魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0221:帝都の空を竜が覆う。

 ――皇宮に着いた。

 

 そういえばご飯を全く食べていないのだけれど、我慢するしかない。途中で屋台でもあれば良かったのだが、まだ開いていなかったので諦めた。

 私たち一行の後ろを付けている帝都の皆さんは、皇宮に辿り着いたのは良いものの何をすべきなのかは分からないようだ。

 煽って第一皇子殿下の所業を責め立てて頂いても良いのだけれど、これは帝都の皆さまが気付いて自ら実行すべきことなので手は出さない。

 

 「うーん……皇宮に戻るより、魔石を壊す為の旅に出た方が良かったかもしれない」

 

 外に出る為の装備や荷物を用意できていないので、諦めるしかないけれど。

 おそらく帝都には皇宮の格納庫に納められていた飛空艇しかないはず。他にあるとすれば重要都市か空軍基地のような所に飛空艇があるのだろう。

 もう皇宮に来ちゃったし、本隊の到着までいくらも時間はない。なら皇宮周辺をウロウロするか、一所で待機するか、ウーノさまと接触を図るかのどれかになる。

 心残りは格納されていた飛空艇三十隻の内、二十隻分の魔石しか壊せなかったことだから、再度侵入して壊したい……けれど、そうなるとやり過ぎになるから駄目だ。

 

 『ナイ、どこまで帝国を追い込む気なの?』

 

 「私に手を出すのを諦めるまで。黒髪黒目を召喚する為に、また儀式を執り行われても困るから、そっちの欲も消しておきたいかなあ」

 

 いい加減にして欲しいよねえ。自分たちの都合で召びだしておいて、自分たちの都合の良いように使われるのだから。

 意識のない人形ならば問題ないけれど、召還されたのは人間で自分で考える力がある。夢や将来進む道にやりたいことがある人ならば、迷惑極まりない話だ。

 だからこそ召喚儀式の鍵となる巨大魔石を壊しておきたい。

 第一皇子殿下の巨大魔石を五つも使って呼び寄せたという言葉が、儀式に必要な物だと言っているようなものだし。

 ただ帝国全土でどのくらいの数があるか分からない。

 むやみやたらと歩き回るよりも、ハイゼンベルグ公爵さまに丸投げして約束を取り付けた方が楽なんだよね。

 次にやったら今度こそ帝国を潰すとかなんとか脅して貰って。

 

 「ま、まだヤル気なのか……」

 

 「徹底的に潰すようですね……」

 

 『……末恐ろしいのう』

 

 メンガーさまとフィーネさまに幽霊が何か言っているけれど気にしない。

 今回は容赦はしないと決めてあるけれど、そろそろ時間が近づいているのでこれ以上は無理だろう。

 やはり皇宮を目指すんじゃなく、帝都の外を目指すべきだった。考えが甘かったかと反省しつつ、ウーノさまとの接触を諦めてこの場で時間を潰すことを決めた。

 

 「ナイ、公爵さまを待つのは良いがどうやって合流する?」

 

 「何にも考えてなかった。真っ先に公爵さまがやりそうなのは、アルバトロスの黒髪黒目は居ないかという問い合わせだろうから――」

 

 クロが大きくなったので乗せて飛んで貰うことも出来るだろうけれど、七人とスライムさんとフェンリルを乗せなきゃならなくなる。

 重いだろうから無茶は言えない。

 

 「それなら街の中に入ってこないか」

 

 「入れないが正解かな。無理矢理に押し入って家探しなんて出来ないでしょ」

 

 流石に竜と人間の混合軍勢が帝都の中に入っては問題がありまくり。戦争まっしぐらだし、一方的な蹂躙にしかならない気がするから、アルバトロス的には問題ないけれど今後を考えると面倒だ。

 話が通じず武力で押し通す国と勘違いされても……あれ、困らないかもしれない。ま、まあいいや。とりあえず、印象大事。気性の荒い国だと意識付いても迷惑な話。

 

 帝国側も勝手に領土侵犯するなと主張するだろうけれど、貴国の使者が我が国にも同じことをやり、アルバトロスもアガレスの流儀に倣っただけと突っぱねれば文句は言えまい。

 先に威圧的な外交手段を取ったのはアガレスなのだから。ウーノさまの話だと皇帝を適当に丸め込んで、第一皇子殿下が使者をアルバトロスへ向かわせたそうだ。

 黒髪黒目を探す為に褐色の奴隷を放ったのも、第一皇子殿下一派。なんだか役満になっていっているけれど、無能が一掃されるならそれでいいか。

 アルバトロスや周辺国が平和ならば、私の仕事も減るだろうし。

 

 「公爵さまならやりそうだがな」

 

 ジークが小さく笑いつつも周囲に気を配っていると、手を剣の柄に添えたその時。

 

 「黒髪黒目のお方、お願いがあります! 我が子の怪我を治して頂きたい!」

 

 人垣をかき分けて一組の夫婦がこちらへとやって来た。父親が抱えている子供の足が腫れているので、病気じゃない限りは骨折だろうか。

 添え木がされているけれど治るまでには時間が掛かるだろうし、子供は痛みを耐えている状態。痛み止めの薬なんて、凄く高価な代物か存在していないかのどちらかだろう。

 

 「黒髪黒目のお方には不思議な力が宿っているとお聞きします。言伝えでは怪我や病気も治してくれたと! ですから、ですからっ! 我が子の怪我を……!」

 

 頭を下げて必死な声で母親が訴える。これで黒髪黒目の人間が治せないとか治すことをしなければ、信仰度合いが下がりそうだけれど。

 子供のあの様子は不味いなあ。怪我を負っていれば感染症とかも心配になってくる。

 

 「ナイさま、あの子は早く魔術を施すべきですが……」

 

 聖王国の大聖女であるフィーネさまも子供の状態に気付いたようだ。見立ては同じようだし、更に逃げる訳にはいかなくなった。

 

 「少し、この場で待って頂けますか?」

 

 治癒してくれず子供が死んだなんて耳にすれば寝覚めが悪い。メンガーさまとフィーネさまは私の言葉に頷いてくれたので、仕方ないと親子の下へと歩き始めるとジークとリンも一緒に付いてくるし、クロとロゼさんとヴァナルもだった。

 フィーネさまとメンガーさまに例の二人が居る場所には、防御魔術を施したので周囲から襲われたとしても弾かれる。

 

 「わたくしはアルバトロス王国で聖女を務めております。ナイ・ミナーヴァ子爵です」

 

 悠長に自己紹介何てしている場合でもないけれど、所属は大事。ご両親に意識を植え付ける為、ワザとやっているのもある。個人情報という考えがまだない世界だし、名前は勝手に知れ渡っているようなので今更だった。

 

 「ではっ! では、子供の怪我を治して頂けるのですね!?」

 

 アルバトロスの聖女はなにも無償奉仕を標榜している訳ではない。仕事としての側面が強く職業の一つだ。

 

 「お金、もしくはお金に準ずるものを頂くことになりますが、宜しいでしょうか?」

 

 周りに居る人たちが金を取るのか、聖女なのにとか疑問を呈しているけれど、私は帝国に所属している黒髪黒目ではないし、本来ならば子供を治す義理もない。

 酷い話ではあるが、他国の人間なのだから放っておくのが普通だろう。慈悲深い人ならば何も考えずに治癒を施しただろうが、それを行えば後が怖いし。やれ病気を治してくれ、怪我を、何かをと強請られるのがオチ。

 

 「……我が子の命には代えられません! いくらでも請求なさって下さい! 俺が一生を掛けてでも返してみせますっ!!」

 

 父親がそう叫ぶと母親も一緒に声を上げた。ならやることは一つ。子供を寝かせて貰って患部をみると、割と酷い事になっていた。何をしてこうなったのかは分からないけれど、子供の行動は突拍子もないからなあ。想像付かないことをやってのけて、怪我を負ったのだろう。

 

 「――"君よ陽の唄を聴け""光よ彼の者に注ぎ給え""安らぎと平穏を"」

 

 状態が酷いので通常唱える治癒魔術よりも一節分増やしておいた。後は解熱やら痛み止めやらの効果がある魔術も掛けておく。

 

 「まだきちんと治った訳ではありません。無茶をすればまた再発してしまいます。五日間ほどは安静に」

 

 子供だと無理な注文だが、そこは両親が管理して頂くしかない。魔術を施して少し時間が経つと子供の顔色が随分と良くなってきた。ご両親もその姿に安堵したようで、胸を撫で下ろしている。

 

 ――ぐるるるるるるるる……。

 

 あー。魔力を使い過ぎて、お腹も限界かあ。割と酷い音が鳴ったけれど仕方ないよねえ。

 

 「あ、あの食事を摂られていないのですか?」

 

 「丸一日食べていませんね」

 

 思い出したくなかったのに。こっちに来てから全く食べていないんだよね。

 

 「では我が家で食べませんか? 大したものは出せませんが、食堂を経営しているので、腹を満たすことくらいはできます」

 

 私もだけれど、メンガーさまとフィーネさまも同じ状況だ。夫婦のご厚意に甘えるかと、ジークとリンに振り返ると好きにすればいいという視線で答えてくれた。ならあとはお二人に許可を取るだけだなあと、彼らの下へ歩く私だった。

 

 ◇

 

 食堂を開いているという夫婦の言葉に甘えて、ご飯を頂けることとなった。街の商業区から皇宮までは距離があるというのに、子供を連れてこられたのは馬車でやって来たみたい。

 ただ七人とご夫婦と子供が乗って馬車を動かすとなると、馬にかなりの負担がかかる。クロが馬車を引っ張ることを提案してくれたが、目立つこと極まりない。どうしたものかなと考えているとロゼさんが転移で街中まで戻ることが出来ると言った。

 

 ――聞いてないよ!

 

 ロゼさんが転移魔術を使えるなんて。副団長さまも副団長さまである。ロゼさんをどこまで凄いスライムさんへと成長させる気なのだろうか。私が使えないから有難くはあるけれど、どんどんロゼさんがスライムという概念から外れていくことに心配を隠せない。

 

 「黒髪黒目のお方、どうされますか?」

 

 旦那さんに問われてはっと意識が戻る。そうだご飯を頂けることになるんだった。決戦前だし、気合と集中力を高める為に腹ごしらえは必要である。

 

 「申し訳ありません、わたくしたちは転移で街中へ戻ろうかと」

 

 ロゼさんは一度行った場所でないと転移が不可能らしい。だから皇宮から中央広場へと戻る予定だ。旦那さんにお店の名前と大体の場所を聞くと、都合よく中央広場の近くに店を構えているそうだ。

 労働者階級の人たちに人気のお店なので、貴族である私たちには申し訳ないが腹を満たすことくらいは出来るからと。三人とも元日本人の普通の感覚の持ち主なので問題ないし、ジークとリンも今はお貴族さまだけれど元は孤児。泥水を啜ってでも生き抜いてきたのだから、街中の食堂でも何の問題はない。ただ夫婦はその事実を知らないので、恐縮してばかりだが。

 

 「では俺たちは先に行きます。転移の方が早いでしょうから」

 

 帝国では魔術が廃れて久しいというのに案外あっさりと受け入れられ、いそいそと夫婦は馬車へ乗り込んで出発した。これで良いのかアガレス帝国と訝しんでいると、髑髏の幽霊が声を上げた。

 

 『廃れたは廃れたが魔術師は存在しておるし、黒髪黒目伝承で魔術があることは平民の間でも知られておるからのう』

 

 アンバランスだなあ。なんだか恣意的なものを感じる。科学技術が発展していないから、魔術って割と欠かせないものなのだけれど。まさかワザと魔術を廃れさせたとか言わないよね。東大陸の人たちが有する魔力が低くて、魔術を行使するまでに至れないだけ。

 

 『死んでから分かったが、巨大魔石の所為で地上の魔素が随分と減っておる。廃れたのはその所為だろうて! いやはや困った困った!』

 

 フィーネさまの話によると、巨大魔石が溜め込んだ魔素を利用して飛空艇を動かしているそうだ。昔の遺跡から発見されたものを使っているようで、当時に飛空艇を考えた人たちは凄いよねえ。私たちより技術や知識があった証拠だし、文明とか栄えていたのかも。美味しいものも絶対にあったんだろうなあ。良いなあと考えていると、またお腹が鳴った。

 

 『ナイ、大丈夫?』

 

 「大丈夫。二、三日食べることが出来ないのはザラだったしね。ここ最近は料理長さんの作るご飯が美味しくて仕方ないから、空腹も苦じゃなかったけれど流石に丸一日食べていないのはキツいね」

 

 孤児時代は本当に食べることに特化していたよねえ。食べ物を手に入れることが最大目標で手を尽くしていた。欠食児童だったから、今の私がちんまいのも仕方ないのだ。クロはアルバトロスから帝国へ向かうことになって、随分と無茶したようだけれど大丈夫なのと問い返す。

 

 『ボクは平気。ただちょっと今まで貯めてた魔力を消費しちゃったから、取り戻したい気持ちはあるかも』

 

 「落ち着いたらクロに魔力を渡すよ。お迎えありがとう」

 

 『どういたしまして』

 

 ロゼさんとヴァナルにも感謝しなきゃねえ。もちろんアルバトロスと亜人連合の皆さんにも。ジークやリン、ソフィーアさまとセレスティアさまにもだし、クレイグとサフィールも心配しているだろう。子爵邸で働く人たちも少しくらいは案じてくれているだろうか。戻ったらお礼を沢山言わないとなあと、心に誓う。

 

 『マスター、行こう?』

 

 「そうだね。ロゼさん、よろしくお願いします」

 

 髑髏の馬から離れたロゼさんは、私の足元でちょこんと丸くなっている。ヴァナルも銀髪くんへ悪戯していたのだけれど、飽きたのかこちらへと戻っていた。

 みんなで一塊になってロゼさんの転移魔術陣の上に乗った。クロの尻尾が陣から出ていたので、丸めて貰って準備は整った。魔力の光が立ち込めて私たちを包み込むと、その数秒後には中央広場へと転移していたのだった。

 

 転移と馬車では移動速度は全然違う。観光がてらに街中をうろついてみようとなるのだけれど、フィーネさまとメンガーさまは不安顔。襲ってくる人が居れば真っ先にジークとリンが気付くし、何かしらの隠蔽をしていてもクロとロゼさんとヴァナルが気付いてくれる。

 

 銀髪くんはヴァナルが例のフェンリルと気が付いたようだし、ヒロインちゃんも感づいている。フィーネさまとメンガーさま曰く、ゲーム一期の主人公は前足に傷が残ったフェンリルを使い魔にしたんだとか。

 ああ、それで合同訓練の時に狂ったフェンリルの前へと飛び出したのかと納得。馬鹿なことをしたもんだねえと、ヒロインちゃんを見るけれど自由を失っているので今更どうこう出来ない。ジークに粉を掛けようとしたけれど、喋りかけるなと一蹴されているし。

 

 時間はお昼前。巨大な竜が帝都の空を飛んだというのに、日常の光景が帝都の街に広がっていた。帝都のお金は持っていないし両替屋か質屋が見つかれば良いのだけれど。お金があれば買い物ができるし、クロやヴァナルが食べる果物も買えるようになるから現金が欲しい。

 

 『これを使うとよいぞ! 黒髪黒目の者は怖いからエーリヒ少年に渡しておく!』

 

 転移の際には何故か体を消して本当にしゃれこうべだけになって、メンガーさまに抱えられていた。メンガーさまは髑髏の幽霊に良いように使われていないかなと疑問が湧いたけれど、聞かないことにしたのだ。

 なんだか苦労人の気配が漂ってきているし、触れない方が幸せだろう。古い硬貨だけれど、ちゃんと価値はあるんだって。幽霊なのにお金を持っているってどういう事だろうと疑問に思うが気にしたら負け。どこかから拾ってきたのかも知れないし、真相は闇の中で十分だ。

 

 「ど、どうも」

 

 微妙な顔を浮かべてメンガーさまが小袋を受け取った。使ったお金はあとでキッチリ返すとして、とりあえず飲み物でもと屋台に突撃。次に果物屋さんに、先ほどの夫婦の子供へのお土産とクロとヴァナルのご飯を仕入れて食堂を目指す。小さなお店だけれど、中は綺麗だし何の問題はなかった。

 

 帝国の定番の料理と説明されて、口を付けると美味しかった。アルバトロスとは方向性の違う味で、似て非なるものだった。でもこっちの味付けはちょっと塩気が強いかも。

 食堂の夫婦に治癒代の説明と、今回頂いたご飯代――雀の涙程度しか引かれないだろうけれど――はそこから引いておきますねと伝え。あとウーノさまに食堂の方たちの保護か監視をお願いしないと。変なのに絡まれそうだし、せっかく治したのに家庭崩壊とか洒落にならないから。

 

 「おい、空を見ろ!」

 

 「またドラゴンが現れた! なんでこんなことに……!!」

 

 今度は一頭だけじゃなくて、大小合わせて様々なサイズの竜が帝都の空を埋め尽くしているのだから、現れた理由を知らなければ怖いだろうなあ。ご飯を頂いたお礼に食堂の夫婦には、私を迎えに来ただけなので落ち着いてくださいねと伝えて食堂を出る。

 

 「さて、公爵さまたちと合流しようか」

 

 事情説明や公爵さまの考えに亜人連合国の考えも聞かないといけないだろうし。食堂の外に出て私はここに居ますよと魔力を練るのだった。

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