魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0225:遊ぶ公爵さま。

 アガレス皇帝が大きな体を持て余しながら、馬車から降りた。第一皇子殿下は金ぴかの鎧を身に纏ったまま、白馬に跨りこちらへやって来たようだ。

 全員ではないが他の皇子たちも姿を見せており、第一皇子の後ろへと並んでいた。近衛軍だろうか、兵士の数が尋常ではない。この場を他国もしくは帝国を恨んでいる国内の人たちから狙い撃ちされれば、ひとたまりもないから理解は出来るけれど。

 

 念の為にアルバトロスからやってきている魔術師さんが、竜騎兵隊であるワイバーンの背に乗って地上を警備しているから、妙な人たちは近づけないはずだ。自分たちの国の都合で会談の場を壊されても困るので、対策は公爵さまが取っていた。本当なら帝国側の仕事だろうけれど、私が魔石を壊したので空からの警備は無理だろう。

 

 「ようこそ、帝国へ。アルバトロス王国、ハイゼンベルグ公爵。亜人連合国代表。――吾はアガレスなり」

 

 おお、皇帝が凄く普通に挨拶した。でも巨漢なので、ちょっと息が切れているし辛そうだけれど。皇帝が外になんて出ないだろうし、体力がないのも仕方ないのか。彼を上手く乗せればダイエットにも勤しみそうだけれどね。痩せて体力付ければ、夜の生活がもっと充実したものになるかもしれないのに。

 私はアドバイスできる立場にないので、こうして頭の中で考えるだけだけど。公爵さまを見ているようでいて、地面へ転がされているヒロインちゃんに彼の視線が注がれている。移り気せずにヒロインちゃんに心を奪われていて欲しいものだ。アルバトロス上層部が許可さえ出してくれれば、ヒロインちゃんはリボンを付けて送って貰えるだろうから。

 

 「御身と相まみえることになろうとは、感謝いたします。再度になりますがアルバトロス王国、フランツ・ハイゼンベルグ公爵であります」

 

 公爵さまは相手が皇帝の為なのか丁寧な言葉遣いではあるものの、眼光は鋭く声も重い。お互い握手なんてしないし、帝国側の皇帝に侍っている人たちはハラハラしている。皇帝が一応格上になるし、彼自身が求めていないのだから手を差し出す必要性もない訳で。仮に公爵さまが手を伸ばし、皇帝が拒めば揉める原因になるのだから多分これでいいのだろうか……。

 

 「亜人連合国代表だ。名乗る文化がない故、許して頂きたい」

 

 ディアンさまの言葉にゆっくりと頷いた皇帝。第一皇子殿下を始めとした彼の一派が怒りを露わにするけれど、帝国で一番偉い皇帝が認めたのだから突っかかっては来なかった。

 

 ディアンさまの後ろで控えているダリア姉さんとアイリス姉さんに、皇帝が視線を向けると直ぐに視線を逸らした。ダリア姉さんとアイリス姉さんはエルフなので、かなり美人だしグラマラスな体。そんなお二人に好色な皇帝が見向きもしないなんて。コッソリとお姉さんズへ視線を向けると顔が怖かったので、皇帝は身の危機でも悟ったのかもしれない。おそらく他のアルバトロスの女性陣に対しても同じなのだろう。

 

 「アガレス帝国第一皇子、アインだ。――小国の者が勝手に我が帝国の地を踏んだこと真に不愉快である!」

 

 皇帝の指示もないまま第一皇子が一歩前に出て声を張り上げた。豪華な金色の鎧を身に纏い腕を組んで、凄く偉そうな雰囲気を醸し出している。勝手に帝国の地を踏んだけれど、その前に第一皇子殿下たちが黒髪黒目召喚を執り行ったのが原因である。

 

 アルバトロスと亜人連合国のみんなは、私がアガレス帝国に居ることは賭けだったろうけれど実際に居たのだから問題ない。

 後は聖王国からも大聖女を務めるフィーネさまを巻き込んでいるし、メンガーさまもお貴族さまの子息な訳で。国家と国家の問題にならない訳はないのだから、第一皇子の言葉がアガレス帝国にとって危うい発言だと本人は気付いて……気付いていないから、真顔で言い切っているんだろう。

 

 この場にやって来た帝国の面々を見る為に、視線だけを動かす。

 

 ――ウーノさまが居ない……。

 

 不味いなあ。第一皇子を止める人が居ない。皇帝に付き従っている宰相閣下は口を出せないはずだ。

 ウーノさま、会談には必ず顔を出すと言っていたのに一体何処に行ってしまったのだろう。供の人や護衛が居るのだから、身に危険が迫っているとかではないはず。可能性として、第一皇子殿下一派の誰かに足止めでもされているのだろうか。もしくは人質でも取られ、身動きが出来ない状態とか。彼女の周囲を詳しく聞いておくべきだったかと後悔する。

 

 『様子を見てきましょうか?』

 

 お婆さまが私の耳元で小声で話しかけた。私は喋る訳にはいかないと、お願いしますと強く願う。

 

 『魔力を頂戴! こっちは魔素が薄いから疲れやすくっていけないわ!』

 

 お婆さまの言葉に魔力を練る。持っていけるだけ持って行っていいから、ウーノさまを頼みます。特徴は第一皇子と似ているから、見ればきっと分かるはず。

 私が魔力を練った所為なのか、お婆さま以外の亜人連合国の方々が気が付いた。竜の方々が一斉にこちらへと顔を向けたので、使者さんたちが驚いている。仕方ないことだし、竜の方々や他の方が魔力に気が付いただけなので問題ないだろう。

 

 『ありがと! それじゃあ行ってくるわ。――ふふふ、また寿命が延びたわね』

 

 ぱっと姿を消したお婆さまの最後の方の言葉は聞き取れず。

 

 お供の方々がこの場で口を出すとすれば、皇帝や皇子に助言をするくらいだろう。皇子の強気な……いや、暴言を止めなければならないが今出来る状況じゃないのかも。公爵さまやディアンさまが取引を失敗することはないが、第一皇子によって円滑に話が進まなくなってしまうのは確かで。

 

 「陛下、発言の許可を」

 

 たまらず公爵さまがアガレス皇帝へ許可を求めた。おそらく第一皇子への抗議だろう。先の発言から周囲の温度が一気に下がって怖い。向こうのマトモな方たちも気が気じゃないだろうけれど。

 

 「構わんよ、公爵。――その前に少し良いか?」

 

 「?」

 

 「……」

 

 公爵さまとディアンさまが不思議な顔になった。公爵さまが発言の許可を取った理由を皇帝が分かっているのならば、意味のない行動なのだから。不思議に思って顔に出ても仕方ない。とはいえ国の代表者を務める方たちだから、一瞬で鳴りを潜めたけれど。

 

 「吾は帝国を采配出来る身ではない故な。周りの者に頼るのだが、構わんか?」

 

 ぶっちゃけた。ぶっちゃけてしまったよ、この人。話が円滑に進むならこちらとしては全然構わないのだけれど、皇帝としての威厳は気にしない人なのか。

 ハーレムを形成できるならば頑張れる人と聞いたから、あまり問題にしていないのだろうな。軽い神輿として自覚しているだけ有難いが、がっくりと肩の力が抜けた。私たちの後ろには大小さまざまな竜の皆さまが居るのだけれど、彼らを気にした様子もない。ハーレム以外に興味はないのだろう。ある意味凄いと感心するが、ああはなりたくはない。うん。

 

 「承知いたした。帝国の事情であり我が国は感知せぬ、で宜しいか?」

 

 「亜人連合国も承知した」

 

 公爵さまとディアンさまの言葉に頷き、いつの間にかセッティングされている椅子へと腰を下ろした皇帝。簡易ではあるけれど机もキチンと用意されて、陽を遮る為の天幕も張られていた。アルバトロスと亜人連合国側にも椅子が用意され、こちらへ来るようにと皇帝に促される。

 

 「話が逸れて済まぬな、公爵。して、発言とは?」

 

 しかしまあ、本当に。この状況で態度を変えない皇帝はある意味最強なのではと、ディアンさまと公爵さまの間へ座った私は微妙な気持ちになるのだった。

 

 ◇

 

 竜の皆さまやアルバトロスの面々が降り立った野原には、いつの間にか天幕が張られ机と椅子も用意されていた。帝国側の近衛兵が必死で頑張ったのだろう。粗相があればすぐに竜の皆さまが、何かしらの行動に出てもおかしくはない。

 荒事に持ち込もうとする竜のお方が居れば、クロが諫めてくれると言っていた。話し合いで済むなら話し合いで済ませたいそうで。クロがそう言うならば、亜人連合国の方々はクロの意志を汲むしかない。

 

 第一皇子殿下の喧嘩腰な最初の一言で現場は凍り付いた訳だけれど、公爵さまが皇帝に発言の許可を求めたのだ。

 その間にちょっと話がズレたのはご愛敬だけれど、円滑に会談を進める為には必要なことだったかも。皇帝は自分が無能であると自覚した上で、周囲に頼るからソレを咎めないでねという前置きだったのだから。

 

 「アイン殿下と申したかな。今の状況を正確に理解しておらぬようだが、貴殿はどう捉えておるのだね?」

 

 左隣に座っている公爵さまからの圧が凄い。言葉は柔和だけれど、腹の中は沸騰中なのだろうなあ。その証拠に第一皇子以外は口を出すなと、帝国の面々に視線で牽制してる。立ったまま後ろに控えているソフィーアさまは苛っときているみたいだし、セレスティアさまは会談の場なので鉄扇を広げずに手元で握りしめミシミシいわせている。他の護衛の面々や副団長さまは小国と堂々と言ったことに対して怒りを露わにしている。ジークとリンは馬鹿だなあといった感じで、後ろで控えているようだけれど。

 

 ちなみに召喚に巻き込まれたフィーネさまとメンガーさまは、私の直ぐ後ろで椅子に座っている。フィーネさまは状況を観察している雰囲気だし、メンガーさまは落ち着きなさそうにしゃれこうべを膝の上に乗せている。髑髏の幽霊は帝国の皇帝と相まみえる気はないようだ。会談がどう展開するかだけは気になるようで、しゃれこうべになっているのだろう。

 

 「小国の公爵が俺に問うとは……まあ良い。会談の場だ、答えようではないか。――我々アガレスは黒髪黒目の者を召喚し、手に入れた!」

 

 私は帝国のモノになった気は微塵もないのだけれど。あ、ダリア姉さんとアイリス姉さんの殺気が沸きたったし、右隣に腰を下ろしているディアンさまも視線鋭く第一皇子を見ている。少し意外だったのはお姉さんズの隣で人化した白竜さま、もといベリルさままでキレかけていることだろうか。

 そんなに接点はなかったというのに、私の事でそんなにならなくとも。一応、武力は身につけていた上に、帝国の貴重な巨大魔石を二十五個は確実に破壊した。アルバトロスで駄目にした小麦畑の復讐は果たしたつもりだし、拉致されたので暴れても咎められない状況だったので丁度良かったというか。

 

 第一皇子はアルバトロスと亜人連合国の面々を全く意に介さず、喋り続けていた。黒髪黒目の者がいかに素晴らしく、手に入れる為に召喚に至った経緯や自分の将来。そんなこと聞いていないけれどと心の中で深く深く溜息を吐きながら、目の前の彼が喋り終わるまで待っている私たちは、素晴らしい人格者なのだろう。

 

 「帝国の貴重な魔石をいくつも破壊したのだ! 帳尻合わせに黒髪黒目の者を我らが手に入れても構わぬだろう……!」

 

 「ほう。貴殿は黒髪黒目の者を……我が国のナイ・ミナーヴァ子爵を壊れた魔石程度の価値しかないと仰るのだな。――笑わせる。のう、代表よ」

 

 くくく、と口を歪に伸ばした公爵さまは視線だけをディアンさまへ向ける。引き受けましたと言わんばかりに、ディアンさまが口を開いた。

 

 「ですな。――確かに魔石は貴重で高価だよ、殿下。だが彼女にそれだけの価値しかないと言われようとは、貴殿が言う黒髪黒目の者の価値を見誤っていないか?」

 

 長い脚を組みなおして腕組みをし、第一皇子を見るディアンさま。公爵さまと彼の言葉に頷く人たちが多数居るうえ、竜の皆さまが咆哮を上げる。便乗してヴァナルも遠吠えしているし、姿は見えないけれど妖精さんも居たようでピカピカ光っていた。

 お姉さんズは魔力を練って威嚇しているし、ソフィーアさまもセレスティアさまも魔力が漏れてる。フィーネさまとメンガーさまがおっかなびっくりとした様子で縮こまってしまったじゃないか。大丈夫かなと後ろを振り向きたくなるけれど、なんだかアレから視線を外すのは駄目な気がする。

 

 「閣下、代表さま、アガレス陛下。発言のご許可を」

 

 この場のトップは皇帝であるが、最後に言ったのは私が貴方をアルバトロスや亜人連合国の方たちより上に見ることはないという意思表示。鈍ければこの順番の意味は分からないだろうし、聡い人ならば気づくはず。第一皇子殿下に許可を頂くつもりなど毛頭ない。

 

 「構わんぞ」

 

 「ああ。構わない」

 

 「黒髪黒目の者が言うならば」

 

 お三方からの許可は頂けたので遠慮なく。小麦の恨みは晴らしたけれど、アガレス帝国へ召喚された恨みは晴らしていないのだから。

 

 「わたくしの価値がその程度と仰るならば、帝国にある魔石を全て壊して参りましょう。それでも足りぬでしょうし、帝国領土外縁部は反帝国の立場を取る者が多いと聞き及んでいます」

 

 人の命が安いこともあれば、高いこともある。自分の命に価値があるかと問われれば、どうだろう。ただ今回だけは誇張してみる。公爵さまとディアンさまによるお膳立てもあったので、はっきりと第一皇子に告げる丁度良い機会だ。

 

 「わたくしが帝都で民の皆さまへ告げたように、第一皇子殿下を始めとした一派の方々によって無理矢理にアガレス帝国へ拉致されたと告げれば反発は免れないでしょう」

 

 黒髪黒目信仰はアガレス帝国だけではなく、東大陸全土にあるものだそうだ。共和国からの使者さんは私を見て手を合わせたらしいので、確かな情報だろう。

 

 「……なっ! 貴様……っ!」

 

 第一皇子はガタリと椅子から立ち上がって、顔を真っ赤にしている。最初から正しい判断なんて出来てないけど、もっと迷走すれば良い。

 この場で失態してウーノさまに道筋を作っておきたいという下心もある。この話は公爵さまにディアンさまたちも知っているので問題ないし、ウーノさまは皇帝を始めとした上層部を説得する自信があるそうだから。

 

 「帝国の終焉が訪れる良い機会では?」

 

 「たった一人で何が出来ると言うのだっ!!!」

 

 やろうと思えばできないことはない気がする。地理に詳しくないので、時間が掛かるだろうけれど。

 

 「おや。殿下は黒髪黒目は偉大であると申されました。ならば黒髪黒目であるわたくしは、帝国崩壊という覇業を成しとげるべきと判断したまででございます」

 

 「何故そこまで話が飛躍する!! 帝国の為に貢献せよと言っておるのだ!!」

 

 立ったままで、だんと机を叩く第一皇子に、私はにたりと口を伸ばす。

 

 「ああ、東大陸を掌握――」

 

 ノリと勢いで大陸統一も無理ではないと言おうとしたら、私の言葉を遮る人が居た。ふうと息を吐いて左と右から軽い視線が私へ向けられる。

 

 「――ナイ、そこまでにしておけ」

 

 「そうだな。それくらいに」

 

 視線の正体は公爵さまとディアンさまで。ジークとソフィーアさまから、悪ノリしすぎだという視線を頂いている気がしなくもない。

 

 「はい。聞き苦しい発言をお許しください」

 

 公爵さまとディアンさまに頭を下げ、念の為に皇帝にも視線で申し訳ありませんと伝えておく。驚いているのか呆れているのか皇帝はこくんと一つ頷いた後、宰相閣下が耳打ちしてる。

 

 「このようにな、アルバトロスに居る黒髪黒目の者は血の気が多いのだよ」

 

 「ああ、実力故に数多くの竜を従えているのだ。――証拠は目の前にあるのだから、証明など必要なかろう」

 

 血の気は多くないと思うけど。あとディアンさま、竜を従えていると誤情報を流すのは止めて欲しい。

 お願いしたら何故か竜の皆さまは快く引き受けてくれただけである。決して従えた訳じゃない。クロだって、従っているというよりは一緒に居るだけなんだし。まあ政治的な場面だし、はったりや多少の嘘も必要なのかもしれないが。

 

 「アイン、お前はこの場に相応しくない。吾の権限により退場させる」

 

 皇帝が椅子に深く腰を掛けたまま、右腕だけを前に出して命令を下した。

 

 「近衛兵! 殿下を皇宮へ!」

 

 宰相閣下の声に答えて、はっ、と短く返事をする帝国近衛兵の皆さま。

 

 「なっ! おい、何故俺をっ! 触るなっ!! ――貴様、褐色肌が高貴な者に触れるな!!」

 

 なんだか上に立つ者として不適切な発言があるけれど、この場で気にしても仕方ないので聞き流す。さて、一派の長である第一皇子が退場したけれど、彼に連なる人たちはこれからどうでるのだろうかと前を確り見据えるのだった。

 

 

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