魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0220:本隊到着間近。

 取り敢えず皇宮に戻るけれど、出発する前にやっておかねばならないことがある。

 

 巨大な竜の登場でぽかーんとしている帝都の皆さまを放っておくわけにはいかないと、防御壁を解いて広場に集まっている方たちを見下ろす。

 割と長い間話し込んでいたのだけれど、仕事に行かなくて良いのだろうか。遅刻はボーナスの査定に響くから、真面目に勤めた方が良いよとアドバイスを送りたいが、残念ながらボーナスという概念はあまり浸透していない。

 

 「西大陸から竜の軍勢がやってきます。この場に居る方が何よりの証拠でございましょう!」

 

 公爵さまが軍を動員してアルバトロスの人たちもやって来るけれど、その辺りは伏せておく。センセーショナルな話題だし驚いて本当にと訝しんでいる人も居るが、嘘か本当かは時間が経てば分かる。嘘を吐く必要もないし、帝国の方たちを騙している訳ではないから心も痛まない。ばっと右腕をクロへと向けると、あまり脅しちゃ駄目だよと目で訴えていた。

 

 騙してはいないけれど、脅してはいるなあとクロを見ながら苦笑い。ただ第一皇子殿下のような強硬策を取る人がこれから先も現れる可能性もあるんだし、抑止の為に派手に暴れておかないとね。亜人連合国の皆さまには迷惑を掛けて申し訳ないけれど、今回は助かった。なるべく派手にしたいし、東大陸の人たちに手を出せばタダじゃ済まないアピールをしたかったから。

 

 後は皇帝陛下と第一皇子殿下にはアルバトロス王と聖王国の上層部の方々に頭を下げて頂き、召喚魔術禁止条約を東と西の大陸で結べば大丈夫だろう。髑髏の幽霊の話では北大陸と南大陸の存在も明らかになった訳だが、繋がりはないそうだから絡んできた時に対処するしかない。

 

 「わたくしは今一度皇宮を目指し、帝国上層部の方々に西大陸から竜が迫ってきていることを知らせます! 帝国の対応次第で皆さまの未来が決まりましょう!」

 

 帝国上層部は知っているんだけれど、帝国民の皆さまはこの事実を知らず今知ったのだから問題ない。

 

 『扇動しておる……黒髪黒目の者ってこんなにも過激であったかのう……』

 

 過去に居た黒髪黒目の人たちの気性がどんなものかは知らないけれど、普段は慎ましく生きているというのに、何かしらに巻き込まれると大事になるのだから打って出ないと。迷惑を被るのはミナーヴァ子爵家で働く人たちや仲間のみんなと私である。舐めた真似をしてもらうと困るのだ。

 アルバトロスにも迷惑を掛けてしまうし、今回の遠征費用は一体どれだけのものなのか。竜の皆さまには私の魔力で対価を払うとして、アルバトロスには何を齎せば良いのだろう。うーん、皇女さまに次代の皇帝に就いて貰うことを約束して、交易とかできるようになれば良いのだけれど。アガレス帝国の印象は最悪だから難しい気がするが、時間を掛けてイメージが払拭されれば解決するかな。

 

 『悪いのは帝国!』

 

 ロゼさんが割と大きな声を上げた。

 

 『ああん! 骨の中に入っちゃらめえ! 我はなにもしとらんぞい!』

 

 髑髏の幽霊に纏わりついているロゼさんが何故か骨の隙間へと入り込んでいった。外側の解析が終わったから今度は中も調べ尽くすのだろうか。

 カタカタと骨が音を鳴らして、愉快な光景となっていた。幽霊だしこの世にはもう居ない存在なのだから、ロゼさんが髑髏の幽霊の中へ潜り込んでも問題ナシ。あれ、幽霊なのに触れられるのか。そういえば少し前に幽霊から妖精に近づいたとかなんとか言っていたので、肉体――正しい表現なのかは分からないが――が現れたのだろうと勝手に納得。

 

 「帝都で安穏と暮らし平和を享受できるのは夢物語となってしまう可能性があります。――皆さまに問いましょう!」

 

 帝国上層部の態度次第で戦端が開かれる可能性が高い。今回のアルバトロス側のトップは公爵さまなのだ。あの方がタダで済ませる訳はなく、舐めた態度を取るならばキッチリと締め上げる。あとこっちに攻め込んでいる形だから、守るべき民も居ないので遠慮がないはず。

 玉砕しても皇帝のタマを頂くぞ、とか言いそうなんだよね……。それに付き合わされる軍の人たちが可哀そうだけれど、何気に公爵さまに対する忠誠心が高い。

 ハイゼンベルグ公爵家当主という身分でありながら、貴族と平民を分けていないし面倒見が良いので慕う人が多いから。私もそんな公爵さまに恩があるので、裏切るなんてあり得ない。公爵さまが決めたというならば、帝国に牙を剝くだろう。

 

 「せ、聖王国の時より酷い脅しのような……」

 

 「え、ミナーヴァ子爵は貴女も脅したのですか?」

 

 フィーネさまがぼそりと呟いた声をメンガーさまがきっちりと拾ったようだ。脅したとは失礼な。覚悟を問うただけである。そしてフィーネさまは見事に応えて、聖王国を正常な道に戻した功労者なんだからもっと自信を持てば良いのに。フィーネさまがメンガーさまに聖王国で起こった事の経緯を解説しているけれど、何も聞こえないフリをしておこう。

 

 「第一皇子殿下の態度次第で帝都は火の海に包まれましょう!」

 

 黄金の鎧に気の強そうな金髪紅眼だし、態度も大きかったものなあ。会談の場に同席すれば公爵さまに喧嘩を吹っ掛けそうだし、公爵さまも使者の件から腹に据えかねているから二束三文で買うだろう。

 しかも公爵さまの後ろにはディアンさまにダリア姉さんとアイリス姉さんとお婆さまが控えているのだ。……私でも怖いなあと遠い目になる。これで副団長さまも追加されれば更にカオスだ。上手く執成さないと本気でこの場所が火の海になるから、割と本気で煽っておかないと。

 

 ――この難局をどう乗り越えますか?

 

 本当、どう乗り越えようか。帝都の皆さまが皇宮を取り囲み、事の次第を訴えてくれると一番良いのだけれど。聡い人ならば第一皇子殿下たちに罪を被せれば、帝都壊滅は避けられると気が付くだろう。

 

 『やり過ぎじゃないかなあ?』

 

 「でも、また召喚儀式とか執り行われても困るから」

 

 一度あったことは二度、三度と繰り返されそうだ。歴史は繰り返すとか言うし、第一皇子殿下のような人が居ないとは限らないからねえ。

 

 『ジークとリンはナイを止めなくて良いの?』

 

 私を止められそうにないと悟ったクロはジークとリンへ問いかけるけれど、二人が私の行動を止めることは早々ないから。人選間違えたねえと苦笑しつつ、二人の言葉を待つ。

 

 「俺はナイの護衛騎士です。彼女が望むことを後ろで護るのが騎士でしょう。もちろん、間違えた選択を取るというならば止めますが」

 

 「ナイは間違った選択なんて取らないから。だから私はナイに付いて行くだけ」

 

 『君たちも随分と染められているねえ』

 

 ジークとリンは私に対して甘いから。過ごした時間がそうさせたのかも知れないが後悔なんてしていない。これが私たち三人、いや五人の関係性だから。認めてくれなくても良いけれど、放っておいてくれさえすれば良いのだ。メンガーさまとフィーネさまに許可を頂いて、改めて皇宮を目指すのだった。

 

 ◇

 

 ――皇宮をもう一度目指す。

 

 クロの話だと、本隊の到着はお昼くらいになるんじゃないかと。陽は随分と昇り、この感覚だと午前九時くらいだろうか。

 開店時間が早いお店だと既に商売を始めている所もある。クロが飛んできたことで、お店は臨時休業なのかなと考えていたけれど、帝都の皆さんも生活がある故か商魂逞しいようだった。ただ私たちの後ろを付いて来ている人たちは不安だらけなんだろうなあ。中央広場で煽り捲った末に帝都が火の海に包まれると脅したから。

 

 本隊到着まで時間はあるのでゆっくりと目指すことになった私たち一行。ヒロインちゃんが居ることをジークとリンが遅れて認識したけれど、黙ったままだった。ちょっと怖いから何かコメントを頂きたい所だけれど、聞いたところで不快な気持ちにしかならないだろうと止めた。

 

 クロとヴァナルには銀髪くんに縁があるはずなのだけれど、大して気にはしていないようだ。まあ、ヴァナルは銀髪くんにおしっこを引っ掛けて気は済んだようだけれど、縄を噛んで引っ張ってくれている。

 ロゼさんの話では軽量化の魔術を解いても大丈夫らしいが、ヴァナルに負担が掛かるのでそのままだ。クロは亜人連合国の方々に任せるのだろう。クロ本人よりも厳しい処罰になるのは確定だろうから。

 

 『ねえ、どうしてフィーネやエーリヒも一緒に召喚されたの?』

 

 やはりそこに辿り着くよね。帝国が狙ったのは黒髪黒目の者。なら、黒髪黒目でない彼らが召ばれた理由に疑問を持つのは当然で。ヒロインちゃんと銀髪くんにも向けるべき疑問だけれど、相手にすると面倒なことになるだけなので、お二人だけに問いかけた方が正解だろう。

 

 「どう説明すれば良いかな……私は経緯を話しても問題ないんだけれど、フィーネさまやメンガーさまにも都合があるだろうし……」

 

 振り返って問いかけると彼と彼女はうんと頷くしかないからなあ。

 

 『側に居て巻き込まれた訳ではないんだのう』

 

 私たちを最初に脅して逃げた先でカミングアウトすることになったのだけれど、髑髏の幽霊は聞いていなかったのか。ちなみに髑髏の馬に乗って移動している。ロゼさんは髑髏の馬にも興味を示して、体を這いずっている。少し前は馬の顔を再現していた。擬態の一種だろうけれど、何をしているのやら。

 幽霊は自分で歩く気はないらしい。元王さまだから当然かという気持ちと自分の足で歩けば良いのにという気持ちが私の中でせめぎ合っているけれど口にしたら負けだ。我慢我慢と唱えつつ、私も皇宮を目指しつつ話を続けようかどうか悩む。

 

 「私は構いませんよ。皆さんに露見したとしても、何か変わってしまうとは考え辛いですから」

 

 強くなったなあ、フィーネさま。出会った頃なら尻込みして悩んでいただろうに。私は転生者であることがバレてしまっても、幼馴染組に拒否されなければ問題はなかった。本当は彼らに最初に打ち明けるべきだけれど、流石に思い通りには事は運ばないらしい。

 

 あとでクレイグとサフィールにも打ち明けないとね。クレイグは嘘だろと言って叫びそうだし、サフィールは目を丸くして驚きつつも受け入れてくれるだろう。ジークとリンも何だかんだで受け入れてくれるはず。予定は狂ってしまったが、幼馴染組で話す時にきちんと向き合わないとね。子供らしくなかったから違和感は抱えていたかもしれないが、生き残る為に黙って付いて来てくれたもんなあ……。

 

 「俺は伯爵家の子息に過ぎませんし、大聖女さまや黒髪の聖女さまより影響力は低いですから。問題はありません」

 

 メンガーさまも話して大丈夫なようだ。おそらくご両親にも話していないのだろう。転生者であることを受け入れるのは並大抵じゃあ出来ないだろうし、下手をすれば家を追い出される可能性もある。

 サバイバル技術に自信があるなら問題ないかもしれないが、魔物も居るこの世界で成人もしていない若者が急に外の世界に放り出されれば困る。元々貧民街生まれとかならば仕方ないけれど、彼の今生はお貴族さまなのだから。

 

 『そんなに卑下しちゃ駄目だよ。挨拶もちゃんと済んだし、仲良くしよう?』

 

 クロが体を捻ってメンガーさまへと顔を向け、声を掛けている。

 

 「……ありがとうございます」

 

 私も後ろを振り向いて、メンガーさまに向かってひとつ頷くと、彼の隣を歩いているフィーネさまも頷いていた。意味がちゃんと伝わるかは分からないけれど、同じ転生者同士仲良くできれば良い。性別の差があるので中々難しいかもしれないけれど、お貴族さまとしてならある程度の交流は持てるだろう。

 

 『――で、どうして黒髪黒目でないのに召喚されたんじゃ?』

 

 空気を読めよと言いたくなるのを我慢した私は偉い。確かに脱線気味だったし、話の本筋に戻ったのは有難い事だけれど髑髏の幽霊から意見を言われたのがなんだか腑に落ちない。

 でもまあ聞き出されるのは時間の問題だから、今言おうが後に告げようが同じだろう。メンガーさまとフィーネさまに顔を向けて、大丈夫かと無言で問うと確りと頷く二人。

 

 「私たちには前世の記憶があるんだ。で、生まれ故郷の特徴が黒髪黒目なんだよね」

 

 私は奇しくも同じ黒髪黒目に生まれで、召還の際には最も誘引されやすかったんだろうけれど。メンガーさまとフィーネさまにあの二人まで引き寄せられたのは、本当に不思議。魔術の術式に日本人が呼ばれる要素があれば、少しは納得できるかもしれないが今はまだ謎に包まれたままだ。

 

 『へえ』

 

 『おお!』

 

 『マスター凄い!』

 

 クロが真っ先に声にして、髑髏の幽霊が感嘆の声を上げ、ロゼさんは何故褒め称えているのだろうか。人ならざる者たちからは嫌悪感や疑問はあまりないようだった。

 

 「は?」

 

 「え?」

 

 ジークとリンが若干戸惑いつつ、声を上げた。こっちの反応が普通だよね。いきなり転生者だと告げても、直ぐに納得は出来ないだろう。二人に教えたということは確実にアルバトロス上層部には知れ渡ることになるだろう。私も隠すべきことでもないと考えているから問題ないけれど、メンガーさまは大丈夫だろうか。

 

 聖王国で大聖女という身分にあるフィーネさまならば身の安全は確保出来るけれど、伯爵家令息でしかない彼の身は大丈夫だろうか。物珍しさに彼を攫う人物が現れないとも限らないから、報告書には警備体制の話も付け加えておいた方が良さそう。

 メンガーさまに前世での専門的な知識があれば、こちらの世界で役に立つ可能性は大いにある。そういう物を狙う輩も居そうだし、学校で学んだことや働き先をそれとなく聞いておくべきだったなあ。失敗したと反省しつつ、これも報告案件だと頭に刻み付けておく。

 

 「ジーク、リン。今まで黙っていてごめん。私が前から小賢しかったのは前世の記憶があるからなんだ」

 

 貧民街の酷い環境下で生き抜けたのは前世で生きていた知識があったから。なければあの場所で私は早々に命を失っていただろう。ゲームが舞台とかあまり考えたくないけれど、本来は生きていないキャラだったのだろうなあ。

 

 「気にするなとは言えないが、俺たちが生き抜けたのはお前のお陰だ」

 

 「責める気なんてないよ?」

 

 「ありがと。詳しい話はまた家に戻って話すね」

 

 メンガーさまとフィーネさまに語っていないことはまだある。その部分は個人的なことなので言わなかっただけだ。ただ幼馴染組やクロたちには話しておきたいから。

 

 『じゃあみんなは黒髪黒目繋がりだったのか』

 

 クロが大きくなった体を捻って、メンガーさまとフィーネさまに視線を向けると二人は頷いた。覚悟は決まっているようで、誤魔化す気もないようだ。

 

 『マスター。ロゼ、術式に興味ある! 調べて良い?』

 

 「帝国から許可が下りて副団長さまと一緒なら良いよ。副団長さまに協力してあげてね、ロゼさん」

 

 副団長さまと一緒だと暴走するけれど、確実に調べ上げてくれそうだしアルバトロスの魔術師も加わるだろう。

 

 『分かった!』

 

 中央広場から移動すること一時間強。アルバトロスからの本隊到着の時間もあと少し。

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