魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0218:初代アガレス像の下で。

 ――あと数時間で明るくなる、そんな時間。

 

更に歩くこと暫く。商業区画を抜けて中央広部へと辿り着いた。途中、私が黒髪黒目であることに驚いた帝国の方が、拝んでいたけれど何故そうなるのか。

 

 『黒髪黒目はここ百年ほど現れていないからなあ。そりゃ有難がられるのも仕方ないぞい』

 

 「どうして東大陸では黒髪黒目の方を崇めていらっしゃるのですか?」

 

 メンガーさま同様にフィーネさまも髑髏の幽霊には慣れてきたようで、普通に語り掛けている。私は驚かされたことを根に持っているので、あまり語り掛けたくはない。なのでお二人に任せてしまっている。

 

 『大陸を築いた女神さまが黒髪黒目でいらしたことが始まりではあるが……――』

 

 フィーネさまはゲームで東大陸の事情に詳しかったが、深い所までは知らないようで馬の幽霊に乗った髑髏の幽霊を見上げたまま話を聞いていた。メンガーさまも同じで、東大陸については疎いらしく幽霊の言葉に耳を傾けている。私も移動しつつ意識の一部は髑髏の幽霊の話を聞いていた。

 

 東大陸が出来た当時に住んでいた人間は黒髪黒目だったそうだ。女神さまがそうさせたのかどうかは分からないが、伝承が残っているのだとか。

 魔素も十分に満ちており、魔力量の高い者が多く魔術も発展し文明を築いていたが、ある時期を境に南と北の大陸から移入者がやって来た。彼らの大陸に魔術は存在しなかった。魔術を習いつつ魔力量の多い黒髪黒目の者に目をつけ、魔力を多く持つ者の血を取り入れた。

 

 「北や南の大陸に魔術が存在していないのは、魔力を持っていないから?」

 

 『魔力を持っていないというよりも分からなかったのだろうな。東の大陸にやって来て初めて魔術に触れ、便利な物だと気付いたのではないか?』

 

 南と北の大陸に魔素は満ちているから技術を習得して、魔力持ちを自大陸に戻して魔術を普及させたのだとか。これがきっかけだったのか、混血化が進んで黒髪黒目の者が少なくなっていったとか。北大陸から来た人たちとの混血は白い肌に金や銀の髪が特徴。

 南大陸から来た人たちとの混血は褐色肌で銀髪が特徴で。東大陸の北半分と南半分で綺麗に分かれていたけれど、アガレス帝国が大陸の約六割を統治してから、東大陸南部の混血化が始まって、褐色肌の人も北部でも見るようになったと。

 

 「西大陸だと魔力を持っていれば、魔術は普通に使えますからね」

 

 「ないと不便なのは理解できます」

 

 もう慣れてしまったから、今更魔術を使うなと言われても無理である。医療技術が発展していないから、魔術は医療の代替品だ。使えなくなったら病気や怪我が治せないし、困る人も多くなる。

 

 『混血化は仕方ない。そんなこともあって黒髪黒目は有難いのだよ。魔力量が多いしなあ』

 

 「でもこちらの大陸は魔術が廃れていると聞きましたが……」

 

 『時間が経つにつれて魔素が薄くなった上に、魔術を使いこなせる十分な魔力をほとんどの者が所持しておらんのだから、廃れるのは当然よ』

 

 あれ、私って東大陸の魔術師たちには絶好の狙い目では。魔力量が多いから黒髪黒目との混血を望んだのだから、そういうのが目的の人たちからは絶好の機会のような。その手の話になったならば、子供を道具にしそうだし断固拒否だ。そもそも結婚する気ないんだし。

 

 「確か巨大魔石が東大陸の魔素を吸っているんでしたね」

 

 『お嬢ちゃん、それに気づいているとは流石だのう! 我も最初は分からなかったが、死んでからの五百年で正解を導けたぞ!』

 

 幽霊になって魔力感知に長けたらしい。魔素が魔石に吸収されているのが分かったんだって。魔石が魔素を取り込んで力を貯めるは普通のことだが、こちらの大陸の魔石はやたらと大きい。吸い取る量が段違いで大陸に満ちているはずの魔素が薄くなり、魔術を使いこなすことができる魔力持ちも減ったのだとか。

 それだと吸い込む魔素がそのうち尽きるだろうから、わざわざ魔石を壊さなくても良かったかも。巨大魔石の数が減れば魔素は自然と満ちて、その内魔力持ちも増えるような気がしてきた。巨大魔石を利用して飛空艇を作った昔の人は、魔術が嫌いだったのだろうか。これで飛空艇を作った人が知識を持った転生者だったとかなら笑えるなあ。今の時代だけではなく、昔にも転生者が居ても可笑しくはないんだし。

 

 「凄く……」

 

 「大きいですね」

 

 二十メートルくらいはあるのではと三人そろって、初代アガレス像を見上げる。帝国に忠誠を誓っている人や帝国の人たちはこの巨大な像に敬礼したり祈りを捧げたりするのが常なんだとか。厳つい顔をした初代アガレス像を髑髏の幽霊が静かに見上げていた。 

 

 『恰好を付けおって、忌々しい……!』

 

 国と婚約者を取られたんだから、髑髏の幽霊にとっては憎き敵なのであろう。なんとなくではあるけれど、皇帝や第一皇子に似ている気もする。五百年という時間を経ても血はちゃんと受け継いでいるのだなあと感じた。幽霊にとっては嫌かもしれないけれど。

 初代アガレス像の足元へとすたすたと歩いていく。まだ縄は持ったままなので例の二人も一緒である。何度か魔術を掛けたので意識はちゃんとあるので問題はない。私が手枷足枷をした若い男女を引き摺って歩いていると噂されても、他国でのことなので痛くも痒くもないのだから。

 

 ――空が少し白み始めていた。

 

 この時代、というかこの世界の人たちの行動は随分と早い。灯りは高価な物なので、日が昇り始める少し前に起きて行動し始める。街を歩く人々も酔っ払いの人から、仕事に出かける人たちへと様子が変わっている。出勤前にも初代アガレス像へ挨拶する人たちは居る。

 アガレス像の前に立つ黒髪黒目の人物。奇しくもその光景は初代アガレスの側に付き従っていたという、黒髪黒目と同じ構図だった。私は凄く小さいけれど。見えても問題ないのだけれど、話がややこしくなる場合がありそうなので、銀髪くんとヒロインちゃんには認識阻害魔術を掛けておく。これで帝国の皆さまに見えるのは、初代アガレス像とその足元に居る私に、少し離れた場所にメンガーさまとフィーネさまに髑髏の幽霊が控えていた。

 

 「――帝国の地に住む皆さま! わたくしはアルバトロス王国で聖女を務めております、ナイ・ミナーヴァ子爵と申します」

 

 朝早く、仕事へ向かおうとしている人たちの視線が集まり少しざわめき立つ。さて、適当に喋り始めたのは良いけれど、何も考えていない。即興でらしいことを言わないと、視線を集めた意味がないし馬鹿なことを言えば石を投げられそうだ。

 

 『え、聖女なの? 嘘じゃろ、嘘と言うてくれ。聖女ではなく破壊の神じゃろうてアレは』

 

 破壊神って失礼な。巨大魔石を壊したけれど、壊したものはそれくらいである。やろうと思えば飛空艇も壊せたのだから破壊神なのではなく、自らの身の安全を確保する為に致し方なく魔石を壊してのけたのだ。うん。

 

 「彼女は聖女ですよ。嘘は言っておりません」

 

 「はい。アルバトロスの教会所属の聖女さまです。破天荒な方ではありますが」

 

 ゲームのシナリオを私が大きく変えているので、フィーネさまの破天荒という言葉を否定できないけれど。説明有難うございますと内心でお礼を述べていると、髑髏の幽霊がまだ疑いを持ったまま私を見ている。

 

 「黒髪黒目……嘘、だろ……」

 

 「黒髪黒目のお方がっ! 黒髪黒目のお方が現れたぞ!」

 

 うーん、アルバトロス所属だと言ったけれど、黒髪黒目の方に意識がいっているなあ。

 

 「アガレス帝国万歳!」

 

 「アガレス帝国万歳!」

 

 「アガレス帝国万歳!」

 

 朝の早いうちから元気なことでと目を細める。さて、私の口から齎される事実に広場の人たちはどういう反応を見せるのやらと、目を細めたのだった。

 

 ◇

 

 アガレス帝国帝都、中央広場。初代アガレスの巨大像の足元で、帝国の人たちの視線を一手に集めていた。黒髪黒目の私が現れたことによって、アガレス帝国万歳三唱が起こっている。本当に黒髪黒目は信仰されているんだと実感したけれど、アルバトロスから強制的に召喚されたのだから、嬉しくはない。

 巻き込まれたメンガーさまもフィーネさまもいい迷惑だろうし、こうして無為に過ぎる時間は本来自分たちの為に使う時間だろうに。また薄暗い早朝だというのに騒ぎを聞きつけ、新たにこの場に足を踏み入れる人も多数いるので、そろそろ喋り始めても大丈夫そうだとすっと片手を上げる私。

 

 黒髪黒目信仰のお陰か、広場で盛り上がっていた人たちは私の言葉を聞こうとしんと静まり返った。こういう時だけは有難い。

 

 「この場にお集まりの皆さま、もう一度自己紹介をさせてくださいませ。わたくしは――」

 

 もう一度所属国と役職に貴族であることを告げる。理性的な人がこの場に居れば、この後に続く言葉の不味さに気付くはずであろう。

 

 「昨日、黒髪黒目であるわたくしは儀式召喚によってアルバトロス王国から突然アガレス帝国へと拉致されてきました!」

 

 ついでに巻き込まれた方も居ると付け加えておくことを忘れない。銀髪くんとヒロインちゃんは認識阻害魔術で見えていないので、巻き込まれたのはメンガーさまとフィーネさまということになるが問題はない。髑髏の幽霊は帝都民の皆さまには見えていないようだ。横で愉快そうな雰囲気を醸し出しているのに、全く気付かれていないのだから。

 

 「ら、ち……?」

 

 「嘘だろう? 黒髪黒目のお方の意志を無視したというのか?」

 

 「しかしアガレスへ召ばれたならば、贅沢が出来るというのに彼女は不満なのか?」

 

 「だが母国では貴族らしいぞ」

 

 「向こうの大陸の事情は知らないが、こちらは帝国だ。嬉しくはないのか?」

 

 一旦言葉を止めて広場に集まった人たちを観察していると、反応は様々。私たちが拉致されたことが信じられないという人、アガレス帝国へ召ばれたならば、幸せなことだと考える人。

 アルバトロスの事を知らない人。別の大陸とは不干渉を貫いているようだし、情報が少ないから自分で想像するしかないものねえ。まあ、建築物や衣装を見ている限り、帝国の方が進んでいる感じはする。

 

 「此度の一件を企てたのは第一皇子殿下を始めとした皇子殿下の皆さまでございました! 皇帝陛下や皇女殿下方からは謝罪を頂いております!」

 

 皇帝からは微妙な所だけれどヒロインちゃんをちらつかせれば、宰相閣下が上手く執成してくれるだろう。ウーノさまからは謝罪は頂いているし、帝位に就くことが出来れば何かしらの賠償も頂けるはず。なので彼ら彼女らの評判を落とす訳にはいかないのだ。無駄にした時間は、お金にでも換えて貰わなければ割に合わない。えっと、雷系の魔術を心の中でトリガー詠唱となる第一節を唱えた。魔力の無駄遣いだけれど、バレる訳にはいかないのでやむを得ずだ。

 

 「しかし第一皇子殿下方の凶行をわたくしは許せるはずがありません! 話し合った末にアガレス帝国へ招かれるのが常道、魔術による召喚儀式を使用し強制的に連れてこられたのは言語道断!」

 

 黒髪黒目の者が怒っていると知れば、黒髪黒目信仰のある東大陸にある国々は帝国へどういう視線を向けるかなんて明らかだよねと脅しを掛ける。

 一応アルバトロスには東大陸にある帝国の次に国力のある共和国との伝手がある。それを利用すれば、他の国々も巻き込めるはずだ。ウーノさまには悪いが、これで帝国が滅びるならば運命だろうし。

 

 『おおう。敵に回したくないのう……怖や、怖や』

 

 私は幽霊である貴方の方が怖いのですが。訳の分からない理由で、死者が存在しているのは理解できない。亡国最後の王でアガレス初代に殺されたのならばお墓なんてないだろうし、やはりきちんと浄化儀式を執り行うべきではないだろうか。本人の意志も大事だけれど、あの世に行けば愛している婚約者さまとの再会も叶うかもしれないのに。

 

 「黒髪黒目のお方! 今の話は事実なのでしょうか!?」

 

 まだ年若い青年が私を見上げて問いかけてきた。一応こちらがステージ上になっているので、私の視線の方が上となる。

 

 「事実でございます。もし疑いを持たれるならば皇帝陛下かウーノ第一皇女殿下にお問い合わせください」

 

 ウーノさまとはこの辺りも話し合っているので問題はない。まあ……彼女は血の気を失うかもしれないが。

 無理矢理に拉致されたし、私の護衛の任に就いてくれている人たちにも大迷惑な行動だったのだ。それを不問にする為には派手なことをやらかして、なにかしらの益をアルバトロスや聖王国に齎さないと。次、魔力を更に練る。私が練った魔力によって、髪がふわりふわりと空に揺れ。

 

 「……そんな……アイン皇子が……」

 

 年若い青年が信じられないといった顔で呟いた。すまぬ青年よ、まごうことなき事実で嘘など一ミリもない。帝国内での第一皇子殿下の評判は良いものなのかもしれないが、噂なんてどうとでも脚色できる。

 無能な皇子であっても皇宮の官吏たちの手に掛かれば、あら不思議、有能殿下の出来上がりだ。あとは第一皇子殿下が軽い神輿になってくれれば良いけれど、あの感じだと自意識過剰そうだから無理だろう。金色の派手なフルプレートの鎧を身に纏っていたことが証左な気がする。

 

 「もし仮に帝国に住まう方々が第一皇子殿下の味方というのであれば、帝国の未来はこうなりましょう!!」

 

 発動詠唱と威力増加の詠唱をまた心の中で唱えた。――次。流石に破片が周囲に飛び散って危ないので粉塵レベルに切り刻まれるよう、風系統の魔術を四節唱える。私の後ろに立っている初代アガレス皇帝像の頭に雷が一発落ちたと同時に轟音が鳴り響いた。

 アガレス皇帝像が崩れ去り始めたその瞬間、風系統の魔術によって切り刻まれ被害はないも同然で。粉塵を吸ってしまうかもしれないので、先ほど唱えた風魔術にちょっとした仕掛けをしておいた。なるべく人のいない方向へと風が吹くように詠唱しておいた。

 

 「なっ!」

 

 「雷が落ちて、初代さまの像が粉微塵に!」

 

 「黒髪黒目のお方が怒っていらっしゃる!」

 

 「皇子たちは何をしてくれたんだ!」

 

 良かった、ちゃんと私の話を聞いてくれていたようだ。上手く皇子たちに矛先を向けることが出来たなと、ほくそ笑んだその時。

 

 ――あれ?

 

 朝陽が差し込み始めた中央広場に影が差したけれど、直ぐにまた朝陽が差し込む。気になって顔を上に上げると、竜が一頭飛んでいた。白銀の巨体を悠々と空に浮かべて、帝都の空を旋回しているのだった。

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