魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0257:【①】アリサの過去。

 私、アリサ・イクスプロードはアルバトロスの王立学院へフィーネお姉さまと一緒に留学することになり、昨日から学院へと通っている。

 聖王国の教育機関に通ったことがないので、アルバトロスとの質の差は分からない。ただ一つだけ分かることがある。聖女の質は聖王国で大聖女さまを務めるフィーネお姉さまに勝てるはずもないのだから。

 ――黒髪の聖女。

 

 そう呼ばれるアルバトロスで一番有名な聖女の背を見る。教室の真ん中にちょこんと座る彼女だが、席の後ろと前には公爵令嬢と辺境伯令嬢を従えている上に、席の近くにはリーム王国のギド・リーム殿下も控えていた。

 教室の外では専属護衛を付けている上に、子爵邸から王城までは転移陣を使って移動するという贅沢振り。アルバトロスは魔術の発展が著しいのかもしれないが、転移魔術陣を施せるのは極一部の権力者だけというのに。アルバトロス国内での黒髪の聖女の立ち位置を詳しく知らないが、子爵位程度の聖女がそんな贅沢を享受できるはずもなく。

 

 フィーネお姉さまと私は教室の窓際、一番後ろの席に並んで座っている。お姉さま曰く無理をいって留学させてもらったのだから抗議をすべきではないとおっしゃったが、私たちは聖王国の聖女であり、お姉さまに至っては聖痕持ちの大聖女。

 黒髪の聖女の魔力量は馬鹿げているようだが、お姉さまだって負けてはいない。教会で開かれている治療院では他の聖女が疲れて治癒を施すのを止める中、お姉さまは一人最後まで残っている。子供たちや身分の低い者たちに偏見の目を向けることはない。黒髪の聖女が暴れるだけ暴れて帰った聖王国の問題だって、お姉さまが先陣を切ってより良き方向へと舵取りが出来た。

 

 聖王国の大聖女に勝る者なんているはずがない。西大陸教会信仰の本山に所属する大聖女さまが……フィーネお姉さまに勝てる者なんていないのだ。

 

 『アリサ、仕方ないわ。これもまた運命、受け入れないと』

 

 お母さんの声が蘇る。病に倒れ、床に伏しやせ細った体をどうにか動かして、私の頬に手を添えたお母さん。私が幼かったころは元気で一緒に畑仕事に出ていた。貧乏な伯爵家だったので、伯爵家当主の妻であるお母さんも労働力として駆り出されていた。どうして貴族なのに貧乏な家に嫁いだのか、疑問に思った幼い私は母に言葉を投げかける。

 

 『どうしてお父さんと一緒になったの?』

 

 地面に腰を下ろして雑草を引いていた私は顔を上げ、鍬を持って畑を耕すお母さんを見上げた。

 

 『あら。それはね、お父さんをお母さんが愛していたからよ』

 

 にっこりと笑うお母さんにふーんと返事を返して土いじりに精を出しながら、愛ってなんだろうと考えていた。伯爵家の領民の方たちは、貧乏なことに文句をあまり言わない。何代か前の伯爵家当主が事業に失敗して大借金を背負って今となっている。

 羽振りの良かった頃を知らない所為か、これが普通だと感じているらしい。当主とその家族が野良仕事に精を出している時点で貴族としては不味いのだが、貴族社会を知らない彼らにわざわざ教える必要もないとお父さんもお母さんも、領民たちに何も言わない。

 

 私が十歳の頃、お母さんが病に倒れた。

 

 薬草を飲ませても治る気配は全く見えず、お母さんの病を治す為に治癒師か聖女を呼ぼうという話になった。

 領内に教会はあるが、貧乏な伯爵領に治癒師や聖女なんているはずもなく。治癒師は治癒を施せば治療代を請求するから、貧乏な場所には居付かない。聖女は無償奉仕となっているが、貧乏領地に着任したがる聖女は少ない。寄付で賄っている部分があるから、寄付を期待できない領地への赴任は嫌われるのだ。

 

 『お父さん、王都に行って教会の聖女さまたちにお願いしよう!』

 

 どんどん弱っていくお母さんを見かねて、私はお父さんの服の裾を掴んで懇願した。

 

 『すまない、王都に行く金がないんだ!!』

 

 歩いていくこともできるが、それだと時間が掛かる上に帰りは聖女さまを連れての道行となる。歩いて伯爵領まで来て頂けるとは考え辛いし、聖女さまをそんな無茶をさせられるはずもないし、教会も渋るだろうとお父さんがいった。

 なんの為の聖女だろうと疑問に思う。聖女とは慈しみを持ち、困っている人たちに手を差し伸べる方なのではないのか。ベッドの上で弱っていくお母さんを助けてくれるのが、聖女の務めではないのか。

 

 結局、何もできないままお父さんと弟たちとで、お母さんを看取る羽目となってしまった。お母さんの葬儀を簡単に終え領主館の近くにある小高い丘、大きな樹の下で膝を抱えて考える。

 

 『何もできなかったなあ……どうして、お母さんを助けることができなかったの…………』

 

 貧乏が悪いのか、力がないのが悪いのか、知識がないのが悪いのか。いろんなことが頭の中を駆け巡る。

 

 『治癒魔術が使えていたらなあ……』

 

 自分の右手の手のひらを見ながら、お母さんを病の淵から助けることができたのにと後悔する。魔術を習うには、まず魔力を覚醒させなくちゃならない。お金に余裕のある家は魔術を教えてくれる家庭教師を招いて適性があるかどうか調べ、魔力が豊富に備わっていると分かれば魔術を習う。

 

 『お金、か』

 

 何をするにしてもお金は必要。ご飯を食べるにしろ、服を着るにしろ、勉強するにしろ……なんで貧乏な家に生まれてしまったのだろう。

 せめてちゃんとした領地貴族が運営する領民であれば、今よりもマシな生活だったかもしれない。王都で生まれていれば、貴族であれ平民であれ土いじりなんてする必要はない。貧乏から脱出する方法ってなんだろうと考えていると、ふと話に聞いたことを思い出す。

 

 『教会で魔力測定をしてもらったんだが……俺の魔力は魔術師を目指せるほどじゃないって言われたよ』

 

 伯爵領に住むまだ年若い男の人の言葉だ。お父さんがいうには私が十五歳になれば教会へ赴いて、魔力測定をしてもらおうと決めていた。

 数年前にそれを言われた時は素直にお父さんの言葉を飲み込んだけれど、今となってはそんなことはどうでもいいじゃないか。もし私に魔力が備わっていれば、もし私に多くの魔力が備わっていれば、貧乏から抜け出る道が示される。

 

 一本の樹から背を離して立ち上がり、小高い丘を駆け抜け教会を目指す。

 

 おんぼろで手入れなんて何年もしていない伯爵領内にある教会の扉に手を掛けて、誰もいない聖堂の中へと入る。

 聖堂の両脇に置かれた長椅子の真ん中を歩いて、聖壇へと向かい正面に張られたステンドグラスが目に入った。陽の光を浴びて、色とりどりに輝く硝子が綺麗で。描かれた絵に込められた思いが、心の中にじんと伝わり。自然と涙が零れていた。

 

 『どうして、どうしてお母さんを助けてくれなかったの!!』

 

 一度声を出すと止まらないうえに流れる涙も止まらず。貧乏だからとお母さんの命を諦めた。貧乏だからと勉強することも、遊ぶことも諦めていた。

 お母さんの葬儀の時に泣けなかったな。どうして泣けなかったのだろう。伯爵家令嬢としての矜持なのか、弟になけなしの意地を見せていたのか、父に泣き顔を見せたくなかったのか。よくわからないけれど、ただ一人しかいない教会の中で誰も聞いちゃいないと思うがまま言葉を叫んでいた、その時。

 

 『――迷える子羊よ。話があるならば聞きましょう』

 

 痩せた老神父が両手を広げながら、話せば少しは楽になると告げながら私の前に立った。私が領主の娘であることに直ぐに気が付いた神父さまは不思議そうな顔を浮かべる。

 信仰なんてしない領主の娘が教会へ顔を出したことを訝しんだのだろうが、直ぐになりを潜めて私の話を聞いてくださったのだ。お母さんが病気で死んだこと、聖女さまか治癒師を呼べなかったこと、貧乏が悪いこと、勉強もままならないこと。今まで我慢していたことを、初めて会った神父さまに全てを吐き出したのだ。

 

 『勉強ならば教会で教えることができますよ。お時間があるのならば、日曜日の礼拝の後残ってください。私やシスターがご助力できるでしょう』

 

 お金が払えないというと、神父さまはにっこりと笑って必要ないと告げた。神父さまとシスターは王都の教会から派遣された方で、教育は十分に施されている。

 基礎的な算術や歴史であれば問題なく教えられると。悩ましいのは、伯爵領の人たちが野良仕事に明け暮れて教会へ寄り付いてくれないこと。見返りを求めていいというならば、領民の方を勉強会へと連れてきて欲しいと願われた。

 

 『そんなことでよろしいのですか?』

 

 何をするにしてもお金が掛かるのは身に染みている。だからそのくらいのことで私に勉強を施してくれるならば、有難いことだ。

 

 『そんなことではありませんよ。学を身に付ければ領地が発展する可能性だってあります。知識は見えない力。弱き者が強くなる可能性があるのです』

 

 しかも無理に連れてこなくていいらしい。無理強いしても身に着かないから、勉強をしたいという方だけを連れてきて欲しいとのこと。あとは礼拝にも参加して欲しいと願われた。にっこりと笑みを浮かべる神父さまに確りと答えて私は教会を後にするのだった。

 

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