魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0216:幽霊は来なくていいよ。

 髑髏、髑髏が浮いていた! 

 

 元から非科学的なものは苦手だし、そもそもが暗くて周りが見えない廊下だったし、アガレス帝国の皇宮なんて人が沢山死んでいそうだ。

 他国を蹂躙して領土拡大しただろうから、それに恨みを持った髑髏なのかもしれない。あれ、それだと私は全く関係のない人間ではと訝しむが、今はそれどころじゃあなくなっていた。幽霊が出たという恐怖心からか、ポロっとこちらの世界では使わない言葉を零してしまい私が転生者だと気付かれた。髑髏がまた現れたら、どうにか手を打たなければ。

 

 「多分ですが、この世界はゲームが舞台なのかと」

 

 メンガーさまとフィーネさまの説明を受けつつ、廊下を歩きながら進む。銀髪くんとヒロインちゃんは私の手によって引き摺られたままだ。かなり勢いよく走ったので大丈夫かとチラ見すると、生きていたので問題はないだろう。

 何かあれば魔術を施せば良いだけなので、案外雑な扱いでも平気。あと銀髪くんもヒロインちゃんも身体は丈夫みたいだし。

 

 フィーネさまとヒロインちゃんは転生者なのかもと踏んでいたけれど、メンガーさまが転生者だったとは。よくよく考えれば伯爵家出身だというのに、欲気はなくクラスでは目立たない方だった。ゲームだと知っていたから、シナリオを気にして自由に動けなかったのだろうか。

 ゲームのシナリオがどんなものなのか知らないけれど、この世界が滅びるとかでない限りは自由に動いて良い気もするけれど。いや、まあそもそも世界が滅びるとなれば必死で足掻くけれど。

 

 「あ、えっと。私は作品の登場人物に生まれ変わったので、ゲームが舞台というのは確実ではないでしょうか」

 

 はえー。フィーネさまはゲームの登場人物に生まれ変わったのか。それに気付いたり知らなければ問題はないけれど、理解してしまったら難儀なものだよね。

 前世のアニメや漫画でゲームの世界に転生してなんやかんやって作品は知っている。シナリオに囚われて大きく変えないようにと努力しようとする登場人物も居た。知っているからこそ生き辛いのは、正直言って人生楽しくないんじゃないかな。本人がそれで良いというならば、私が口を出すことじゃないけれど。

 

 「後ろのアリス・メッサリナも転生者でしょう」

 

 後ろで引っ張られているヒロインちゃんにメンガーさまが視線をやると、フィーネさまと私も釣られて彼女を見た。

 髑髏の幽霊が怖かったのか黙ったままのヒロインちゃん。銀髪くんは彼女の隣でふがふがしている。お二人が簡単にではあるけれど、とある乙女ゲーメーカーが発売したというゲーム一作目の登場人物やシナリオの大筋を教えてくれた。

 

 「あり得ない未来の事を言っていましたからね……ジークって攻略対象だったのか」

 

 確かにジークは背も高いし顔も良い上に声も良いときた。外面も騎士としての対応を取っているので悪くはない。

 そりゃモテるよねえと納得しつつ、一緒に苦労した五年間を知っているので、アーパーなヒロインちゃんに靡かなくて良かった。何度か彼女と接触したことがあるようだし、リンにも酷い言葉を投げている。ゲームのシナリオ通りにならないことに腹を立てていたのかどうかは知らないが。

 

 「はい。ゲームだとぶっきらぼうな感じでしたから、今の彼とは違いますね」

 

 ゲームと現実のジークが変わってしまったことやリンが生きていたことは、私が居たからと自惚れても良いのだろうか。

 

 「ミナーヴァ子爵には言い辛いですが、彼の妹は亡くなっていました」

 

 「それは以前に彼女がリンに何故生きているのかと問うたそうなので、知っています」

 

 魔力が零れるのが分かる。駄目だな、感情的になってしまっては。ここはアガレス帝国で敵地のど真ん中。フィーネさまとメンガーさまを必ず連れて帰ると約束したのだから、気を抜いてはいけない。

 

 「……うわあ」

 

 「……マジかよ」

 

 お二人が床を引き摺られているヒロインちゃんに凄い顔で視線を向けている。何を考えているか知らないけれど、何故か哀れみの視線も含まれているような。

 

 「ま、まあ結末はどうであれ、アルバトロスは亜人連合国との繋がりが出来ましたし、聖王国も腐敗から立ち直ることが出来ました」

 

 「そういえば三作目の攻略ヒーローはどうなったんですか?」

 

 フィーネさまの言葉の後メンガーさまが問いかけた。

 

 「以前の件で没落した貴族や聖王国教会関係者でしたから。主人公はゲーム通りに聖女として召し上げられて、来年度からアルバトロスに私と一緒に留学です」

 

 教皇一派だったのかなあ。何はともあれ三作目の主人公が変な男たちに言い寄られないならば、喜ぶべきことなのだろう。フィーネさまと仲が良いみたいだし、良い人であれば普通に友人付き合いできるだろう。多分。

 

 私が居る所為でシナリオ崩壊しているようだけれど、ゲームの舞台ではあるけれどゲームではないからなあと遠い目になる。

 

 「ああ、そうでした。せっかく一緒のクラスになりますし、仲良くしたいですね」

 

 「俺は男なので関わることは出来ませんが、新学期からよろしくお願いします」

 

 婚約者の方が居ればもっと関わり辛いよねえ。メンガーさまに婚約者が居るかどうかは知らないけれど、伯爵家の三男ならばワンチャン居そう。

 

 『ワレヲムシスルナ』

 

 和気藹々と転生者同士で話していたというのに、目の前に髑髏がぼんやりと浮かんだ。

 

 「――"我は神の御使い″″魔を払う者也″″魂は空に″″体躯は地へ還れ″」

 

 浄化儀式で使う詠唱を一息で紡いだと同時に全力で魔力を練って、消えろと――。

 

 『――ああ、待て、待って! 待つのだっ!! 我、消えちゃう!! 浄化されちゃう!!』

 

 「は?」

 

 今までのおどろおどろしい声から打って変わって、普通の声に変わる。何言ってんだコイツ。茶目っ気を出しても容赦はしないから早く消えろと魔力を練り続けた。

 

 「……ナイさま、顔、顔!」

 

 「…………怖っ」

 

 フィーネさまが私の顔に言及しメンガーさまが何か言ったけれど、そんなものは目の前の髑髏が消え失せてから整えれば良いし、何を言ったかは後で聞けば良い。魔力を練るのを更に加速させると、髪がバタバタと揺れた。

 

 『あ、でも待って。魔力が満ちてるから消えないかも! もっと練って! もっと!』

 

 変態に魔力を注いでいるような気がしてきたので、魔力を練るのを止める。漏れ出た魔力が魔素になり、目の前の髑髏に取り込まれるのは癪だ。

 えっと……確かエルフのお姉さんズに教えて頂いた収束魔法があったはず。大気中に散った魔力を回収して、自身の魔力へと変換させる魔法。かなり難しくて大気中の魔力を集めるよりも、自分で魔力を練った方が早いのだけれど、魔力が枯渇した時の為にと教えてくれていた。

 

 『あ……酷い。我、強くなる機会だったのに……というか黒髪黒目がこの時代に居るとはなあ』

 

 我驚きと言うとまん丸い穴の開いている髑髏の眼が細くなる。なんだか上手く利用された気がするし、存在を認めてしまうと負けに感じた。

 こんなのに驚いて奇声を上げて走り去ったのは凄く恥ずかしい。クレイグやお姉さんズにお婆さまが見ていなくて良かった。フィーネさまとメンガーさまなら吹聴しないだろう。仮に吹聴すれば末代まで祟るけれど。ぼそりと最後に呟かれた声は聞こえないフリをして。

 

 「行きましょう。フィーネさま、メンガーさま」

 

 髑髏に構う気はないので、すたすたと歩き始めるのだった。

 

 ◇

 

 アガレス帝国の皇宮の廊下を速足で歩く私の後ろをフィーネさまとメンガーさまが付いて来ている。そして五メートルほど離れた所に髑髏の幽霊。

 移動する際は髑髏の馬に乗るようで、なんであんなに恰好を付けているのやら。鎧は装飾が確り施されていて豪華だし、馬にも鎧を着せて立派だった。だが幽霊である、骨である。あの世へ帰れと願わずにはいられない。この世に未練があるというならば、地縛霊にでもなっておけばいいのに。それなら近寄らなければ済むのだから。

 

 「えっと、ずっと付いて来ていますが放っておいて良いんですか?」

 

 「皇宮の地理に詳しそうですし、話を聞いても良い気がしますが……」

 

 フィーネさまとメンガーさまが私に声を掛けるけれど、立ち止まりはしない。後ろに振り向くことになるし、そうなれば髑髏を視界に居れる羽目になるのだから。

 

 「じゃあお二人で聞いてください。私は怖いのと腹が立つのといろんな感情が混じって、今すぐに消し去りたい気持ちで一杯一杯なんです」

 

 本当に。銀髪くんとヒロインちゃんを繋いだ縄を握る手に力が籠る。フィーネさまとメンガーさまは髑髏と言葉を交わすのは嫌なのか。

 じゃあ、無視してどんどん廊下を進みましょう。皇宮の地図なんて手に入れられないし、あてずっぽうで歩いていくしかない。格納庫に辿り着くまでに一体どれだけ時間が掛かるのやら。

 

 『おお、魔力!』

 

 どうやら演技は止めたらしい。喜びながら私が漏らした魔力を吸い取っているようだ。あ、魔力を限界まで髑髏に吸わせれば、私の制御下に置けるのだろうか。それならばやる価値はありそうだけれど、アレを従えたところで何も嬉しくはないなと考えを改めた。

 

 『いやあ、もう直ぐ魔力が枯渇して我消えちゃうと嘆いておったが、こんなこともあるんだのう』

 

 なんだか一人で喋り始めた。勝手に喋る分には勝手だから放置で良いだろう。なんだか愉快そうな調子で、髑髏の馬に跨ったままゆっくりと私たちの後ろを付いて来ている。

 

 「出口はどこでしょうか」

 

 「なかなか見つかりませんね」

 

 『アガレスが我を殺して五百年経つが、いやあ我はよく五百年も保ったわい!』

 

 フィーネさまと私はきょろきょろと周囲を見渡しながら、廊下を歩いているとメンガーさまが歩く速度を落として、髑髏の幽霊と並んだ。勇気があるなあと思いつつ、すたすたと歩く速度は落とさない。

 

 「…………あの」

 

 髑髏の馬に乗っているので、メンガーさまは見上げる形となっているのだろう。前を向いて歩いているから推測でしかないけれど。

 

 『どうしたね、少年よ!』

 

 テンション高いなあ。本当に五百年も前に死んだ人なのか疑問である。それとも幽霊として過ごしてきたであろう五百年という時間が、髑髏をあのような性格に形成させたのだろうか。

 

 「俺はエーリヒ・メンガーと申します。貴方は一体どちらさまでしょうか? 話を聞く限り千年前に生きていた方だと推測できますが」

 

 本当に勇気あるな、メンガーさま。私は真似できないし、幽霊は見たくない派なので後ろは向かない。存在しても良いけれど、人間とは関わらないで欲しいと言いたい。怖いから。

 見えない――前世の話――から余計に怖いし、見えるという人から聞く心霊体験を聞く度に苦手になったのだ。

 働いていた職場は埋め立て地で、潮の流れの関係上水死体が上がりやすい場所だったとか、建屋内を子供が走っていたとか、休日出勤して誰も居ないのに足音がしたとか脅されるんだもの。たまったものじゃない。見えないから余計に怖いという悪循環だった。

 

 『そうか、エーリヒ少年! 我はこの宮本来の主! ヴァエールだ!』

 

 殺されたということはアガレス繁栄の礎となったなのだろう。メンガーさまが髑髏の幽霊を上手く執成して話を聞き出していた。

 髑髏の幽霊は名乗った通り、アガレス帝国初代に殺されたそうだ。彼がアガレス初代に殺されてから、アガレスは帝国と名乗るようになった。国を奪われてしまった事よりも、愛していた婚約者を奪われたことが一番腹に据えかねていると。

 

 アガレス初代は民を騙して、求心力を集めたそうだ。アガレス初代はその手の扇動が上手く、力もカリスマも持っていた。だからこそ東大陸で帝国を名乗り、彼が死んで以降も二代目が領土を広げ、三代目が飛空艇の発見に勤しんだ。そこからまた何代も経て今に至る。髑髏の幽霊は機会があれば、皇宮で働く人たちや皇族を驚かしていたんだとか。みみっちいと言われようとも、婚約者を奪われたことが悔しいらしい。

 

 『まあ、飛空艇も使いこなせていないからのう。古き時代の産物だが、我らには理解できんものよ』

 

 五百年前に生きた人でも理解は無理なのか。機械工学とか習っていれば私でも多少は理解できて違っていたかもしれないけれど。飛空艇なんて科学力の結晶だから、専門家でも連れてこないと分からないはず。ヴァエールと名乗った髑髏の幽霊も詳しく知らず、更に古き時代に生きた人が考えたものらしい。東大陸では古代人によって魔法や魔力を利用した技術が発展していたそうだ。飛空艇もその名残で、動力は魔石。やはり壊しておくべきだなと決意する。

 

 『――おお、今悪寒が走ったぞ! 死んでから初めてだわい』

 

 呵々と豪快に笑っているようだけれど、恐ろしいのは私ではなく髑髏の幽霊で。早く消えてくれるか、どこかへ行ってくれないかなあと願う。

 

 「あ、出口……」

 

 「ようやく見つけましたね!」

 

 暗い廊下を歩くこと数十分、髑髏の幽霊の所為でかなり時間が経ったように思えるけれど、実際はそんなものだった。大きな扉を開けると、庭園へと繋がる場所だったようだ。ここから飛空艇が格納されている場所へと行けると良いのだけれど。

 

 「飛空艇が格納されている場所があるらしいのですが、知りませんか?」

 

 『我の住処だから、もちろん知っているとも! ――案内しよう』

 

 髑髏の幽霊はまだ私たちの後ろを付けていたようで、メンガーさまとも会話を続けていたようだ。有難うございますと頭を下げる彼に、明るい雰囲気の髑髏の幽霊。

 魔石壊してくれると嬉しいんだがのうと言っている。幽霊の気持ちに応える訳じゃないけれど、魔石を壊すことは私の中で確定事項。問答無用でキャパオーバーの魔力を詰め込めば壊れるのは証明済みだ。るんるんで馬に跨って前を行き始めた髑髏の幽霊の後を、ゆっくりと付いて行く私たちだった。

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