魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
アガレス帝国からの使者の兵士は代表格の方を先頭にして、残りの九騎は後ろに控えている。
「アルバトロスの軍勢とお見受けする! 私はアガレス帝国の使者である! 代表者との面会を望む!」
竜の大群を見て訪れたのだから、決死の覚悟を持っての行動なのだろう。命令だとしても私は嫌だ。代表の皆さまは一体誰からの命でやって来たのだろうと、首を傾げる。皇帝やウーノさまの命であれば無難に決着がつきそうだが、第一皇子からの使者ならば碌な展開にならないかも。
第一皇子からの使者を許したならば、陛下やウーノさまも無能扱いになるけれど。彼の暴走を抑えられないなら、帝国なんて広大な国を治められるはずはない。
「アルバトロス王国代表! フランツ・ハイゼンベルグ公爵である!」
隊の先頭に立っていた公爵さまが、離れた場所でこちらの出方を伺う使者に向かって叫ぶ。大音声は野太いよく通るもので。公爵さまの顔は見えないけれど、にたりと笑っているに違いない。
「亜人連合国代表だ!」
信頼のない相手に名乗る文化のない亜人連合国。ディアンさまははっきりとした声で立場だけを相手に告げ。名乗る文化がないと知ったアガレス帝国側はどんな反応を見せるのだろうか。
無礼だとか言い始めたら、相手の国の文化を尊重できない国と言われることになる。東大陸では覇権を握っているから横柄な態度でも許されていたけれど、ちゃんとお使いできるかなあと公爵さまの背中とディアンさまの背を見た。
「さて、どうでる?」
「舐めた態度でしたらば閣下がお許しにならないでしょう」
ソフィーアさまとセレスティアさまが小声で相手の出方を伺っていた。とはいえ彼女たちは見ているだけが精々だ。
口を出す権利はなく私の側で控えているだけ。ただ高位貴族のご令嬢さまのお二人。怒っているので並の方なら怯んでしまうだろう。メンガーさまは苦手なようで、合流してからというもの居心地悪そうにしている。フィーネさまも周りに居る人たちに気を使っているようで、落ち着かなそうな雰囲気だった。
『しっかりせい。男であろうが!』
「いや、でも俺は何の権限もありませんよ?」
居心地悪そうにしているのは髑髏の幽霊の所為かも。しゃれこうべから元の姿に戻って、メンガーさまと漫才を繰り広げている。
『馬鹿をいう。巻き込まれたのだから帝国から金をふんだくってやるくらいの気概を持たんかい!』
「それは……俺の父親がやるべきことでは?」
『たしかまだ成人しとらなんだか。だが上り詰めるいい機会じゃぞ! しゃんとせんかい!』
お貴族さまなので将来を考えると慣れておいた方がいい気がするけれど、無理もないか。召喚されてから怒涛の一日だっただろうし、助かったという安堵もあるだろう。まあこの竜の大群の中で落ち着いていられるかどうかは疑問だけれど。
公爵さまとディアンさまの後ろに私。その後ろにはジークとリン。左隣にソフィーアさま、右隣にセレスティアさまが立っている。ダリア姉さんとアイリス姉さんも私の近くにいるし、白竜さまもといベリルさまも。
お婆さまは私の肩の上に乗ったままだ。彼女曰く、東大陸は魔素が薄いので私の側の方が居心地が良いんだって。体長五メートルほどのクロは、少し離れた場所で他の竜のみなさまに事情説明をしていた。怒りを露わにする方に、私の方を向いて何かしらを伝えようとする方様々である。
馬から降り、副官の人を連れて二人だけでこちらへとやってきた兵士の方。兜を脱いで脇に抱えて、公爵さまとディアンさまに頭を下げた。
「私はアガレス帝国近衛軍大隊長――」
どうやらアガレス帝国軍隊のお偉いさんのようだ。名乗った後、今回の出来事の件を詫びて会談の席を設けたいと申し出た。場所は皇宮、時間は二時間後、帝国側は皇帝陛下を始めとした第一皇子殿下陣に皇女殿下方が出席するんだとか。
第一皇子が居るならば場が荒れてしまいそうだけれど。その時はその時と割り切り、私たちも同席することになるんだろうか。また皇宮に行くのは面倒だけれど、公爵さまに来いと言われれば、はいと言うしかない。
「会談の場所はこの場で構わんよ。我々は小国の者、アガレス帝国帝都の皇宮に足を踏み入れる資格などなかろうて。皇帝陛下方にはそうお伝え願いたい」
「公爵殿の言う通りだな。我らが立ち入る訳にはいかんだろう」
公爵さま、以前の使者の件を根に持っているんだろうか。ディアンさまもディアンさまで、なんだか威圧的だし。所でこの場で会談を行うなら、帝国のお偉いさんたちが竜の皆さまに睨まれながら交渉することになる。
「我々が向こうに赴く理由はないな」
「興味もありませんしね」
ソフィーアさまとセレスティアさまの言葉に、うんうんと頷くダリア姉さんとアイリス姉さん。お二人は帝国の方たちに恐怖体験をして頂きたいだけじゃなかろうか。
『私も一緒に悪戯しなきゃ!』
お婆さま、こっちは魔素が薄いから大人しくしているのでは。
『貴女が側にいるから問題ないわね。ふふふ、何をしようかしら!』
また心の中を読まれていると微妙な顔になりながら、酷い悪戯にはなりませんようにと目を細める。出来れば第一皇子殿下一派にお願いしますと願う。
『金鎧の偉そうな男を狙えば良いのね!』
私そこまで言っていない。何故第一皇子殿下の姿が金ぴか鎧の気の強そうな偉そうな男性なんて、ちっとも思っていなかったのに。今度は私の記憶まで見えるようになったのだろうかと頭を抱えつつ、視線は公爵さまと帝国からの使者。
「私に判断をする権限はありません、必ずやお伝えするとだけお約束いたしましょう」
「理解しておる。――我々はこの場で待機させて頂く。色よい返事を期待していようぞ」
流石に妙な人選ではなかったようだ。始終丁寧な態度であったし、公爵さまとディアンさまにへりくだることもなく対応していた近衛大隊長。今度はまともに話が進みそうだけれど、懸念事項は残っている。
帝国ってスンバラシー! という第一皇子殿下一派だから、小国が文句を言うなくらいは真顔で叫びそう。皇帝はヒロインちゃんをチラつかせればどうにでもなる。その代わり宰相閣下が禿げそうだけれど。ウーノさまも厳しい未来しかなさそうだが、第一皇子殿下たちを切ると決めたのならばその道を進むしかない。黒髪黒目である私が他国所属だったことと抗う力を持っていることは、彼女にとっては好都合だったみたいだし。
私が何の力も持っていなければ、第一皇子殿下一派の言いなりになるしかなかったと考えれば微妙な気持ちになる。ここではない何処かの世界から黒髪黒目の人が呼ばれなくて良かったと、馬に跨り皇宮を急いで目指す使者の方の背中を眺めるのだった。
◇
――どうして……こんなことにっ!
アインが召喚儀式で呼び寄せた黒髪黒目の少女は小柄で可愛らしいと、初めて見たときはそう感じていたのに。
東大陸に伝わる黒髪黒目のお方通り多大な魔力量を持ったその子は、嵐のような子だったのだ。皇宮で行った会談を途中で退席した彼女たちは、飛空艇の格納庫へ向かって動力である巨大魔石を二十個ほど壊した後に帝都の街へと向かったと報告があった。
それは彼女との挨拶と話の中で聞いていたし、街へ出てからの行動も聞いていた。帝都に住まう人間を捕まえて、第一皇子殿下による不遇な扱いを訴えると言っていたが。皇宮を囲む高い壁の上で、どうしてこんな事態に陥っているのかと片手で目を塞ぐ。
中央広場の初代アガレス皇帝陛下像の足元に立ち、堂々とアガレス帝国第一皇子殿下が黒髪黒目の者を無理矢理に拉致したと言い放った末に、皇帝像を魔術で破壊したそうだ。
しかもご丁寧に粉微塵に粉砕して。おそらく怪我人が出ることを考えた上での行動であろう。その後に巨大な白銀ドラゴンが帝都の空を舞った。見惚れてしまうほどに綺麗という気持ちは直ぐに飛んで行った。ナイさまの予言どおりに事が運んでいる。次はドラゴンの大群が本当に押し寄せて、帝都の外へと降り立った。
ナイさまは思慮深いお方である。
私の帝国での立場を告げると、きちんと理解し優位に立てるようにと彼女が取る行動を教えてくれたのだから。暗に皇帝の座を奪えと言われている気もするが、黒髪黒目の方が望むのであれば手に入れて見せよう。
けれど……けれど、この惨状は如何なものだろうか。
「姉さま、大丈夫ですか?」
私の隣に立っている第二皇女のドゥーエが、眉根を寄せて心配してくれている。弟たちとは違って、本当にいい子である。
嫁ぎ先である婚約者とも仲が良いようだし、この先も幸せでいて欲しい。で、あれば……私が行くべき道は決まっているのであろう。アインが帝位に就いた時を考えると、目も当てられない。アレには暴君の気質がある。
「第一皇子殿下はどこだー!」
「無理矢理に連れて来たというのは本当なのか!」
「ドラゴンが黒髪黒目のお方の言う通りにやって来たぞ! どうしてくれるんだー!!」
中央広場でナイさまの言葉を聞いた者たちによって、不安を煽られた帝国民が皇宮へと詰めかけていた。口々に叫ぶ人たちを見ていると心が痛む。せめてアインがもう少し上手くナイさまと接してくれていれば、あのような怒りを向けられることはなかったというのに。
拉致したことには変わりないが、彼女が望んだアルバトロスへの帰還を約束していれば……手心を加えてくれたのでは。巨大魔石五つに飛空艇へ載せていた魔石二十個、帝都民への帝家への不満は抑えられていたはずだ。
「ええ、どうにか。――このままでは我々への不信感が募るばかりですね」
私にナイさまほど人心を射止められるとは思えないが、これでも第一皇女として帝都の人々には顔が売れている。
皇帝陛下である父にはあまり期待が出来ない上に、好色と知られ周囲に頼り切りと知られているので人望はあまりない。唯一の救いは、父が囲っている正妃である母や側妃たちは何故か陛下を慕っている上に女同士で仲が良い。父がどういう方法で彼女らを纏めたのかは知らないが、本当に不思議であった。
「――皆さま! 私はアガレス帝国第一皇女、ウーノです! この度は帝都の皆さまを驚かせたこと真に遺憾であります」
宮を囲む壁の見張り場へ立ち、声を張る。それに気づいた人が私を指さすと、周りの人たちも顔を上げて私へと視線を向けた。第一段階は突破した。騒いでいる人たちから注目を集めるのは難しい。武力で抑えることもできるが、兵士を出して民を鎮圧すれば不満が溜まるだけ。
「東大陸には黒髪黒目の者はここ百年現れておりませんでした。しかし西大陸に黒髪黒目のお方が居ると知った第一皇子殿下を始めとする者たちが――」
一連の経緯を丁寧に説明する。おそらくこれでナイさまの演説と私の演説で第一皇子であるアインの評判は地に落ちるだろう。民や貴族からの求心力を失えば、権力者など脆いものである。陛下を適当に説得し、外務大臣を西大陸のとある国やアルバトロスへ向かわせたのは、誰であろうアインだ。
父には黒髪黒目のお方が女性であると伝えて興味を引かせれば頷くはずである。ただナイさまは父の興味の範囲外だったようで、早々に手を引いていた。ナイさまが父に気に入られ無理矢理に手に入れていれば、帝国は完全に焦土と化していただろう。権力や地位にお金はあまり興味はなさそうだし、貴族としての婚姻なんて望んでいないのは直感で分かった。
「ウーノっ! 貴様、こんなところで何をしている!」
「アイン……!」
どうしてこの状況を理解していないのだろうか。第一皇子であるアインの行動はこの場に集まった人たちへ説明済み。
「女が出しゃばるなと言っているだろうがっ!」
鎧が擦れる音と大股で怒りを露わにした足音が私へと近づいてくる。
「っ! ――帝都の皆さま、誰が玉座に相応しいか、よくお考え下さい!!」
腕を伸ばしたアインの右手が私の左腕を力一杯掴んだ。痛みで言葉を発しそうになるのを我慢して、壁の下に集まっている人たちに私は問うた。民意は怖いですからね、とナイさまの言葉が蘇る。この言葉を聞いていなければ、今の台詞が私から出ることはなかっただろう。
男性優位であるアガレスで皇帝の座に就きたいのならば、貴族やアガレス帝国上層部の人間を味方に付けるのも大事だが、帝都や国に住まう方たちからの信頼も必要だと言っていた。以前から味方に付けた方が良いのではと考えてはいたものの、皇宮から出ることのない身であるし、視察に行っても民と話すことなどなかった。
側付きの供から言葉を聞くだけで、直接の声など私の耳にはいることなんてあり得なかったし周囲の者もそうさせなかった。
「兵を出せ! 集まった者を抑えろ! 抵抗する者は反逆者として捕まえても構わん!! ――行けっ!」
人としての価値はこういう時に出てしまう物なのでしょう。召喚儀式を執り行い無礼な態度で接したことや、アガレスの都合のみしか考えない頭。本当に次代の皇帝としては不適格な人物だ。アインに続く、ツヴァイもドライもフィーアも似たような性格である。彼らが皇帝の座に就いた未来を思い描けない。
ナイさま、こちらも温めておきましたよ。
ナイさまほど熱くはありませんが、それでも貴女の一助となれたのならば。黒髪黒目を信奉する一人として誇らしい事でございましょう。
さて、この後はアルバトロスと亜人連合国の使者の方々との会談となります。おそらく帝都の外で行うとナイさまは仰っていましたが、本当によろしいのでしょうか。本来ならば皇宮へ招いて歓待するのが筋と言うものですが。何かしらの理由があるのだろうと、アインに腕を掴まれたまま宮へと戻るのだった。