魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0217:飛空艇格納庫。

 皇宮の庭に出て随分と歩いた場所が飛空艇の格納庫だった。皇帝が住む場所に飛空艇を格納しているってどうなのだろうか。いや、緊急時の移動手段として操縦士とセットで一艇か二艇控えさせているならば納得できる。

 

 私たちの目の前に広がる光景は壮観だった。

 

 小型のものから大型の飛空艇までさまざまな種類、数はざっと三十艇程。帝都のこんな場所に数を揃えているなんて。見張りの兵士も存在しており、中に入るのは大変そうだ。魔術を使えば昏倒させることは簡単だけれど、騒ぎにはしたくないからこっそりと魔石の位置を探って壊すのが安全だろう。

 

 『して、黒髪の者よ。――どうするのだ?』

 

 メンガーさまと話していたというのに、矛先が私に変わっていた。少し離れた場所から問いかけられたけれど、私が怖いとでもいうのだろうか。

 髑髏の幽霊との初接触は最悪なものだった。皇宮の暗い廊下でぼんやり髑髏だけ浮いていたのだから、私が叫び声をあげて逃げても仕方ないと言えるだろう。みっともない所を見られてしまったが、メンガーさまとフィーネは掘り返したりしないので有難いことである。

 

 「この場で魔石の位置を探ってみます。見つけることが出来れば、私の魔力を意図的に充填させれば割れるはずです」

 

 最初は驚いて逃げてしまったが、こうして近くに居る髑髏の幽霊は妖精さんたちの雰囲気に似ている。まさか妖精さんたちも幽霊の一種なのだろうかと訝しんだが、考えても仕方ないので止めた。詳しいことはお婆さまにでも聞けば良い。

 

 飛空艇を警備している兵士の方たちからは死角の位置に私たちは居る。まだ気付かれていないし、気付かれないうちに魔石の場所を探り当てたいところ。

 

 『やはり黒髪黒目の者は魔力量が多いのう。――アガレスに付き従っていた黒髪黒目の者も恐ろしいくらいに多かったが、其方はそれを上回っておらんか?』

 

 五百年前に居た人の話を持ち出されても、比べようがないのだけれども。髑髏の幽霊にとっては懐かしいのかもしれないが、私にはなんのことやら。

 

 「どうでしょうか、測定したことはありませんし」

 

 魔力測定は隊長さんたちが貧民街に私を迎えに来たその後にやったきり。おそらく最初に水晶玉もどきを壊したから、もったいなかったのだろう。

 高価な物だろうし弁済しろとか言われかねないから、やらなくて良かった。取り敢えず魔石の位置を探ろうと意識を集中する私。髑髏の幽霊はそんな私を見て愉快そうに、眼孔部分を器用に細めた。

 

 『お前さんたちは西大陸の者だったか。あちらは黒髪黒目の者が多いのか?』

 

 「私の知る限りでは彼女しか知りません」

 

 「俺も知りませんね」

 

 私は髑髏の幽霊に名乗っていないので、メンガーさまとフィーネさまは気を使って名前を伏せてくれた。名乗っておけば良かったかと反省するけれど、私を驚かした事実は消えないし。ここまで案内してくれたことには感謝しているけれど。

 

 『そうか。なればアガレスが無理をしたのは致し方ない……とは言えんが。しかも五人も召喚出来るとは』

 

 私たちが召喚儀式によってこの場所へと転移したことは、メンガーさまが髑髏の幽霊に説明済みだ。名前は明かしていないが、私たち二人は国の重要人物だと説明していた。竜の大群が帝都までやってくるかもしれないと知ると、豪快に笑っていたけれど良いのだろうか。

 帝都のみなさまを恐怖のどん底に突き落とす可能性があるのだけれど、髑髏の幽霊は気にした様子はなく。幽霊は元々この地の支配者だったし、幽霊が何も言わないなら遠慮も必要ないのか。移動手段が乏しい世界だから血の入れ替わりは緩やかだろうし、五百年前の関係者はこの地に残っている可能性は十分にある。

 

 「帝国では魔術が廃れていると黒髪のお方から聞きました。何故帝国は召喚儀式が出来たのでしょうか?」

 

 『昔の文献でも残っていたのではなかろうか。術式と必要な魔力さえ確保できれば執り行える。とはいえ尋常ではない魔力量が必要となるがのう』

 

 私も浄化儀式の術式を覚えて執り行った訳だし、どんな人にでも扱えるのか。あとは魔力量次第ということで。

 

 「それだと浄化儀式を執り行える、黒髪の聖女さまは……」

 

 『人間離れした魔力量を持っているな。我、黒髪黒目の者の魔力を取り込んでちょっと格が上がったし』

 

 お猫さまみたいなことを言っている髑髏の幽霊は楽しそう。なんで私の魔力を取り込むと格が上がったり、進化したりするのやら。

 古代人の先祖返りだし相性が良いのかもしれないが、私の周りで妙な変化が起こるのはいい加減にして欲しいのだけれど。何か起こるたびに報告書にあげなきゃならないし、副団長さまがうっきうきで子爵邸に飛んでくるの。

 

 「格が上がった?」

 

 『幽霊もどきだった我は、ちょっぴり妖精に近づいたぞ!』

 

 カカカと声を出して笑う髑髏の幽霊。幽霊から妖精に近づいているとは。もしかして初めて見た時よりも落ち着いていられるのは、その所為なのか。それなら納得できる……あ、魔石見つけた。えっと、まずは魔石の魔力と私の魔力を繋げる。

 

 『魔力が吸えると良いのだが、やり過ぎると浄化されちゃうのう……』

 

 魔力を吸われるのは慣れているけれど、幽霊にあげる義理はない。この世から消えて欲しいものリスト上位に入るし、あれ、いやでも妖精に近づいたんだっけ。幽霊の言う事なのだから、ホラの可能性だってあるのだから聞く耳持たない方が良いのかもしれない。……魔石と私の魔力が繋がったから、鱈腹魔力を持っていけとばかりに魔力を練った。

 

 「えっと五百年残っていたのに、消えてしまうんですか?」

 

 『魔力で意識を保っていたようなものだからなあ。魔素がどんどん少なくなっておるし、アガレス憎しで保っておったがそろそろ限界だ。お、魔力が漏れておるな!』

 

 フィーネさまの言葉に幽霊が答えて、私を見ている視線を感じる。幽霊は黙って私から漏れた魔力を吸い取れば良いというのに、どうして声に出してしまうのだろうか。後で魔力料を請求しようと心に決めて、感じ取った魔石約二十個とリンクさせていた物に、私の魔力を遠慮なく注ぎ込むと、硝子に爪を立てた嫌な音が格納庫に響く。

 

 『飛空艇の魔石を壊しおったわい! ――愉快、愉快。もっとやれ!』

 

 髑髏の幽霊が楽しそうに声を上げているけれど、流石にあの音に気付かない訳はなく、異変に慌てふためく様子が見て取れた。この場に居るのは限界だと感じ取って、メンガーさまとフィーネさまへと振り返る。

 

 「逃げましょう。帝都へ行きます!」

 

 逃げた者勝ちである。魔力量が少ない人が多い帝国だから、魔力過多によって魔石が割れたと気付かれ難いはず。

 原因究明には時間が掛かるだろうし、捕まらなければ問題ない。有耶無耶なままアルバトロスに戻れば、私を罪に問えないのだから。髑髏の幽霊は『もっと壊そうぞ』とか言っているけれど無視。立ち上がってばっと走り始めると、縄に繋がれた件の二人が泥まみれになりつつ引き摺られ。メンガーさまとフィーネさまは、驚いた様子で追いかけ始めるのだった。

 

 ◇

 

 皇宮から外へと続く門の兵士に魔術を掛けて眠らせた。大扉を開くことは無理なので、近くにあった小門から抜け出た私たちは、帝都の街へと足を向けたのだ。衣装文化が違うせいで私たち一行は浮いている上に、私がヒロインちゃんと銀髪くんを縄で縛って引き摺っているので、新手のプレイみたいな感じになっている。

 気にしたら負けだし、帝国には奴隷制度があると聞いているので、どうにもならなければ二人を売り払うのもアリだと考えている。首が回らなくなった場合の最終手段だけれど、多少のお金にはなるはずだ。

 

 「なんで付いて来ているんですか?」

 

 『お前さんの下に居れば楽しそうだからのう。消されそうじゃがまあその時はその時だ! 我を消したついでにアガレスも消してくれれば文句はないわい!」

 

 ご機嫌な様子で私の横を髑髏の馬に乗った髑髏の幽霊。皇宮に憑りついて居る訳ではないのだなあと、しみじみと幽霊を見上げると眼孔を細めて私を見る。髑髏の馬が私の方へ顔を寄せたけれど、シバいて骨をバラバラにしても怒られないかなあ。

 

 「破天荒な人だ」

 

 「本当に」

 

 なんだかメンガーさまとフィーネさまは髑髏の幽霊と友好的。私と髑髏の幽霊とのやり取りを楽しそうに聞いているし、どうしてこんな事になっているのやら。私が幽霊が苦手なことを知っている筈なのに……不貞腐れても仕方ないから平常心を装っているけれど。

 

 『頼みがあるんだが、構わんかね?』

 

 「嫌です」

 

 面倒ごとが舞い込んでくる予感しかしないので、最初から断っておく。今の今までお願いされて碌な展開になったことがない。結果を見ると良い事なのだが、途中の過程が凄く大変なんだもの。だから内容も聞かないまま断ったのだ。あと脅されたことを根に持っている。

 

 『我、黒髪黒目の者に嫌われるようなことをしたかのう?』

 

 「初めての時が不味かったかと」

 

 「凄い悲鳴を上げて逃げましたからね、黒髪の聖女さまは」

 

 髑髏の幽霊の言葉にメンガーさまとフィーネさまが答えた。うん、しれっと近づいて脅かしたのだから初対面の印象は最悪である。髑髏の幽霊も幽霊と自覚して脅かしたみたいだし、性質が悪いじゃないか。

 

 『おお……我の茶目っ気が通じんとは。最近の若者は狭量よなあ』

 

 暗闇の中、町の灯りを頼りに移動している私たち。この辺りは貴族街のようで建ち並ぶ家々は立派な外観。端から端までの距離が随分とあるし、門も大きく立派だ。

 アルバトロスのお貴族さまたちよりお金を持っていそうだ。国力はアガレスの方が大きいだろし、致し方ないことか。領土も広いのだから税収も凄いのだろう。

 

 「人が多い場所に行きたいですね。この場所は貴族街なのでまだまだ時間が掛かりますが、歩いていれば辿り着きます。お二人には申し訳ないのですが……」

 

 私は討伐遠征で歩き慣れているから問題はないけれど、メンガーさまとフィーネさまは大丈夫だろうか。

 お貴族さまだし、慣れていないだろう。前世の記憶があるのならば歩くことに対して悪いイメージはないだろうが、お貴族さま生活に慣れているだろうから体力は少ないだろう。無茶は出来ないかなあと考え、治癒の魔術を施せば少しはマシになるだろう。万が一の時は使おうと決める。

 

 「皇宮を歩き回るよりは良いです。ああいう場所は慣れなくて」

 

 「俺たちを拉致した人が居る場所に留まるより良いです」

 

 誘拐犯が居る場所に留まるのは良い気がしないよね。犯人は第一皇子殿下一派ぽいけれど、結局私たちには分からないままだし。

 

 「では今少し、私の我儘に付き合って下さい」

 

 魔石を壊す以外でもやりたいことがある。それは帝都に住む皆さま方に皇子殿下の凶行を知らせることだ。時間は夜なので残念極まりないけれど、酔っ払いの人や夜に仕事をしている人たちを捕まえることが出来るはず。

 私は黒髪黒目だから街中だと目立つだろうし、興味を持つはずだ。黒髪黒目の人間が、帝国を統べる皇族に文句を垂れる。第一皇子殿下の権威失墜は免れなく、下手をすれば皇族事体の権威も失墜するだろう。

 

 「どこか目立つ場所があると良いのですが……」

 

 『中央広場はどうじゃ? ――アガレスの像があるし、印象を悪くしたいなら絶好の場所だの』

 

 どうやら帝都の中心部に言葉の意味のままの中央広部にアガレス初代皇帝像――巨大らしい――が設置され、忠誠心の高い人たちは一旦立ち止まって敬礼や一礼をするそうだ。帝国憎しの人たちには、心に闘志を宿す為に一役買っていそうだけれどね。アガレス帝国が存在していなければ、蹂躙はされなかったのだから。

 

 「話に割り込んでこないでください。貴方さまには聞いていません」

 

 『……連れないのう。対応がしょっぱいのだが、エーリヒ少年どうにかならんのか?』

 

 「え? 俺に無茶を振らないでください!」

 

 髑髏の幽霊は私では相手にしてもらえないと判断したのか、メンガーさまへと話を向けた。びくりと驚いたメンガーさまは、どうにもならないと否定したようなもので。

 

 『なんだお前さん、黒髪黒目の者には何も言えんのか』

 

 「黒髪の聖女さまは子爵家当主で俺は伯爵家子息に過ぎません。身分が違うので言えるはずないでしょう?」

 

 気にしなくても良いのに。アルバトロス関係者はメンガーさまと私だけなだから。このやり取りを報告にあげることになるだろうから、やっぱり軽々しくは言えないか。

 転生者の件を報告にあげるべきか迷うなあ。もう少し余裕が出来て、帝国にいるうちにメンガーさまとフィーネさまと私で相談した上で決めるべきかな。私の判断だけで勝手に話して良い事じゃないだろうし。

 

 『なんじゃ、コレじゃないのか』

 

 髑髏の幽霊が右手を差し出して小指だけを立てた。ぶはっと息を吹いたメンガーさまに、目をまん丸にして驚くフィーネさま。そんな関係ではないし、メンガーさまにも迷惑だろう。お貴族さま的な話をすれば、勘違いでもある程度の益はあるかもしれないけれど。

 

 というか、髑髏の幽霊は何故その意味を知っているのだろうか。ああ、そういえばゲームの世界か。ならば五百年前からあったのかもしれないし、五百年という時間を過ごしている間に知ったのかもしれない。

 日本人スタッフが作った日本人女性向けの乙女ゲームなので、日本人の価値観に近いようにローカライズされているのだろう。今になって気付いたけれど、季節や暦が全く同じだったのはその為かと納得。今まで気にしていなかった私も私だけれど、生きることに精一杯だったのだから仕方ない。余裕が生まれた頃にはこの世界に馴染んでいて、ふーんで済ませていたからなあ。無頓着過ぎたのだろうか。

 

 『貴族街を抜けたな。あとはこの道を真っ直ぐ行けば、中央広場になるぞい』

 

 歩き始めて一時間強。ようやく貴族街を抜け、一般区域へと辿り着いたようだ。アガレスの平民服を纏っている人たちから奇異の視線を受けつつ、私たちは堂々と中央広場を目指すのだった。

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