へ座らせ、時間を掛けた解放を約束しようと考えておりました。

 皇女の身でありながら、帝国を危機へ陥らせないため方々を回り危険の芽を摘み取って参りましたが、限界に近い状態。共和国との接触も露見しないように図って参りましたし、弟を引きずり落とす証拠もある。ですが私は女。かなり分の悪い状況です。

 

 そのような時期に黒髪黒目のお方が現れる。

 

 召喚の儀の際に現れた黒髪黒目のお方は随分と小柄な少女。父の趣味から外れていることに心底安堵し、また弟たちも興味の対象外。

 これで黒髪黒目のお方まで、父や弟たちのような方であれば、私はいろいろと諦めねばならぬ所でしたが、真っ当な方で安心いたしました。外務大臣の報告では、いたって普通の小柄な十五歳の少女と判断されていましたが。

 

 外務大臣は正しい事を見定める目は持っていない様子。機を見て更迭しなければ……。

 

 黒髪黒目のお方は私たちに交渉の席を用意するよう提示され、我々帝国も交渉の席へ就くことを吞みました。

 どうやら竜の大群がアガレス帝国へとやってくるようです。黒髪黒目のお方の話によれば、乗り込んでは来るものの無差別に襲うことはないだろうと。彼女たちの身の安全が確保できれば、あとは外交手段で今回の件の収め所を探り合いになる、と。アルバトロスは小国故の引き籠りと侮った外務大臣はやはり更迭ですね。

 

 「失礼いたします」

 

 交渉の為の準備に入っている帝国側の都合により、黒髪黒目のお方や一緒に巻き込まれてしまった方々四名は帝国側が用意した客室で待機して頂いております。

 供の者と妹たち四人を引き連れて、貴賓室の前へと立ち扉を数度叩きました。部屋の中には帝国側の者はおりません。外の警備だけで済ませてあります。信用など欠片も得られていないでしょうし、これ以上彼のお方に高圧的な態度は取れません。取る気もないのですが、弟がアレなので。

 

 「どちらさまでしょうか?」

 

 扉越しにくぐもった声が聞こえて参りました。この声の主は黒髪黒目のお方。我々を全く信用なされていない為、直接扉の前に立っているようです。桃髪の少女と弟が気に入った銀髪の青年も、黒髪黒目のお方が引き取りました。

 銀髪で虹彩異色の者は黒髪の黒目のお方へあり得ない暴力を振るいましたが、とある国の所有物なので勝手に裁く訳にはならぬと申されました。

 極刑に値する行動なのですが、黒髪黒目のお方が言うならば致し方ありません。それに西大陸の方々の都合もありましょうし。手枷足枷に猿轡を噛ましておりますが、弟のような気質の銀髪青年です。おそらくしぶといでしょうから、心配でございます。桃髪の少女も随分と股の緩そうな方でしたので、あまり一緒に居させたくはないのですが……。

 

 「アガレス帝国第一皇女、ウーノでございます。お話ししたいことがあり、この場へと参りました。今まで我々が貴女さまに与えた不合理を考えれば、勝手なことを申しているのは承知の上」

 

 それでも直接お話ししたい、と私は黒髪黒目さまに告げます。国賓扱いの最上級の部屋へご案内差し上げておりますが、気に入って頂けたでしょうか。一応、お茶と菓子を用意しましたが手を付けては頂けないでしょうね。仮に私が召喚儀式の指揮を執ったとして、黒髪黒目のお方を御せたとは到底思えませんが、弟たちよりはマシな結果になっていたという自負はあります。

 

 ゆっくりと扉が開き、黒髪黒目のお方が私の前に立ったのです。

 

 ◇

 

 ――嗚呼、なんと幸せで贅沢な瞬間でございましょう!

 

 非才の身の前に黒髪黒目のお方が立ち、その瞳の中に私を映しているのですから。十五歳と聞き及んでおりますが、随分と背の小さな方。幼少期に栄養が不足しておられたのでしょうか。

 彼女の過去を聞き及んでおらず想像に過ぎませんが、不遇な扱いを受けつつも子爵位を手に入れたような方であれば、ご立派な方でございましょう。実力故の成り上がりと判断しても良さそうな気配がひしひしと感じられます。ご両親を引きずり下ろしたのか、単身で貴族位を手に入れたのかまでは分かりませんが。

 

 「中へどうぞ。但し、魔術障壁を展開しての面会となります。ご了承下さい」

 

 警戒心の強いお方ですが、弟のように頭の固い方ではないのでしょう。無礼を働いた私たちにも慈悲の心を見せ、こうして会ってくださるのですから。

 巨大魔石を五つ同時に壊す力があるというのならば、黒髪黒目のお方は皇宮を抜け出すことなど簡単です。帝国のことも考えて、交渉の席を申し出てくれたことには感謝しかありません。

 

 「勿論でございます。本当に此度の件は申し訳ありません」

 

 頭を深々と下げます。第一皇女という身でありながら、他国の者に簡単に頭を下げるなと周囲から咎められるでしょうが、目の前のお方は黒髪黒目のお方。ただの貴族ではございません。私の頭一つで済むというのならば、いくらでも下げましょう。それが国を預かる者の務めでしょうから。

 

 「謝罪は必要ありません。わたくしが要求することは一点のみ。――母国への帰還です」

 

 まだ十五歳というのに、随分と確りとしておられますね。弟のような者よりも、このような方に帝国を任せるべきなのです。残念ながら他国のお方なので無理ですが。

 

 「理解しております。第一皇女としての価値しかございませんが、必ずアルバトロス王国へ皆さまを送り届けましょう」

 

 「有難うございます。そう仰って下さる方がアガレス帝国に居て安心致しました」

 

 私などの言葉に黒髪黒目のお方は確りと頷いてくれました。これは弟よりも信頼が出来ると判断されたとみても良いのでしょうか。

 そうであれば至上の喜び。黒髪黒目のお方に欠片でもそう思って頂くことが出来るとは。貴賓室の中へと案内され――妙な表現ですが仕方ない状況ですので――席へと導かれます。対面には真ん中に黒髪黒目のお方。そして右隣には銀髪の少女と左隣にはくすんだ金色の髪の少年が。

 

 彼と彼女は黒髪黒目のお方と、かなり距離が近いのでその位置と替わって欲しいと願ってしまいます。私と黒髪黒目のお方とは距離がありますし、魔術障壁で見えない壁で隔たれており、これが私たちとの距離だと告げられているようで胸が痛んで仕方ありません。せめて弟がもっと軟化した態度であれば、こうも拗れることはなかったでしょうに。

 

 桃髪の少女と銀髪の青年は拘束され、床に転がっておりました。どうやら、あちらの大陸でも雑な扱いを受けているご様子。何かしら問題を起こした二人なのでしょう。この二名は放っておいた方が無難なようですね。召喚された当初に妙な行動に出ようとして止められていましたし。

 

 「改めまして、アルバトロス王国で聖女を務めております、ナイ・ミナーヴァ子爵と申します」

 

 聖女という言葉に疑問符を浮かべそうになります。東大陸での聖女の定義は、宗教に敬虔であり、社会――特に弱者――に対して大きく貢献した、高潔な女性を指して呼びます。宗教とは無関係に慈愛に満ちた女性を指して形容し賞賛する場合がありますが、ほとんど形骸化しております。

 そのような方が現れるのは珍しいことでありますし、余裕のない方が多いのが現状。アルバトロス王国では職業の一種なのだとか。国や大陸が違えば同じ言葉でも意味合いが違うことに関心します。

 

 「アガレス帝国第一皇女、ウーノでございます。何度も申し上げますが、この度は大変なご迷惑をお掛けいたしました。黒髪黒目のお方以外も巻き込んでしまったご様子」

 

 必ずや母国へ送り届けますと言葉を付け足しました。本来ならば身分の高い私が名乗る方が先でございましょうが、これで良いのです。この場では彼女が上の立場であるという、明示でございましょうから。聡い者であれば、このやり取りの意味合いを理解していることでしょう。

 

 「此度の件は不幸な事故でありましょう。第一皇子殿下がどのような理由で召喚儀式を執り行ったのかは理解いたしかねますが、無事に送り返してくださるならば何も言いません」

 

 黒髪黒目のお方を狙って召喚したのははっきりと理解なされているでしょうに。アガレス帝国とアルバトロス王国が揉めない為に不問……とはなりませんが、ある程度は見逃してくださるようです。

 

 「有難うございます。しかしながら我が国の第一皇子たちが犯した罪を問わないという訳にはなりません。黒髪黒目のお方はどのような処分をお望みでございましょう」

 

 「第一皇女殿下でしかない貴女に、第一皇子殿下を処すことが出来るのでしょうか? 見ていたところ帝国は男性の方が優位な立場」

 

 見透かされていますね。あの短い時間で、それぞれの立場を勘定されていらっしゃるのは流石。

 

 「私は帝位を狙っております。その時は必ずや第一皇子を始めとした、此度の召喚に関わった者たちを処分致すことを確約しましょう」

 

 そう、弟たちでは大陸の六割を占めているアガレス帝国を運営することは無理。私でも無理なので、領土縮小を考えております。

 帝国外縁部は侵略して得た土地や武力を振りかざして併合したのです。解放するとなれば、話の席へ就いて頂けるでしょう。もちろんタダで譲る気など毛頭なく、帝国が開発の為に投入した資金の回収やら、やるべきことはありますが。

 

 黒髪黒目のお方に隠し事は無駄と考えて、私や妹たちの腹の内を全て曝け出します。

 

 「皇女殿下のご意思は理解いたしました。交渉の席にて妙な事態となれば、その場を辞し好きに振舞わせて頂きます」

 

 「承知いたしました。すべての責任は私が取りましょう。黒髪黒目のお方のご意思のままお動き下さい」

 

 私の腹の内を曝け出すと、黒髪黒目のお方も考えを私にお伝えくださいました。なるほど面白いと納得いたしました。さて、交渉の場で帝国上層部の馬鹿な方たちは無事で居られるのかとほくそ笑みます。

 

 「皇女さま、わたくしのことはナイとお呼びください。身分上、そうした方が得策かと」

 

 「いえ、しかし……」

 

 黒髪黒目のお方を私のような者が名前で呼ぶなどと愚かな、と考えてしまいます。

 

 「わたくしはウーノさまとお呼びいたしますので」

 

 まあ、まあまあまあまあ! なんと私を名前で呼んでくださるとは。敬称は余計ですが、なんと嬉しいことでしょう。彼女は他国のお方ですし、致し方のない部分もあるのでしょうね。

 

 「では、ナイさまと」

 

 「さまも必要ありませんが……」

 

 「いいえ、帝国では皇帝陛下の次に黒髪黒目のお方は位置します。その方が自然かと」

 

 仕方ないと言いたげにふうと息を吐いたナイさま。そういう所はまだ十五歳の少女でしかないのですねと、笑みを浮かべるのでした。

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