魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
新学期が始まる少し前。
西大陸と東大陸を繋ぐ海のど真ん中で見つけた島の状況報告を、子爵邸の客室へと訪れたダリア姉さんとアイリス姉さんが担ってくれた。いつもの通り壁際にはジークとリンが控え、ソフィーアさまとセレスティアさま、家宰さまが同席。私の足元にはロゼさんとヴァナル、肩の上にはクロが居る。
「島が面白いことになっているわ」
「本当、凄いよね~」
嬉しそうな顔でお姉さんズが顔を見合わせている。一体何があったというのだろうか。
地面が、もとい星さんが相手だったので限界まで魔力を注いだ結果、島の魔素量が増えたことと海底火山が活発化して新島が近くに出来ているということ。それから日が経ち状況に進展があったようだ。でないとエルフのお姉さんズがこうして顔を出すことは――いや、頻繁に見ているか。
私が何かやらかすので、尻拭いや問題解決の為に動いてくれている。押しの強い部分があるけれど、お二人は優しい。
その優しさを少しばかりディアンさまに分けて欲しいけれど。仲が良いのか悪いのか、竜の方たちの扱いがちょっと手厳しいから。ディアンさまにもお世話になっている立場なので、無下にされていると少し切ない。
肩の上に乗っているクロがぐりぐりと顔を擦り付けてくるのを手で制しながら、お姉さんズの言葉を待っているとお婆さまも現れた。話に興味があるようで、ぱっと姿を現したようだ。島の現状よりも、子爵邸の客室の方がなんだか問題がありすぎて何か起こりそうである。
二年生に進むと、フィーネさまと聖王国の聖女さまが特進科へ留学だし、ギド殿下もいらっしゃる。
西大陸の大物が居過ぎじゃないかなあと白目を剝きたくなるけれど、私よりも警備を担っている方たちが大変だろう。なにか問題が起きると責任問題となってしまうから、警備が増強されそうだ。
『ね、ね。どうなったのかしら?』
お婆さまがあれからどうなったのかとお姉さんズに問いかけた。お二人は綺麗な笑みを浮かべて、確りと頷き合うと私を見る。
「島だけじゃなくて、周りの海にも魔力の影響が出始めているの」
ダリア姉さんが右手の人差し指を一本立てて、楽しそうに言葉にした。確かに島だけではなく海底火山にも影響を及ぼしたけれど、他になにかあるというのだろうか。
「大きなお魚さんが集まっているんだよ~。珊瑚も増えてるかなあ。あ、あとね~島の緑が増えてて妖精たちが生き生きしてるよ~」
アイリス姉さんは左手の指を一本、二本、三本と増やしながら嬉しそうに口にする。巨大魚が集まっているので竜の方々が空から狙って狩りをしているのだとか。珊瑚は島に残った妖精さんが教えてくれたのだとか。
妖精さんたちはここぞとばかりに島の緑を増やす作戦を実行しているらしい。大きなお魚さんがいるということは、小魚さんも増えているのだろう。魚がいるということは、蟹さんや海老さんもいるだろうし。……お刺身食べたいなあ。
マグロとかカツオとか取れないかなあ。回遊魚だからいてもおかしくはないけれど、ここは異世界だからいない可能性だってある。お醤油が手に入れられない状況だから、お刺身を食べられても寂しいか。でも塩を振った焼き魚も悪くない。アルバトロスは内陸部なので、海魚は貴重で高価な品となっている。
お貴族さまなので食べられない訳じゃないけれど、川魚が主流で滅多に食卓に並ぶことがない。話を聞いていたらお魚さんが食べたくなってきた。でも我慢しなきゃね。我儘は良くないし、私が口にすると料理長さんは願いを叶える為に難儀しているのを知っているから。
「ダークエルフたちも亜人連合国の気候が合わないから島に興味津々」
「竜もあっちを気に入っている子が居るからね~。ナイちゃん、本当にありがとう」
ダリア姉さんが一つ頷き、えへへと笑うアイリス姉さん。亜人連合国にダークエルフが居たなんて知らなかった。どうやら人間嫌いを拗らせているようで、亜人連合国へ訪問した際には引き籠っていたみたい。そういう方たちが居てもおかしくはない。
迫害されて亜人連合国、もといご意見番さまの縄張りに辿り着いたのだから。新天地の方が住みやすいというのならば、魔力を込めたかいがある。竜の方たちも亜人連合国だけでは狭いだろうし、島と国を行き来もできて丁度良い運動になりそうだ。経路上にある国は竜が頻繁に飛ぶことに驚くかもしれないが、そのうち慣れるはずだから。
お婆さまは珍しく何か考えているようで静かなままだ。何を考えているのか気にはなるけれど、気まぐれな妖精さんのことなので気にしたら負け。お婆さまは放置決定だと、エルフのお姉さんズを見る。
「いえ。アイリス姉さんとダリア姉さん、ディアンさま、亜人連合国の方々には沢山お世話になっていますから。少しでもお返しが出来たなら嬉しいです」
本当に。障壁を張る為の魔術陣を壊した時も興味本位といいつつ、副団長さまと協力して直してくれた。裏では政治的取引があったかもしれないけれど、陛下とアルバトロス上層部は何も言ってこないので問題のない範疇なのだろう。
リームの聖樹が枯れた時もアリアさまとロザリンデさまと同道していた。聖王国やギルド本部に赴いた際も一緒だったから。一緒に居た時間は短いかもしれないけれど、濃い時間を過ごしている。
「そうだわ。島から持ち帰った果物を畑の妖精たちに預けたのでしょう?」
「はい、順調に育っているようです」
畑の妖精さんたちに預けた種は、子爵邸の家庭菜園で育っている。他の作物があるから量産することは出来ないけど、種さえ増えれば子爵領の方へと持っていって育てれば良い。
楽しみはマンゴーとバナナである。甘味が少ないので、果物から得られる甘い物も貴重だから。孤児院と託児所のおやつで出せるようになれば良いけれど、世間一般に普及するには何年、何十年かかりそうだ。
「アルバトロスの気候も暖かいけれど、あの島みたいな暑さじゃないもんね~」
「本気で島の果物の栽培をやるなら、温室で作らないと駄目でしょうね」
エルフのお姉さんズも種や実を持ち帰って亜人連合国で栽培を試みたが、ちゃんと育てるには温室か大量の魔力が必要なのだとか。亜人連合国と島では気候が違い過ぎるために、温室栽培でちまちま育てるか魔力を注ぎ込むか悩ましい所らしい。気候を操作するのは問題がある、でも甘い果物も食べたい。
なら島で直接育てりゃいいんじゃねという結論に至ったようだ。ダークエルフの方たちが住むことになるし、竜の方々が荷物の持ち運びを担ってくれるのでコストは度外視できるんだとか。ちょっと羨ましいなと頭の中で考える。
「超長距離の転移魔法陣を施そうとしているけれど、魔力が持たないのよね」
「まあ、亜人連合国からアルバトロスを経由して島ならギリギリだね~。もう一か所くらい中継地欲しいけど~」
どうやら亜人連合国から島へは、一回だけの転移は無理みたい。アルバトロスから亜人連合国への転移は最低二回は必要だ。それを考えるとエルフの方々の転移術式と魔力量が優秀なのだろう。
「なにか解決できる方法が……あ」
ふと考えが頭の中に浮かぶけれど……流石にこれ以上ぶんどるのは気が引けるよなあ。しかも周囲に影響を齎す可能性もある訳だし。
「どうしたの、ナイちゃん」
「ええ。なにか考えついたみたいだけれど」
こてんと首を同じ方向へと傾げたアイリス姉さんとダリア姉さん。ソフィーアさまが、何か無謀なことを言いそうだと不安げだった。
「転移魔術……転移魔法に帝国の巨大魔石を利用できないかと一瞬思いまして」
巨大魔石と飛空艇を頂くことができれば、島に直通で行けちゃうんだよねえ。竜の方たちを移動手段としてお願いするのは気が引けるし。一度ウーノさまと交渉してみようかな。お金で頂くよりも物納の方が向こうは良い可能性だってあるんだし。第一皇子殿下以下皇子たちが個人的に所有しているなら、彼らの物なら心が痛まない。
酷いと思われるかもしれないが他国の貴族を無許可で連れ去った訳だし、第一皇子にはまだ謝罪も頂いていない。なんだか一度考えると欲しくなってきたなあ飛空艇。パイロットや整備する方が必要となるので、その辺りは帝国からのレンタルが穏便だろうか。自前で運転と整備ができれば何の問題もないけれど、飛空艇技術をアルバトロスは持ち合わせていないし。
「あ~大きいもんねえ。魔力量がありあまっているナイちゃんには丁度良いかもね」
巨大電池みたいなものだから、いろいろなことに流用できる。それこそ転移魔術陣の魔力タンク役を担えるだろう。
魔力は消費しても問題ないし、むしろ枯渇した方が総量が増えるので消費するに限る。魔石に注ぐとなれば、私の魔力が及ぼす周囲への影響が少ない。しまったな。帝国の魔石は壊すんじゃなくて頂いておくべきだったか。今更後悔しても遅いので、やれることをやるしかないか。
「悪い手ではないけれど、ナイちゃんが魔術陣に直接注ぎ込んだ方が早いわね」
成人男性くらいのサイズの魔石を動かすとなると大変か。
『あっ、ねえ! 貴女の魔力を私に注ぎ込んでもいいのよ!』
「え?」
お婆さまが私の目の前にぱっと現れ、腕を組みドヤ顔で言った。肩の上に居るクロが一瞬びくりとしたので、急に現れたお婆さまに驚いたらしい。何度か注ぎ込んでいるから必要ないのではと首を傾げる。
「お婆は何を言っているの~。駄目だよ自分だけ強くなろうとしちゃ」
「そうね。あとナイちゃんの魔力に耐えられるの? それに漏れてる魔力を回収しているでしょう?」
『あはは! やっぱり気が付いていたのね! だって魔力が満ちているんだもの。この家にいる妖精たちはみんなそれが目的! あ、あと全力の魔力放出は受け止めきれないわね!!』
ちなみに全力放出した魔力を受け取ると、お婆さまの分身が百人――人と表現しても良いのか分からないけれど――くらい現れるそうだ。
しかも現時点のお婆さまを超えた存在で。私の魔力は一体どこに向かっているのだろうか。とりあえずお婆さまには安易に魔力を提供しない方が良さそうなことだけは理解した。あれ、それだとクロも耐えられないのかなあ。
『ボクもナイの全力を受け止めるのは無理だね。でも注ぎ込んで欲しい気持ちはあるかな』
「お婆さまで分身ができるなら、クロは竜の卵を一杯生み出せるんじゃないの?」
『魔力が溢れればできるけど……百頭も増えると大変になっちゃうよ』
主に生息場所とか食べ物や魔力の確保が大変だそうで。クロクラスの竜が百頭いる……確かに大事である。というか大陸の人たちが恐れおののくだろうから駄目かあ。
ロゼさんとヴァナルも魔力を注ぎ込んで欲しいみたいだけれど、ロゼさんは魔石が元だから『パーン』しちゃいそうで怖い。左右に首を振ると残念なのか、ぺしょんってなったロゼさんをヴァナルが鼻先で慰めていた。
「ナイちゃんの思考って時々ぶっ飛ぶわね。お姉さん吃驚だわ」
「楽しいから良いじゃない~」
うんうん考えていたので、ダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉は私に聞こえることはなかった。