魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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 でかっ。でっか! 

 

 アガレス帝国帝都を一頭の白銀の竜が悠然と飛んでいた。帝都の空を旋回しながらゆっくりと高度を落としている。なんだか既視感があるようなと、記憶をほじくり返してみるけれどあんな大きい銀色の竜なんて見たことない。

 私が見た中で一番大きかったのは亜人連合国代表であるディアンさまと白竜さまだ。お二方を余裕で超えた大きさに、驚きを隠せない。竜は体の大きさで強さが決まると言っていたから、一体どれほどの力を持っているのだろうか。

 

 「ド、ドラゴン!?」

 

 「どうしてドラゴンがっ! ドラゴンは絶滅したんじゃなかったのか!?」

 

 東大陸では竜は滅んでいたのか。人前に現れなかっただけかもしれないが、絶滅という言葉が叫ばれているならばそれに近い状態なのだろう。慌てふためく帝都の人々と、落ち着いた様子で空を見上げている私たち三人と幽霊一体の落差が酷い。

 

 「こちらの大陸では竜は珍しいのでしょうか?」

 

 『我も見たことがないからの! なんじゃあのデカいドラゴンは! あんなのが現れたら帝都は滅びてしまうのう……皇宮だけ壊してくれんかなあ』

 

 フィーネさまが髑髏の幽霊へ疑問を投げかける。幽霊の癖に竜に驚くとは意外だと目を細めつつ、再度上空を飛んでいる竜を見る。まさかあの竜はクロとか言わないよね。一夜にしてディアンさまや白竜さまを超える竜に育ったとか聞いていないんですけれど。

 大きくなれるとは聞いていたけれど想像の埒外だし、あんなに大きくなるだなんて誰が思うだろうか。ちょっと体格が細いけれど、大きさはかなりのものだからなあ。帝都の人々が驚いても仕方ない。

 

 「竜じゃなくてドラゴンって呼ばれているのか……」

 

 南大陸では竜と呼ばれているが、東大陸ではドラゴンと呼ばれているようだ。メンガーさまが上空を見ながら、ボソリと呟いていた。暫く帝都の空を旋回する竜を目で追っていると、高度を下げて随分と距離が近くなっている。

 近くなっていくたびに帝都の人たちの恐怖心は上がっているようで顔色が悪くなっている上に、家々の窓から顔を出して竜を見上げている方も増えている。竜の正体は察しがついているし、これ以上恐怖心を煽っても仕方ないよなあと、一歩前に出ようとしたその瞬間。私の前に立つ人が。誰でもないメンガーさまとフィーネさまだった。

 

 「帝都の皆さま、恐れないでください! 彼の竜は黒髪の聖女さまを守護する一頭! 第一皇子殿下に黒髪の聖女さまを攫われたことを案じ、大陸を越え帝都まで飛んでこられたのです!」

 

 フィーネさまが銀糸の髪を靡かせながら胸の前で両手を組んで、中央広場に集まり絶賛動揺中の帝国民に語り掛けた。話を聞いて少し落ち着いたようだけれど、それでもまだ突然訪れた脅威に打ち勝つことはなかなか難しいようで。

 

 「帝都の皆さま安心してください! 黒髪の聖女さまは道理に反した者にだけ怒りを向けておられます! 皆さまが正しい判断をなされれば何の問題もないのです!」

 

 今度はメンガーさまが止めとばかりに言い放った。確かに第一皇子殿下方には不信感しかないので、これから友好的なお付き合いは無理だろう。そもそもウーノさまが次代皇帝の席を狙っているのだから、この絶好の機会は逃すまい。

 メンガーさまの言葉は割と帝都の皆さまの心に刺さったようで、皇子殿下方に向けられていた憧れやら忠誠心やらを霧散させている様子。民からの求心力を失えば、皇太子殿下として立つことは難しくなるだろう。これで皇女殿下へと鞍替えしてくれると有難いのだけれど、帝国の政治に深く関わるのはよろしくないので程々にしておかないと。

 

 『なんじゃ、二人とも慌てて民の前に立ちよった。――まさか、反論でもしようものなら首を刎ねる気じゃったの、怖っ。我、玉は消えてるのだが……縮んだぞい』

 

 知りたくもない情報は要らないんだけれどな。……首は刎ねないけれど、第一皇子殿下方の擁護を続けるならば黙らせるくらいはしたかなあ。物理的手段では敵わないので、魔術による威嚇やらなにやらでだけれど。帝国では魔術は廃れているようだし、珍しいもののようだから目立つだろう。訳の分からないものって怖いから、恐怖は十分に煽れるはず。

 

 ――轟っ!

 

 帝都に並び立つ家々の屋根ぎりぎりを攻めた飛行を私の後ろから前へと飛んで行った白銀の竜。というかクロ。遅れて乱れた気流が背中から前へと吹き抜けた。一体何がしたいのだろうと首を傾げていたら、空から降りてきた者たちが居た。

 

 「ナイっ!!」

 

 超低空飛行したクロから飛び降りたらしいリンとジークにロゼさんとヴァナル。地面に膝と手を突いた瞬間、リンが勢いよく顔を上げて私の名を叫び、だっと走って私の下へとやってきて抱きしめられた。

 

 「リン」

 

 「良かった無事で!」

 

 離れて十二時間強の時間が経つけれど、随分と懐かしく落ち着く香りだった。力を抜いてリンに両手をまわす。

 

 「心配を掛けてごめ……骨、折れる! 力強いって!」

 

 なんで毎度お約束のように、リンは加減を覚えてくれないのだろうか。騎士と聖女では力の差があり過ぎるので、こうして骨が不味い音を立てる。ぺしぺしとリンの背中をタップするけれど、今回は力を抜いてくれない。

 

 「リン、そこまでにしておけ。――ナイ、無事でよかった。だが、これは一体どういうことだ?」

 

 ジークがリンを諫めてようやく力が抜かれたけれど、抱きしめたまま解放してくれない。暫くはこの状態かなあと諦めて、ジークを見ると広場に集まる人たちとフィーネさまにメンガーさま、そして銀髪くんとヒロインちゃんへと視線を移動させていた。

 私だけ拉致られたのかと思っていれば、西大陸に居るはずの人たちが居るのだからジークの疑問は尤もだ。問いに答えなければと口を開こうとしたら、先に私へ声を掛けるスライムさんがぽよんと揺れた。その横にはヴァナルが綺麗にお座りしつつ、銀髪くんの方も気にしていた。

 

 『マスター! 大丈夫?』

 

 スライムの丸い体を上手く使って、私の胸元へと飛び込んできたロゼさん。珍しい行動だなあと目を細めつつ、リンの腕から上手く逃れて両手を差し伸べると真ん中へ収まった。右腕にロゼさん、左腕でヴァナルの頭をゆっくりと撫でる。リンは私の背中へするりと回り込んで、腹に手をまわして離すつもりはないらしい。

 

 「大丈夫。傷一つないよ。――みんなお迎えありがとう。あと心配させてごめんなさい。で、クロは一体どういう状況なの?」

 

 「ああ、ナイを迎えに行くからと体を大きくさせたんだが、戻るのには少し時間が掛かるといって空を飛びながらある程度の大きさに変えるそうだ」

 

 ジークの説明によると、ディアンさまたちのような竜の姿ではなく、速度特化の姿となったのでスレンダーな体形になったらしい。

 大きさ、というか全長は彼らを優に超えている。ただ横幅が細いのだ。確かに飛ぶのが速そうなスタイルだよなあと空へと顔を向けると、五メートルほどの大きさに戻ったクロがゆっくりとこちらへ降りてきた。

 

 『ナイ! 大丈夫、怪我はない!? 変なことはされてないよね? してもないよね?』

 

 大きな顔を私に近づけて、すんすん鼻をならしながら問いかけたクロの顔を撫でると、クロは目を細めつつ私の体に顔をすりすりしている。大きくなっても声のトーンは変わらないのかと苦笑しつつ、こういう所は以前と全く変わりがない。ないのだけれど最後の言葉はどういう意味だったのか。

 

 「大丈夫だよ、クロ。それにしても急に大きくなったね……もう私の肩には乗れないか」

 

 『体の大きさの調整はある程度できるんだけれど、元の大きさに戻るのはちょっと時間が掛かるかなあ。ナイに貰った魔力を使い果たしちゃった……』

 

 魔力ならまたあげればいいのだから、何の問題はないだろう。クロやみんながこうして迎えに来てくれたことが嬉しいし有難い。

 さて、これからどうするのか。アルバトロスへ直帰しても良いし、クロたちの腹の虫が収まらないというのならば帝国で暴れるのもまた一興。みんなと相談しようと視線を向けると、ぬっと黒い影が遮った。

 

 『感動のご対面の所悪いのじゃが、コレどうするつもりなんじゃ?』

 

 ぽかーんとしている帝都の皆さまに視線を向けた髑髏の幽霊が、私たちの再会を阻むのだった。

 

 ◇

 

 中央広場に集まった人たちの様子がおかしい、というよりも本当に竜を従える人間がいるなど思ってもいなかったと言うべきか。ぽかーんとした顔でクロと私のやり取りをみているのだから、仕方ないといえば仕方ないのか。

 

 「帝都の皆さまへの説明よりも、彼らへの説明を優先させます」

 

 まずはジークたちに説明をしてアルバトロスと亜人連合国の状況を聞き出さないと。乗り込んでくる可能性があるし、状況によればアガレス帝国を滅ぼせとか言い出しかねない。なので今の状況を帝都の皆さまに説明するよりも、身内の皆さまへの説明が優先。

 

 『え~……。一応、我の民でもあるからせめて命だけは保障して欲しいのだが?』

 

 確か五百年前に国を取られてしまったのだから、帝国、帝都に住む人たちは髑髏の幽霊が守るべき人々の子孫。

 でも第一皇子殿下方を擁護するならば、問題があるので黙らせる必要が出てくる。黒髪黒目召喚を何度も執り行われて、違う世界から呼び寄せられても困るのだ。乙女ゲームのような主人公ならば問題ないが、力を持った銀髪くんのような人ならこの世界を蹂躙しそうだし。

 

 「命は奪いませんし、告げたとおり狙うは第一皇子殿下方のみです」

 

 容赦がないのうと髑髏の幽霊がボヤいていると、ジークが口をひらく。

 

 「どういうことだ?」

 

 『一体何があったの? というか聖王国の聖女さまと特進科の子が居るね。どうして?』

 

 「その辺りもちゃんと説明するよ。長話になるかもしれないけれど、時間潰しにはちょうどいい気がする」

 

 多分だけれどアルバトロスと亜人連合国がタッグを組んで準備していそうなんだよねえ。竜の背中に乗れば人員派遣は容易だし、荷物も一緒に運んでもらえば良いだけだ。一番先に確認するのはその件だよねとジークに聞いてみると、答えはイエス。

 

 五、六時間ほど遅れて到着するだろうとのことだから、それまではこの場で時間を潰しながら、ウーノさまたちには知らせておくべきかな。本隊の指揮はハイゼンベルグ公爵さまが執っているとのこと。あーあ……無血で辿り着いた挙句、帝国は問答無用で賠償金やらをきっちりと毟り取られてしまうなと口の端を伸ばした。

 

 ただ今回は容赦のない人選の方が良い気がする。召喚儀式魔術の禁止条約を結ばなきゃならないし、強気で行ける人が必要だ。西大陸の小国が舐めた口を利くんじゃないと言われて、反論できる人でないと。その辺りは外務卿さまだとちょっと不安なので、公爵さまならばノリと勢いで乗り越えられる。軍の総指揮官なのだから脅しが効くだろうし。

 

 ジークと話している間にクロはちゃっかりとフィーネさまとメンガーさまに挨拶を済ませているし、何故か髑髏の幽霊とも打ち解けている。背中にくっついているリンが離れてくれないのはご愛敬だ。公式な場ではないし問題ない。

 

 「クロさま、よろしくお願いします」

 

 『うん、よろしくね。フィーネ』

 

 随分と大きくなられましたねえと感慨深くフィーネさまがクロに言うと、今回は緊急事態だったからと答えたクロ。迷惑を掛けてごめんなさいと黙ったまま謝るけれど、悪いのは召喚を執り行った第一皇子一派な訳でして。

 ここではないどこかから黒髪黒目の者を召ぶ算段だったようだけれど、黒髪黒目の犬や猫とかだったらどうするつもりだったのだろう。信仰の対象はあくまで人間だろうし、適当に宮の中で飼うつもりだったのだろうか。あと黒髪黒目の悪魔とか召喚したらどうするつもりだったのだろうか。

 

 「よろしくお願いいたします」

 

 『ずっと学院の教室に居たのに挨拶が遅れてごめんね、エーリヒ』

 

 気になさらないで下さいと、メンガーさま。クロに頭を下げられたらそう言うしかないのか。ほんと竜って存在が尊いのだなあ。何度かフィーネさまとメンガーさまと交わしたのちに、髑髏の幽霊に気が付いたクロはそちらへと顔を向けた。

 

 『強き方とお見受け致します。我は五百年前に死に失せたこの国の王。このような形で貴方のような方とお会いできるとは恐悦至極』

 

 髑髏の馬から降りて、クロに礼を執る髑髏の幽霊。凄いなクロ、幽霊まで従えることが出来るのか。

 

 『ああ、そんなに畏まらないで。ボクはクロ。とある竜の生まれ変わりだから、新参も良い所なんだ。出来れば仲良くしたいから、普通に接してくれると嬉しいな』

 

 というか髑髏の幽霊が普通に喋っている。あのちょっとお爺ちゃん染みた軽いノリは演技だったのか、それとも今のは対外用なのか。

 

 『おや。では遠慮なく。我、帝国に不満を持ちまくりなのじゃが、どうにか痛い思いをしてくれんかのう?』

 

 頭を上げて、元の喋り方に戻った幽霊はクロに遠慮なく語り掛けている。

 

 『それは自分でやるべきじゃないかなあ?』

 

 『そうなのじゃが幽霊の身では出来ることが少ないわい。黒髪のお嬢ちゃんが愉快なことを起こしてくれたから我は彼女に付いて来た次第!』

 

 髑髏の幽霊をロゼさんが不思議そうに見上げている。スライムの丸い体を伸ばして、ちょこんと触れて驚いたのか直ぐに引っ込めた。

 なんだかちょっと可愛いと眺めていると、もう一度トライするようだ。ちょこんと伸ばして触れて、感触を確かめている。まさか幽霊も擬態するつもりなのだろうか。人間でもないし、危険な魔獣でもないからどうしたものかと考えていると、ロゼさんは髑髏の幽霊にべったりとくっ付いた。

 

 『なんじゃこりゃー!』

 

 そう叫んだ髑髏の幽霊だけれど、面白いから放置しておこう。幽霊ならば私を驚かさない限りは問題ないし。ロゼさんが他の人を驚かそうとしたら止めれば良いだけだしね。

 

 『あ、なんだか理解できた気がするよ。ナイ、召還されてからなにがあったの?』

 

 叫んでいる髑髏の幽霊を無視して、クロは私の方へと向き直った。説明させて頂きますと、クロの大きな体の横に座り込んで背を預けた。ちょっと堅いけれど、問題はない。リンが私の横に立ち、ジークが周りを気にしつつ立ったまま話を聞こうとしている。

 落ち着いて話せないなあと防御魔術を張ったらジークが良いのかと首を傾げたので、構わないと無言で肯定しておく。メンガーさまやフィーネさまも地面に座り込んで、話に加わるようだ。銀髪くんとヒロインちゃんは防御魔術の中には居るけれど、少し離れた場所に。

 

 あ、ヴァナルが銀髪くんの前で後ろ足の片方だけを上げた。地味な嫌がらせだけれど、続きを見たくないので視線を逸らすと、髑髏の幽霊も話の輪の中に加わるようでロゼさんに纏わりつかれたまま胡坐を組んで座った。

 

 私の話に、フィーネさまとメンガーさまが時々補足しつつ状況を伝える。クロはちょっと呆れて、リンとジークはいつもと変わらず。ロゼさんは髑髏の幽霊の顔の部分でゴソゴソしていた。ヴァナルはこちらへもどって私の側に寄って寝息を立てている。

 

 「無茶をしたな。だが無事で良かった」

 

 「心配したんだよ。前に舌を噛み切る、なんて言っていたから」

 

 身内への説明なので、無礼をお許しくださいとメンガーさまとフィーネさまには断ってある。快諾してくれたので有難く、ジークとリンと幼馴染として話すことが出来た。

 

 「ごめん。まさか現実になるとは考えていなくて」

 

 例えばの冗談だったのに、召還されるなんて誰が思うだろうか。帝国が私を迎え入れるつもりなら、武力で奪うと考えていたし。

 

 「えっと公爵さまがこっちに来るんだよね?」

 

 「ああ。竜の方々の背に軍の人たちを乗せてな」

 

 あと聖王国の政治を司っている代表者と銀髪くんを預かっていた国の人たちや彼の護衛に就いていた亜人連合国の方たちもだ。副団長さまも交じっているようだし本気度が伺える。

 

 「みんな気合が入っていたよ。アルバトロスの黒髪の聖女を攫うなんて許せないって」

 

 戦争不可避な状況だけれど、私が随分とやらかしているからなあ。飛空艇二十隻分の魔石を壊してあるし、多少は帝国の戦力を削っているはずだけれども。

 亜人連合国は竜のみなさまとエルフのお姉さんズにお婆さまが来るそうだ。あー飛空艇が彼らに迫れば問答無用で墜とされそう。魔法で中の人は無事という不可思議も起こるだろう。――取り敢えず。

 

 「もう一度、皇宮に戻ろうか」

 

 この騒ぎを聞きつけている……というか密偵くらい付けていただろうし、私たちの行動は筒抜けだろう。ウーノさまに再度接触できると良いなあと願いつつ、立ち上がってお尻についた汚れを払うのだった。

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