魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
学院のサロンの一室で話は続いていた。いい天気だなあと呑気に窓の外を見ている私に、二人の視線が降り注ぐ。
「私が主催する茶会に参加してくれないか?」
「立て続けになりますが、わたくし主催のお茶会にも参加して下さりませんこと?」
「…………何故です?」
嫌ですという言葉を寸での所で飲み込んで、理由を聞いてみた。というか最近は二人や副団長さまに質問してばかりのような。
お茶会は女性貴族同士での社交の場だと聞いている。流行りのドレスや品物の情報を集めたり、貴族の情報を交換しあったり噂であったり。家同士で対立していればマウント合戦に発展したりするらしい。
そんなものに縁はないと高を括っていたのだけれど、どうしてこうなってしまうのか。
「魔獣討伐からナイの評判が学院の一年だけに留まらず、上級生たちの間でも噂になっていてな」
「ええ。それで魔獣討伐から後はわたくしとソフィーアさんが貴女の周りを固めていたことで、近寄れないご令嬢方が沢山おりまして――」
そういえば魔獣討伐からは学院内に限らず城でも彼女たちとよく過ごしていた。そりゃかなり高い位の公爵家と辺境伯家のお嬢さまが側にいれば、他の人たちは声をかけ辛い。
時折視線を感じていたのはこの所為かと理解するけれど、でもそれがどうしてお茶会に繋がるのか。
「お茶会に私が参加することに意味があるんですか?」
「あるぞ」
「ありますわよ」
二人の声が同時に響く。私がお茶会に参加することに意味を見出せていないことが不思議なのか、微妙な顔をしているのだけれど。
いや一聖女でしかない私が彼女たちが主催するお茶会に参加しても置物にしかならないし、他のご令嬢方と会話をしなきゃならないだなんて面倒なのだけれどなあ。仕事の依頼であれば払える金額をぶんど……ふんだく……いやいや、寄付して頂くのだが。
「魔獣討伐の件もあるにはあるが、お前は筆頭聖女候補の一人だろうが」
「ええ。教会の関係者から聞き出しましたわ。引退間近の筆頭聖女さまの後を継ぐ最有力候補だと聞き及んでいますわよ」
「ありえませんよ。私は平民で孤児出身ですので。通例だと貴族のご令嬢ですよ、筆頭聖女さまは」
政で外交の為に各国のお偉いさんの相手を務めることもあるし、他国に行って王国のイメージアップの為に慰問の旅にでることもあるらしい。
外国へ出ることはお貴族さまでも滅多に出来ないそうなので、ステータスとして人気なのだそうだ。最近は筆頭聖女さまの年齢を考慮されて、実施されていないそうだけれど。これ次の筆頭が決まったら絶対に忙しいパターンだし。
お貴族さま出身だと教養レベルが高いので外国語を習っていたり、社交も十二分に通用するから、そういう人が重宝される。
「通例、だろう?」
「ええ、例外もありえますものね」
にやにやという擬音が似合いそうな表情を浮かべる二人にため息を吐く。最近はもう二人の前では取り繕っていない気がする。
むしろ嫌がられて距離を置いてくれないかなあとさえ、思うこともあるのだけれど利益があると彼女たちは言っているので無理かもしれない。
「そもそもチビで見栄えのしない顔なので、選ばれませんよ」
外見って結構重要視されるから、地味な黒髪黒目で平凡顔でチビですとーんな私は絶対に筆頭聖女に選ばれないと確信している。
「……」
「…………本気で扇で殴っても?」
「防がれるのがオチだ。――誰も見てはおらんが、止めておけ。というか聖女を殴るな」
痛いのは嫌だから防ぐけど。というか彼女が持っているのは鉄扇なので、受けたら死んじゃうから簡単に殴るとか言わないで欲しい。
「ですが彼女、筆頭聖女の椅子の価値も理解しておりませんし、周囲の評価も分かっておりませんわよ。――殴りたくなる気持ちを理解させませんと、正直この後が不安ですわ」
筆頭聖女の座には興味がないのです。今のままで十分満たされています。学院に通って勉強ができることと、図書棟で本が読み放題という環境は凄く有難い。
って、公爵さま、まさか私に教養を身に着ける為に、学院に通わせたのだろうか。あれ、公爵さまの好意だって思ってたけれど、まさか裏があったっていうの。……マジか。
「それは言えてるな」
ふうとため息を吐いて片目を瞑るソフィーアさまと、むすっとした顔をしたままのセレスティアさま。なんだか二人で好き勝手言ってくれているけれど、お茶会の話はいいのだろうか。いや、まあこの状況を作り出したのは私だけれど。
「とにかく、だ。――お前さんは筆頭聖女候補の一角で魔獣討伐の件でさらに名を上げた。――縁を繋げたい貴族はごまんと居るということだ。申し訳ないが、それを利用させてもらう」
「ええ。――ですが、それでは筋が通りません。貴女にもきちんと益を齎すと確約しましょう。父に約束を取り付けましたわ、貴女の後ろ盾となることを。もちろんハイゼンベルグ公爵家の了解も得ております」
「え?」
なんでそうなるのかなあ……。どんどん大事になっていっているんだけれど。まあ後ろ盾があることは有難いことである。厄介ごとに巻き込まれた時に頼れるのは正直有難い。二人が私を利用したいのは、殿下たちのやらかしで不安定になってしまった足場固めだろう。
「茶会で必要なものはこちらで用意するし、マナー講師も寄越そう。講師はあまり必要ない気もするが、念のためだ」
一応作法は習ってる。その時は、なんでこんなことを教会が教えるのか理解できなかったけれど、こうしてお貴族さまとの縁を繋いで自分の立場を確保する為だったのか。
「そのような情けない顔をしないでくださいまし。――そもそも聖女となった時点で貴族と関わる覚悟は出来ていたのでしょう? それならば利用してやるくらいの気概でいませんと」
治癒魔術の報酬額が良いのはもちろんお貴族さまで、私もお貴族さまからは寄付という形で割と法外な値段をふんだくっている。――一応、教会が設けた参考の値段表があるのでそれに則ってはいるけれど。それ以上にふんだくっている聖女さまもいるそうだけれど、文句が出たことはない。治癒魔術を使える者が貴重だからである。
病気や怪我の治療法が科学的に立証されていないので、魔術で治せるというのは奇跡に近いものらしい。だからお貴族さまも法外な値段を要求されても、命には代えられぬといって支払うのだ。
「そうだな。持ちつ持たれつなんて甘いことは言わん。私もコイツもお前を利用している。だからお前も私たちを利用すればいい。その地位はもう手に入れているのだからな」
いや、無理だと思うけれど。公爵家や辺境伯家の皆さまが黙っていない筈である。家の大事なご令嬢をアゴで使うとか出来ないでしょうに。
「はあ、分かりました。お茶会に出席させて頂きます」
「すまないな」
「ええ、申し訳ありませんが、よろしくお願いいたしますわ」
仕方ない。そもそも言われたら断れない立場である。せめてお茶会で残ったお菓子を持って帰る許可を取り付けようと、口を開くのだった。
◇
――怖ぇえ!
怖いよ、貴族のご令嬢方って。扇で口元を隠し、うふふと奇麗に微笑んで優雅に茶をしばいているけれど内心ではなにを考えているのやら。
数日前にソフィーアさまとセレスティアさまからお茶会のお誘いに了承し、派遣されたマナー講師からの教習を受けつつ、超高級店でワンピースを数着購入して挑んだ、ソフィーアさま主催のお茶会。
本来なら爵位の低い人から着席するというのに、ゲスト扱いでソフィーアさまと一緒に公爵家の庭へと登場することになった。
何故かその中にはセレスティアさまも居るので、おそらく二人と協議したうえで参加したのだろう。知らないご令嬢があと三人ほどいるのだけれど、爵位から順に伯爵家の人が二名に侯爵家の人が一名。
事前に誰が参加するのか教えられていたし、姿絵も見せて貰っていたので知っているといえば知っているのだけれど、顔が怖いし何を考えているのかが読み取れない。
三人ともすでに学院を卒業しているそうで、伯爵家のお二人はもう少しで婚姻するそう。侯爵家のお嬢さまは、独り身だと二人が言っていた。
何か打算があって私との繋がりを持ちたいというのは理解しているので、私と接触するのは構わないのだけれど。にこやかに挨拶を交わし、数度言葉を交わすとタイミングを見計らったように、侯爵令嬢が口を開いた。
「あら、このようなみすぼらしい聖女さまが居ただなんて知りませんでしたわ。――わたくし、聖女として教会に何度も足を運んでいるというのに知らないだなんて、貴女はきちんと務めを果たしておりますのかしら?」
――開始早々コレですか。
何となく口調がセレスティアさまに似ている、丁度私と対面となる席に座る彼女が声を上げる。まあ似ているだけで、声量や迫力はセレスティアさまのほうが何倍も上であるが。
伯爵家のご令嬢二人には穏便に挨拶を済ませ一言二言世間話を交わしたというのに、一体なんでこんなことになるのだか。私と縁を繋ぎたいから、二人を頼ってお茶会を開いて貰ったはず。あーあ、ソフィーアさまとセレスティアさまの額に青筋が立っているのを見てしまった。
彼女たちから侯爵令嬢にはマウントを取られるかもしれないと告げられていたので、まあ驚きはない。ただ本当にこうしてマウントを取って来るとは思わなかっただけである。
あんた、ソフィーアさまに頼んで私と顔見知りになるつもりだったんだよね、と。あと私はソフィーアさまが連れてきたゲスト扱いなのだけれど。
というより彼女が聖女という事実を初めて知った。教会、それも王都の教会なので序列の高い聖女が多く所属しているのだが、彼女の顔を一度も見たことがない。
ただ単純にタイミングが合わなくてずっとすれ違いを起こしていたという可能性もあるから、お互いに顔を知らなかったことは置いといて。
「孤児院への慰問や騎士団や軍の魔物討伐への同行に城の魔術陣への魔力補填を微力ながら務めさせて頂いております」
学院の卒業生だから仕方ないのかも知れないが、魔獣騒ぎは知らない模様。結構騒ぎになったので、お貴族さまだというのに噂に鈍いのはどうなのだろう。貴族のお嬢さまなので外に出ることは殆どないだろうし、情報が入らなかったのかもなあ。
今は学院に通わなければならないので、仕事量は押さえてある。ただ学院へと入る前は、度々魔物討伐に参加していたし、孤児院への慰問も時間があれば顔を出しているのだけれど。
聖女としてマウントを取るつもりならば、私もマウントを取るだけである。それにソフィーアさまからの許可はお茶会前に出ているので、彼女に対しての不敬は許される。
「ああ、そうだな。城で初めて見かけた時は驚いたよ」
相手が侯爵家ということと年齢が上ということでソフィーアさまの口調がいつもより少しだけ丁寧だった。
「魔獣討伐の時は命を救われましたわ。――騎士や軍、そして学院生の死者が出なかったことは奇跡といっても過言ではありませんもの」
ふ、と笑うソフィーアさまと、鉄扇を広げて笑うセレスティアさま。援護射撃ありがとうございますと、目で礼を伝える。
「……なっ!?」
私の言葉に二人が補足してくれた。伯爵家のお二人はどうやらその話は知っているようで、ゆっくりと紅茶を啜って状況を観察している。この状況で誰に就くかなんて火を見るよりも明らかで。
侯爵令嬢さまは、知らなかったようだ。情報収集を怠るだなんて、お貴族さまとしてどうなのだろうと首を傾げながら、ティーカップを持ち上げ、一口紅茶を啜る。
というか私に向けられていないというのに、ソフィーアさまとセレスティアさまの圧が怖い。
「し、城の魔力補填といっても半年か一年に一度程度でしょう! たまたま偶然ソフィーアさまが見かけただけのことっ! それをさも当然のように言うだなんて……わたくし、城の魔術陣へは二ヶ月に一度赴いておりますものっ!」
「…………???」
ワタシ、シュウニイチドハオモムイテイマスヨ……。アレ、ナニカガオカシイヨ。
「どうした、ナイ?」
「どういたしましたの?」
「い、いえ。なんでもありません……」
ま、まあ個人の持つ魔力量や回復量で城の魔術陣へ行く回数は異なると聞いていたので、これは仕方ないのだろう。
私の回数多くないかなと疑問に思うけれど、眠くなるのと少々疲れるくらいで大したことはないし、お給金が支給されているから文句はない。
「体調が悪いのなら直ぐに言え、途中退席しても何の問題にはならんぞ。無理はするなよ」
「ええ、無理はよくありませんわ。――そういえばナイ、貴女はどのくらいの頻度で城へ?」
セレスティアさま、よりにもよって流したと思ったことをなんで掘り返すのでしょうかね。いや、これワザとなのか。天然なら、それはそれで凄いけれど。
「週に一度、ですね」
「なっ!! 嘘でしょうっ! 魔力補填を週に一度のペースで貴女は行っているというのっ!?」
「はい」
「どうして、そうして余裕そうにしていられるの!!」
「え?」
「魔力の補填後は二、三日寝込んでしまうのが普通ですっ! それを一週間に一度のペースだなんて異常でしょうっ!!」
ガタリと音を立てて椅子から立ち上がる侯爵令嬢さま。その時テーブルに手を思いっきり机に叩きつけたので、ティーカップの中身が零れてる。お貴族さま的にはこの行動はどうなのだろうか。
「私は魔力量が多いと聞き及んでおります。ですから他の聖女さまよりも補填の回数が多いのは仕方のないことですし、魔力の回復も早いと聞いておりますから」
この辺りが彼女とは違う所だろうなあ。
「自慢のつもりなのっ!?」
「そういうつもりはありませんが……」
出来ることをそれぞれがやればいいだけの話である。こういうものは、命令する人や組織が無能でなければ、適材適所に配置されているだろうし。回数のマウントを取った所で何もならないから。
「その辺りで止めておきましょう。――これ以上口論したところで事実は変わりません」
「……っ!!! 今日の所はこれでお邪魔いたしますわっ! 申し訳ありませんが気分が優れないのでお先に失礼します!!」
そう言い放って踵を返し侯爵令嬢さまは庭を後にしたのだった。いいのかなあ。普通は主催者が解散を宣言してからお開きになるのが通例なのだけれど。
まあ体調不良と言って帰ったし、大丈夫かなと主催者さまの顔を見る。
「…………ふ」
怖ぇえええ! 怖いよソフィーアさまの顔。先に退席したことに腹を立てているのか、尋常でないオーラを放出している。
「愉快な方ですわねえ。お二人も、あのような軽率な行動を取らないようにお気を付け下さいませ」
伯爵家のご令嬢二人に釘を刺すセレスティアさま。彼女も何故か凄いオーラを発しているけれど、私数日後にはまた彼女主催のお茶会に参加しなければならないんだよなあと、気が遠くなるのだった。
あ、余ったお菓子はきちんと頂きました。甘味は貴重なので、いくらでも持って帰っていいという主催者さまの言葉に遠慮なく袋に詰め込んだ私だった。
長引かせるつもりはないのですがそろそろ山場が近いので、次の種もちょっとづつ撒いておかないと。
あとタイトルとタグを少し弄りました。ご了承をば。