魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0022:処分決定前。

 ヒロインちゃんが魔眼持ちと発覚してから、一週間。どうやら殿下と側近くんたちとヒロインちゃんの処分が決まった。

 

 それまでにはちょっとしたこともあって、ヒロインちゃんが隔離されている牢屋へとまた来るようにと公爵さま経由で命令がきた。

 なんでまた召喚されるのだろうと疑問に感じつつ、割と厳重な護衛の騎士たちとジークとリンで塔の前に足を運んだ時だった。

 

 「またお会いしましたね、聖女さま。――再会できて嬉しいですよ」

 

 足音を立てながら他の護衛の騎士とともに魔術師団副団長さまが現れて、銀髪を風に揺らしながらこちらへとやって来た。

 

 「副団長さま……――お久しぶり、というにはまだ早いかも知れませんが、魔獣討伐の際は本当にお世話になりました」

 

 「いえいえ。こちらこそ、あのように遠慮せず魔術を使ったのは久方ぶりでしたから」

 

 左様ですか、と無言のままで会話を流すと、まだ終わっていないのかこの場を離れない副団長さまはじっと私を見つめる。

 

 「――どうしました?」

 

 「いえ、何故そんなに私を凝視しているのかな、と」

 

 「それについては、後ほどご理解いただけることでしょう。――さあ、参りましょうか」

 

 「ちょ!」

 

 ふふっと笑って私の背をやんわりと押す副団長さま。身長差があるので歩幅の差が明確にでる。副団長さまの一歩が私の約三歩くらいなので、私だけ早足になっているんだけれど。

 周りの人は普通に歩いてついて来てるし……畜生。ってその前に言わなきゃならないことがある。

 

 「待ってくださいっ!」

 

 「おや、如何しましたか?」

 

 私の言葉に立ち止まる副団長さまが不思議そうな顔をして私を見る。

 

 「彼女の下へと行くのならば、ジークとリンを護衛から外してください」

 

 ふむと考える仕草を見せる彼よりも先に反応する人が居た。

 

 「おいっ!」

 

 「駄目だよ、ナイ」

 

 「でもまた何か影響が出るかもしれないから、二人はここで待ってて」

 

 私の護衛としてついてきているのだから、二人の反対は理解している。

 

 「――お二人の事が心配なのですね」

 

 「ええ。彼女の魔眼のこともありますが、それ以前に二人に関わらせたくありませんので」

 

 魔眼の影響というよりも不快な発言をしまくるヒロインちゃんと会わせたくないというのが、正直な気持ちである。

 

 「と、聖女さまは仰っていますが、お二人はどうしますか?」

 

 見下ろしていた私から視線を外してジークとリンの方へと向く副団長さまに、二人がばっと敬礼のポーズをとった。

 

 「俺たちは聖女さまの護衛騎士です。なにがあろうとも側にいます」

 

 「兄さんと同じです」

 

 「だそうですよ、聖女さま。――許してあげればいいではないですか。それに貴女が心配しているようなことにはなりませんし、彼らならば何を言われても受け流しそうですけれどねえ」

 

 副団長さまの言葉にこくりと頷いたジークとリン。ここで問答しても仕方ないかと諦める。あと副団長さまには私の心配を打ち消すような確信があるみたいだし。

 そうしてまた一行は進み始め前に護衛の騎士二人、そして副団長さまと私が、少し離れてジークとリンがついて来て、更にその後ろにも護衛の騎士が二名。塔の外にも護衛が待機しているので、王城の中でここまで厳重なのは初めてのような気がする。

 

 「……だあれ?」

 

 入口の扉を開いて直ぐに、ヒロインちゃんの声が聞こえる。顔は知っているはずだというのに、なぜ疑問を呈したのかは直ぐに理解できた。

 

 「目隠し……」

 

 「ええ。単純ですが一番効果がありますから。まあ術者……彼女には酷な処置かもしれませんがねえ」

 

 ヒロインちゃんは『ハインツさまぁ!』と副団長さまの名前を連呼しているのだけれど、彼はガン無視を決め込んでいた。

 何かあったのかなと勘ぐってみるけれど、そういえば彼女の魔眼について調べると言っていたから、その時にでも名乗ったのだろう。私は彼女に用はないので、無視を決め込む。

 

 「というか私が居る意味あります?」

 

 「ありますよ。――聖女さまは尋常ではない魔力量をお持ちのお方。無意識下で常に外へと魔力が放出されているので、魔眼の呪いにある程度は対抗できているのです。そしてその恩恵は周囲の者にも効果があります」

 

 「それ、不味いのでは……」

 

 周囲に何かしらの悪影響を及ぼしそうなのだけれど。感情がフラットな時は良いけれど、ヒロインちゃんの胸倉を掴んだ時のように、金属が音を鳴らしてなにかしらの影響が出ていたし。

 

 「ああ、心配はいりません。聖女さまは魔力操作が下手糞ですから、周囲に影響を及ぼすほどの力がないのですよ」

 

 「…………」

 

 にっこりと微笑みながら遠慮のないドストレートな酷い言われように、無言になってしまう私。

 

 「ふふ、それに関しては追々きちんと魔術のお勉強をしましょうね。――で、これを見てくださいますか?」

 

 懐から小さな箱を取り出す副団長さまが、手のひらに乗せて反対の手で小箱を開く。

 

 「魔術具ですね」

 

 指輪型の魔術具だった。見た目はただのシルバーリングだけれど、刻んだ術式で効果は千差万別なので見た目では判断がつかない。

 

 「ええ、魔術具です。僕が作りました。――そしてこちらも」

 

 もう一度懐に手を入れてまた小箱を取り出す。

 

 「見た目は同じですが……」

 

 どちらもただのシルバーリング。魔術具の見た目を凝る人はゴテゴテのものを好んで作るそうだけれど、副団長さまはシンプル志向のご様子。

 火力と魔術馬鹿の副団長さまだから派手なものを好みそうなので、これは意外だった。

 

 「ええ。見た目は同じですが、効果は少々違います」

 

 「?」

 

 「貴女用とそこに居る人用ですね」

 

 「はあ」

 

 「反応が薄いですねえ。ハイゼンベルグ公爵からの魔力を抑える魔道具を作って欲しいと依頼がきましてね。普段は個別依頼は受けないのですが、内容を読むと貴女が使うものだと直ぐに理解し了承しました」

 

 そこは気付かずに断って欲しかったなあ。副団長さま、察しが良いのはどうなのだろう。

 

 「術式自体は簡単なものなのでそれほど手は掛かりません。直ぐにできたのでお届けに参ろうとしたのですが、王家から勅命がありまして……」

 

 少し間をおいてヒロインちゃんを見る副団長さまの目が細くなる。

 

 「魔眼持ちを見つけたというではありませんか。そして魔眼の効果を抑える道具を作れという命令も同時に僕に下ったのです」

 

 両手を広げて嬉しそうに語る彼はまだ言葉を続けていた。

 

 「いやあ、魔眼持ちが現れるなんて奇跡ですよ。あとあの人の一族全て調べ上げませんと。貴重な魔眼持ちがまだいる可能性もありますからねえ!」

 

 「はあ。――でもそれとこれとに私に関係があるようには……」

 

 「聖女さまをここへと呼んだのは、僕たちの盾役になって欲しかっただけです。そこの人は無意識下で効力を発揮しているようですから対抗手段を立てにくい。そこで魔力を無駄に駄々洩れさせている聖女さまの出番という訳です」

 

 「……」

 

 魔術具が壊れ自分の多すぎる魔力量の制御がなっていないから、ヒロインちゃんの魔眼の威力を下げているだなんて思ってもみなかった。

 

 「あ、もちろん公爵さまや教会の許可は取っていますからね。このことを後で知られると怖いですし、敵には回したくありませんから。――まあ無意識下で良かったですよ。指向性を持つと狙い撃ちや威力の調整もできてしまうでしょうから」

 

 ああ、貴女が居てくれてよかったと嬉しそうに笑う副団長さまが、片方の魔術具を手に取る。

 

 「――さて、魔眼の効果を下げられるか実験してみましょうか」

 

 その言葉に騎士の一人が鍵束を取り出して牢の鍵穴へと刺すと、錆びた鉄の音が部屋に鳴り響くのだった。

 

 ◇

 

 ――実験って言った。

 

 実験って言い切りやがりましたよ、目の前の副団長さまは……。

 でもまあ問答無用に処刑されるよりも、モルモットとして生きる道もありなのかな。衣食住は王国から保証されるわけだし。ただ、彼女の親類縁者はとばっちりだろう。

 彼の言葉を信じるなら血縁者が魔眼持ちなのか調べるみたいだし、仮に魔眼を所持している人が居れば、魔眼持ちを輩出する家系として保護か監視となるだろうに。ヒロインちゃんの軽率な行動が大事になっている。

 

 「扉を開けてくださいますか?」

 

 「はっ!」

 

 「――聖女さまはそこでじっとしていてくださいね」

 

 「わかりました」

 

 一緒にこの部屋へと入っていた騎士が四名が副団長さまより先に牢の中へと入り、そのうちの二人がヒロインちゃんの両腕を掴んで拘束する。

 

 「な、何? 怖い、やめてっ!」

 

 「じっとしていなさいっ!」

 

 「痛いっ!」

 

 「喋るなっ!!」

 

 拘束から逃れようとする彼女が暴れると締め上げている腕が余計に締まってた。痛みに負けたのか抵抗するのを止めたのか、どちらかは分からないけれど黙り込むヒロインちゃん。

  

 「さて、じっとしていてくださいね。痛くはしませんし、少し待てばその目隠しから解放されますよ」

 

 あくまで声色は優しく、でも彼の顔は微塵も笑ってない。ああ、本当に目の前のヒロインちゃんを実験扱いである。

 

 「ハインツさまぁ……」

 

 「大丈夫ですよ、怖がらないで。――その人の手を前に」

 

 「はっ!」

 

 「――"メディスンは森で撃たれ"」

 

 副団長さまの詠唱のあと声高い金属の音が短く鳴る。おそらく魔術具の効果を発動させる起動詠唱なのだろう。

 

 「メディスン?」

 

 聴き慣れない言葉につい復唱してしまった私の言葉が届いたのか、振り返ってにっこりと笑う副団長さま。

 

 「ああ、呪術師のことですよ。随分と古い言い方なので、聖女さまが知らなくても仕方ありません」

 

 「はあ」

 

 「反応が薄いですねえ。――あまり魔術には興味がありませんか?」

 

 「いや、それより彼女を放っておいてもいいんですか?」

 

 「おっと、そうでした。魔術具の効果は発動していますし、目隠しを外して頂いても大丈夫ですよ」

 

 質問に質問を返したことを気にもせずに、騎士へと目隠しを外すように促す。おもむろに手を伸ばす騎士の人は、少々怯えている様子だった。

 ヒロインちゃんの魔眼が誰に発動するか分からないから、自分の身に降りかかるのは怖い。呪いというよりも洗脳みたいな感じだしなあ、ヒロインちゃんのソレは。

 

 「ハインツさまぁ!」

 

 「……」

 

 「助けに来て下さったのですか?」

 

 「いいえ、貴女が持つ貴重な魔眼の様子を伺いに来ただけですよ。――ふむ、どうやら一定の効果はあるようですねえ。取り急ぎはこれで良いでしょう。キチンとしたものはまたあとで制作すればいいですし」

 

 騎士の人たちと一言二言交わしてから、副団長さまが一番先に牢から出てくる。どうやらヒロインちゃんはこのまま置き去り決定のようだ。

 まあ目隠しが外れたのでここで生活するには支障はあるまい。ベッドや机に椅子、そしてお手洗いなどの最低限の一式は揃っているし、食事も運ばれてくるだろうし。

 

 「先生」

 

 「お師匠さま」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが階段を降りて出入り口で副団長さまに声を掛けたようだ。

 

 「おや、こんな所に来ては駄目ですよ。お二人とも」

 

 副団長さまの言葉に同意する。どうしたってこんな所に貴族のご令嬢が来る場所ではない。

 

 「陛下や家の許可は取りました。そして先生が居るうちに行ってこい、とも」

 

 「ええ。お師匠さまが居れば心配は必要ないだろうと言われまして」

 

 どうやら王家や自身の家の人たちの許可は得ていたようだ。手回しが早いなあと感心しつつ、二人と視線が合ったので、黙礼をする。

 

 「はあ、仕方ありませんね。しかしどうしてこちらに?」

 

 「あの女には思う所がありますので、少々聞きたいことがあるのです」

 

 「ええ、わたくしもですわ」

 

 「分かりました。――尋問はかまいませんが暴力は駄目ですよ。貴重な魔眼持ちなのですから。あと時間は限られていますので手短に」

 

 「有難うございます」

 

 「感謝いたしますわ」

 

 貴族の礼をして鉄格子へと進む二人を見つめていると、私の横に副団長さまが並ぶ。

 

 「大丈夫でしょうか」

 

 「あの二人なら大丈夫ですよ。むしろ魔眼持ちのあの子の精神が彼女たちの圧に耐えられるかどうかが心配です」

 

 壊さないでくださいね、と副団長さまが二人にこの場所から声を掛けると、振り返りこくりと頷いたソフィーアさまとセレスティアさま。

 なんだかいつにも増して二人が纏っている空気に圧があるのだけれど、ヒロインちゃんは大丈夫なのだろうか。数日間の牢屋暮らしで少々参っているようだし、精神的にさらに落ち込めば自殺やら命の危険もあるかもしれないし。

 

 「どうして殿下方に近づいた、目的を言え」

 

 ソフィーアさまの言葉から始まった尋問に対する答えは、以前と似たり寄ったりであった。

 曰くシナリオの通りになるはずだから、ヒロインちゃんもシナリオ通りに動けば最初は同じように進んだ。

 けれど、ソフィーアさまやセレスティアさまからの嫌がらせやいじめは殆どなかったし、私やリンというイレギュラーも居たこと。どうして自分の思い通りにならないのか、どうして自分が一番ではないのか、と我が儘放題言い放つ。

 

 「どうしようもありませんわね」

 

 「これ以上は無駄か……」

 

 「ええ。――これならば周囲からの証言を得た方が良いですわね。どうやら錯乱しているようですし」

 

 二人はヒロインちゃんが言うゲームやシナリオという言葉の意味が伝わらなかったようだ。まあこの世界にゲーム機やパソコンは存在しないし、ましてや乙女ゲームなんてものも存在しない。

 あとで補足説明をしておけば、頭の回転の早い二人ならば乙女ゲームの話を持ち出さなくても理解するはずだろう。

 

 あまり手ごたえのなかった尋問に二人は顔を見合わせて溜息を吐いたのだった。

 

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