魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
召喚を執り行ったという魔術師は、監視を付けて泳がせている。魔術師はゼクスから貰った金で、魔術関連の本を買い漁っているのだとか。
帝国では寂れている技術故に、嗜む者が少ないこと、必要ないと捨ててしまい魔術本は貴重だった。帝都の書店へ赴いて魔術関連の本はないかと聞いて回っているそうだ。魔術などかび臭い廃れた技術と後ろ指を指されるが為に目立つのだとか。
――小物だ。
ここではない何処かの世界から黒髪黒目のお方を召喚するという謳い文句が、結局はナイさまを始めとした西大陸の方たちだったのだから。ナイさまが召ばれたことは理解できるが、結局残りの四名は何故召ばれたのだろうか。不思議であるが、巻き込まれてしまったことは事実。
聖王国の大聖女さまとアルバトロスの伯爵家子息には、誠実な対応をしなければ、ただでさえ低いアガレス帝国の評判が更に落ちてしまう。本来目的ではなかった方を召喚してしまったことを、アルバトロスの魔術師の方に告げれば、術式か魔術陣に不備があったのではと教えてくれた。
帝国も調査を行うが魔術に関しては分からないことが多く、調べは難航すると報告を受けた。前途多難であるが、アルバトロスの魔術師は王の許可さえあれば共同調査も可能だと告げられた。アルバトロスの魔術師は凄く嬉しそうな顔をしていたが、黒髪黒目のお方を危険に晒した帝国に思う所はないのだろうか。
兎にも角にも、半歩でも前進させて召喚儀式の禁止条約を取りまとめなければ。
また東大陸へナイさまが召喚されれば、その国は亡国どころか消滅してしまいそうだ。ドラゴンが大挙してやって来た上に、ナイさまに懐いている様子。
本当に、黒髪黒目のお方の偉大さを痛感させられた光景だった。彼女を召喚した場合の危険性を説けば、納得してくれるはず。東大陸の国々はアガレスの帝都に工作員を派遣しているから、母国への報告はそろそろ済ませている。ナイさまと話をして、東大陸の国々を纏められるならば、今回の件を伝えて構わないと言われていた。
そして、帝国と同じことを試みれば『脅せ』とも仰られた。二度も同じ目に合わない為と、帝国と同じ轍を踏まない為の警告。抑止の為に国を滅ぼす力を持った人間が居るぞと、吹き込んでおいて欲しいとも頼まれた。
「少し急ぎましょう」
供の者たちへ告げると、短く同意の言葉が返った。皇宮の廊下を足早に歩く私たちを、何事かと驚いた様子で見ている者。
騒ぎは知っているだろうに、悠長な者が居たものだ。ドラゴンが怖いからと自領に戻って、引き籠りを決め込んだ方も居るらしい。帝国は泥船だと見切りをつけて、他国へ逃げるべく準備を始めている者も居ると聞く。――好きにすれば良い。
私は帝国を亡国にする気なぞ、欠片もない。
今回の件を上手く使って必ず帝位へ就き、領土は広げぬまま今現在の土地を更に繁栄させるのだ。手を入れられていない地域も沢山あるのだ。今の今までは帝都周辺地域の発展に力を入れていたが、他の地域にも予算を回すべきである。まだ先の話であろうが、良い意味での帝都発展の夢を持つくらいは許されるはず。
「皇女殿下、第六皇子殿下は部屋の中でお過ごしです」
私たち一行は第六皇子であるゼクスの部屋の前で止まると、皇子の部屋の前で警備にあたっている兵士が恭しく教えてくれた。どうやらゼクスも悠長な者の一人に数えられるらしい。
お金を稼ぐことに執着しているゼクスは脇が甘いと言うべきか。第一皇子であるアインが捕らえられたというのに、安穏と自室に居るのだから。
私であればアインが捕らえられた時点で、国外逃亡を図っている。逃げ切れるとは思えないが、こんな間抜けは晒さない。召喚を発案した者としての責任を取らせなければならないし、ナイさまに失礼な口を利いたことに対しての罰を与えなければ。
「入りましょう。お願いします」
入室の許可を求めないまま、兵士を先頭にしてゼクスの部屋へと入る。どうやらベッドでうたた寝をしていたようで、大きな音で目が覚めて勢いよく起き上がったようだ。
「な、なに! 勝手に俺の部屋に入って来るなよ! 前から言ってるじゃん、入室の許可は必ず取れって!!」
ゼクスが私的なことに干渉されるのは嫌いということは知っている。皇族だというのに侍従や供を侍らせたがらない上に、一人が好きだと言って皇宮を抜け出す始末。
自身は楽しんでいるようだが、彼に就いた侍従や供がとばっちりを受け左遷されていた。左遷させられた者たちに手を回し、時間は掛かるが必ず帝都へ呼び戻すと約束している。私にもう少し力があれば、彼らを直ぐに救うことも出来たというのに不甲斐ない。だが、今回の件で私は力を手に入れる。
「ゼクス、今はそのようなことを言っている場合ではないのですよ? 貴方が犯した罪を理解しておりますか?」
理解して裁かれるのと、理解しないまま裁かれるのでは意味が違ってくる。私の言葉に、奔放な弟はきょとんとした顔を浮かべた後に攻撃的な顔へと変えた。
「はあ? 俺が罪を犯したって? 俺はアイン兄上に恩を売っただけで、罪なんて犯してねーよ!」
「何を言いますか。魔術師を紹介した上に、アインを上手く乗せ召喚儀式を執り行わせた。他にも会談の場で黒髪黒目のお方に失礼な物言いをしましたね」
「それがなんだってーの?」
……ゼクスの言葉に頭を抱えてしまいます。教育係は一体何をしていたのか。長時間問い詰めた上に、何故きっちりと皇子たちに知能を施せなかった罪を問わねば。私は一体どれほどの罪を問わねばならないのか。考えても仕方なく、目の前にあることを一個一個片付けていくべきか。遠くを見ると、あまりの多さに過労死してしまいそうだ。
「今回は西大陸に住まう方々を召喚しましたが、術式や魔術陣の構築に失敗すればどんな者を呼び寄せるか分かりません!」
本当に呼び寄せられるのか疑問で失敗するだろうと決め込んでいたが、もしもの為に私たちは召喚儀式の場に同席した。私たちがあの場に居なければ、ナイさまによって帝国は滅ぼされていた可能性がある。それすら理解していないし、ナイさま以上の危険を呼び寄せた可能性もあるのだ。本当に、弟たちは度し難い。
「黒髪黒目のお方はアルバトロス王国の子爵家当主です! 皇子であるゼクスよりも身分が上だと知りなさい!!」
「え、何言ってんの? 西の小さな国の子爵家当主ごときがアガレス帝国の皇子に逆らえる訳ないじゃん」
女神さま、アガレスの男たちはどうしてこんなに考え足らずなのでしょうか。この大陸を創造したと言われている女神さまに問うてみるが、言葉が返ってくる訳もなく。
ただの皇子でしかないゼクスが、功績を上げて爵位を賜っている方の足元に及ぶわけがない。しかもナイさまはミナーヴァ家当主初代である。ということは彼女自身が功績を上げ、アルバトロスが認めたということなのに。こめかみの血管がはち切れそうになるのを我慢して、息を大きく吐いた後。
「……――その傲慢さが今回の騒動に繋がったのでしょうが!!!」
「うぉっ、ウーノ姉上がキレた!」
耳が聞こえなくなるかと思った、とゼクス。本当に緊張というものを感じない男である。私の怒声に供の者たちも驚いていますが、気にしていられない。
「もう良いです。この者を捕らえなさい。理由についてはゼクスの教育係を担った者に、牢で四六時中説明させましょう」
私自身で説明して言い聞かせる自信が全くないので、理由解説は教育担当者に任せよう。不勉強のようだし良い機会だろう。
一生牢の中から出られないか、鉱山送りにでもしてお金を稼がせご迷惑を掛けた方々へ送るべきか。せめてもの償いだと言って、受け取って頂けるだろうか。まだ先の話になるなと、皆へ顔を向ける。
「さあ、次は帝都で浮かれている魔術師を私の前に連れてきてくださいませ」
「はっ!」
「直ぐに向かいます!」
何故か私に付いている供たちの緊張感が上がっているようだけれど、先ほどの怒声は彼らにも波及してしまったのだろうか?