魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ウーノ第一皇女殿下が皇宮の貴賓室に現れた。一体何事だろうと訝しみながら面会してみれば、割と腹黒いというか……帝国も一枚岩ではなく、派閥が沢山ある模様。アレな第一皇子殿下よりはマシだし、皇女殿下方は帝国の未来をきちんと考えていたらしい。
共和国や他国、そして占領した土地から割とスパイが入り込んでいる状況で、帝国破壊工作を目論まれておりそろそろ爆発しそうなんだとか。
阻止する為にはウーノ皇女が帝位に就いて、領土縮小の方向で明け渡していくらしい。かなり壮大な計画だし、帝国内の第一皇子殿下のような方々が黙っていないだろう。その苦労は皇女殿下方が背負うべきものだから、何も言わなかったけれど。
あと数十分で交渉の席に着く。参加者は皇帝陛下に第一皇子殿下、ウーノ皇女殿下方に帝国上層部のお偉いさん。三対多数となるのだけれど、さてどうなることやら。荒れる未来しか想像付かないけれど、荒れれば荒れるだけ、皇女殿下の望みが叶うようになるから、荒れて欲しい所。
「大聖女さま、貴女は何を望みますか?」
大聖女さまには聞きたいことがあるけれど、それは帰国してからで問題はない。ヒロインちゃんが第一皇子殿下の名前を知っていたこと、ゲームと以前に呟いていたこと。
大聖女さまが第一皇子殿下の性癖を知っており、私に助言したこと。もしかして生まれ変わったこの世界はゲームの世界ではないかという疑問が湧いているけれど、まあどうでもいい。出来るならば大聖女さまの知っている限りの情報を得たい所だけれど、情報を鵜吞みにして選択を間違えそうで怖いし。
「へあ? ――……何をって、何をですか?」
大聖女さまは皇女殿下方との面会が終わって、気が抜けていたのかきょとんと私を見る。ちなみにヒロインちゃんと銀髪くんは拘束具を帝国から借り受けて、床に転がしている。
銀髪くんはまだ手の痛みに耐えているのか、顔色がよろしくない。ヒロインちゃんも皇帝陛下との邂逅がショックだったのか、ぼーっとしたままだ。静かだし問題を起こされても困るので、しばらくこのままで居て欲しいものだ。
「アガレス帝国から迷惑を被ったのです。せめて無駄にした時間分の補償は頂きませんと」
アガレス帝国へと召喚されて三時間。三時間あればいろんなことが出来ていたはずである。子爵領からタウンハウスへ戻って、報告書の作成や新学期の準備をする予定だったし、大聖女さまも公務やアルバトロスへの留学準備もあっただろう。
第一皇子殿下は渋りそうだけれど、皇帝陛下とその下に就いている宰相閣下辺りは上手く執り成してくれるはず。他国から拉致してきたのだから犯罪だ。アガレス帝国に黒髪黒目の人が居てくれれば、何の問題も起こらなかったのに。
西大陸でも黒髪黒目は少ないようだから、まあ仕方ないのか。力のない人が呼ばれて、祖国に戻れず帝国で贅沢な暮らしを提供されながら一生過ごすってどうなのだろう。
本人が良ければ問題視されないけれど、もし病んで自殺とかしたら居たたまれないし。ある意味、力を振るうことが出来る私で良かった。その代わり帝国が滅んでしまいそうな事態に陥っているけれど、ある程度の道筋をつけることが出来そうなので、あとは強制的に帝国へ召ばれた責任を取って頂くだけ。
「え、え?」
困惑している大聖女さまから視線を外して、クラスメイトであるメンガーさまに視線を変える。
「メンガーさまもです」
椅子に座って、銀髪くんとヒロインちゃんが妙な事を仕出かさないか見張っていた彼が、私の声に驚いてぎょっと目を見開いた。
取って食いやしないんだから、そんなに驚かなくても。ただこうしてマトモに喋ったのは初めてだなあ。クラスでも関りを持たなかったし、話す機会もないままだった。一番大きな原因は性別の違いだろう。これで同性だったなら、彼と友人になっていた未来があったかもしれない。
「え、俺もですかっ?」
敬語は必要ないのだけれど、アルバトロスでの立場は子爵家当主である私が上になるから仕方ないのかと苦笑い。気が抜けたのか肩にいつもの重みがないのが気になり始めた。クロが居れば『ボクはクロ。名前を教えて貰っても良いかな?』とか言い始めそうな状況で。
ジークとリンが後ろに控えていないのも落ち着かないし、空気が寂しいというか、締まりがないというか。ロゼさんとヴァナルも影の中に居ないのが分かる。ソフィーアさまとセレスティアさまも一緒に居てくれただろうし、寂しいからアルバトロスに早く戻りたいなあ。
「土地が欲しいとか、お金が欲しいとかあれば交渉の場で願い出るのもアリかと」
メンガー伯爵家での立ち位置も確保できるし、頂けるものは頂いておいた方が得だと思う。アレな帝国だけれど、一応帝国という大国。
お貴族さまとして伝手があれば、他の家より優位に立てる可能性もあるんだから、欲は掻いておくべきかと。メンガーさまも大聖女さまもその手の物に興味がなさそうだけれどね。あまりお貴族さまらしくない……まさか、ねえ。
ふと大聖女さまもメンガーさまも、転生を果たした人ではないのかと考えが浮かぶ。仮にそうだとして、今を生きているのだからあまり特別視することもないのかなあ。特殊な職業に就いていたならば技術や知識の発展に役に立つだろうけれど、それは本人たちが望まなければならないし。
「俺は……アルバトロスに戻ることが出来ればそれで構いません」
「私も聖王国に戻って今回の件を報告して、アルバトロスの王立学院へ留学する準備をしないと」
二人とも欲がないなあ。床に転がっている二人なら帝国での爵位寄越せとか土地をくれとか、男と女を侍らせろとか強請りそう。交渉の場で二人に何が欲しいと聞いたら愉快なことになるけど、面倒なことにもなるだろうから我慢だ。
「では事後処理はメンガー伯爵にお任せするのですね?」
未成年だし、ご当主さまに任せるのが一番かな。アルバトロスの伯爵家では下の方から数えた方が早いとソフィーアさまとセレスティアさまから聞いている。でも曲がりなりにも高位貴族となる伯爵家のご当主さまならば、きっちりと帝国から頂くものは頂くだろう。
「え、ええ。そうなるかと」
メンガーさまが何故か私から視線を逸らして、明後日の方向を見た。どうしたのかと問いたいけれど、彼にも考えることがあるのだろう。
「大聖女さまも聖王国の上層部の方に任せると?」
「はい。政治面は政に詳しい方に任せた方が安心ですから」
苦笑というか、力ない笑顔を浮かべる大聖女さま。
「疲れましたか?」
「いえ、怒涛の展開で驚いているだけです。まさか何の前触れもなく、聖王国から他国へ転移するとは全く考えていませんでしたし」
私も驚いた。しかも影の中に居るはずのロゼさんとヴァナルを置き去りにしたものだから。転移の術式を開示してもらうのも忘れずにお願いしないと。副団長さまが小踊りしている姿が浮かんだけれど、解析するなら彼の協力が必要。手土産になると良いけれど、さて交渉の場ではどうなるか。
「ああ、その辺りも交渉の場でちゃんと話しておかないといけませんね」
召喚儀式の禁止条約も結ばないとなあ。これを結ぶとなるなら西と東の大陸の国々を巻き込まないと意味がない。骨が折れるだろうけれど、政治面に携わる方には頑張って頂かないとね。また召びだされても困るし、妙な国なら暴れなきゃならないもの。
「そうですね。また誰かが犠牲となってはなりません」
大聖女さまも同じ意見ならば、ちゃんと提案しておかないと。三人が確りと頷き合うと同時、扉をノックする音が響く。さあ、交渉の時間だと椅子から立ち上がるのだった。
◇
交渉の場に立つ訳だけれど、以前のように宰相補佐さまや王太子殿下が私のバックアップとして付いている訳じゃない。心配な所だけれど、帝国も竜の大群が襲ってくるのは想定外で随分と揉めているようだ。迎撃派に飛空艇は脆いから外交手段で派に、私に止めて貰えば良いじゃない派。
本当に派閥を纏めるって大変だよねえと、会談場所の部屋前で目を細める。私の右側と左側には、大聖女さまとメンガーさま。銀髪くんとヒロインちゃんは貴賓室に放置する訳にもいかず、私が軽量化の魔術を施しメンガーさまが捕縛用の縄で縛って引き摺って来た。軽いし抵抗されても問題はないそうで。会談場所で、この二人を持ち込むのもどうかと思うけれど、アルバトロスと亜人連合国の管理下にあるから失くすと不味い。
「さあ、参りましょう」
「はい」
「は、はい」
私の行こうという言葉に、大聖女さまとメンガーさまが答える。政治的な場所に立ったことのないメンガーさまが緊張しているようだけれど、一度場を踏んでけば良い経験になるはずだ。
初手が他国の、しかも隣の大陸の帝国という舞台なのはちょっと可哀そうではあるけれど。巻き込まれたのだから諦めて。その代わりにメンガー伯爵家の知名度は飛躍的に上がるだろうから。ご当主さまは喜ぶんじゃないかな。フライハイト男爵さまのような方ならば慢性的な胃痛持ちとなりそうだけれど、伯爵家のご当主さまだ。どんと構えていてくれることだろうと期待する。
兵士の手によって扉が開かれると、中には錚々たる帝国の面子が椅子に座して私たちを待っていた。召喚儀式の場に居なかった人たちも呼ばれているようで、数が随分と多い。領土も広いから、運営に携わる方たちも多いのは当然か。
私を見て驚いている人も居た。黒髪黒目信仰があるから仕方ないとは思うけれど、自分が崇拝対象となるのは頂けないよねえ。私を拝み倒しても何のご利益はない訳だし。どうしてこんなことになるかなあと心の中でぼやきつつ、足を進ませて案内された席へと座る。
もちろん魔術障壁を展開してあるし、仮に襲われても防ぐことは可能だ。クロが放った本気のブレスか、副団長さまの本気を超える魔術でないと破れない代物。大聖女さまやメンガーさまに何かあっても問題になるから、四方を完全に覆っている。後ろから襲われても障壁に阻まれて、銀髪くんの二の舞になるだけ。
私たちの位置は皇帝陛下の直ぐ近く。あとは皇女殿下も近くに居る。第一皇子殿下を始めとする皇子たちは割と離れた位置に。
良かった、第一皇子殿下はこの場に相応しくないと、遠回しに伝えているようなものである。本人が気付くかは謎だけれど、マトモな方たちには伝わっているに違いない。それでも突っかかってくる人は居るのだろうなあ。だってしかめっ面で私を見ている人がいるのだから。
変な人が居れば退席するとウーノさまに許可を取ってあるし、席を辞すことになれば皇宮内を散策した後、帝都へ繰り出すつもりだ。物見遊山と称しつつ、黒髪黒目信仰を逆手に取って皇宮内での出来事を帝都の皆さまにお知らせするつもり。
きちんとした黒髪黒目信仰があるならば、本来皇帝陛下の下に就くべき所を第一皇子殿下方がそれを阻んだ結果となっているし、無理やりに帝国へ拉致られた。信じてくれるかどうかは別として、帝国上層部への疑いを向けて貰えれば十分。
あとは巨大魔石の気配を感知出来れば、そちらへ向かって破壊工作を行う。西大陸にしゃしゃり出て貰っても困るから、移動手段は封じておかないと。クロたちがこっちに来るのはまだ少し時間が掛かるだろうし。割と自由時間は多いはず。夜を挟んでしまうのが問題だけれど、どうにでもなるだろう。大聖女さまとメンガーさまには徹夜となってしまうが、堪えて欲しいと頭を下げてある。
「黒髪黒目の者よ、此度は我が国の第一皇子が無理をして悪かった」
私を見ているようで、皇帝陛下の視線の先はヒロインちゃんに向けられている。完全にロックされたなあと、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と心の中で唱えておいた。
皇帝陛下が私に謝罪をしたことで、ソレを気に食わない人たちがざわめく。ただ宰相閣下の視線に御され、皇帝や私に言葉を投げる人は居なかった。
「皇帝陛下、何の前触れもなく無許可で国から帝国へと参る羽目となりました。このようなことがまた起きれば問題となりましょう。召喚儀式の禁止条約を結んで頂きたく」
召喚されて無駄な時間を消費したことに対しての補償や、このあとやって来るであろうアルバトロスと亜人連合国と聖王国の方々との交渉の席に着いて頂くことも条件に。
「黒髪黒目信仰も行き過ぎれば問題だのう。吾の権限でどこまで出来るか分からんが、善処しようぞ。宰相並びに、黒髪黒目を信奉する者たちよ、身を挺して彼の者に捧げよ」
立派な椅子に巨体を深く腰掛けて、顔だけを器用に宰相閣下へと向かた。宰相閣下は致し方ないが、やるしかないという顔を浮かべて皇帝の言葉に頷く。
ウーノさまもこちらに視線を投げて、確りと頷いていた。本当に最初から第一皇子殿下ではなく彼らが相手だったらなあ。誘拐したことには変わりないけれど、もう少し穏便に事が運んでいただろう。
「は。――此度の件、召喚儀式を執り行った魔術師にも問題がありましょう。どのような手段を用いたのか徹底的に調べ上げたく」
「宰相っ! 魔術師は黒髪黒目の者を我が国へ招いた功労者だぞ! それをどうしてそのような扱いになるのだっ!」
あーあ。金鎧を纏ったままの第一皇子殿下がキレちゃった。頭を抱えている人半分、同調する人半分。
「確かにここではないどこかから召ぶことに反対はしませんでしたが、東大陸や西大陸から召ぶとなれば今回のような問題が浮上いたします」
黒髪黒目の者を召ぶのは結構だが、魔石を五つ消失した責任はどう取るのですかと宰相閣下が第一皇子へ問い詰めた。また驚く人に嘆く人。他人事だから愉快だなあと黙って観察している私。
「馬鹿を言え! 魔石を壊したのはそこに座す黒髪黒目の者だ! 俺の所為じゃない!」
事実を忘れているような。一応、前触れはあったのに。どことも知れない場所に召喚されて、無抵抗でいる保証がどこにあるのだろうか。
「お待ちなさい、アイン。私もその場に同席しておりましたが、始終高圧的な態度であった貴方に黒髪黒目のお方がお怒りになられただけ。自身の行動が招いた結果だと知りなさい」
ウーノさまが第一皇子殿下を諫めるけれど、彼の腹の虫は治まる様子はなく顔を真っ赤にしてぷるぷるしている。
「貴重な魔石を五つ消費して、貴重な黒髪黒目の者をようやく手に入れたのだぞっ! ふざけるな、一体どれだけの金を使ったと考えているのだ!!」
どうやら第一皇子殿下個人の予算と彼に当てられている公費に、第六皇子殿下や他の皇子たちの個人資産を使って賄ったようだ。
あー自分の懐が痛んでいるから問題なのか。あとは黒髪黒目を召喚して自分の下に付けて、帝位を狙っていたのかも。長男だというのに皇太子殿下と呼ばれていないのが不思議だったけれど、性格に難があると判断されていたんのだろう。皇帝陛下はやる気はなさそうだけれど、周りの人間を上手く使っているようだし、まだ長生きするから慌てなくても問題なかったと。
「ウーノっ! 女が出しゃばるなと言っておろう!」
「…………」
ウーノさまが左右に頭を振る。痴話げんかに付き合う気はないし、もう良いかな。先の彼女との話し合いで、ほぼ決着はついているようなものだし、召喚儀式禁止条約は皇帝陛下の言葉で約束されたようなもの。
「帝国のお方の事情に我々が付き合う必要はありませんね。――話は終わりました。無駄な時間を消費する義理もありませんので退席させて頂きます」
そうして私や大聖女さまとメンガーさまは席を立つ。さて、これから皇宮内をウロウロしてみますかね。何か面白いものでも見つかれば良いけれど。ウーノさまには飛空艇を運用する魔石を見つけ次第壊すと伝えてある。
彼女は笑ってどうぞと言い放った。おそらく空よりも陸の部隊に自信がある様子。帝国だから数は多いだろうし、血の気が多いみたいだから東大陸の他国から侵略されるつもりは微塵もないのだろう。怖い人だなあと苦笑いを浮かべて、有難うございますと伝えておいたが。
「さ、行きましょうか」
部屋を五人で出て、歩き始めた。話し合いよりも、個人の武力で無茶をやる方が簡単なんだよね。あとはアルバトロスや亜人連合国のみんなが乗り込んだ時に、私がやらかした惨状を見て咎めてくれる人が居ればもっと良い展開。暴れ馬の私を御せる人が居ると、帝国の人たちに見せつけることが出来れば、話し合いも進みやすくなるだろうし。
さあさあ、魔石の痕跡を上手くたどれるかなあ。近くにある訳じゃないし、副団長さまやシスター・リズのように魔力感知に長けている訳じゃないから。大聖女さまとメンガーさまには悪いけれど、付き合って頂くしかない。銀髪くんとヒロインちゃんは問答無用で引き摺りまわす。
「はい!」
「……はい」
場慣れし始めた大聖女さまと、まだ困惑中のメンガーさまに顔を向けて一つ頷き前を向く。クロたちが来るまで冒険の始まりだ。ジークとリン、クロやロゼさんにヴァナルが居ないのはちょっと寂しいけれど。