魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0222:本隊に合流。

 ――お腹も膨れて満足。

 

 食堂でご飯をご馳走になって、外に出ると竜の大群が帝都の空を埋め尽くしていた。

 

 以前は空を飛んでいる側だったから凄いなあくらいの感覚だったけれど、立場が逆になると結構怖い状況だな、コレ。サイズの大きい竜は陽を遮って影になるし、小型の竜と言えど人間一人相手をするくらい些末なことで。中型の竜も交じって居るうえに、竜の背中からワイバーンが飛び立つ所も捉えてしまった。

 公爵さまかディアンさまが考えたのか知らないけれど、恐怖演出が凄い。帝都に居る人たちは恐れおののいて尻餅を付いていたり、頭を抱えてしゃがみ込んでいる人も。子供は呑気なのか凄いと空を見上げながら、危ないから家の中へ入りなさいと親に怒られていた。

 

 「凄い騒ぎだね」

 

 はえーと空を見上げていた私は、帝都の状況を見て言葉を口にする。阿鼻叫喚の縮図とまではいかないけれど、帝都の皆さんは顔面蒼白状態。

 一応、私を迎えに竜の大群が来るとは告げてあるが、全員が全員知っている訳でもないので、知らない人はこうして驚いていた。

 

 「だな」

 

 「ね」

 

 ジークとリンが短く言葉を返してくれた。私を攫ったことを根に持っているのだろうか。あまり気にした様子はなく、周囲の警戒を重視している。

 

 「あ、あの! 良いんですか? 皆さん、凄く怖がっていますが……」

 

 「ええ。この状況をどうにかしなくても良いのでしょうか?」

 

 フィーネさまとメンガ―さまが少し驚きながら私に問いかけた。どうにもならないし、どうすることもできないので放置が一番だ。アルバトロスや亜人連合国と聖王国に喧嘩を売れば、こうなるよという見本でもあるのだから。

 帝都の人たちが悪いわけではなく、第一皇子殿下一派が執り行った召喚儀式が原因だから帝都の街に住む人たちを気にするのは分かる。

 

 「どうにもならないので無視します」

 

 うわあ……とドン引くメンガーさまとフィーネさま。気持ちは理解できるけれど仕方なく、流石にこれだけの人数の混乱を鎮めるのは大変。今頃は皇宮の人たちも驚いているんだろうなあ。どう対処しようかとも悩んでいるだろうし。

 公爵さまはこれからどうするのだろうかと、空を見上げていると小型の竜がこちらへやってくる。待っていると静かに降り立って、口に咥えた手紙を私へと差し出した。

 

 『ハイゼンベルグ公爵からだって』

 

 クロが小型の竜の代わりに答えてくれた。

 

 「ありがとう」

 

 小型の竜の顔を撫でて手紙を受け取って、手で破って開封した。こういうものは早く読んだ方が良いので、お行儀が悪いけれど仕方ない。手紙の内容は帝都の外で待機すると書かれており、来れるようならこちらへ来いとも。おそらく何パターンかの手紙を用意しておいたのだろう。

 封筒の端には番号が振られており、直面した事態で渡す手紙を選ぶことが出来るように。最悪の事態は私が死んでいたり怪我を負っていた場合だったのだろう。そうなると一瞬にして帝都は火の海に包まれ、数日後には焼野原となっていそうだと苦笑い。

 

 「紙と筆があれば良いけれど……持っていないからなあ」

 

 「ナイ」

 

 「どうしてジークが?」

 

 ジークから手渡されたのは、私が先ほど言葉にした紙と筆記用具だった。筆や紙が高価そうなので、ジークの持ち物じゃないなあと首を傾げる。

 

 「ヴァイセンベルグ嬢が、戦場での連絡手段は富んでいる方が良いと言って渡された」

 

 「そっか」

 

 セレスティアさま、この場が既に戦場の認識らしい。間違ってはいないけれど、外交手段でどうにかする方を先に想定してください。

 彼女も最悪の状況を考えた上でジークへ荷物を預けたのだろうが、思考が好戦的過ぎやしませんかね……。人の事は言えないか。受け取った紙には『帝都で暴れておいたので心配なさらず。とりあえずそちらへ合流しますね』と書き記して、小型の竜に咥えて貰う。

 

 「お願いします」

 

 竜の顔を撫でると、翼を広げて上空へと舞い上がっていく。見守っていると竜は大型の竜の上に乗ったようだ。暫く待っていると竜の大群は同じ方向へと体を向けて、帝都の空から移動をし始めた。

 

 「ロゼさんの転移は一度行った場所じゃないと飛べないしね」

 

 転移を私が完璧に扱えていたら良かったけれど、残念ながらまだ未完成。

 

 『ごめんなさい、マスター……』

 

 べちょーとなったロゼさん。役に立てなかったことが悲しかったようだ。大丈夫だよと伝えて伸びたスライムの体を抱えると、元の丸みを帯びたスライムさんへと戻る。腕の中でロゼさんを何度か撫でていると、ご機嫌は少し回復したようだ。

 

 『ボクがみんなを乗せるよ。ちょっと狭いけれど我慢してね』

 

 七人乗せられるのだろうかと疑問になるけれど、クロが言い出したのだから安全は確保されているだろう。

 

 『わふ!』

 

 縄を咥えたままで一鳴きしたヴァナルが尻尾を思いっきり振りながら、私の顔を見上げていた。

 

 「どうしたのヴァナル?」

 

 何かを訴えるように、右前足を地面で搔きながら体を左右に揺らしつつ顔も上下に動かしている。どうしたのだろうと首を傾げると、ヴァナル専用通訳者であるロゼさんが声を上げた。

 

 『ヴァナルが大きくなって、この二人は背中に乗せて移動するって』

 

 「振り落とされるんじゃあ……」

 

 振り落とされて置き去りでも良いんだけれど、ヒロインちゃんは確保しておかないと。皇帝への貢ぎ物になる可能性が捨てられない。上手く使えば彼女を手に入れる為に頭の一つや二つ下げてくれそうな勢いだったから。

 

 『拘束魔術をロゼが使う!』

 

 そんな魔術存在していたのか。本当に副団長さまはロゼさんにいろんなことを仕込んだなあ。ロゼさん本人にやる気があったのも理由の一つだろうけれど。ヴァナルが立ち上がると三メートルくらいの大きさになった。軽量化の魔術を施している銀髪くんをロゼさんがぴょんと一緒に飛び、体を勢いよく伸ばしてヴァナルの背中へ乗せた。

 

 ぐへ、と妙な声が漏れていた気がするけれど気にしない。次にヒロインちゃんをぶっ飛ばして、ヴァナルの背に乗せたあと、術式を発動させて胴回りに縛り上げた。

 これってヴァナルが帝都の街中を駆けることになるんだよね。衝撃吸収なんて便利なものはないし、帝都の外壁を飛び越えることになるんだけれど、下手なジェットコースターより怖いのでは。メンガーさまとフィーネさまが、凄く哀れみの視線を向けているけれど気にしないことにした。

 

 「ナイ、俺とメンガーさまもヴァナルの方へ乗る」

 

 あー流石に女性陣に挟まれるのはいろいろと不都合があるか。フィーネさまがいらっしゃるので、ジークも問題があると判断したのだろう。ヒロインちゃんは犯罪者で女性ではないという考え。

 

 「大丈夫?」

 

 「ああ。ロゼの拘束魔術に掴まっておけば問題ない」

 

 「……え?」

 

 騎士のジークと伯爵家子息でしかないメンガーさまだと体力差が大きいから自信がないのだろう。

 

 「メンガーさまは俺が支えます」

 

 「う、すみません。よろしくお願いします」

 

 『我を落とさんでくれよ、エーリヒ少年!」

 

 髑髏の幽霊はしゃれこうべのまま彼の腕の中で。善処しますと力なく答えたメンガーさま。諦めて大人しくヴァナルの背にいそいそと乗っている。

 

 「行こうか」

 

 問題は解決したし、そろそろ出発するべきだ。

 

 『みんな、そのまま乗って良いよ。鱗に覆われているから踏まれても痛くないからね』

 

 えへんとちょっと自慢気なクロの背に乗る。ディアンさまの背に乗った時や白竜さまの背に乗った時より狭いけれど、女三人乗れないことはない。体格順にロゼさん、私、フィーネさま、リンである。

 

 『女の子ばかりだし、急いでいないからゆっくり飛ぶね』

 

 翼を広げるとふわりと浮くクロの体。ヴァナルはゆっくりと歩き始めて加速した。帝都の空を飛んでいた竜の大群は外壁の東側へと消えていたから、そちらへ行くことになる。合流したらいの一番にごめんなさいと頭を下げなければと、帝都の街を見下ろしながらゆっくりと変わる景色を眺めていた。

 

 ◇

 

 ひえー……壮観だねえ。竜の皆さまが帝都の外に待機しているし、軍の皆さまが隊列を組んで待機している。竜騎兵隊の皆さまも居るので、かなりの数が帝都東側の空き地に集まっている。壁の上では帝国側の兵士の皆さんが慌てふためいているようで、上官らしき人が指さして命令を下しているようだ。

 

 地上を行くヴァナルは無事に壁の外へと出た。クロの背に乗って様子を伺っていたけれど、アクロバティックな動きをしていたしメンガーさまは平気だろうか。ジークが居るので振り落とされることはないけれど、乗り物酔いをしそうな勢いで動いていた。壁は勢いを付けて斜め方向に駆け上がって越えていたから怖かっただろう。

  

 ヴァナルが先に本隊との合流を果たしたのを見届けてから、クロはゆっくりと地上へと降りる為に高度を下げる。クロの到着に本隊の先頭に立っていた公爵さまが、片手をおでこの位置に当てて陽を遮って私たちを見上げている。

 

 隣にはディアンさまとダリアさまにアイリスさまが居るし、あの光っているのはお婆さまだろう。もう一人ディアンさまと同じ背の高さで角の生えた白いお方が居るけれど、もしかして白竜さまだろうか。人化した所は初めて見るので、後でちゃんと挨拶できるといいな。

 公爵さまの横には意外な人まで居るなし、なんだか見知ったアルバトロスの面々の顔もチラホラ控えている。

 

 『降りられる? もう少し屈む方が良さそうかなあ』

 

 地面へと辿り着いたクロが私たちに気を使ってくれると、一番最後方に居た彼女が口を開く。

 

 「大丈夫、私が先に降りるから」

 

 『ロゼも降りる!』

 

 リンがひょいとクロから身軽に降りて手を伸ばしてくれる。ぴょんと飛んだロゼさんが離れたので、両手が自由に使えるのでリンの手を掴むと、何故かひょいと抱えあげられて地面へと下ろされた。フィーネさまには普通に手を伸ばして、エスコートしただけ。扱いの差に解せぬと見守りつつ、ジークとメンガーさまとヴァナルがこちらへとやって来たと同時。

 

 「ナイっ!!」

 

 聞いたことのない大きな声で私の名が呼ばれ、声の主に顔を向けるとばふっと抱きしめられる。

 

 「良かった、無事だったんだなっ!」

 

 心底安堵したような声が届くけれど前が塞がれて真っ暗である。声で私を抱きしめたのは誰か分かるし問題はないけれど、胸の谷間に私の顔がジャストフィットしているが故に息苦しい。

 その上、抱きしめられた両腕に力がどんどん籠っていって、締め上げられているのだ。リンの考えなしの全力の抱擁よりマシだけれど、骨が軋む上に服の布が厚いのか息苦しくなっていく。

 

 こんなに心配されていたのが意外だと、見えない顔を思い浮かべる。彼女は自身の益の為に私の側に控えると言っていたけれど、それ以上のものを彼女は私へ思っていてくれたのだろうか。その気持ちが少しだけでもあるというなら、こんなに嬉しい事はないのかも。損得勘定で動くお貴族さまだし、私は彼女へ迷惑しか掛けていない。

 

 それでもこうして心配されていたのならば、一緒に居て良かった。でも、そろそろ酸欠になりそうなので、解放して欲しいなあ。このままあの世に行って、死因を告げられたとき凄く恥ずかしい。胸部で圧迫による窒息死だし。

 

 「ソフィーアさん、ナイが息を出来ていませんわ。そろそろ解放してくださいまし、子爵家当主を絞め殺したとなれば問題でございましょう」

 

 「む? ――ああ、すまないっ! 大丈夫か?」

 

 慌てて私の肩を掴んで解放してくれたソフィーアさま。もう少しでお空の上を駆け登っていたなあ。

 

 「大丈夫です」

 

 リンで慣れていますからとは言えず。

 

 「帝国で何もされていないなっ!?」

 

 「されていません、むしろ私が暴れまわっていましたから」

 

 命の危機がリンの抱きしめとソフィーアさまの抱擁とは言い出せない。彼女を安心させる為に冗談吹かして私の方が何かしていたと伝えると、ソフィーアさまは長い息をひとつ吐いた。

 

 「ナイが無事で良かったですわ。で、どうしてヴァナルが大きくなっているのかと、何故特進科のメンガー伯爵家子息と聖王国の大聖女さまがいらっしゃるのでございましょう? あとアレらも…………」

 

 セレスティアさまが私を心配しつつ状況を問うてきたんだけれど、最後の一言は二トーンくらい声が下がっている上に魔力を放出して威圧しているんだけれど。怖っ、怖っ、と恐怖を覚えつつ、私に向けられたものじゃないからいっかと開き直る。

 

 「そろそろ良いか?」

 

 かつん、と地面に杖を突いたハイゼンベルグ公爵さまが私に向き直りながら声を掛けた。一応、タイミングを見計らっていてくれたらしい。

 

 「状況を鑑みるに、ややこしい事になっていそうだな。……よく無事だった、ナイ」

 

 ふうと深い息を一度吐いた公爵さまに、私は向き直る。

 

 「閣下、この度は多大なご迷惑をお掛けいたしました」

 

 本隊の責任者である公爵さまに頭を下げた。本当は謝る必要なんてないのだけれど、こうした方が穏便に事を運べるので必要なことだ。嫌々動員されている人も居るだろうし、そんな状況で私が横柄な態度を取ればもっとやる気を失くしてしまう。

 

 「構わん。お前さんを拉致したアガレス帝国に責任があろう」

 

 杖を持ちあげて腕を組む公爵さま。やる気満々の公爵さまから少し視線を外すと、副団長さまに外務卿さまや宰相補佐さまが居たので、軽く頭を下げておく。この状況下でも仕事として付いてきたようだった。ということは政治的交渉も視野に入れていたのだろう。副団長さまは、荒事に陥った際の火力としてだろう。

 

 「邪魔をする。――無事だったか、良かった」

 

 帝都の空に巨大な黒竜が飛んでいたので、ディアンさまだろうと踏んでいた。いつの間にか人化していたようで私の下へやって来ると、他に人影が三つ。

 

 「ナイちゃん!」

 

 「ナイちゃん~! 心配したんだよう。無事でよかったあ」

 

 ばふっとダリア姉さんとアイリス姉さんに両方から抱きしめられる。

 

『何をやっているんだか』

 

 ぱっと光ってお婆さまが現れた。こっちの大陸は魔素が薄いので節約なんだそうだ。無事でよかったと言いながら私の側に寄って肩の上に乗る。

 

 「ハンベルジャイトと申します。ベリルとお呼びください」

 

 白髪に白い角、赤い瞳の持ち主は白竜さまだそうで。人化した姿は初めてなので、名乗りを交わしたのだった。ちなみに正式な名前は、背をかがめて近づき私にだけ聞こえるように告げられた。

 

 「また恰好付けてる~」

 

 「本当にスカしているわね」

 

 ふんと鼻を鳴らすエルフのお姉さんズ。相変わらずだなあと苦笑いしながら、今回起こった事を、大雑把にこの場に居る人たちへ説明した。何故黒髪黒目でない聖王国の大聖女さまや、一介の伯爵家子息でしかないメンガーさまが巻き込まれた謎も、あの二人も一緒に召喚されたのかの謎も告げておいた。

 

 まさかそんなことがと驚くアルバトロスの面々に、可能性としてあるかもという考えの亜人連合国の皆さま。副団長さまはうっきうきの顔なので、戻ったら一悶着ありそうだと目を細めるが、今は対アガレス帝国の事が主題だろう。対応策を話し合っていると、騎馬隊の兵士がこちらへと駆けて来た。その数十名。アガレス帝国の者だと一目で分かった。

 

 「アルバトロスの軍勢とお見受けする! 私はアガレス帝国の使者である! 代表者との面会を望む!」

 

 私たちとは少し離れた場所で手綱を操り馬を止めて、名乗りを上げる隊長格の人。これから政治的なやり取りに入るけれど、私の横に立って不敵に笑う公爵さまに勝てる人は居るのだろうかと首を傾げるのだった。

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