魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
領地で畑仕事をしている人たちに日曜日の礼拝に参加してみないかと誘ったが、すげなく断られてしまった。お休みの日といっても、畑の世話は日曜日にもあるし、家で籠編みや明日の準備をしているから忙しいことに変わりはない。
聖王国といえど王都を離れれば信仰心の薄い土地はいくらでもあるんだとか。聖王国王都の教会はそれを覆す為に、各領主の了解を得て教会を築き神父さまを派遣していると。ウチの伯爵領は特殊な土地柄で信仰が広まらないと神父さまは嘆いており、一人で向かうのは気が引けるが捕まらなかったのだから仕方ない。
日曜の午後、領主館を出て教会を目指して歩きながら、どんなことを教えてくれるのだろうかと期待に胸を膨らませていた。お父さんに教会へ行くと話すと渋い顔をされたが、押し切った。私の自由を阻害される謂れはないし、家の仕事はきっちりと済ませてあるのだから問題ない。
『ようこそ、礼拝へ』
扉を開くと神父さまが出迎えてくれた。中へと進むと長椅子にはちらほらと領民が座っている。見知った顔もあり、あんな人が教会にと意外な一面を知ることになった。初めての参加ということで神父さまが丁寧に礼拝の作法を教えてくださった。身を清め椅子に腰を掛けると、あとは話を聞くだけで良いらしい。
聖歌隊の歌に、神父さまによる教典の語り。目新しいこと、吟遊詩人のように教典の内容を語る神父さまのお言葉は楽しく心躍るものだった。
神の活躍を描き、さまざまな失敗や成功談を交えながら、分かりやすいように私たちに伝えてくれる。話が終わり礼拝も終えると、幾人かの人が残っていた。どうやら以前から神父さまやシスターに教えを乞うていたようだ。領都では物知りで名をはせ、みんなから一目置かれている人もいた。
そうして教会で教えを乞うこと、六ヶ月。魔力測定を受ける機会が偶然訪れた。
たまたま神父さまが魔力測定の道具を手入れしようと、部屋の奥から持ち出して興味のある人は見ても良いと許可をくださった。
もちろん興味を持っていた私は嬉々として神父さまの言葉を受け入れ、部屋から出された魔力測定の道具を初めて見た。ただの丸い水晶玉に魔力を測定する力が宿っているなんて信じられない。興味津々に覗いている私を見た神父さまは苦笑を浮かべながら、水晶玉へと近づいた。
『壊れていないかの確認を兼ねて、測定してみましょう』
そういって神父さまが魔力測定の道具に手をかざすと、数字が浮かんできた。彼の説明によれば魔力量なのだそうだ。表示された数字は一般的な値で、魔術を行使すれば何倍にも跳ね上がるのだとか。
何人もの数を測定している為、示された数値で優秀な魔導士や聖女たるかは過去から知見を得ている。平均の値より十倍程度を示せば、魔術師や聖女として期待ができるそうだ。魔力に恵まれていれば……できることが増える。将来の選択肢が多くなる。
『神父さま、私も手をかざして良いでしょうか?』
『構いませんよ。測定装置は測定以外に魔力覚醒も担っております。貴女さまが魔力に目覚めていなければ、測定装置が強制的に覚醒させてくれるでしょう』
神父さまが測定時の注意事項を伝えてくれ、手をかざすことになった。あまりに強大な魔力量を誇ると測定装置が壊れることもあるのだとか。
『まあ、そんな事態に陥ることはありません。巨大な竜が持つ魔力と同等程度まで測定できますし、装置が壊れたという報告を受けたことはありません』
私を安心させる為の冗談だろう。ちっぽけな人間に竜と同等の魔力が宿っているならば化け物ですと神父さま。さあ、どうぞという声に促されて水晶玉に手をかざす。じんわりと手のひらに熱が伝わって胸のあたりがぽかぽかしてくる。なんだろう、体の隅々に力が漲ってくるような感覚は。
『おお、これは素晴らしい!』
神父さまが歓喜の声を上げながら水晶玉を覗き込み、浮き上がった数字を紙に記していた。私も水晶玉を覗き込むと、神父さまが出した値よりも五十倍ほど高い数値が浮き上がっている。
『よくいらしてくださいました。――聖女候補さま』
あとから神父さまに聞いたことだけれど、魔力量に秀でている女性が現れると、神父さまが必ず言うべき台詞なのだとか。聖女候補になるかどうかは本人の意思次第だけれど、社会に出て働きたいと願う女性は二つ返事で了承するのだそうだ。
断ることが多いのは貴族のご令嬢に多くある傾向らしい。ただ私は貧乏伯爵家の長女。現段階で婚約者がいないのは、我が伯爵家に魅力がないといわれているのと同義。無償で通える聖王国王都の貴族院へと行き、婿を見つけろとお父さんから言われているけれど、貴族的な繋がりで婚姻を得るのは難しく、恋愛をして得るのは更に難しい。
『神父さま。私は聖女になれるのですか?』
聖女になれば教会に召し抱えられる。王都の教会へ向かい下積み時代を経て正式な聖女になると聞いていた。伯爵領に留まるよりも、王都の方が栄えている上に貴族院に通いつつ、聖女の仕事をこなせば生活は成り立つはずだ。
『ええ。貴女にその意思があり治癒の才能があるならば、必ず』
聖女候補の手続きは神父さまが担ってくれるそうだ。あとは領主であるお父さんの了承を頂くだけと教えてくださった。
やりたいことや目指すべきことを明日に引き延ばすべきではないと、神父さまに挨拶をしてお父さんの元へと急ぐ。領主館の扉を思い切り開け、おかえりなさいと告げる年老いた侍従たちを抜き去って、お父さんのいる執務室の前に立ちドアノブに手を掛ける。
『お父さん、話があるの!!』
貴族の嗜みとやらは生憎仕込まれてはいない。単純に労働力とみなされ育てられてきたのだから、仕方ないだろう。
『どうした、アリサ。君はもうすぐ十一歳だ。女と意識しておしとやかに過ごしなさい』
『っ、あのね! 魔力が備わっていたの! しかも普通の人たちよりもかなり高い数値なんだって! 私、教会の聖女になるから!』
お父さんの言葉に一瞬怯む。私を労働力としてしか考えていなかったのに、今更貴族の女として扱おうだなんて。彼の言葉を無視して、私が将来やりたいことを告げると、思案した顔を浮かべた後に了承を頂いた。
『アリサがまさか聖女になるなんてね。驚いたよ』
イクスプロード伯爵家を遡ると優秀な魔力量を誇る者はいなかったそうだが、ままあることらしくお父さんは喜んでいた。それから教会とイクスプロード伯爵家の話し合いの末に私は聖王国の教会へと移り聖女見習いとして働くことになる。
最初は慣れない環境に貧乏な私の家が恋しくなったりもしたが、帰るにもお金が必要で無理なことだった。周りの方たちも優しい方が多かったし、教会の図書室には本が沢山あって勉強し放題。その上に聖王国王都教会の神父さまとシスターたちからも教わることができる。
教養が高い人が多く、私が教えを乞えば笑って教えてくれるのだ。聖女候補さまは勤勉だし、大成するだろうと。生活に慣れると治癒魔術の講義も始まった。聖女候補として集められた子たちと一緒に学ぶのだけれど、治癒魔術を一番早く習得したのは私だった。
『アリサさま、凄いです!』
『私もアリサさまのようになりたい!』
同期の二人がそれぞれ口にした。私は怪我の傷も綺麗に治せるので、稀有な存在なのだそうだ。傷を嫌うお貴族さまに重宝されるらしく、教会からこっそりと支払われるお金も跳ね上がるとか。
実は、聖女は無償奉仕で行動するというのは建前だった。聖王国は西大陸の教会信仰総本山だから、教会や聖女の面子を守るために無償を謳っているのだとか。その代わり寄付金から聖女たちへお心づけとして払われると。お金はあった方がいいから文句はないけれど、現実ってこんなものなのかと肩を落とした。
――そんな生活も四年が過ぎる。
聖女候補から聖女へと昇格できたのは最近だ。教会で開かれる治療院に参加して魔術を施していれば、平民の人よりも少し良い生活が送れる。
イクスプロード伯爵家に居た頃よりも充実しているが、少し気がかりなのはお母さんのお墓参りができていないこと。少しばかりお金も貯まったし、一度帰郷してみるかと教会に打診をして許可を頂き、実家へ足を向けることになった。
『あれ……?』
領主館周りの田畑や家々が立派なものになっていた。難航していた灌漑工事も進んだようで、澄んだ水が用水路を流れている。領主であるお父さんに顔を出しお母さんのお墓へ行く許可を頂こうと、執務室を目指して中へと入る。
『アリサ、戻ってきたのか。アリサのお陰で伯爵領は以前と違って潤っているよ。それはお前のお陰だ。聖女としてもっと頑張りなさい』
お父さんは一体なにを言っているのだろうか。
『あと領内を回って病人を治せ。聖女なのだから金は請求しないのだろう?』
おかえりと抱きしめてくれることもなく、ただ聖女としての務めを果たせと告げるだけ。ねえ、お父さん。聖王国の聖女が無償で治癒を請け負うのは、裏で教会や領主がお金を聖女に払っているから成り立っているんだよ。
領主としてこの事実を知らないのはどうなのだろう。父にもっと知識があれば、イクスプロード伯爵家はもっと盛り立てることができたのではないか。
お母さんも死なずに済んだのではないか……。私の目の前で、以前から苦手だと告げていた書類作業に四苦八苦しているが、そんな簡単な計算もできないのかとお父さんに嫌な感情が湧く。このままこの場所に留まれば嫌な感情が渦巻くだけだと、お母さんのお墓に行く許可だけを頂いて部屋を後にして教会を目指した。
誰もいない教会の聖堂をつかつかと歩き、聖壇の前に立つ。ああ、なんだか懐かしい感情だなあと苦笑いして、あの時と同じように叫んだ。
『なんでこんなことになっているのよ!!』
だって貧乏なままで生活していると思っていた。お金を工面できない伯爵家がどうして、私が居た頃よりも良くなっているのだろう。
どうしてお父さんは畑仕事に精をだしていないのだろう。弟もお父さんと一緒に野良仕事に精を出しているはずなのに……。戻ったら前みたいに鍬を担いで、お母さんの思い出話をしながら一緒に畑を耕すのもいいかな、なんて考えていたのに。
『――迷える子羊よ。話があるならば聞きましょう』
そうしてまたあの時と同じように神父さまが姿を現すのだった。