魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0230:古いしきたり。

 ――黒髪黒目の者を出せっ!

 

 第一皇子は凄い剣幕で私たちの前へ姿を現した。彼の横には第二、第三皇子も一緒に付いてきたようで。彼らが率いている兵士の顔色は悪い。分が悪いと理解しつつも、上の命令に逆らう事が出来なかったか。

 

 この場で威圧的な行動を取る意味合いを、彼らは正確に理解していないようだ。頭は筋肉で出来ていますからと、別れ際にウーノさまが零した言葉を思い出す。本人も意識はしていなかったが、思わず呟いてしまったらしい。

 恥ずかしい所を見せたと頭を下げていたので、本当に意識していなかったのだろう。ということは紛れもない本音ということで。

 

 竜の皆さまは静かに見守っている。公爵さまが軍のみで対応可能と判断したことと、帰り道もあるのだから無駄に疲れさせてはいけないという配慮だそうで。

 ディアンさまとベリルさまは我々も動いてもなんら問題はないと言っていたけれど、公爵さまが押し切った。暴れ足りないのかもとソフィーアさまが仰っていたから、帝国に爪痕を残していくつもりなのだろう。

 

 「行くか。馬鹿の相手は愉快だな」

 

 「はい、閣下」

 

 公爵さまと私が第一皇子殿下の相手を務める。護衛に最低限の数名と私の専属護衛であるジークとリンが供に付く。

 

 「気を付けろ。相手は追い詰められている状況、何をやるか分からん」

 

 「ええ。大丈夫でしょうが、何が起こるかわかりませんので」

 

 ソフィーアさまが心配している顔を見せ、セレスティアさまは第一皇子一行を厳しい視線で捉えたままだ。お二人の言葉にはいと返して、公爵さまと一緒に前へ出る。

 

 「来たな。――最後通告だ! 俺の下へ来い!!」

 

 滅茶苦茶上から目線な発言だ。帝国へ来いではなく、第一皇子の下へ行けと言うのか。追い込まれてしまった所為か、本心が明け透けになってしまっている。

 ウーノさまもこんなのと帝位の座を争っていたのか。そりゃ苦労が絶えない。尻拭いもしていそうだし、助言とかも沢山したのだろう。男尊女卑が根強い帝国だから、男系血統の維持を先ず考えるのが普通。第一皇子以下の皇子たちがどうしようもないから、ウーノさまは帝位に就く決意をしたと。

 

 「何度でも言いますが、お断り致します」

 

 私は叫ぶ第一皇子に、同じ言葉を告げる。なんで諦めてくれないのやら。黒髪黒目の者を崇めているのは嘘だったのだろうか。猪直情男に常識を説くのは無理かも知れないが、微粒子レベルで可能性があるならば言い続けるべきかなあ。

 

 「貴様のような男にこの者は扱えんよ。自滅するのが精々だ」

 

 私の公爵さまは地面に杖を一度突いて低い声で言葉を放つ。ただ視線は子供を見るような慈悲深いものなので、いろいろと思うことはあるようだ。公爵さまと私の言葉に、第一皇子は肩を怒らせた。

 

 「はあ? お前のような爺に言われる筋合いはない! 渡せっ! ――渡さぬというならば決闘だ! 受けぬならば貴族の恥と知れ!」

 

 第一皇子の言葉に目をぱちくりする。私は、決闘なにそれ美味しいの状態。条件を告げる第一皇子殿下を、第二、第三皇子は期待の目で見つめている。

 随分と古い習慣を持ちだしたものだ。一対一で、剣一本での勝負。もちろん真剣。負けて命を失っても文句は言えないというもの。今回は負けた方が勝った方の言うことを一つ聞くという、子供の喧嘩染みたもの。本当は名誉の回復とか復讐の為に行われるはずだけど。

 

 アルバトロスで決闘なんてほぼ廃れた文化である。軍や騎士団で警察権のようなものを持っている上に、裁くことも出来るのだ。そちらへ任せるのが一番だという考えが浸透し始めているのだから。

 お貴族さまであれば私刑も可能だが、周囲の視線が制している状況で。噂やゴシップがご法度のお貴族さまだと、重大問題となりうる為に本音はどうであれ控えている状況。

 

 捜査権とか逮捕権とか司法権は綺麗に分かれれば良いけれど、まだ少し時間の掛かる分野。帝国はアルバトロスでは古い習慣を今なお続けているみたい。

 

 「受けて立とう! ――決闘なれば確実に約束を守って頂く!」

 

 公爵さまがにぃと口元を伸ばして、第一皇子の言葉に答えた。本当は受けて立たなくても良いけれど、第一皇子のメンタルをへし折る為に公爵さまは条件を呑んだ。彼の声を聴いた目の前の皇子も、同じように口元を伸ばした。

 

 「俺が勝てば黒髪黒目を渡せ!」

 

 第一皇子はドヤ顔になる。第二、第三皇子も同様だけど、連れてこられた兵士の顔色は更に青くなる。

 味方にも勝てると信じてない状況を察知出来ていないのは如何なものか。ま、ウーノさまの地位を固める為のデモンストレーションだとでも考えれば良いか。そう思っていないとやっていられないという、残念な気持ちもあるけれど。

 

 「我らの代表者が勝てば、第一皇子の称号を捨て皇籍から抜けろ!」

 

 公爵さま、黒髪黒目の者を手に入れるのは諦めろと言わないあたり、勝つことを前提としているな。もちろんコレも出来レースというか、ウーノさまが予想した範疇だった。

 自決しろと言えれば楽だけど、プライドの高い第一皇子だから皇籍離脱が一番堪えるとウーノさまから聞き出していた。ならば一番本人が悔やむであろうことを望むべきと、公爵さまは考えたようである。

 

 「っ! 分かった条件を飲もう! 貴様らは飲むのか否か!」

 

 第一皇子は、公爵さまが告げた条件に一瞬息を呑むが一瞬で鳴りを潜ませていた。第二皇子と第三皇子は兄上頑張れ状態である。金ピカの鎧を纏った第一皇子は腰に佩いている、派手で豪華な剣へ手を伸ばした。

 

 「ここまできて尻込みすれば興覚めも良い所だ。そのような無様はせんよ。条件を承諾しようではないか!」

 

 ふふんと互いに笑いあっている。公爵さまも第一皇子もノリノリだし。公爵さまが自信があるのは、勝つ道筋しか見えていないからだろう。こうなった時の為にジークが代表者を務める手筈となっている。公爵さまからは殺すなと言われているので、ジークよりも実力があるリンは選ばれず。

 リンが選ばれたら問答無用で第一皇子の命が散ってしまうのは、公爵さまも私も分かっている。私の事となると容赦がなくなり、歯止めが利かなくなる節もあるからなあ。条件を出し合いながら、納得できるまで話し合いで擦り合わせた後、紙を用意し血判を押せば。

 

 「――では!」

 

 「――成立!!」

 

 声を張り上げてお互いに頷く。決闘の正式なやり方なんて知らないけれど、お互いに条件を決め合った後に勝負となるのだろう。立会人は必要ないのかと疑問になる。

 

 「閣下、立会人は?」

 

 「そんなもの必要ない。周りの観衆で十分だ」

 

 なるほど、お互いに人員を派遣しているし、第三者を選出するとなれば時間が掛かる。簡易的にお互いの関係者が立会人を務めると。結果がどうなろうとも無用な噂を流したり、誹謗中傷はお互いの名誉を守る為に厳禁なんだとか。

 

 さて、決闘なんて古いしきたりを持ち出したけれど、代表者に指名されているジークは亜人連合国から賜った剣の柄を握りしめている。第一皇子の態度は悪いので腹立たしいのだろうと、ジークへ顔を向けると一つ頷いて前へと進み始めるのだった。

 

 ◇

 

 ――決闘が始まる。

 

 立会人が必要ないと言っても、やはり仕切る人は必要で。お互いの陣営から公爵さまと第二皇子が、仕切ることとなった。第二皇子の見た目は勿論イケメン。現代風に言うなら細マッチョとでも表現すべきかな。

 第一皇子とは違ってインテリ風を装っているが、血が繋がっている所為で頭に筋肉を纏っているとウーノさまが評していた。残念な皇子さまが多いのは何故だろうか。乙女ゲームが舞台というならば、イケメン有能攻略対象がデフォなのが普通のような。

 

 癖のあるゲームをスタッフさんたちは望んだのだろうか。それかシナリオライターが変態で、こっそり地雷を仕込んでいたとか。有能そうに見えて、実は無能だったとかあり得るからね。仕事でだって別部署ではやり手に見えても、関わると仕事が出来ない人だったとかザラにあるし。

 

 乙女ゲームが舞台の世界と知って、イケメン美女率が高い原因の一端を知った気がする。ジークも攻略対象だったらしいし、そりゃイケメンだし騎士としての実力も高いはずだ。実際はリンの方が強いので、何とも言えないが。

 

 公爵さまはゲームには一切登場しなかったらしいが、イケオジだもんね。性格は豪胆な方である。ゲームを気にし過ぎると禿げそうだ。実際、ゲームのシナリオとは乖離しているようだし。ゲームを模した平行世界とでも認識しておくべきだろう。フィーネさまとメンガーさまから齎される知識は便利だけれどね。ただ銀髪くんからはゲームのゲの字も出ていないので、転生した基準が良く分からない。

 

 今はまだ深く考える時ではないか。必要になれば、答えを出せば良いだけだし。篝火を用意して、周囲は問題なく視えるようになっている。魔術で照らすことも出来るけど、篝火で十分な光量を得られているので、魔術師の皆さんや私の出番はなく。

 

 「アガレス帝国第一皇子、アイン。前へ!」

 

 「アルバトロス王国、ジークフリード・ラウ! 前へ出よ」

 

 立会人が決闘の場所を決めて、両陣営からの代表者の名を呼んだ。フィールドは無制限、立会線だけ引かれており、お互いに線の前へと立つ。

 

 「舐めているのか? 鎧も身に付けず俺の前に立つとは良い度胸だ!」

 

 ジークは教会騎士服を纏っている。見た目は何も装備していないように見えるけど、中には鎖帷子を着こんでいる。教会騎士服を纏っている人たちは、全員がそうだ。

 自前で護衛を賄えるお貴族さま出身の聖女さまはこの限りではないが。第一皇子は金鎧が好みなのだろうか。結構重そうだし、動き辛そうなんだよね。フルプレートの甲冑って職人さんの腕が高いと、動きを阻害しないらしいけど。

 

 「…………」

 

 あれ、ジークはどんな相手でも無難に言葉を返すのが常だというのに、珍しく無言だ。相手にしていないのが丸わかりだったので、第一皇子殿下の血圧が確実に上がっている。彼はぷるぷる震えながら剣の柄に手を伸ばして抜刀し、ジークへと切っ先を向ける。立会線は距離があるので、斬られる心配はない。腕を伸ばしてジークへ剣を向けても、人間一人分くらいは距離がある。

 

 私たちの後ろでは呑気にトトカルチョが始まっていたけど、全員がジークへ賭けたので直ぐ解散となっていた。流石、公爵さまの部下。こんな状況下でも楽しむことを忘れないようだ。ただ賭けが成立しなかったのは、面白くなさそうだったけれど。

 まあ第一皇子に賭ける人が現れれば、周りのみんなから咎められるだろう。国の威信を懸けた決闘なのに、何故相手に賭けたと一生言われ続けそう。私だってジークに賭けるしなあ。アルバトロスや亜人連合国のみんなはジーク一択だ。

 

 「貴様ぁあ!」

 

 第一皇子が低い声を出して唸っているけれど、ジークはどこ吹く風で平然と立会線に立ったまま。もう結果は見えているし、負けを認めても良いのでは。彼の評判が地に落ちるだけだし、決闘で負けたが相手の実力を察して引いたという事実は残るのだから。負けて、失態を犯しそう。

 

 そうなっても私は痛くも痒くもないが。第一皇子は超痛手だろうに。ただでさえ下がっている帝都内での評判に加えて、負けた上に皇籍剥奪という不名誉。

 先を考えないって素敵だな。突如現れ光って消えていく彗星のようだ。その時間は凄く短くて儚いものだけど。第一皇子を彗星に例えるのは、彗星に失礼だろうか。でも一応はアガレス帝国という大きな国の皇子さまだもん。せめてこれくらいに例えなければ釣り合いが取れない。

 

 「まだ始まっておらんぞ」

 

 公爵さまが、静かに告げ。

 

 「兄上、相手の策略に乗るべきではありません!」

 

 第二皇子が第一皇子を上手く執成した。どうやら彼の性格を熟知しているのか、言葉を聞いてはっとした第一皇子。

 

 「おお、そうだな……。無駄に体力を消耗する所だった」

 

 そうだね。無駄に体力を消費して、直ぐにジークに負けるなんて無能な所は見せられないし。是非とも頑張って欲しいが、ジークが勝つのだから結果は変わらない。絶対に。ただ過程がちょっと変化するかもね。

 ジークは怒っているようだし、何かしら出来る範囲での報復を考えているはずである。さて、何を考えているか期待だなあと、ジークへ視線を向ければ彼も私に気付いて一つ頷いた。

 

 「では、互いに!」

 

 第一皇子が剣の柄に手を伸ばして、肩幅よりも広く縦に足を開いて低い姿勢を取った。

 

 「尋常に勝負を! ――開始っ!」

 

 立会人二人は、事前に示し合わせていた台詞を叫んだ数舜後、第一皇子が立会線を踏み込んで、ばっとジークへと向かっていく。鎧を身に纏っているのに結構早い。

 

 「ぬおおおおおおおおおおお!!」

 

 野太い咆哮が野原に響くと同時に、ジークが咄嗟に抜いた剣と交差して鍔迫り合いとなる。顔色一つ変えずに第一皇子の剣を受け止めて、力勝負となっていた。

 

 「貴様も良いガタイをしているな! 俺の下に来ないかっ!?」

 

 発せられた言葉にゾッとしてしまったのか、ジークが後ろへと大きく引いて距離を取った。決闘の場で何を言っているのだろうか。好色の皇帝も大概だけれど、両刀の第一皇子の方が問題がる気がしてきた。

 

 「なんだ、俺と勝負をしないのか?」

 

 に、と不敵に笑みを浮かべる第一皇子殿下。見た目はカッコ良くてイケメンそのものなのに、両刀である。皇子として問題ありすぎだ。本人は周りにバレていないと思い込んでいるようだが、この時点で分かりやすいし。ウーノさまから事実を告げられていることも原因かもしれないけど。

 距離を取ったジークは黙ったまま、長い息を吐いて呼吸を整えていた。戦意喪失した訳ではなく、単純に第一皇子のキモさから本能的に引いたのだろう。第一皇子はジークの取った行動に活路を見出しているよだけど、それで負けるジークじゃないし。

 

 「……」

 

 黒い刀身に赤い線の入った剣を構えるジーク。その姿に第一皇子も応えて構えを取ると、周囲に緊張が走った。これで勝負が決まるなという、確信を得た故に。

 

 「勝って全てを手に入れれば、俺は皇帝の座に一歩近づく! 負けられないのだよ、この戦いはっ!」

 

 また勢いよく飛び出した第一皇子に、ジークの剣の先がゆらりと揺れたのを私は目にしていた。

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